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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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空白期 第8話 「チョコは騒動の種?」

 2月14日。俺ははやてと前もってしていた約束を果たすために彼女の家に向かった。
 何をするのか前もって聞かされてはいなかったが、今日がバレンタインであること。毎年この日にはやてからチョコをもらっていたことから予想は付いていた。
 結論から言えば、予想通りはやてからチョコをもらった。「腕によりをかけて作った傑作や」と宣戦布告のような言葉と共に。
 はやては度々女としてのプライドを傷つけられていると発言するが、別に俺は傷つけるつもりで手作りのお菓子をホワイドデーに返しているわけではない。手作りのものをもらったのだから、手作りのものを返したほうがいいだろうと思ってのことだ。親の影響でお菓子作りが趣味ということも理由ではあるが。

「来月のことを考えると憂鬱だな……」

 はやてのよく分からないプライドを傷つけないために手を抜いたものを作れば、彼女にあっさりとバレてしまい怒られるだろう。ヘアピンやハンカチといったものにしてもいいとは思うが、渡されたときの言動からして、俺が逃げたといったニュアンスの言葉を口にしそうだ。それはそれで面倒臭い。
 それに今年は去年までと違って、もらったチョコの数が違う。
 去年までは俺にチョコをくれる相手はレーネさんやはやてくらいのものだったが、今年は高町達からもチョコを渡された。
 出会った頃から比べると親しくなったとは思うが、まさかチョコを渡されるほど親しくなっていたとは思ってもみなかった。それだけに彼女達に何だか申し訳ないと感じた。これからできるだけ俺からも距離を縮められるように努力しようと思う。

「……ただ」

 バニングスからチョコをもらえたのは不思議でならない。
 高町やフェイトとは魔法関連で顔を合わせるし、月村とは共通点の多さから前から交流があった。しかし、バニングスとは何もないに等しい。
 顔を合わせれば挨拶はするが、俺とバニングスの会話は言ってしまえばその程度。がっつりと話したことはないと言っても過言ではない。彼女はどうして俺にチョコを渡そうと思ったのだろうか。
 他の全員が渡すのに自分だけ渡さないのはどうなんだろう、とでも思ったのか。それとも高町とかからしつこく「アリサちゃんも渡そうよ」とでも言われたのか。
 ……いや、冷静に先まで考えると真に悩むべきはそれではない。
 悩むべきなのはバニングスに何を返すかということだ。他の子はそれなりに交流があるので、お返しの品はどうにか思いつく。
 だが彼女の場合は……アクセサリーの類でもいいとは思うが、付き合いがないだけにバニングスの好みが分からない。はやてとは性格が大分違うので同じ感覚で行くのは危険だろう。

「……細かい好みまでは分からないけど、お菓子を作るのが無難かな」

 バニングスが甘いものを食べている姿は翠屋で何度か見ている。甘いものが無理だと言われることはないだろう。

「この際……全員お菓子にしようかな」

 はやてとバニングスだけ手作りで他は買ったものというのは不公平……というか、付き合いが最長と最短の人物に手作りというところからして疑問を抱かれるだろう。だが全員に手作りならばそんな疑問は抱かれないはず。
 全員に手の込んだものを作るのは時間がかかるが、お菓子は週に何度も作っている。それに猶予もあと1ヵ月ほどあるのだから問題ないだろう。
 ……ふと思ったが、あまり手の込んだものを作るのも気を遣わせるのではないだろうか。
 さすがに芸術作品と思えるようなものを作るつもりはない。いや、俺程度の腕前ではそこまで呼ばれるものはどう足掻いても作れないだろう。
 それにホワイトデーはお返しする日であってお祝いというわけではない。クリスマスケーキのようにデコレーションが多いのはやりすぎな気がする。
 そんなことを考えている間も足は止まらなかったため、気が付けば遠目に自宅が見えてきていた。

「……ん?」

 はっきりとは見えないものの、向かい側から子供達が4人歩いてきているのが見えた。背格好からしてどことなく見覚えのある子供達だ。
 歩くにつれてお互いの距離は縮まっていき、自宅の前に来たときには顔がはっきり見えるほど接近したのだった。

