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SAO~刹那の幻影~

作者:鯔安
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第四話

 
前書き
おえかきに熱中しすぎてばらかもん見逃しました。
……ちくしょうめ
書き直し第四話 

 
 茜色に染まった空。吹き渡る風になびく草原。湖に反射するおぼろげなオレンジの光。キリトたちと別れて、もう三時間ほど経っただろうか。俺とシーラは、夕日特有の暖かな日差しの中、一際目立つ青色の閃光、《ソードスキル》を操り、この草原エリアに出現する某RPGでのスライム的立ち位置のイノシシ型モンスター、《フレンジーボア》をひたすら狩り続けていた。
 よくよく見ればかわいいと言えなくもないこの敵は、やはりどこぞのスライムに通じるものがあり、行動パターンが『体当たり』と、おそらく『逃げる』の二つしかない。
 初心者用のモンスターとしては確かに鉄板。実際に自らの体を動かして戦うこの世界において、まずは《ソードスキル》を発動させる練習という意味で、間違いなく妥当と言える強さに調整されているわけだ。ただ、裏を返せばそのためだけのモンスターとも言えるわけで、少し前にソードスキルを自力で発動させることに成功してから物足りない感を感じ始めているのは否めない。



そろそろもう少し強敵の出るエリアへ移動する頃合いかと頭の隅で思考しつつ、俺は目の前に迫ったイノシシの突進を難なくかわし、バックステップで距離を取った。

「どう?うまくいっている?」

 不意に、背後でのんきなシーラの声が鳴った。
 俺が戦闘のコツをつかんでしまってからは別々に狩りをしていたはずだが、いつの間にそばまで来たのだろう。
 いかに戦いに慣れたといっても、戦闘中に「ぼちぼちでんなぁ」などと相槌を打つことは命取りになりかねないが、ちょうどイノシシとの間に『間』ができていたこともあり、俺はイノシシをけん制する短剣に力を込めながら答えた。

「ああ、もう余裕だな。レベルも上がりそうだし」

 呟くと同時に、俺はわずかに腰を落とし、短剣を背中まで引く。短剣スキルの初級突進技《ファストエッジ》の構えを取った。途端に手の中の短剣が淡い青の光を纏い始め、ソードスキルが発動する。
 この間四秒。二時間前の自分と比べれば格段に早くなったが、それでもやはり元テスター、シーラにはかなわない。お手本として見せてくれたソードスキルは、おそらく一秒を切っていた。
 いつの日か抜いてみせると決意を新たにし、再び突進を開始しようと足踏みするイノシシをにらみつけていると、目の端に捉えていた短剣の光が、頼りない薄青から鮮やかな蒼へと変わった。これがいわゆる、ソードスキル開始の合図。
 瞬間、システムの補助を受けた俺の足がイノシシに向かって強く地を蹴った。短剣を装備した左腕が連動して、見えない何かに引っ張られるような感覚を伴い、動き出す。
 このまま身を任せていれば、攻撃は狙い通りイノシシの体へと吸い込まれ、赤色のエフェクトフラッシュをまき散らしながら甚大なダメージを与えるだろう。が、残念なことに、HPをほぼすべて残しているイノシシはそれだけでは倒れない。普通に倒すならもう一撃は必要だろう。故に俺は、ほぼ自動的に動く左腕に少しだけ力を加えた。
 鼻先あたりに向かっていた光線がわずかに曲がった。
 輝く短剣は当初の予定とは全く別の軌道を描き、イノシシの顔をかすめると、その首筋をザシュッという効果音と激しいダメージエフェクトを振りまいて通過した。
 クリティカルだ。
 当然、たかがレベル1のイノシシがその膨大な被ダメージに耐えきれるだけのHP(ヒットポイント)を持ち合わせているはずもなく、たちまち頭上のHPバーを空にすると、その体をぱしゃりとポリゴン片に変え、空中に溶けた。
 それを見届けると、俺は喉に詰まった息を吐きだし、同時に目の前に浮かび上がった先の戦闘の成果を示すウインドウを見つめた。瞬時に目を加算経験値まで持っていくと……なんと偶然、初のレベルアップに必要な分ぴったりだ。
 たちまちレベルアップを告げるファンファーレが響き、レベルが一つ上がった俺は、短剣を腰の鞘へ納めると背後を振り返り、感心しているのかぱちぱちと手を叩くシーラに、本日二度目のドヤ顔を送った。

