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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第八九幕 「雛鳥・後編」

 
どうしよう、そういえば僕・・・空飛んだことない。

ピットまで移動して最初に抱いた感想がそれだった。ISがアリーナ内に入る場合、ピットから入る場合と地上の入り口から歩いてはいる場合の2種類がある。普通は専ら地用の入り口を使うため人通りの少ないピットを選んだのだが・・・まさかそれがこんな形で裏目に出るとは予想外だった。

「いっそ、今から飛べるか試してみようか」

等と言いながらピットの(ふち)を歩く。何度かの訓練でまっすぐ歩くことが出来るようになったのだ。普通は1,2回でまっすぐ歩けるようになるものらしいけれど、背中のパーツがやたら重いせいで重心が上手くいかなかったりしたのだ。

そもそもこの背中のパーツは何なのだろうか。切れ目のような隙間のある円柱型のパーツはバックパックから生えるように突き出しており、長さは1メートルより少し短いほど。もしも後ろに転んだらこのパーツが先に地面に辿り着いてしまうだろう。
マニュアルには用途が何も書かれておらず、攻撃用の武装かどうかさえ分かっていない。理論上はIS適性A以上で稼働できるそうだが、じゃあ何で適性Cの僕の元に送り込んできたのか分からない。砲台のようにも見えるが銃身ではないらしい。かといって飛行用かと言われればそれは違う気がする。取り外し不可なのでとても邪魔だ。

それはさておき、飛ぶかどうかだ。ISのパイロット保護機能は衝撃まですべて吸収はできないから、失敗すればとても痛い思いをするかもしれない。痛いのは嫌いだからそれは嫌だ。でも、全部そうやって怖い怖いと逃げていてはいつまでもミノリに追いつけない。

そうこうして悩んでいるうちに、ふと足元に違和感を感じて下を見る。

「・・・あれ?足場が無い?」

どうやら考え事に夢中になったせいでピットの縁を越えてしまったらしい。


・・・・・・・・・・・・


「・・・やばい、かも―――!」

身体を今まで味わったことのない浮遊感が襲う。内臓が浮き上がり、おしりから背中にかけてのラインが重力を失う感覚。至極当然のことながら、ベルーナは重力に惹かれて落下を開始していた。

(僕の馬鹿馬鹿!何でちゃんと前を見てなかったんだ!!)

後悔ばかりが押し寄せるが、起きてしまったことは人間にはどうすることも出来ない。しかし、何故一瞬だけ自分は空中に浮いていたんだ?という疑問が頭をよぎった。アニメじゃないんだから、人間の勘違いで重力は無視できない筈だ。だったら、一瞬浮いていたのには理由があるかもしれない。ほんのわずかな思考の後、一つ思いつく。

―――ひょっとして、足場があるものと思い込んでいたからPICの自動歩行補佐で浮いていた?
あり得ない話ではない。このISという機種の自動補助機能は操りだした最初の頃に「暴発」と呼ばれる予期せぬオート機能の発動が起きやすいと前に授業で聞いた。

だったら、必要なのはイメージ?でもイメージって、何をイメージすればいいんだろう。自分が飛んでいる所なんて今一想像できないし、でもこのまま落ちるのは・・・

(そうだ。痛くない落ち方・・・イメージするのは、痛くない落ち方だ)

出来るだけゆっくりと。ふわりと。綿毛のように柔らかく、軽く、ミノリが着地する時みたいな―――

上を見れば視界いっぱいに青天井が広がっている。まるで自分が落ちているなんてウソみたいに距離感が無かった。きっとそれがいい。僕は別に凄い勢いで堕ちている訳ではないと思える。思う事が大切なはずだ。前にミノリが言っていた。やりたいと思うことを一つ一つ反映させていけば、いつか自分のイメージする形に辿り着けると。

(・・・って、結局僕はミノリ頼りなのか)

ISは空中で減速したが、まだまだ自立の道は遠いと思い知らされたベルーナは、小さくため息をついた。



 = = =



それは、丁度太陽の光が逆光になっていたためにそう見えただけなのかもしれない。ただ、ゆっくりと降りてくるその子の髪の毛が、一瞬この世に在るそれと違った幻想的な光沢を帯びたような気がした。一瞬だけそれに呆けて気を取られ、直ぐに我に返った私は慌てて降りてきたISを両手で受け止めた。どうもバックパックがごてごてしていて掴み所に困ったが、フォローに入ってくれたラウラのおかげでしっかりと受け止めることが出来た。

ずしりと腕に重みがかかる。IS自体がかなり重いようだ。操縦者は小柄に見えるが、よほどパワーアシストのシステムが優秀なのか、それとも相性がいいのだろうか。そんなことを考えながら、その幻想的な光沢を放つ髪の宿主を見て―――