「やっぱり……」
「やっぱりショウだった!」

 と、俺の言葉を遮ったのは長髪の少女――レヴィだ。一瞬誰か分からなかったのは、今日の彼女が普段と違って髪を下ろしていたからだ。
 レヴィは元気溢れる笑顔を浮かべながら足早に近づいてくると、抱きつきながら背中に回って自分の頬を俺に密着させてきた。

「おいレヴィ……」
「あはは、ショウはボクよりも冷えてるね」

 だからどうしたというのだろうか。そもそも何で顔を引っ付けて確認したのだろう。
 そのような疑問は湧いたものの、レヴィはこれといって意味もなくスキンシップを取ってくる性格をしている。そんな彼女相手にぐだぐだと考えていても仕方がない。

「こらレヴィ、やめんか」
「何で?」
「……まったく貴様という奴は。よいか、誰もが貴様のような性格をしているのではない。我も同じように抱きつかれるが、正直に言ってうっとうしい」

 はっきりと放たれた一刀両断の言葉にレヴィはダメージを受けたようで、すぐさま俺から離れてディアーチェの元に駆け寄った。
 自分の身を犠牲にして俺を助けてくれるなんてディアーチェは何て良い奴なのだろう……本当は落胆させて大人しくさせたかった気もするけど。

「王さま、王さま! 王さまはボクのこと嫌いなの!」
「別に嫌いとは言っておらん」
「シュテるん、王様が……!」
「人の話を聞かんか!」

 何の打ち合わせもなく漫才のような会話ができるのはある意味凄いことなのではないだろうか。ふたりのやりとりをはたから見ている分には正直に言って面白い。ディアーチェには悪いとは思うが。

「レヴィ落ち着いてください。ディアーチェはあなたのことを嫌ってはいません」
「ほんと?」
「はい……ただディアーチェはレヴィが羨ましかったんですよ。ディアーチェはレヴィのように好きな相手に抱きついたりできませんから」
「そっか」
「違うわ!」

 と、ディアーチェは怒りを顕わにして接近していくが、シュテルの顔色は全くといっていいほど変わらない。どんなことを言われても勝てる自信があるのだろう。

「何が違うのですか?」
「貴様の言っていること全てだ!」
「え……ディアーチェはレヴィのことが嫌いだったのですか?」
「は? ……ええい、我が言いたいのはそこではない!」

 まだ会話は終わっていないが、俺には勝敗が見えた気がした。
 ……日に日にシュテルの性格が悪くなっているように思えるのは俺の気のせいだろうか。出会った頃は真面目で大人しい子だったような気もするのだが……やはりレーネさんからの影響があるのか。もしそうならば、ふたりの距離を離すべきなのかもしれない。

「ショウさん、お久しぶりです」
「え……あぁ久しぶり」
「どうかされましたか?」
「いや……何でもないよ」

 このタイミングで挨拶をしてくるなんてマイペースというか天然だな、と思いはしたものの口には出さなかった。ユーリはシュテル達との付き合いが長いため、単純に慣れてしまっている可能性があるからだ。

「みんな相変わらず元気みたいだね」
「はい。でも今日は格段元気な気がします。きっと私を含めてショウさんに会えるのが楽しみだったんですね」

 太陽のような笑顔でそんなことを言うユーリに俺は沈黙させられた。彼女はあまりにもストレートに物事を表現するため、こちらの方が恥ずかしくなってしまう。子供の俺が言うのはどうかと思うが、子供の素直さというものは時として恐ろしい。
 ユーリと会話していると周囲が大人しくなってきた。いつまでも寒空の下で会話するのもメリットがないため、俺は家の中に入ろうと提案する。その提案を拒む者はもちろんおらず、スムーズに会話の場所はリビングに移った。
 暖房を入れてから全員の防寒具を預かろうと思ったのだが、すでにシュテルが行っていた。
 こういうことができるのに何で人のことをからかうんだろう。というか、立場的に俺がやるべきことだと思うんだけど……。まあ自分から進んでやったことだからいいか、とも思ってしまうあたり、俺はシュテルを他の子とは違う目で見てしまっているんだろうな。

