| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

その魂に祝福を

作者:玄月
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

魔石の時代
第一章
  始まりの夜5

 
前書き
登場編。あるいは、あれ? なんか数が合わないぞ編 

 



 記憶が混濁している。
 それは、相棒――偽典『リブロム』を取り戻してからも感じていた事だ。自分自身についての記憶は特に顕著だった。どうやら自分が真っ当な人間ではない事はリブロムと再会する前から早々に思い知っていたが……どうやらそれどころではなかったらしい。
 それにしても、我ながら随分と途方もない事に挑んだものだ。しかし、
『さて、それはどうかな?』
 そんな夢物語が本当に達成できたのだろうか。自分の――■■■■■■■■■■■という存在の始まりの記憶を読み解き、真っ先に思い浮かんだのはそんな事だった。
『全てはオレの中に記憶されている。読み進めばすべて理解できるさ』
 どうやら、それ以外に方法はなさそうだ。それに、自分が何者かなんて事はこの際どうでもよかった。そんな事より、記憶の欠片を取り戻すごとに強まる得体の知れない焦燥の正体こそ知りたい。その原因こそが重要だと、かつての自分が叫んでいる。
『おっと、そう慌てんなって。物事には順番ってもんがあるんだぜ?』
 それはそうなのだろうが。しかし、この魔術書はなかなかに意地が悪い。書き手の顔が見てみたいと思う程度には。……もっとも、書いたのはかつての自分らしいのだが。
『大体、これでも大分省いて進めてるんだ。じゃねえと、マジで時間がいくらあっても足りねえからな』
 つくづくその通りだ。あの夢物語が本当に達成できたかどうかはともかく――少なくとも、自分は不老不死の存在だったらしい。いや、素直に不老不死の怪物と言っていいか。
 時に人知を超えた怪物と。時に欲望に塗れた武装集団と。時には異なる正義を掲げた同業者と。そんな化物どもと延々と戦い続けてきたのだから、他に言いようもあるまい。
 ともあれ、その記憶量はあまりに膨大だった。要所要所を掻い摘む程度にしてもらわなければ、それこそ時間がどれだけあっても足りない。だが、残念ながら記憶だけ取り戻しただけでは意味がなさそうだ。
 目的を果たすには、在りし日の力を取り戻す必要もある。それもまた、薄々と理解していた事だ。だからこそ、相棒もわざわざ段階を踏んで進めているのだろう。
 それに、もっと単純な事実として、かつての自分にとっての『要所』を乗り越えるには相応の力がいる。それがなければ、その先には進めない。とはいえ、
『まぁ、そうかも知れねえな』
 過ぎた力など持つものではない。かつての自分が辿ってきた道のりを……その僅かばかりの断片を客観的に俯瞰して、今さらながらにそんな事を思う。もちろん、あの時の自分に他に選択肢などなかったが……仮に自分が魔法使いにならなければ――せめてただの魔法使いだったなら、もう少し違った――もっと穏やかな生き方ができたのかもしれない。ある意味全てが終わった今となっては、そんな事を思う。
 もっとも、仮に今あの選択をやり直せるとして。それでも、おそらく自分は同じ選択をするだろう。記憶も名前も力も身体すら失っても、結局自分は自分にしかなれないらしい。それなら、迷う事など何も無い。いや――もしもあの時、彼を『救済』していたならどうなっていたのか。迷うとすれば、あの時と同じその一点だけだ。
 仮に彼を救済していたなら、世界は再び『奴ら』に蹂躙されていたのか。それとも、別の未来が広がっていたのか。今となってはもはや確かめる術などない事だが。
 もっとも、仮に彼を救済したとして、あの『リブロム』を生贄とした時点で、真っ当な人間の魔法使いになる事はおおよそ絶望的だっただろう。あの絶望的な殺し合いの中で、不老不死の血を受け継いだリブロムの魂を取り込んだのだから。だからこそ、自分は『奴ら』に挑み、勝ち抜ける事が出来たのだ。
 だから、どの道自分の運命が大きく変わる事はなかっただろう。おそらく自分はなるべくして不死の怪物となったのだ。それに後悔がある訳ではない。ただ、もしも――
『ところで相棒、気づいているんだろうな?』
 リブロムの声に頷く。相棒が何を言わんとしているのか、そんな事は分かっていた。
『あのチビは魔力を秘めている。しかも、呆れるくらい強力なのをな』
 その通りだ。在りし日の力を取り戻せていない今の自分など到底及ばない。自分の歩んできた永い年月の中でも、あれほどの力を秘めた魔法使いはそう多くはなかった。そして、その多くない魔法使い達は――その力ゆえに、苦難と戦いの道を歩む事となった。
