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素顔は脆く

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第四章


第四章

「大切にね」
「うんっ」
 明るく応える兎だった。彼女は幸せの絶頂の中にいた。しかし幸せというものは時としてすぐに暗転してしまうものである。それはこの時もだった。
 彼の事故を聞いたのは登校してからだった。昇は登校中にダンプにはねられてしまったのである。
「嘘・・・・・・よね?」
 話を聞いてまず出て来た言葉はこれであった。
「昇君が。そんな」
「・・・・・・いいえ」
「間違いないわ」
「今。連絡が入ったから」
 皆呆然とする彼女にこう述べる。誰もが項垂れて暗い顔をしていた。
「すぐに病院に担ぎ込まれたそうよ」
「けれど。どうなったかは」
「嘘よ、そんなの嘘よ」
 話を聞いてもまだ信じられなかった。信じたくなかったと言うべきだろうか。
「昇君がそんなことに」
「って兎ちゃん」
「どうしたのよ」
 皆も普段と全く違う兎の様子に驚いた。考えてみればこんな話を聞いて落ち着いていられる方が不思議なのだがそれでもだった。あまりにも普段と違うので驚きを隠せなかったのだ。
「だから落ち着いてよ」
「今はね」
「昇君が担ぎ込まれた病院は何処なの!?」
 慌てたどころではない声で皆に尋ねるのだった。
「それで何処なの!?何処にいるの?」
「ちょ、ちょっと」
「急にどうしたのよ」
「この街の病院よね、そうよね」
 クラスメイトの一人の両肩を前から持って揺さぶりながら尋ねるのだった。
「そこにいるのよね、そうよね」
「多分そうだと思うけれど」
「それでも」
「私今から行くっ!」
 次にはこう叫んでクラスを飛び出したのだった。
「昇君に何かあったらそれこそ生きていけない!」
「ちょっと兎!」
「待ちなさいって!」
「落ち着きなさい!」
 そう言って呼び止めても無駄だった。彼女はまさに脱兎の如くクラスを飛び出てそのまま学校を飛び出した。そうしてそのまま何処かに消えたのだった。
「行っちゃった」
「嘘でしょ」
 皆ただその彼女を見送るだけしかできなかった。昇のことも驚いたがそれ以上に兎の思いも寄らない突拍子もない行動に唖然としてしまったのである。
「こんなことって」
「どうしようかしら」
「とにかく先生に連絡しよう」 
 一人が言った。
「それで皆で探して」
「そうね。とりあえずは先生に連絡よね」
「今はね」
 皆その彼女の言葉に頷いた。そうしてすぐに連絡してそのうえで皆で学校を出て探し回るのだった。
 しかし見つからない。皆焦りだしていた。街中を探し回ったがそれでもだった。やはり見つからず困り果ててしまったのであった。
「参ったわね」
「何処に行ったのかしら」
「病院とか行っていたけれど」
 皆それで病院も探した。しかし何処にもいないのだ。
「全く。いきなり飛び出るなんて無茶よ」
「確かに心配なのはわかるけれど」
 それでもだった。
「見つかる筈もないのに」
「何考えてるのよ」
 そう言いながらも周囲を探す。そうして探して回っているうちにだった。皆の携帯が一斉に鳴った。
「あれっ!?」
「どうしたのかしら」
 携帯の着信音はそれぞれだったが届いたメールは同じだった。その探している相手が見つかったというのである。
 
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