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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第二章 クワトロ・バジーナ
  第二節 木馬 第一話 (通算第26話)

 
前書き
レコア・ロンドからジオンの匂いを感じたクワトロ・バジーナ。クワトロの正体を知りながらもレコア・ロンドはクワトロ・バジーナとして扱った。過去を振り返る時間は最早時代が許さないのか。

君は刻の涙をみる……。 

 
 アンマンの宇宙港で乗り換えたのは、アナハイムの専用シャトルであった。それはアブ・ダビアが用意したものではなく、ブレックスがアナハイムに手を回して用意させたものである。つまり、それはブレックスがシャアの正体を知っているという証ではないかとシャアは勘ぐった。
 クワトロ・バジーナは従来の慣例を破って、単なる駐留任務に限らず、機動小隊による哨戒任務や警戒任務にもジオン共和国軍が参加できる様に要請したのだ。もっとも、これは以前からブレックスが申し入れていたことではあったが、ジオン共和国政府の許可が降りず、連邦軍統帥本部も難色を示したため実施されていなかったという経緯があったが、ここに来て、ジオン共和国政府から地球連邦政府に参加申請があり、実現した話である。
 そのことからも、ブレックスがクワトロに注目していたことは確かであり、何かと実務レベルでの打ち合わせなどで接触する機会が多かった。ブレックスはクワトロに対し、反地球派議員による政治的解決におけるスペースノイドの政治的解放を目的とした組織運動の一員にクワトロを誘ったのである。
 そのこと自体が計画に支障を及ぼすことは無いと判断したシャアは、クワトロとして参加することにしたのだ。だが、この歓待は少々大仰である。一大尉に対するものではなかった。
(見破られているか?)
 迎えの女性士官があきらかにジオン出身者であることといい、気の回し方といい、クワトロがシャアであることを知っているとしか考えられなかった。
「そろそろ接舷ですね」
 アナハイムの専用シャトルがラビアンローズ級ドック艦への接舷コースへと微調整を始めた。一瞬、窓の外にラビアンローズが写る。
「木馬…?」
 シャアを驚かせたのは、《ラビアンローズ》に繋留されていた艦が知っている艦にみえたからだ。シャアにとってみれば因縁深い艦である。木馬とは一年戦争で最も有名なペガサス級機動母艦《ホワイトベース》のジオン公国軍が付けた渾名である。
「…?何かおっしゃいました?」
 レコアが訝し気にシャアの瞳を覗く。しかし、レコアに写るのはサングラスに遮られ表情の見えないクワトロの顔だった。
「いや、白い艦がみえたのでな……」
「現在、竣工を急いでいる艦ですね。木星船団の建造費を流用したとか…」
 シャトルに搭乗しているのはシャアとレコアだけで、会話を第三者に聞かれる心配はない。シャトルの乗組員は全員アナハイムの社員である。木星船団の費用とてアナハイムにしてみれば、自分たちが提供している資金であることに変わりはないとでも言いそうだった。
――クワトロ・バジーナ大尉、当シャトルはラビアンローズ級ドック艦《ラルカンシエル》にドッキングをいたします。シートのリクライニングをお戻しいただき、シートベルトを……
「ブレックス准将の出方を見せてもらおうか」
 シャアはくすりとレコアが笑った気がした。しかし、視線をレコアに流すと、レコアは真剣な表情でシャアをみていた。不意にそれが、笑みに変わる。
「お疲れさまでした。次のフライトはもうちょっと長くご一緒できると嬉しいんですけど」
 シャアにはそれが、永遠に来ない機会であるように感じられてならなかった。何故と言われても答えられない予感のようなものだろうか。
 接舷すると、出入り口に立つフライトアテンダントが飛び切りの笑顔でシャアとレコアを送り出した。アナハイムの教育は行き届いているとみえ、シャアとレコアの扱いは丁重だった。
 シャアとレコアがシャトルのドッキングポートからでると、そこにはロマンスグレーの髪に美髯が特徴的な、精悍でいて柔和な面立ちの将官が迎え出ている。ブレックス・フォーラだ。
「大尉、久しぶりだね」
 不敵な笑みが彼の自信の現れと言ってもいいだろう。シャアにみせることが彼の目的の一つでもあったのだ。
「フォーラ准将自らお出迎えとは……恐れ入ります」
 恐縮していなくてもさらりといってのける。この辺りが、レコアの言うバレる物言いというものだろう。しかし、シャアは全く気づいていなかった。
「外に繋留されていた艦ですか……?」
「さすが大尉だ。気づいたか?我々が独自にアナハイムに発注した機動母艦でね、随分予算の都合には苦労した」
 機密事項であろうことも気軽に口にする。相手を信用していると見せるためのジェスチャーともいえるが、これはブレックス・フォーラのシャアに対する信頼がなせるものであるとも言えた。
「木馬の様にもみえましたが……」
「木馬……?あぁ、ペガサス級に似ているだろう。サラブレッド級の後継型になる。我々はペガサスⅡと呼んでいたんだが、スポンサーに蹴られてしまってね」
 肩を竦めてシャアを眺める。
 木馬という言葉に一瞬視線が鋭くなったことを気づかれなかったかどうかを窺っているのだが、シャアの視線はサングラス越しに宇宙へと注がれていた。視線の先には窓から見える白い機動母艦があった。
「メラニー・ヒュー・カーバインですか」
「あぁ。アーガマという名前になった」
「アーガマ?」
「オリエントの言葉で、始めと終わり……とかいう意味だそうだ。メラニーの趣味だよ」
 ブレックスは、シャアと宇宙との間に流れながら、話をつづける。
「あの艦は、グラナダに配属されることになっている」
「グラナダというと、我々ジオン共和国軍が駐留していますが……?」
「このご時世にジオンだ、連邦だと言う連中は地球のエリートどもだけさ。大体、宇宙じゃジオンのシンパの方が多いというじゃないか」
 リフト・グリップを掴んで、ブレックスが通路を奥に進む。行き先を告げない彼の行動に若干戸惑いながらも、シャアはモビルスーツデッキであろうと感じていた。 
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