「どや、レベル上がったぜ!」

「あたしは十分前に上がったけどね」

 返しのその一言に、一瞬ぬっとなる。確かに少し前、俺の耳にもファンファーレの音が入ってはいたが。

「そりゃお前が元ベータテスターだからだ!素人の俺と比べるんじゃない!」

「えー、でもユウ、結構うまいよー?素人からはもう卒業の時期だと思うなー」

「う……ぬう……」

 完璧に返してやったと思ったが、詰めが甘かったらしい。美少女アバターの笑顔で褒められただけで言葉が出なくなってしまうとは……まだまだ修行不足か。
 途端に発生した敗北感と気恥ずかしさをこらえきれず、俺は顔を伏せてしまう。それを見とめ、勝利と取ったか、聞こえてくる勝ち誇った鼻笑い。それに俺の感情の何やらはすぐさま吹き飛ばされ、おこだからねと目尻をぴくぴくさせながら顔を上げると、いつの間にか近くの岩に腰を下ろしていたシーラが、自分のウインドウをいじくり、首を傾けた。

「で、どうする?けっこうコルも貯まったし、街に戻って防具のほう揃えちゃう?それとも、もうちょっと強いとこで狩り、続ける?」

「ん……そうだな……」

 ひたすらのイノシシ狩りから脱出するという意見には確かに賛成だが、正直、初期配布されたポーションの残りが心もとない。短剣に使い果たした金も今現在800まで増えたので、防具に手を付けてみたい気もしないではないし、ポーションの補充という意味でも、ここは一度町に帰るべきなのだろうか。
 回復できずに死んだところで、町のどこかで生き返るのだろうが、基本『いのちだいじに』で行動する俺に、死に戻りは性に合わない。
 一旦戻るか。
 そう呟きながら赤みを含んだ鋼鉄色の空を眺めていると、ふと、今まで気にもしていなかった右端に浮かぶ数字、時計に目が合った。
『17:26』
 いつの間にこんなにも時間が経ってしまったのだろう。おおよそ四時間半ぶっ続けでゲームしていたとは……間違いなく新記録だ。ではない、そろそろログアウトしなければ。夕食の時間に遅れてしまう。
 家の約束事で少しでも遅れれば祖父に長時間の説教をくらってしまうため、いつもなら五分前には席につき、その時間も身にまで染みているつもりだったが、迂闊だった。

「あー、悪い。俺、今日はもう終わるわ」

「え、もう?」

 ウインドウに目を落としていたシーラが、勢いよく顔を上げ、目を見開いた。
 そんなに驚くことなのかと若干動揺してしまった俺は、紛らわすため、入れ替わりにウインドウを呼び出し、目を落とす。

「お、おう。もうすぐ夕飯の時間だからな、色々うるさいんだよ、俺ん()。夜中はさすがにインできねーし」

 肩をすくめつつ、《ログアウト》の文字を探し、どんどんウインドウをスクロールしていく。ちょうど全体の半分ほどまで捜査が達したころ、なにやら苦い顔で自分のウインドウを見つめていたシーラが、それを消去し、再び俺を見た。

「そ……うなんだ。じゃあ明日は?何時からくる?」

「……午後の四時くらいだな、一時間くらいしかだけど」

「四時……だね……うん、わかった」

 シーラの声色がやたら弱々しかったのが気になったが、またからかうつもりなのだろうと思い直し、俺はあくまで平静を保つ。
 残念なことに、それによりシーラがやられた顔を作ることはなかったが、口ぶりからして明日もこんなやり取りができるだろうと期待することにし、俺は、「じゃ、そろそろ」とシーラに手を振った。
 シーラがおずおずと手を振りかえしてくれたことを確認すると、俺は再びウインドウに目を戻し、メニュータブを下へ下へと移動していった。
 様々なタブが流れていく中、スクロールバーが一番下まで到達したらしく、唐突にそれが止まる。
 と同時に、俺はあることに気づいた。