 だから、せめてあの子だけは。妹だけは魔法から遠ざけようと――守ろうと決めた。
 自分達のような生き方をしないで済むように。
 それが、暖かで鮮明な記憶を与えてくれた彼女たちへのせめてもの恩返しだろう。




 甘く考えすぎていたのかもしれない。
 後悔を噛みしめながら、壊れてしまった街を歩く。視界が滲むのが分かった。
(私の、私のせいだ……)
 ちゃんと気づいていたのに。あの時、しっかりジュエルシードを探していれば、こんな事にはならなかったはずなのに。
 なのに、私は光を探す事を優先してしまった。きっと傍にいると思った。何かあればすぐに助けてくれると思っていた。……光は、この広い街のどこかにあるジュエルシードを一人で探し回っているのに。この街を、たった一人で守ろうとしているのに。
 光の力になりたいと思った。だから、私も魔法使いになった。それなのに……。
 鼻の奥がツンと痛くなった。泣いている場合ではないと、自分に言い聞かせる。
「何か今、急に寒気が……」
『奇遇だな。オレもだ』
 少しだけ滲んでしまった視界を誤魔化していると、肩のユーノと、鞄の中のリブロムが口々に呟くのが聞こえた。
『まぁ、あれだけ派手にやりゃあ、相棒も気付いただろ。オマエが可愛い可愛い妹を唆したって事に。どっかで狙ってるかもなぁ』
「そ、唆したって……」
 露骨にユーノが怯えだす。本当に光には怖い目にあわされたらしい。そんな事をする兄の姿と言うのは、なかなか想像できないのだけれど。
(光お兄ちゃん……)
 もしも、本当に気付いているのなら、何で姿を見せてくれないのだろう。
(ひょっとして……)
 私が足手まといだから、姿を見せてくれないのではないか。今日だって、本当なら――光なら、街がこんな風になる前にきっと止められていた。光の役に立ちたかったのに、私はこんなにも役立たずで……。
「なのは、なのは。泣かないで。君は何にも悪くないんだから」
 知らない間に泣いてしまっていたらしい。折角我慢していたのに。こんなところで泣いている場合ではないのに。
『あ~あ。ついに泣かせちまいやがった。これでお前を襲う惨劇の度合いがさらに高まったな。ユーノ、お前の事は忘れないぞ。……っていうか、あまりの惨劇に嫌でも忘れられなくなるだろうな。ヒャハハハハハ!』
「ひいいい!?――って、今はそれどころじゃなくて! リブロムさんも何か言ってあげてくださいよ!」
『あ、バカ。鞄の蓋開けて揺さぶるんじゃねえ! 落ちるだろうがああああ――っ!』
 リブロムを入れるために用意したリュックサックのファスナーをユーノが全開にし、そのまま揺さぶると、しばらくしてリブロムが表表紙から地面に落ちた。
『テメエ……。この屈辱は忘れねえ。どっかのページに書きこんどくからな』
 もぞもぞと起き上がってから、リブロムがユーノを睨みつける。けれど、今回はユーノも退かなかった。根負けしたように、リブロムがため息をつく。
『まぁ、詰めが甘かったのは事実だろうな。だが、お前の目的はこの街を守る事じゃなくて、相棒を探す事だ。なら、気にするようなことでもねえだろ』
「違うよ。そんなことない!」
 反射的に言いかえしていた。確かに、光を探している。見つけて、一緒に帰りたい。けれど、その為に街がどうなってもいいなんて事は、絶対にない。
「光お兄ちゃんと一緒に帰るために、私は光お兄ちゃんを助けたいの。力になりたいの」
 我がままだろうか。そうなのかもしれない。それでも――リブロムを真っ直ぐに見詰めて、告げる。
『魔法使いに必要な素質ってのを知っているか?』
 突然、リブロムはそんな事を言った。私の返事を待たず、彼は続ける。
『強大な魔力か? 多彩な魔法か? いいや、違う。必要なのは覚悟だ。何を代償にしても、使命を成し遂げる。その覚悟こそが強大な力を生み出す。お前は一体何を望む? それを果たす覚悟はあるか?』
 覚悟があるか?――今までになく真剣に、リブロムが言った。
 ある……はずだった。けれど。本当に、それは彼の言うような覚悟と言えるのか。
『なるほど。ここで簡単に頷くようなら、見込みはねえが……その様子なら、まんざら理解できてねえって訳でもねえようだな』
 躊躇い、黙り込んでしまうと、むしろリブロムは満足そうに笑った。
『今回の事は、気にするな。相棒の落ち度でもあるんだからよ。ここが相棒の縄張りである以上、相棒が自分で気付いて対処すべきだったんだ』
「でも……」
 私の言葉を遮って、言い聞かせるようにリブロムが言った。
