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起源の主張

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第一章


第一章

                     起源の主張
 火山国は不思議な国だった。何かというと他の国のものを羨ましがるのだ。
「あの国のものがいい」
「その国のものは素晴らしい」
 常に他の国、とりわけ隣の島国である森山国のものを羨ましがる傾向があった。それで何かというと森山国からはじまったものを自分の国のものだと吹聴していた。
「あの国の剣術は我が国が起源なのだ」
「お茶の飲み方も我が国が起源だ」
 こんなことをいつも言っていた。最初森山国の人々は彼等が何を言っているのか全くわからなかった。とりわけ剣術に関することはそうだった。
「この剣術は我が国独自のものだというのに」
「何故あんなことを言うのだろう」 
 とりわけその剣術を嗜んでいる人々が首を傾げる話であった。何しろ彼等の剣術というのは一本の刀を両手で操り身体を正面に向ける独特のものだ。それに対して火山国の剣術は片手に剣を持ちもう一方に盾を持って守りながら戦う。戦い方がまるで違うのだ。
 しかしそれでも彼等は言うのである。森山国の剣術は自分達が起源であると。
「現にこの本に書かれてある」
「あの国の格闘術の多くも我が国が起源だと書かれている」
 こう主張するのである。
「だからあの剣術は我が国が起源なのだ」
「これは間違いないことだ」
「いや、それは違う」
「絶対に違う」
 森山国の剣術家達は彼等の主張に対して首を傾げさせたまま反論した。
「そもそも我が国の剣術は古来の戦よりはじまって」
「片刃の細長いあの刀を両手で持ち」
「そしてそれを示す資料としては」
 こと細かにありとあらゆる部分まで説明してみせる。これで話は決まったかと思われたがそれでも火山国の人達は言うのであった。
「しかし我が国が起源であることは疑いようがない」
「そう、その他にもだ」
 しかもまだ起源があるというのである。今度の起源は。
「あの国の国花にしろだ」
「我が国が起源だ」
 今度は花がそうだというのである。
「あの花で一番有名な種類のものは我が国のある島からのものだ」
「その証拠がちゃんとある」
「いや、それもまた違う」
 今回も森山国から反論が出て来た。
「あの種類は掛け合わせて作られるもので寿命もそれ程長くはない」
「それで何故貴国のその島にあるのか」
 こう反論が為されるのであった。
「しかも貴国の国花は別の花だが」
「何故その花を言わないのか」
 森山国の人々はそのことも不思議で仕方ならなかった。自分達の国花の起源があるのだという主張がどうしても理解できなかったのである。
「彼等の主張はおかしいのではないのか」
「妙ではないのか」
 やがて森山国の人達はこう思うようになった。
「何故あんなことを言うのか」
「何かあるのだろうか」
 あまりにも起源を主張されてこう思うようになったのである。しかも火山国が起源を主張する相手は彼等森山国に対してだけではなかったのだ。
 火山国の隣にある古来からの大国である川山国がある。幾つもの大河を持つこの国は火山国との交流が長い。今度はこの国のものも起源だと言い出したのである。
「あの国の文字はそもそも我が国が起源であり」
「かつて彼等の国は我々が治めていた関係で」
「そんな筈がない」
「そんな過去はなかった」
 今度はその川山国から反論が返って来た。
「我が国のあの文字は長い歴史を経て骨に書かれた文字や動物の形をした文字が形を変えて今の形になっていったものである」
「我が国が紀元前に統一された時にまとめられたものだ」
 ここで歴史を出すのが川山国の人達であった。
「それで何故火山国に起源があるというのか」
「全く出鱈目な主張だ」
「しかもだ」
 彼等の反論は続く。
「我が国の四千年の歴史の中で火山国の民族が入って来たことは一度もない」
「それは歴史書にはっきりと書かれている」
 彼等は歴史を出して反論する。しかしここでも火山国の人達はその反論を聞くことなくさらにはこんなことまで言い出したのである。
 
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