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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
  第四節 渓谷 第二話 (通算第十七話) 

 強烈な加速のGがカミーユの身体をシートに括り付けた。歯を食いしばって、スラスターを少しだけ噴かす。微妙な加減で、機体を右に流した。ランバンの機体が、十一時に見えた。グラナダ郊外に広がる渓谷がランバンとカミーユのパトロールコースである。センサーが、渓谷の手前に二機のモビルスーツを捉えた。
――情報ウィンドウを開きます。
 セットしておいた、遊びの警告音が鳴る。味気ない電子音よりは、ヴォーカロイドソフトで作った合成声の方がマシだからだ。戦時中でも、こういった遊びは整備兵と仲良くしておけばやってくれるものだった。
 全天周囲マルチモニターにタグがでる。RGM-79R/C《ジムII》指揮官型とRGM-79R/R《ジムII》三八〇ミリ無反動砲装備型だ。通称R/C型が「デュアル」、R/R型が「バズーカ」である。
(確か〈デュアル〉が隊長で、〈バズーカ〉が副長だったっけ?)
 バックパックスラスターのメインノズルを噴かして、ランバンに追いつく。〈お肌のふれあい会話〉をする為だ。
「なんでわざわざ、あんな所で待ってるんだ?」
 案の定、ランバンから話し掛けてきた。接触したのはカミーユの方であるにも関わらず。
「さぁね?今日もメシ賭けるか?」
「当たり前だろ。今日こそ撃墜してやる♪」
 士官学校時代から、実機訓練では十戦七勝。シミュレーターでは五分だったが、カミーユは何故か実機での成績がよかったのだ。
――通信が入りました。
 メッセージ音にフラガの怒声が重なった。
「遅い!三分の遅刻だぞ!戦場だったら、とっくに味方はやられちまってる!」
「はいっ!」
 いきなりの叱責だ。
 当たり前と言えば当たり前である。パトロールは定時に出撃し、定時に帰投するのが決まりだ。出撃前に、ハンガーで引っかかっていたのが問題なのだ。
「パトロールついでに、演習するぞ?」
「カミーユとサラート、ランバンと俺でタッグを組む。渓谷のこっちと向こうからで、フィールドは渓谷内に限定。ライフルの安全装置を固定。モードをシミュレートに」
「ラジャー」
 カミーユは副長のサラート・ジャンベル中尉が操縦する《ジムII》の脇に機体をつける。サラート機の左肩とシールドにはパーソナルエンブレムが描かれていた。連邦軍では中尉以上の小隊長または中隊副長以上でなければパーソナルエンブレムをつけることはできない規則である。サラートの三匹のコウモリが大きく口を開けて六角形に見えた。
「ガキのお守りは卒業したと思ってたんですがねぇ……」
「サラート、愚痴るなよ。おしめの取れてない赤ん坊でも、居ないよりはマシってもんだ」
「隊長そりゃそうですがね?あっしは別の隊に行くもんだとばかり」
「そういうな。二人とも機体操縦の成績はSカテゴリだったんだからな。少しは期待できるだろう」
「だといいんですがねぇ……」
 サラートは一年戦争で一兵卒からの叩き上げでモビルスーツパイロットになったという異例の経歴を持っていた。元々は陸軍の戦車乗りだったのだが、選抜テストに合格し、ジャブローでモビルスーツの特別訓練を受けて、ソロモン攻略戦、ア・バオア・クー攻略戦を生き抜いてきたベテランである。
「中尉、よろしくおねがいします」
 カミーユのタックネームをつけたのはサラートだった。「どっかで見たことある顔だと思ったら、サイド7のジュニモビ大会の優勝者じゃないの」と大声を挙げたのが切っ掛けだった。フラガ中隊の中でも、古参であり、戦前からの職業軍人は彼だけだった。
「ジュニモビとは違うからな。気ぃつけて操縦しろよ」
「はいっ!」素っ気なさが、信頼の証と思えた。
 ランバンと隊長が渓谷の向こうへと消える。フラガの機体はさすがに無駄のない動きだ。それに比べてランバンの機体は、動線が大きい。スラスターの出力が絞り切れていないし、噴かしすぎなのだ。ランバンは直感的な操縦をするタイプのパイロットで、カミーユの様にメカに精通しているタイプではなかった。割と大振りな動きで、狙いやすい割に被撃墜数は少ない。動きが大胆でランダムであり、対戦するとなかなか遣りづらい相手だった。
「ほいじゃ、ぼちぼち行くとすっか?」
 サラートは鼻歌を歌いながら暢気に動き出した。
 カミーユは先行する《ジムII》を視界に入れながら、手許のコンソールを叩く。渓谷のマップデータを呼び出し、地形データに沿った、飛行ルートを設定する。回避パターンは、通常オートにするものだが、マニュアルに設定。相対距離、相対速度をサブモニターに表示させ、接近戦の用意をしておく。
「おいおい、隊長に接近戦を仕掛けるつもりかよ?」
 サラートにカミーユの気負いが伝わったのだろうか。冗談よせよとばかりに、マニピュレーターを左右に振った。無理無理……カミーユにはそうサラートが言っている様に見えた。 
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