『いいから。お前はしばらくは相棒を探す事に集中しな。そうすりゃ、いずれ目的も達成できるだろ』
 それは、まるで光に言われたように、私には思えた。




 永い眠りから覚め――気付けば、ここにいた。周りには何人もの子どもたちがいる。無邪気で眩いばかりの『夢』に包まれたその場所は、欲望に苛まれた自分には酷く心地よく感じられた。その心地よさに身をゆだねまどろむ中で――ふと声を聞いた。
「ねぇねぇ、知ってる。北校舎の――」
「あのさ。理科室にある人体模型って――」
 ワクワクドキドキと高まる鼓動。ちょっとの恐怖と冒険心に満ちた瞳。どうやらこの子達は、この場所に伝わる伝説を語っているらしい。
「今度、忍びこんでみようか?」
 ちょっとした大冒険――それがこの子達の願いなら、その願いを叶えましょう。
 その魔石は少しだけ真面目すぎたのだろう。そして、きっと、子ども好きだったのだ。何より、こんな無邪気な『夢』に触れたのは随分と久しぶりだった。
 ……だから、つい張り切り過ぎてしまったのだ。
 …――
 街中に樹が生えた日の深夜――いや、すでに日付は超えているか。ともあれ、その夜、もう一つジュエルシードの気配を感じた。一度目はなのは。二度目は恭也たち。三度目はこの街が巻き込まれた。これ以上、出遅れる訳にはいかない。
(優先順位を間違えたな)
 異境の強化――これからくるかもしれない脅威に対する守りを固める事にばかり力を注ぎすぎて、目の前の脅威を甘く見すぎていた。守りを固めるには限界がある。それよりも脅威を呼び寄せる元凶こそを真っ先に叩くべきだったのだ。
 所詮聖杯ではないと甘く見たばかりに、優先順位を明らかに読み間違えた。そんな自分に対する苛立ちと殺気を宿しながら向かった先は――呆れた事に、通い慣れた学校だった。家を飛び出さなければ、あるいはもっと楽に見つけられていたのかもしれない。皮肉に、胃が捩れるのを感じた。
「次は……音楽室のピアノか?」
 その夜、学び舎は魔物の巣窟と化していた。元々学校には、七不思議なる言い伝えがあるらしい。例えば、夜中に人体模型やら骨格模型やらが走り回るとか、トイレに女の亡霊が出るとか、そう言ったような。それらは各地の学校ごとに代々受け継がれ――時々は実際に体験しようとする物好きな連中もいるらしい。今回のジュエルシードは、そう言った連中の欲望を叶えたようだ。
 迷惑な話だ。連中とてまさか本当に体験したいと思っている訳ではないだろうに。苛立ち交じり――八つ当たりついでに毒づく。
(ピアノの他には何があった? 人体模型とトイレの亡霊は始末したが……)
 どうやら全て始末しなければ、ジュエルシードに行きつけそうにない。ジェミニを相手にするよりは楽だと自分に言い聞かせ、夜の校舎を彷徨う。
(体育館とプール。あとは、何とかいう石像だったか。それに、図書館の絵画と……他に何があった?)
 重苦しい音色を奏ながら、何故か襲いかかってくる――噂ではただ音楽を奏でるだけのはずだったが――グランドピアノを叩き斬りながら呻く。もっとも、言い伝えというのが往々にしてそうであるように、年月を重ねるごとに内容は変化したり、失伝する事もあるらしい。もちろん、全く別の話が組み込まれることもあるようだ。実際、七不思議と言いながらも、俺が知る限りその類の言い伝えは十話を超える。七体の魔物を仕留めれば済むのか、それとも伝わる限りの魔物を相手にしなければならないのか。
(言い伝え全てというのは勘弁して欲しいな。俺も全てを知っている訳じゃない)
 目を離した隙に向きが変わる――どころか、そのまま飛び出して襲いかかってきた女性の絵画を燃やしながら呻く。とりあえず、最も有名な七つを始末しよう。それで終われば儲けものだった。
(というか、さっきから散々備品を破壊しているが、救済すれば直るんだろうな?)
 走り回るだけでは飽き足らず、背負った薪に火を灯して投げつけてくる石像を神木の根で絡め取り粉砕しながら、ふとした不安にかられる。この石像一つでもそれなりの値段がするはずだった。……まぁ、魔法使いである以上、手段さえ問わなければ金銭を入手する手段などいくらでもあるが。とはいえ、今まで破壊してきたのはどれもかなり高額な代物だ。弁償と言う事態はできれば避けたい。
(何であれ、どうやら楽には行きそうにないな……)
 水面一面に生え手招きする――だけでは飽き足らず、実力行使で引きずり込もうとする腕どもをプールごと凍りつかせ、ため息をつく。全く、つくづくままならない。どうやら、異境の強化はまだ不充分だったらしい。
(あの樹のせいか? それとも、予めあの魔石がこの世界にあると知っていたのか? それとも全く別の何かが狙いか?)