「・・・・・・て」
「おい、どうした伍和?手がどうかしたのか?」

彼女の様子がおかしい事に気付いたラウラが声をかけるが、彼女は逸れさえも耳に入らないと言った様子で食い入るように受け止めた彼の顔を見つめた。抱きしめればそのまま壊れてしまいそうな華奢な体。人形のように真っ白い肌。そして銀色に輝く癖のある頭髪。吸い込まれるように透明な瞳。

彼女は、その姿に見覚えがあった。

それは彼女の運命を一つだけ変えてくれた、学園に降り立った子。結局その正体が分からずに、感謝も出来ないままだった相手。その相手が今まさに、自分の手の上に。

「て・・・天使さんが降ってきた・・・!」
「「はい?」」

伍和祭典、人生史上類を見ない痛恨の一言を発す。

写真が出回っていたが、そんな事より訓練だと見向きもしなかったイタリアの男性操縦者。保健室にいると聞いてはいたが、保健室に行く用事が無いので顔も見たことが無かったその操縦者。合同訓練でその姿を遠目に確認していたにもかかわらず、顔は確認せずに専用機持ちに指示を仰いでいたためにそれと気付かなかったその男。

顔を知る機会が幾度かあったにも拘らず、自己鍛錬に明け暮れてとうとうこの瞬間まで気付かなかった。自分が追い詰められて、学び舎を去る寸前までいったその時に現れた天の御使い染みたその人。美しく、儚く、そして天使のように可愛らしい救世主の、その正体。

そして、それを当人とラウラに聞かれた事。その全てがある種での痛恨。
本人がそのとっても恥ずかしいミスを犯したことに気付いた時には、既に言葉は空気を通じて周囲に拡散した後だった。
あっ、と気付いた時にはすでに遅い。

「天使が堕ちては駄目だろう。堕天使じゃないか」
「そんなに・・・そんなに、僕の顔は迫力が無いですか・・・」
「え・・・・・・い、いや!?そういうそのあれというわけじゃなくてそのあの・・・!」

こうして、伍和はこの日初めてあの日見た「天使さん」の正体を見ることとなった。この事が後にベルとも会に新たな風を吹き込む事になるのは、また別の話である。



 = = =



天網恢恢(てんもうかいかい)疎にして漏らさず。約束を破ったベルーナには当然として報いが訪れる。誰の付き添いも無しに勝手にIS訓練に挑んだ挙句に落っこちたベルーナは今現在、猛烈に説教されていた。言うまでもなく相手はみんなの佐藤さんである。だが、今日の佐藤さんは完全に説教スイッチが入っていた。ここにきてベルーナは一つ自分があることを失念していたのを思い知らされる。

佐藤さんは真剣にベルーナのことを心配していた。だから、心配していたからこそ心を鬼にすることもある。そんな簡単な事を、ベルーナは失念していたのだ。

「あのね!私、前にもちゃんと言ったよね?ISを動かせるからって体が丈夫になったわけじゃないって!勝手に動き回らずに素直に言うこと聞きなさいとも言ったことがあるはずよ!それに、焦らないでってあれほど言ったでしょう!?焦ってミスしてそれで怪我したり体調を崩したら本当に何にもならない事を本当に分かってるの!?ベル君はその辺のことをまだちゃんと分かってないよね!?分かってないからみんなに黙って勝手にピットに出たんでしょう!!いい!?私はね、ベル君の頑張り屋な所は評価してるけど・・・・・・くどくどくどくど」

自室のベッドの上に無理やり正座させられたベルーナは、その慣れない体制で足がしびれてきた事と、良かれと思ってやった行為が大失敗に終わったことも重なって涙目になっている。どちらかと言えば初経験の正座の方が堪えている辺りに彼の強かさがあるのだが。

何度か反論を試みたベルーナだったが、佐藤さんは完全に聞く耳を持たずに言葉の猛攻撃でベルーナを完全に押さえつけていた。矢継ぎ早に吐き出される的確かつ言い訳のしようがない論理の前にベルーナの反発心は早くもぺっちゃんこにされ、現在は浅はかな思慮の畑に絨毯爆撃を受けている最中である。9割以上は既に更地にされ、恐らくこれから佐藤さんの完全監修によって再建されることになるだろう。

「・・・・・・つまり!!私が何を言いたいのかもう分かったわね!?」
「・・・もう黙って練習しません。許してください」
「むぅ、分かってるんだか分かってないんだか全然分からないんだけど・・・・・・しょーがないなぁベル君は。今回だけだぞ?」