「なあ、ログアウトボタンって――」

 直後だった。



 リンゴーン、リンゴーンという、警告音とも取れるような鐘の轟音が俺たちの耳を突き刺した。たまらず二人の体がビクリとはねる。

「な、なんだ!?なんかのイベントか!?」

 音の発信源を特定しようとあたりを見回してみるが、そのあまりの大音量のせいでままならない。
 シーラなら何か知っているんじゃないかと目を向けるが、この轟音は彼女にとっても初体験の代物であるらしく、明らかな不安に顔を歪め、叫んだ。

「わかんないよ!こんなのベータの時にも……ッ!」

 シーラが唐突に言葉を詰まらせた。その瞳に『驚愕』の感情が上塗りされる。理由は俺から見ても明らかだった。
 彼女の体が青い光に包まれたのだ。

「て、転移(テレポート)!?強制!?」

 今度は何だと大声を上げる前に、こんな状況でもよく通るシーラの悲鳴に似た叫びが俺の耳に飛び込んだ。
 『てれぽーときょうせい』という響きに馴染みがなく、パニックも相成って反射的にそれを漢字変換できなかった俺は、遅れることコンマ数秒後、ようやくその意味を理解した。と同時に、俺の体にも同様の変化が起きた。
 眼前が青白く濁った。風景、シーラの姿がだんだんと薄れていく。
 次の瞬間、青白い濁りが勢いよく瞬き、俺の視界を完全に白に染めた。
 空白の時間はそう長くなかった。



 気づいた時には、そこはもうイノシシたちの住まう草原ではなかった。
 地面を埋め尽くし、時折吹く風になびいていた草花はタイルの石畳にすり替わり、あたりには、木々や湖の代わりに、レンガでできた中世ヨーロッパ風の建造物が立ち並んでいる。
 間違いない。俺が初めてこの世界に降り立った場所、あの広場だ。
 周囲を眺めると、他にも多くのプレイヤーが佇んでいるのが見とめられた。さすが中心、賑わってるな、と一瞬のんきなことを思ったが、すぐに異常に気づいた。
 人の密度が尋常ではない。広場の端から端まで、眉目秀麗、色とりどりの装備を着こんだプレイヤーたちがひしめき合っている。
 皆一様にわけがわからないといった表情を浮かべていることから見て、恐らくここにいる全員、先の俺たちと同じ体験をしたのだろう。

「この数、多分、運営がプレイヤー全員を転移させたんだろうけど……何するつもりなんだろうね」

 いつの間にか隣で腕を組んでいたシーラが、目だけをこちらに向け、呟いた。
 離れてなくてよかったぁと、勢いづいて漏れそうになるため息を飲み込むと、俺はシーラと合った視線を外し、言った。

「さあ、な」

 直訳すればわからないということだが、それは嘘に等しい。
 見当はついているのだ。あの時、ログアウトのためにスクロールバーを下までなぞりきり、見つけてしまったあの異常。
 だが、だからこそ、俺にはそれを言うことができない。
 確信が持てないわけではない。ただ、何か嫌な予感がしてならないのだ。
 そんな葛藤の結果、沈黙が最良と見、シーラの訝しげ視線に耐える俺だったが、その甲斐なく、徐々に落ち着きを取り戻し始めたプレイヤーの群衆がざわめきを始めた。

「お、おい、これでログアウト、できるんだよな」

「GM……GM出てこいよ!」

「さっさとここから出せーッ!」

 時間が経てばたつほど、その騒ぎの『怒り』と『パニック』、そして『人数』が増幅していく。
 わめけばわめくほど人のパニックを誘発するだけだというのに、冷静になることもできないのか。
 そんなイライラに頭を掻いていると、不意に隣で鈴の電子音が聞こえた。シーラがウインドウを出したのだ。
 しばらくして、食い入るようにウインドウを見つめていたシーラが、揺れる声を発した。