 何が狙いは分からないが――ユーノとは異なる、新たな同業者達の気配を感じた。




「何だい、アイツは。さっきから妙な魔法を使ってるみたいだけど……」
 私の使い魔――アルフが、小さく呟く。
「分からない。でも、油断はできないよ」
 黒衣の少年――見慣れぬ魔法を使うその魔導師は、只者ではない。私よりいくらか年上のようだが、それを差し引いても妙に戦い慣れているのが分かる。油断はできない相手だ。決して弱くはないはずの思念体を片手間に倒している。
「行こう。あの人がジュエルシードを回収する前に」
 覚悟を決めて、身を潜めていた場所から踏み出す。
「すみませんが――」
 ジュエルシードは、私が頂きます。その背中に告げるより早く、彼が動いた。
「逃げた!?」
 黒衣の少年はわき目も振らず、建物の中を目指して一目散に走り出した。
「逃がしません!」
 慌てて追いかける。だが、彼も魔法で強化しているのかなかなか追いつけない。それでも黒い背中を見据え、走り続ける。
「邪魔するんじゃないよ!」
 ジュエルシードが生み出した幻影だろう。真っ黒でぼさぼさの髪を振り乱して襲ってきた、白い服の女の人をアルフが殴り飛ばした。その隙に突破する。いちいち幻影の相手などしていられない。それに、速さなら私達の方が上だ。
「見つけた!」
 明かりのためだろうか。魔力を帯びた光がいくつも漂う訓練場に彼はいた。他にも何か奇妙な植物がいくつか点在していたが――これもおそらくジュエルシードが生み出したも
のだろう。そして、彼の手には原因であろうジュエルシードが握られていた。あるいは、彼の扱う見慣れぬ魔法は、ジュエルシードの暴走によるものなのかもしれない。
 いずれにせよ、その少年が目的の物を持っているのは間違いない。彼には悪いが、私が回収させてもらう。
「悪いけど、それはアタシ達が頂いて行くよ!」
 アルフと同時に、私も彼に接近する。彼は再び後ろに飛び退く。だが、もう逃がさない。魔力を練り、解放する。
≪Flash Move≫
 その瞬間、自分の軽率さを痛感する羽目になる。防御こそどうにか間に合ったが、それだけだ。全くなす術も無かった。それまでただぼんやりと漂っていただけの光が一斉に私達に向かって飛んでくる。さらに、周囲の奇妙な植物が一斉に爆発した。いや――
(つめ、たい……?)
 閃光に視界を塞がれているせいで分からないが、この爆発は熱を伴っていない。むしろ逆だ。周囲の空間ごと凍りついていくのを感じる。
(物理設定……?)
 身体を捕える氷とは別の冷たさが背筋を駆け上がった。彼の魔法は、明らかに物理設定だ。防御が間に合っていなかったら、今頃氷漬けになって死んでいる。
(早く抜けださなきゃ!)
 視界が戻った時、私達は巨大な氷の塊に飲み込まれていた。抜け出すべく、魔力を集中させる――より早く、首筋に別の冷たさを感じた。
「逃げたら追いかけたくなるという気分は分からないでもないが……。しかし、まさかこれほど上手く引っ掛かるとは思わなかったな」
 私の首筋に魔力を宿した異形の剣が突きつけながら、黒衣の少年はむしろ呆れたように言った。どうやら、まんまと誘い込まれてしまったらしい。
「まぁ、いい。それで、お前たちもこの宝石が狙いか?」
 片手でジュエルシードを弄びながら、少年は言った。一見して隙だらけのように見えた――が、動けなかった。僅かでも動いたら、このまま首を斬られる。それを、理屈ではない部分が理解していたから。
「動くなよ」
 今さらの制止。だが、それは私に向けられたものではない。彼の死角で、何とか抜けだそうとしていたアルフに向けてだった。
「まぁ、お前の飼い主の首がなくなってもいいと言うなら止めはしないがな」
 静かな声。何の高揚もない事こそが、むしろ恐怖を誘った。隙だと錯覚するほどの自然体。それはつまり、ほんの僅かな躊躇いも無く、彼は私達を殺せるという事だ。それを、理解せずにはいられなかった。
「だんまりを決め込むのは勝手だが……俺も今日はいくらか機嫌が悪い。手元が狂っても恨むなよ?」
 その恐怖を見透かしたように、彼は浅く笑った。
「今、ここでなら目撃者を気にする必要はない。それに、死体の処理に頭を悩ませる必要もないからな。……いや、それに関しては元々悩む必要もないか。どの道大した手間じゃあない」
 冗談のように笑って見せる――が、冗談ではない。全く冗談にもならない。この少年は、明らかに格上の存在だった。それに加えて最大の武器であるスピードまでを完全に封じられた今の私では、どう足掻いてもこの状況を覆す事などできそうにない。
 魔法文明のないはずのこの次元世界で、まさかこんな相手に出くわすなんて。
(ごめんなさい……)
 声にせず呟いたその時――突然、黒衣の少年が苦しみ出した。
「何、だと……?」
 自分の右腕を掴み、驚愕の声をあげる。いや、驚愕のあまり絶句したらしい。何が理由なのか、分からない。包帯に包まれたその右腕の一体何をそんなに驚いたのか。