「どうかしましたか?」
「いや別に……」
「そうですか……ショウも早く脱いでください」

 人前で何を言っているのだろう、と思ったがシュテルの言葉が指しているものがコートだとすぐに気が付く。

「いいよ自分でやるから」
「どうせハンガーを取りに行くのですからついでです。それにショウはこれからディアーチェ達に何か出すのでしょう?」
「それは……」
「私に任せたほうが効率的です」

 と言って俺からコートを半ば強引に奪うと、シュテルはリビングから出て行ってしまった。
 ついでだからとか効率が良いからとか言ってたけど、多分もう少し他人の好意に甘えろって言いたかったんだろうな。俺からすればお前も甘えろよって感じだったりするけど……お互いにそんな風に思ってるから似ているって人に言われるのかな。
 はやて達からもらったチョコを冷蔵庫にしまい、全員分のココアを作ろうとしているとディアーチェが俺の元に来た。

「どうかした?」
「言わんでも分かっていそうだがな」

 おそらくディアーチェは運ぶのを手伝いにきてくれたのだろう。言葉遣いだけだと勘違いをされてしまいそうな彼女だが、実際は家庭的かつ面倒見の良い優しい子だ。

「まあ何となく……でも君は」
「我が自らすると言っているのだ。余計な気を遣う必要はない……何を笑っておる?」
「ただ優しいなって思っただけだよ」

 優しいと言われて恥ずかしかったのか、ディアーチェは顔を赤らめて強めの声で返事をしてきた。素直じゃない、という部分も言っていたならば、若干怒気を含んだものになっていたことだろう。まあどちらにせよ彼女の反応は似たようなものだっただろうが。

「まったく……貴様まで我のことをからかうのか」
「別にからかってるつもりはないよ」
「それはそれで性質が悪いわ。先ほどの言葉をシュテルやユーリにでも聞かれてみよ。また前のように何かと言われそうではないか」
「それは……でもユーリはともかく、シュテルの場合はディアーチェが過敏に反応しなければすぐにやめるだろ」
「貴様のように淡々とできるならば日頃から苦労はしておらんわ」

 会話をしている間に手を止めることはなかったのでココアを作り終えた。ディアーチェと共にリビングへと戻ると、シュテルも戻ってきていた。俺達の姿を見た彼女の顔は、実に何か言いたそうに見える。

「シュテル、何か言いたげな顔をしておるな」
「言ってもいいのですか?」
「言う必要があることならばな」
「では……相変わらず仲が良いですね」
「なっ!?」

 シュテルの発言にディアーチェは赤面しながら動揺した。必然的に彼女の手に持たれていたカップが振動し中身が揺れ動く。
 シュテルの言動からこのような展開になるだろうと思って先にカップをテーブルにおいていた俺は、ディアーチェの身体に制止をかける。多少は手に掛かるかもしれないと思ったが、運が良かったのか手や床が汚れることはなかった。
 言う必要がないことを必要だと判断したシュテルもシュテルだけど、自分から話を振ったディアーチェもディアーチェだな。
 そんな思いを抱きつつディアーチェを見ると、多少パニックを起こしていそうな顔をしていた。顔もさらに赤面している。姿ははやてとよく似ているが、心は彼女の方が綺麗というか純情かもしれない。

「まったく……シュテル、ここ最近のお前は少し人のことをからかい過ぎだと思うぞ」
「…………」
「何だよその顔」

 シュテルはどことなく面白くなさそうな顔をしている。状況から考えて悪いのは彼女であり、それは彼女自身も分かっているはず。なのにどうして今のような顔をするのだろうか。

「ショウさん、多分シュテルは……えっと、やきもちを焼いてるんじゃないでしょうか」
「やきもち?」
「はい。ショウさんはそのつもりはないと思うんですけど、シュテルと比べるとディアーチェに優しい感じがしますので。それに付き合いの長さはシュテルの方が長いので、ふたりが親しくしていると面白くないのかなぁと」

 ユーリの言葉は一理ある。俺達の年代問わず、親しい相手が知らない人間と楽しそうにしているのを見ると嫉妬めいた感情を抱くことはあるのだから。
 だがシュテルは前に自分からディアーチェ達のことを俺に教え、いつか会わせたいといったニュアンスの言葉を言っていた気がする。そんな彼女が嫉妬するというのは考えづらい。