「ねえ、ユウ。あんたのとこにログアウトのボタンって、あった?」

「……なかった」

 諦めて呟いた、その瞬間、

「あっ……みんな上を見ろ!」

 何者かの叫びに、俺は反射的に上を見上げた。
 赤い、紅ともいえるみごとな夕焼け空。その中に一つ、やたらと目立つ異物を見つけた。
 紅よりもさらに深い、まるで血のような赤黒さで光る、ウインドウにも似たひし形。その中心に何やらアルファベットのような文字が並んでいる。
 アルファベットがこの状況の理由を知っていると、瞬時に確信した俺は、すぐさまその正体へ目を凝らし、目線をフォーカスした。
 が、その焦点はすぐにばらけた。
 突然、そのひし形が、爆発的に空全体へ広がった。と思う間もなく、その隙間から、粘性のある赤色の『何か』が滲み出てくる。そのまま地上に落下するかと思われたその『何か』は、予想に反し、地上とひし形の中間、空中でまとまり、突如その形を変えた。
 俺の慣れ親しんだ、魔法使いが身に纏うようなフード付きの赤いローブだった。

「なん……だよアレ……」

 どこかで誰かが呟いた。まさに皆の気持ちの代弁だ。恐らくこの光景を見ている全員がそう思っている。
 このローブには、

「中身……ないけど……」

 何も収まっていなかった。

「GMのローブだよ、あれ」

 どこか遠くでシーラの声が鳴った時、

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

 ローブの中から男の声が響いた。



 それからのことは、あまりよく覚えていない。



 声の主の名は、「茅場晶彦(かやばあきひこ)」といった。
 シーラによると、このSAO、そしてナーヴギアを開発した人間の一人だそうだ。
その声は、俺たちプレイヤー全員に、ある宣言をした。
 君たちはこの世界から自発的にログアウトすることができない。この世界から抜け出したければ、このゲームをクリアしろ、と。
 そしてこのゲームでは一瞬でもエイチピーバーをゼロにしてはいけない。もしゼロになればその瞬間、ナーヴギアが脳を破壊し、生命活動を停止させる。
 さらに、外部からのナーヴギアの解除、破壊が試みられた場合も、やはりナーヴギアが俺たちを殺すこと。それによってすでに二百十三人のプレイヤー息絶えていることを、茅場は付け足した。
 そのことを茅場が語っている間、地上からの音は一切なかったように思える。きっと皆が皆、その言葉を理解できていないのだ。



『……では、最後に、諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれ(たま)え』

 その一言で、どこかへ飛んでいた俺の意識が戻ってきた。首を曲げると、すでにシーラが必死な様子でウインドウを操作している。
 つられるように俺もメニューウインドウを呼び出し、アイテム欄を開いた。
 一瞥すると、一番上に見なれぬアイテム名が書かれていた。すぐにそれを選択し、現れたオプションメニューから《実体化》を押す。瞬く間に、眼前へ、アイテム名《手鏡》が出現した。
 実体化した直後で宙に浮くそれを、慎重に手に取り、眺めまわす。何の変哲もない、ただの手鏡のようだった。映っているのも間違いなく俺、『ユウ』の顔。
 ぼんやりとした意識の中、ただただ不思議で鏡の中の自分を見つめていると、不意に、視界の隅が白く発光した。
 何だと思い、自分の身体を見やる。なんと、身体が白い光に覆われていた。いくらか前の《強制転移》をぽつりと思い出すが、どうやらその光とは少し色が違うようだった。だが、類似はしているようで、その光は一瞬のうちに視界を埋めると、また同じように一瞬にして消えた。
 ……改めてあたりを見回してみるが、風景は変わっていない。やはり《転移》をさせるための光ではなかったようだ。
 無感動にそれを認識すると、目のやり場を捜し、再び鏡に落ち着いた。
 違和感。眼を鏡に戻した瞬間、なにやら変な感覚に陥った。自分が自分でないような、そんな感覚。
 原因はなんだ。鏡?さっきの光?それとも――