 だが、それが何かのきっかけになったのだろう。その少年が再び私を見た時、様子が一変していた。
「もう一度聞くが、お前達は一体何が目的なんだ?」
 感情のある、穏やかな声。その声は、全く別人のように聞こえた。困惑していると、彼は頭を掻いてから言いなおした。
「訊き方が悪いか。つまり、この宝石を集めて一体どうしたいのか、と言うのを聞きたいんだが……」
 どう答えるべきなのか。アルフと視線を交わす。それを警戒と判断したのだろう。彼は肩をすくめて見せた。
「分かった。それじゃあ、まずはこれだけ答えてくれ。お前たちは、この世界の住民を犠牲にする、もしくは巻き込む気があるか?」
 声にいくらか険しさ――というより、無機質さが戻っている。このまま黙っていれば、今度こそ殺されかねない。
「ありません」
 つぅ、と少年の目が細くなる。どんな嘘でも見透かされる。そんな気分にさせられた。
 だが、嘘などついていない。私達は殺し合いなんてしない。……できれば、誰も傷つけたくない。目をそらさずに見つめ返す。
「まぁ、いいだろう」
 しばらくして、少年は言った。それと同時、右手を突き出す。私達をとらえていた氷が――氷を形成していた魔力が、彼の腕に吸い込まれていく。
「取引をしよう」
 解放され、慌てて間合いを開いた私達に、その少年は落ち着き払った声で言った。




「どの道大した手間じゃあない」
 なのはと同い年ほどの少女に剣を突き付けるのは、あまりいい気分ではない。それが本心だった。とはいえ、相手は魔導師だ。油断はできない。敵となるなら、この場で殺す。その覚悟を決めた瞬間――多少の気負いがあったのだろう。腕に僅かに力がこもり、彼女の細い首筋に僅かに刃が滑り込んだ。本人も気付いたかどうか分らない程度の、ほんのわずかな赤い雫。それが、きっかけだったのだろうか。
「ぐ、あ……」
 突如として右腕が燃え上がった。そう錯覚するほどの熱が――衝動が右腕から全身へと浸蝕していく。この感覚を知っていた。あの日……ジェフリー・リブロムの全てを受け継いだあの時から。だからこそ、困惑する。
「何、だと……?」
 右腕が変化していた。長らく共にあった『マーリン』の腕ではない。殺意に黒々と燃え上がるジェフリー・リブロムの右腕。彼女を生贄としたその日から、彼と共にあったその右腕だった。だが、一体何故? 何故今さら現れる?
 彼らはもう、この腕にはいないはずなのに。なのに、一体何故。
(意味がある。必ず意味がある……)
 右腕の変化は、錯覚だったらしい。衝動の波が通り過ぎた後に残っていたのは、今の自分の右腕だった。それを握りしめ、呟く。
(この衝動には、必ず意味がある)
 今も燻ぶる殺戮衝動は錯覚ではない。まともな世界の全てを憎み、妬み、憎悪した彼女に由来するその衝動は、今も右腕で燻ぶっている。
(何故だ。この子の何が原因なんだ?)
 記憶にある彼女と、目の前の少女が似ているのは、精々髪の色くらいだろうか。その程度で引き金となるなら、自分はとうの昔に怪物に成り下がっている。
「もう一度聞くが、お前達は一体何が目的なんだ?」
 右腕の彼女は何も教えてくれない。だから、今目の前にいるこの少女をここで死なせる訳にはいかなかった。接点を失う訳にもいかない。この殺意が、一体何に由来するものなのか。それを確かめるまでは。
(下手をすれば、優先順位を書き換える必要もあるか……)
 このまま殺戮衝動が膨れ上がるならば。自分が本物の怪物に成り下がる前に、彼女の正体を明らかにする必要がある。気は進まないが――最悪はジュエルシードの使用をも考慮に入れなければならない。こんなところで、魔物に堕ちる訳にはいかない。
 この世界で、堕ちた自分に対処できる可能性があるのは、おそらくなのはだけだろうから。
「訊き方が悪いか。つまり、この宝石を集めて一体どうしたいのか、と言うのを聞きたいんだが……」
 もっとも、前途は多難だった。当然のように警戒されている。殺しかけたのだから、仕方がない。なるべく優しく――なのはに話しかけるような気分で問いかける。
「…………」
 それで誤魔化せるほど安くはないらしい。ウチの妹より危機管理はしっかりしているようだ。……いや、むしろあの親子の危機管理がなっていないだけか。
「分かった。それじゃあ、まずはこれだけ答えてくれ。お前たちは、この世界の住民を犠牲にする、もしくは巻き込む気があるか?」
 危機管理と言えば、まずこれだけは確認しておく必要がある。
「ありません」
 幸い、彼女ははっきりとそう答えた。とはいえ、それは本当なのか。表情。目の動き。呼吸。長らく欲望に接し、殺し合いを続けてきた身だ。相手が嘘をついているかどうかは、何となく分かる。
「まぁ、いいだろう」
 おそらく嘘ではない。少なくとも、積極的に誰かを巻き込む気はないだろう。そう判断する事にした。とはいえ、ジュエルシードが関わった場合に手段を選んでくれるかどうかは不安が残る。それに、殺戮衝動もある。彼女達はしばらく監視下に置いておきたい。