「ユーリの意見は一理あるが、シュテルでは考えにくいような気もするがな」
「ディアーチェ、そうでもありませんよ」

 シュテルの発言にディアーチェだけでなく俺まで内心驚愕する。
 全く関係はないのだが、レヴィは先ほどから困ったような顔で俺達の顔を何度も見ている。どうやら話に付いて来れていないようだ。
 シュテルは綺麗に包装された箱を取り出すと、俺の目の前まで近づいた。こちらが言葉を発する前に先に彼女が口を開く。

「私も女の子ですから」

 俺は差し出された箱よりもシュテルの浮かべた微笑みにドキッとした。
 えっと……今日はバレンタイン。おそらくどういう日なのかをシュテルは知ってる……それで箱の中身はチョコだろう。
 少しテンパってしまっているが、そこまでは理解できる。問題なのはシュテルがどういう意味でチョコを渡しているかだ。
 シュテルとは仕事上でも付き合いがあるだけにはやて達のような意味で渡している可能性が高い。だが流れから判断すれば、バレンタイン本来の意味のものを考えられる。彼女のことは嫌いじゃないが、正直に言って恋愛というものはまだ俺には分からない。後者の意味だった場合、俺はどうすればいいのだろう。

「ディアーチェ、チョコを作ってるときから思ってはいましたけど、これはもしかして!」
「か、可能性はゼロではないが早まるなユーリ。あ、あの本の虫、仕事ばかりに打ち込んでいたシュテルが半年ほどでそこまで変わるとは思えん!」
「王さま~、話が見えないんだけど?」
「言っても貴様には分からんだろうから黙っておれ!」
「聞いただけなのに何か怒られた!?」

 周囲も俺のように何かしら思って騒いでいるようだが、シュテルが「食べて感想を聞かせてください」とまるで答えを迫るかのようにチョコを渡してきたために意識する余裕はなかった。戸惑っていた俺はチョコを受け取ってしまい、促されるままに包装を外して箱に手をかける。

「…………」

 中身を見た俺は絶句、というより反応に困ってしまった。
 シュテルがくれたチョコは実に凝ったデザインをしている。具体的に言うと恥ずかしそうにしながらもチョコを渡そうとしているディアーチェ、といったところだろうか。ご丁寧に「か、勘違いするな。チョコが余っていたから作っただけよ」とまで書いてある。
 ……シュテルが凝り性だったことは知っていたし、味の方は心配するまでもなく美味いんだろう。でもこれは贈り物としてどうなんだ。当人が近くにいることもあるが、いなかったとしても食べづらいんだが。

「何だそれは!?」
「チョコですが?」
「そんなことは分かっておるわ! 我が聞いておるのはそんなものをいつ作ったかということだ。我もあの場にいたが、そんなもの貴様は作っておらなかっただろう!」
「それは……乙女の秘密です」

 指を唇の前に置き笑みを浮かべながら言うシュテルは可愛らしくもあり、淑女的な素養もあってか美しく見えた。
 だがそれ以上に俺はディアーチェのほうが気になってしまった。シュテルの言動に彼女の堪忍袋の緒が切れたような音がしてならなかったからだ。

「えぇい、貴様という奴はどこまで我を愚弄するつもりだ!」
「愚弄などしていません。私はディアーチェのことを尊敬しています」
「心がこもっていない声で言われても信用できるか!」
「……ディアーチェは私のことを信用してくれていないのですか?」
「ぅ……い、いや信用していないわけではないが」

 シュテルの潤んだ瞳と弱々しい声にディアーチェの勢いは急激に衰えた。
 個人的にディアーチェは王さまのような言動だが優しい性格をしており、シュテル達のことを大事に思っていると思う。そこが彼女の良いところでもあり、からかわれてしまう所以かもしれない。

「ところで、ディアーチェはショウにチョコを渡さないのですか?」

 話が一段落したわけでもないの話題を変えるとは、今日のシュテルは自由すぎる。そう思う一方で内容が内容だけに俺はディアーチェを意識してしまい、彼女は彼女で驚愕しつつ赤面した。

