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打球は快音響かせて

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第五十五話 相手も同じ高校生

第五十五話



(……美濃部のスライダーにもしっかり合わせてくるか。さーすが口羽だよなぁ。)

あっさり同点に追いつかれ、宮園はむしろ感心したようにため息をついた。

打席には続いて、6番の熊田。これまた、いかにも強打者といった構えをしている。

ブン!
「ストライク!」

初球のストレートをフルスイングして空振り。
ワンストライクとなる。

(……今の、割と甘い球だけど空振ったな。)

宮園は意外に思った。初回の印象では、美濃部のストレートくらい平気で打ち返す感じだったが、今は甘い高さのストレートを空振りした。

(昨日まで対戦してきた連中と違って、振り遅れてる感じはないけど、でもこいつらでもあんな空振りするんだな。)

次はスライダー。美濃部が今度は良い高さに決め、熊田はまたもや空振り。

(……初回にストレートを打たれて、この回はスライダーを立て続けに打たれて、投げる球が無いんじゃないかと思ったけど……)

最後はフォーク。
懐に食い込むように決まり、熊田を三振に切ってとった。

(……そんな事はないな。同じ高校生だ。下位打線はやっぱり大した事ない。)

宮園は確信した。

次の7番、8番は内野ゴロ。
結局、無死二塁のピンチを、勝ち越しを許さずにベンチに帰る。

「OKナイピッチ!」
「立て続けに打たれた時は、一体どうなる事かと思ったわ〜」
「ホンマそれな。ヒヤヒヤしたけん。」

ベンチでチームメイトに出迎えられても、美濃部はむすっとしていた。どうやら、スライダーを連打された事が気に食わないらしい。

「……どうだ、宮園。何か分かったか?」

ベンチで防具を外し、打席の準備をしている宮園に浅海が声をかける。宮園はあっさり答える。

「別に口羽と言えども、超人が9人揃ってるって訳じゃないですね。」

浅海はニンマリして頷いた。

「そうだよ。今のお前らなら、十分何とかなる相手だ。でも、4番と5番には連打されたな。打たれたのは何?」
「スライダーですね。どちらも初球から。」
「狙っていたんだろうな。そう、口羽打線は何を投げても打たれる超人集団じゃない。その代わり、狙いさえ絞れば美濃部のスライダーでもキッチリ捉える技術はあるんだ。」

防具を外し終え、手袋をはめて打席に向かう宮園の尻を、浅海はポンと叩いた。

「相手を大きく見過ぎるのもダメ、小さく見くびるのもダメ。恐れず奢らず、な。」
「はい!」

宮園はベンチを飛び出していった。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


二回は先頭の太田が三振に倒れ、一死から宮園が打席に向かう。木凪での練習試合では好調をキープし、冬の課題としていた打力もかなりついてきた。

バァン!
「ボール!」

しかしさすがに、これまで打ってきた投手と口羽のエース伊東とは、馬力から何から違う。
初球のストレートの威力に宮園は目を見張った。

(速く見えるなぁ。美濃部より少し速いくらいに見えてたけど、何か見にくい)

マウンドにそびえる伊東は、その身長もあいまって、無茶苦茶にデカかった。初球がよく見えなかった宮園は、そのデカい姿を見て考えを巡らせる。

(……そうか。いつも普通のピッチャーに対する時のリリースポイントと伊東のリリースポイントはかなりズレてるんだ。だからいつもの感じで球を見てると、リリースポイントが視界に入ってこない。もっと視野を広く持って……)

背の高い伊東は、低めに中々球が集まらない。ストレートが浮いてくる事もしばしば。
当たり前である。リリースポイントと、低めのコースが誰よりも落差があるのだから。

(シバく!)

高めに浮いてきたストレートを、角度のマジックに気づいた宮園が叩く。
宮園にはしっかり球が見えていた。

カァーーン!

打球は放物線を描いてレフト後方へと飛んでいく。そのままグングンと伸びていく。

ポトッ

フェンスの向こうに白球が弾むと、三龍ベンチからはどよめきが起こった。

「おぉぅーーー!?」
「入った!入りよった!」
「マジかマジかーっ!」
「雑魚専の宮園が口羽から打ったぞ!」

打った本人の宮園は淡々とダイヤモンドを回る。その背中を見て、ベンチでスコアをつけている京子は小さくガッツポーズした。

(光君がこげに打つようになったん、間違いなくあたしのおかげやけんな!)

京子の脳裏には、ふゆの間宮園に付き合ったシャトル打ちの光景がよぎっていた。

(……まさか入るとは思わなかったな)

ホームベースを踏みしめながら、宮園は内心でつぶやいた。

(……そんだけ、俺上手くなったって事か!)

宮園は、端正な顔をニンマリと歪めて、次打者の美濃部と強くハイタッチを交わした。
 
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