「取引をしよう」
 俺が持ちかけた取引は簡単だった。取引と言うよりは提案に近い。
 ジュエルシードを集めるのを手伝わせて欲しい。そう言った時の、彼女達の表情は見ものだったが……事は簡単には進まなかった。
 さすがに、自分を殺しかけた相手と手を結ぶとなれば、躊躇うのは必然だろう。ここで俺を始末して、ジュエルシードを奪う。どうやら、それが彼女達の選択だったらしい。
 それならそれで構いはいないが。
「さて。満足したか?」
 夜明けまでにはまだまだ時間があるはずだが。何となく外を気にしながら、告げる。その先には、息を切らした二人の姿があった。
 魔法の威力は申し分ない。才能もある。思い切りも良かった。だが、経験が圧倒的に不足している。……全ての記憶を取り戻したとは言い難い今の俺と比べても。もちろん、それは仕方がない事だ。相手が不老不死の怪物ではさすがに分が悪い。
 とはいえ、彼女の才能であれば、そう遠くない未来に一流の魔導師になる。それが喜ばしい事かどうか。それは俺が判断すべき事でもないのだろうが。
「まいりました……」
 もっとも、未来の栄光など、今の時点では何の役にも立たない。お陰で二人をあしらう事はそこまで困難ではなかった。結局、杖――いや、大鎌か――を頼りに何とか立ち上がりながら、その少女は言った。
「そうか。それなら、そろそろ素直に条件を飲んでもらえるかな?」
「……はい」
 躊躇いがちに、頷く。取りあえず、まずは一歩前進という事だろう。
「それなら、これからよろしく頼む」
 言いながら、身体の傷を癒してやる。首筋の傷はずっと気になっていたし、さすがに全く攻撃せずにあしらうというのは不可能だ。最小限に留めたつもりだが、それでも小さな擦り傷や打撲――あとは、凍傷がある。まぁ、その大半は最初の一撃によるものだが。
「俺は御神光。お前達は?」
 彼女達はずいぶんと驚いたようだったが。その表情に苦笑しながら名乗る。
「私はフェイト。フェイト・テスタロッサです」
「アタシはアルフ。フェイトの使い魔だよ」
 警戒するだけの気力もないのか――それとも、傷を癒した事で多少は警戒を解いてもらえたのか。二人は思ったより素直に、自らの名前を名乗った。




 おかしな奴だ。御神光と名乗ったその魔導師は、どうにも得体が知れない。
「非殺設定? 知らないな」
 あれだけ多彩な魔法を使いこなす癖に、光はあっさりと言い放った。フェイトと二人で絶句する。まさか今時非殺設定を知らない魔導師がいるとは思わなかった。
「勘違いしているようだから、一応訂正しておこうか」
 アタシ達の呆れた顔を見て、光はむしろ苦笑したらしい。
「俺は魔導師じゃあない。魔法使いだよ」
 にやりと、獰猛な笑みを浮かべて見せる。それは、ごく単純な脅しだ――が、その効果は抜群だったと言わざるを得ない。
「正義のための人殺しだ」
 背筋に冷たい物が走り抜ける。人殺し。それがハッタリでは無い事くらい、もう嫌と言うほど思い知っている。さらには、二対一でいいようにあしらわれた。あの時、もしもほんの少しでも殺す気だったなら、アタシ達は今頃とっくに冷たくなっている。
「とはいえ、別に殺人狂じゃあないつもりだ。悪ささえしなければ別に何もしないさ」
 悪さというのは、要するにこの世界の住人を巻き込むなという事だろう。もちろん、街にも被害を出す訳にはいかない。さらに言うのであれば――
「アンタも、ちゃんと約束は守って欲しいね」
 アタシ達が交わした取引も遵守するしかない。どれか一つでも破ろうものなら、今度こそ彼は敵になる。そうなれば……まず間違いなく、今度こそ殺される。フェイトと大して年が変わらないであろうこの少年は、どういう訳だがアタシ達など足元にも及ばないほど戦い慣れている。……いや、命のやり取りに慣れていると言うべきだろう。その一点に関して、アタシが出し抜く事など、とてもできそうにない。
「もちろん守るとも。お前たちが裏切らない限りはな」
 アタシ達は光の監視下で行動する。その代わり、回収が終了した時点で光が保有するジュエルシードはアタシ達が貰い受ける。そして、アタシ達は速やかにこの次元世界を立ち去り、光達の事は誰にも話さない。それが取引だった。他にもいくらか面倒な条件がつくが、遵守すればこの小僧が敵にならないというならそれだでも悪くない取引だと言える。
「アンタの妹はアンタ自身が説得して欲しいところなんだけどねえ」
 厄介な条件その一。アタシ達の他にもう一人、ジュエルシードを探している魔導師がいるらしい。それはいい。光の協力があれば、その程度は大した問題ではない。ただ、どうやらその魔導師は彼の妹と共に行動をしているらしい。彼の妹を傷つけないこと。それがまず厄介な条件だった。もっとも、それに関してはさほど悲観していない。素質は良いらしいが、話を聞く限り明らかに経験がない。それなら、フェイトやアタシの敵ではないだろう。さらに、非殺設定を使えば、傷をつける事もほとんどない。