「な、なぜ急にそのような話しになるのだ!?」
「こうでもしなければディアーチェは恥ずかしがって渡しそうにありませんので」
「かえって余計に恥ずかしいわ! ……はっ!?」

 ふと我に返ったディアーチェは俺のほうへと顔を向けてきた。羞恥心が急激に高まったのか、顔の赤みが増すだけでなく泣きそうにさえなっている。

「ショ、ショウ、そのだな……!」
「ショウ、こっちが本来渡すはずだったチョコですのでそれは返してください……食べますかレヴィ?」
「うん! あぁそういえば……はいショウ、これボクから」

 ディアーチェの姿をしたチョコを躊躇なしに食べるレヴィに渡されたものは市販されていそうなチョコだった。
 おそらくだがレヴィはバレンタインの意味を理解していない。シュテルにとりあえず渡せ、渡せばあとでお返しがもらえるとでも言われたのだろう。

「ショウさん、私からも……」
「あ、あぁ……ありがとう」
「その……美味しくできているか分からないので不味かったら捨ててください」

 などと言われてしまっては、はいそうですかといった返しができるわけもなく、俺はユーリからもらった箱の包装を外して今すぐに食べることにした。
 形は不恰好だが、それだけに慣れないながらも一生懸命作ってくれたのだろうと思う。ひとつ手にとって口に運ぶとユーリが声を漏らしたが、俺は口の中を綺麗にしてから返事をすることにした。

「……美味しいよ」
「本当ですか?」
「ああ」
「よ、よかったです」

 安堵の笑顔を浮かべるユーリを見た俺の中にも安心や喜びの混じった感情が芽生える。それと同時に高町達からもらったチョコもあるため、今日明日で食べ終えられるか不安も覚えた。

「さあ、あとはディアーチェだけです」
「王さまだけだぞ」
「だけです♪」
「う……」

 3人に言い寄られるディアーチェには同情に加えて申し訳なさを感じた。
 俺がもっとはやての家で今日という時間を潰していたのなら彼女がこのような目に遭うこともなかったかもしれない。泊まるつもりで来ている場合は意味がないが。

「……えぇい、渡せばいいのだろう!」

 チョコと思われる箱を取り出したディアーチェは真っ直ぐこちらに向かってくる。流れからして、どのように考えても彼女は自棄を起こしているだろう。

「ディアーチェ……別に無理をする必要はないと思うけど」
「べ、別に無理はしておらん。そもそも渡さない限りこやつらは大人しくならんだろう」
「それは……まあそうだろうけど」

 ここで否定できるほど俺はシュテル達との付き合いは浅くない。顔を合わせた回数だけで言えばはやてには遠く及ばないのだが、会っている間の時間が濃いのだ。
 ディアーチェに半ば押し付けられるようにチョコを渡された俺は、彼女を労うようにできるだけ優しげな顔と声でこう言った。

「ありがとう」
「……そのセリフは我が言いたいくらいだ。貴様は我の味方でいてくれる……」
「えっと、俺が何だって?」
「な、何でもないわ! 分かっているとは思うがか、勘違いするでないぞ。それはこやつらが日頃迷惑をかけておるし、これからもかけるだろうから作っただけだ。た、他意は存在しておらぬからな!」

 顔が赤くなっていることに加え、言い方が言い方だけに他意がありそうだと疑いたくもなる。だがディアーチェにおいては、今のような言い方を普段から割りとしている。それだけに本当のことを言っている可能性も充分にある。
 ――ここは疑わずに信じるべきだよな。俺が信じてやらないとディアーチェの味方がいなくなりそうだし、彼女は俺が困っているときにはいつも助け舟を出してくれているんだから。

「シュテル、ディアーチェはああ言ってますけど……どうなんでしょう?」
「そうですね……ディアーチェは素直ではありませんので他意はあると思います」
「そ、それってつまり!」
「貴様ら、今日という日はどれだけ我のことをからかえば気が済むのだ。我とて限度というものがある。そこへ座れ!」
「ねぇショウ、みんなは何を騒いでるの?」
「それは……まあ気にするな」
「え~、そう言われたら余計に気になるよ」
「気にしてるとディアーチェに怒られるかもしれないぞ」
「え……うん、多分ボクには分からないことだろうから気にしないことにするよ」


 
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