結局、2時間以上にわたる、ベルーナの体力を考えれば最後まで倒れなかったのが不思議なくらいの説教地獄はその謝罪で終焉を迎えた。会話の終了と同時にベルーナの身体は崩れ落ちる。ある種、ここで許してくれる佐藤さんはベルーナに甘いのかもしれないが、当のベルーナはそれどころではない。

「あぅ、あ、足・・・・・・し、しびしびする・・・」

正座という体制は足の血管を圧迫するとても健康に悪い体勢である。正座をしていると血液が足の血管に上手く行き届かず、足の動脈静脈を問わずにうっ血、阻血状態になってしまう。その状態を長時間続けると・・・・・・まぁ言わずもがな、足が痺れまくる。想像を絶する痺れだったのか、ベルーナはぐったりしている―――が、痺れを経験したことのない彼の身に悲劇が。

愚かにも、彼は痺れている足を、正座を梳いた勢いのままにベッドの上に投げ出してしまったのだ。極限まで過敏になっている状態の脚をそんな風に動かしては、たとえそれが柔らかいベッドの上であっても・・・・・・

「ひゃあっ!?」

自分で投げ出した脚がベッドにぶつかり、その衝撃が血管に響く。衝撃はベルーナの全ての脚や血管周囲の神経を全力で刺激。あまりに痺れに悲鳴を上げたベルーナは先ほどより更にぐったりをベッドに崩れ落ちた。何をやっているんだか、とくすくす笑う佐藤さんだったが、次の瞬間に息をつまらせる。

「あぁああ、ぁぁぅ・・・・!み、ミノリぃ・・・助けてぇ・・・」

弱弱しく肩を上下させ、喘ぐような吐息を吐き出しながらベッドに倒れ、涙目でこちらを見上げて舌足らずな声で助けを求める少年。別になんぞいやらしい事をする訳でもないのに、何故か脳裏に「事案発生」の文字が過った。

(・・・・・・どうしよう、何かエロイ)

何と言うか、自分は今、人類の何かしらの夢を目の前にしている気がしてくる。多分ものすごく邪な夢だけど。
合法的に小さな男の子を介護させることが出来るチャンスとか、私って実はショタコンだったの?いやいやこの姿を見ればきっと自分以外でもイケナイ何かに目覚めてしまうに違いない・・・などと必死に自分に言い訳しながらも、佐藤さんはその伸ばされた手を握ってあげる事にした。


 = = =



『僕、どうすれば・・・は、あっ・・・』
『大丈夫、そんな顔しないで私に任せて・・・』
『こんなの、初めてなん・・・っうぅ、自分の身体の事なのに・・・』
『心配しなくてもいいのよ。こういうことがあると、皆こうなるの』
『ミノリぃ・・・』
『いいの、いいのよ。さぁゆっくりと・・・そう、ゆっくり伸ばして・・・』
『・・・ひゃぅっ!あ・・・ぁ・・・』
『ちょっとだけね。ちょっとだけ我慢・・・もうすぐ苦しいの無くなるから、ね?』
『ふくぅ・・・うぁ、ミノリ・・・!』
『ちゃんと支えてるから・・・イイよ、ベル君。その調子・・・』

―――実際には痺れた足をしっかり伸ばして血流を良くしようとしているだけの事である。だが、佐藤さんの声に心なしかいつもより熱が入っており、ベルーナの声は妙に艶っぽい。

「さ、さ、さ・・・佐藤さんがとうとう一線を越え・・・越え・・・」
「ち、ちょっと!?これは流石にマズイわよ・・・!」
「いやしかし・・・でも、佐藤さんなら・・・佐藤さんなら平気でやってのけるかも・・・でも佐藤さんだし・・・いや、佐藤さんだからこそなぁ・・・」

ベルとも会、2人の部屋の前で悶々とする。なお、その後メンバーは近くを通りかかった千冬の手によって”処理”され、その日部屋で何が行われたかのデータは彼らの頭から零れ落ちてしまった。


「・・・・・・この映像、音声ファイルは第一級機密データとして更識のデータバンクに保存しておきましょう。大丈夫、内容自体はKENZENだから・・・」

ただ一人。部屋に盗聴器だのを仕掛けている生徒会長殿を除いて。

映像の使い道は不明だが、佐藤さんへの脅迫には使えるかもしれない・・・・・・と考えていたが、翌日に謎のデータ転送バグが発生して映像は1と0の狭間に散った。

世の中には、手を出してはいけない人間というのがいるのである。
 
 

 
後書き
それは神とか、自然の摂理とか、真実とか、もしくは・・・佐藤さん、って言うんじゃないかな。

とまぁ冗談はさておき、映像消失の謎はあまり深く考えてはいけません。いいですね? 
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