「そうできればいいんだがな。アイツは意外と頑固なんだ。それに、まじめでね。ルール違反にはなかなか厳しいんだよ」
 厄介な条件その二。立ち去る前に、件の魔導師の前ではっきりと持ち去る事を宣言すること。そのあとの所有権争いは、この世界とは関係ないところでやれというのが条件だった。まぁ、どちらが違法行為かと言われれば明らかにアタシ達の方なので、あまり気は進まないのだが……この世界でやり合えば、もろともに光に殺されるだけだ。それに比べればいくらかマシだろう。これも、さっさと『あの場所』に帰ればそこまで問題にはなるまい。……アタシとしては『あの場所』に帰る事自体があまり気は進まないのだが。
「それにしても……」
 一方の光は、心なしか上機嫌のように見えた。自分の要求が通ったからだろうか。いや、違う。そもそも、アタシ達には要求に従わないなんて選択肢は与えられていなかった。通るべくして通った要求に、それほどの感慨などあるまい。
「非殺設定か。……アイツの願いは誰かに受け継がれていたってことかな」
 それが理由であるらしい。だが、アタシには誰の事だか分らないし、彼が何を言っているのかもさっぱり分からなかった。




 人は自らの思い込みによって判断を狂わせる生き物である。こうであるに違いない――自分の描いた幻影を、往々にして真実だと思い込むからだ。
 例えば、隠れ家と言えば粗末なあばら家だ。と、言ったような。
(とはいえ、これは別の意味で目立ちそうな気がするんだが……)
 フェイト達に案内されたのは、まさしく摩天楼だった。超高層マンションと言うやつだろう。これを隠れ家として使い捨てるとは、随分と豪勢だった。
 まぁ、この子たちが正規の手順を踏んで入室しているかどうかは分からないが。
「ここがアタシ達の部屋だよ」
 案内された部屋は、生活感がなかった。なるほど、隠れ家らしいと言えば隠れ家らしい。妙に所帯じみている自身の隠れ家を棚にあげ、そう評価する。
 とはいえ、気になる事がない訳ではない。
「お前達だけか?」
「そうだよ。さっきも言ったろ? 二人で行動しているって」
「いや、そう言う事じゃなくてだな……」
 フェイトの両親――肉親やそれに類する誰かの気配が感じられない。彼女達の文化においての成人が何歳かは分からないが、さすがなのはと同い年程度で独り立ちというのは早すぎるように思えるが。
「母さんは、研究で忙しいから……」
 俺の言わんとする事を理解したのか、少しだけ寂しそうに、フェイトが言った。いや、本当にそれだけか?――僅かに右腕が脈打つ。
「なるほどな……」
 その研究とやらの一環で、あの宝石を欲しているのだろうか。その考えは、正直少なくない不安を抱かせる。もっとも、そうだという根拠もないが。
(だが、それならなおさら目立つ気がするが……)
 こんな高価な場所で、姉妹――事情を知らない者なら大体はそう判断するだろうし、見た目ならアルフの方が姉に見える――だけで生活しているというのは明らかに人目を引く。下手に通報されたら面倒な事になりそうだ。
(しかし……)
 一通り部屋を見回って、いくらか気になる物を見つけた。具体的には、三つほど。どう優先順位をつければいいのか、何とも悩ましいが――
(そうだな。まずはこれから解決するか)
 まずは一番手っ取り早いところから始末をつけていくべきか。それを見やり、ため息をついてからリビングに戻る。
「お前達、食事はどうしてるんだ?」
 実際のところ、訊くまでもない。相棒――つまり、御神美沙斗と同じだ。覗き込んだゴミ箱には市販の弁当箱やらレトルト食品の袋やらが満載だった。それだけならまだしも、明らかに手をつけられていない代物まで捨てられている。量から考えて、単なる少食だと楽観できる状況ではあるまい。唯一空になっているドッグフードは……まぁ、アルフのものだろう。
 もしもフェイトが食べているなら、偏食もいいところだ。
「フェイト、買い物に行くぞ」
 彼女達に財布を用意させ、中身を確認する。資金としては充分すぎた。ため息をついて、告げる。ついでに、近くのメモ帳に最低限の調理道具を書き出し、アルフに渡す。
「お前はこれを買ってこい。いいか、街中で包丁を振り回したらダメだぞ」
「アンタ、アタシを何だと思ってるんだい!?」
 喰いついてきたアルフを適当にいなしていると、フェイトが困ったように言った。
「あの、でも……」
「食事は基本だ。好き嫌いはあるだろうが――最低限、何か食べてもらうぞ」
 しっかり食べていないから、あの程度でへばるんだ――言ってやると、フェイトは反論を一度は飲み込んだ。
「いえ、そうじゃなくて……」
 だが、意を決して再び口を開く。
「調理道具なんて買って、誰が作るんですか?」
 まぁ、この二人が料理を作れるとは思っていなかったが。しかし、真顔で聞かれると脱力を感じる。ため息と共に、呻いた。
「仕方がないから、俺が作る」
「ええええええええッ!?」
 直後、二人が絶叫した。それは一体どういう意味だ?