「あ、あの……もしかして……ユウ……?」

 ばっと、声のした方へ振り返る。右隣、俺より少しだけ小柄な、黒茶のポニーテールを揺らした見知らぬ女の子が、胸のところで手を組み、こちらを見上げていた。
 その少女の問いには答えず、俺は三度、あたりを見回した。
 皆、明らかに《手鏡》を使う前とは違う容姿(ナリ)をしている。縦幅は減り、横幅は増え、中には男女逆転している者もいる。
 なるほど、と思った。

「え、えっと、ユウだよね?あたしだよ?シーラ」

 聞こえていないと思ったのか、耳元まで来てそう言うシーラに、「そうだな」と呟き、俺は、再びしゃべりだしそうなローブへと、視線を向けた。

『……以上で《ソードアート・オンライン》正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君の――健闘を祈る』

 低い声はそれだけ言うと、現れた時と同じように、そのローブを赤い得体のしれない何かに変え、空に浮かぶひし形に吸い込まれるようにし、消えていった。



 頭が真っ白だ。自分が今何をしているのかもわからない。
 気がついた時、俺はシーラに手を引かれ、なにやら見覚えのある路地を走っていた。
 背後、そのさらに奥から何か聞こえてくる。
 「ふざっけんなよ!こっから出せ!はやく出せよ!」という怒号。
 「嘘だ!そんなの嘘に決まってる!なあ!嘘なんだろ!?」という懇願。
 「い、嫌ぁぁぁぁぁ!!帰してよぉぉぉぉぉ!!」という奇声。
 なんでみんなあんなに叫んでいるのだろう。なんで俺はこんなところを走っているのだろう。俺の頭は、そんな単純な疑問でいっぱいになりつつあった。
 不安も恐怖も、疲労感さえも感じないまま、ようやくシーラが足を止めると、半ば同気して俺の足も止まった。

「ねえ、ユウ。次の村に行こう」

 シーラが俺の目を見つめ、手を取った。

「あの村に行く道だったら危険なポイントも少ないし、今は人も広場に集まってるから混んでもないし、行くなら今のうちだと思うんだ。……ユウ、来るよね?」

 最後の一言を口にした時、その瞳がわずかに揺れた。
 俺はその目を、いや、全体を見つめ返した。

 一緒に狩りをしていた時とは何かが違う気がする。
 なんだろうと考えながら、少しずつ視線を上に持っていくと……わかった。顔が違う。
 変なアイテムを出した時だ。その時にシーラの、俺の姿が変わったんだ。現実のものに。

 徐々に脳へ電気信号が送られ始める。

 それで周りのやつらも変わってて、確か、やたら太ってるやつが多かったな。

 シナプスに光が通る。

 そう、それででっかいローブが出てきて……声が聞こえたんだ。それが、確か……

 そこで俺の意識は完全に再起動した。

「茅場晶彦!!」

 叫んだ瞬間、俺の心のごちゃごちゃした何かは、すべて憎しみに溺れた。

 あいつが!あいつが奪った!俺の時間も身体も命も!

 そう考えるだけで、あとは何もいらなかった。

「シーラ!!」

「ひゃ、ひゃいっ!」

 シーラの肩が思いっきり跳ねる。

「次の村って言ったな、どこだ!」

「ひゃ、へ?あ、え、えーと、ここを出て北西に二十分くらい歩けば――」

「北西だな!」

 俺はシーラの説明をほっぽると、彼女がここまで誘導したのかまさに目と鼻の先にそびえ立つ、この街とフィールドを、《圏内》と《圏外》とを隔てる、巨大な門へと走り出した。

「ちょ、ちょっと!危ないとこもあるんだってばぁ!」



 この時点で気づかなければならなかったのだ。シーラの本心、そして何より自分の本心に。だが、この時の俺は、『思考』ということができなくなってしまっていた。 
 

 
後書き
弱気になると失踪するジンクスがあるので、ここで五話が書けていないことを嘆くのはやめておこうと思います。

感想、アドバイス、過激でないだめだし等、ありましたらよろしくお願いします 
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