「いえ、でも。その……。貴方の意見は正しいとは思いますけど。……でも、事は口から身体に入るものだし」
「そうだよ。ほら、何だ。やっぱり、そこはほら。……腹も身の内って言うし」
 半眼で睨むと、それぞれがわたわたと何やら失礼な事を言い連ねる。しかも、アルフ。お前のその使い方はおそらく間違っている。
「フェイト」
 腕を組み、目を閉じて告げた。
「行くぞ」
「はい!」
 別に凄んだつもりなど欠片も無かったのだが――フェイトは今までにないくらいはっきりとした大声で返事を返してきた。
「う~ん……う~ん……」
 それからしばらくして。ベッドの上で魘される二人の姿があった。自らの名誉のために――いや、それ以前に俺に料理を叩き込んだ元宮廷料理長の名誉のためにここに宣言しておくが、料理をしくじったわけではない。むしろ、概ね好評だった。最初は警戒していたが、アルフはぺろりと平らげ、三回もお代わりを要求し、フェイトも量を控えめにしてあったとはいえ、全て食べきった。問題は、その後の会話だった。
 今回俺が封印したジュエルシードは、予想通りあの学校の『七不思議』を再現したらしい。それも、一番の有名どころを七つ。彼女達が追いついてくる直前に、体育館中を砲弾のように飛びまわっていたボール――本来なら、誰もいないのにボールが跳ね続けているという程度の話だったはずだが――を一掃した結果、ジュエルシードが姿を現した以上は間違いあるまい。だが――
「なるほどねぇ。アンタを追いかけてる時、アタシ達も妙な女に出くわしたけど、あれもその怪談の再現だったって事か」
「何? ……どんな女だ?」
「白い服を着た、髪の長い……少し怖い雰囲気の女の人です」
 アルフとフェイトはそんな事を言った。
 はて。そんな噂はあっただろうか。もちろん、俺とて噂の全てを知っている訳ではないが……そうなると数が合わない。噂は七つで完結するはずだ――何気なく呟いた途端、二人の顔が青ざめた。
「え……? それじゃ、あの人って……」
「ひょっとして、本物……?」
「かもな」
 冗談半分で頷いてやると、二人揃って卒倒した。全く可愛らしい事である。仮にも魔法使いが、今さら亡霊程度で気絶するとは。とはいえ、
「そんな気配を感じた事はなかったんだが……」
 やはり勘が鈍ったままということなのだろうか。それは否定しがたい。もっとも、あの場所は別に何かしらの因縁があるような場所ではない。何かが化けて出る謂れもないはずだが。
「……まぁ、機会があったら確認しておこう。念のためな」
 もっとも、この場合一番困るのは、亡霊云々などではなく、実は変質者が侵入していたと言うオチなのだが。
 まぁ、相手が何であれ、夜中に校舎内をふらつく程度なら別に大騒ぎする事でもないように思うが……下手をすると、怖がりな妹が登校拒否になりかねない。そうなる前に打てる手は打っておくべきだろう。……取りあえず、この一件が終わった後にでも。
「おやすみ。良い夢を」
 とても安らかな眠りとは言えない二人に告げ、俺もソファに横たわる。
 随分と久しぶりの、異界の魔法使い達との夜はそんな風にして過ぎていった。

 
 

 
後書き
ちなみに、ですが。
ゲーム内の魔物が誕生した年代も大幅に変わっている場合があります。
そんなわけで、元宮廷料理人はもちろんあの人のことです。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