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萌えろ!青春ポッキーズ!

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ツンデレ2

「お、今日もナイスな接客だねー」
笑顔でグッと親指をつきだす、中年のおっさん…いやいや、我らが店長。
「笑ってた方がお客さんは来るからね。笑う店には客来たる!ってね♪」
「……………」
カッコよく決めたつもりだろうが申し訳ない、夏休みの朝からおっさんのドヤ顔は正直きつい。
というか。どうして来たんだろう、来なくてもいいのに。
 店長は、俺の隣に立って胸を張った。
「今日は新人がどこまで接客業を覚えてるか見させてもらうからねえ!」
「…………」
夏休み中盤。店長襲来。
なんてついていない日なんだろう。
「土曜だからポッキーちゃんは来ないのに……!」
 俺の癒しタイムがないのに!なんで来るんだよ、おっさん!
――なんて態度はおくびにも出さず、俺は午前中いっぱい、店長から「接客試験」なるものを強制的に受けさせられたのだった。
「――あれ?」
 午前も終わりに近づき、そろそろ休憩をもらおうと思っていた時。
 すげえ美人がやって来た。
 白いレースのチュニックワンピースに、短パンというシンプルな格好。
しかし、それがスタイルの良さを強調していた。しかも、茶色の前髪から見え隠れする顔のは、遠目にも美人だと分かった。
――うわあ、マジで美人っていたんだ……これは、頑張った俺へのご褒美か!
「………」
「こら、ボーっとしない!」
店長に軽く頭をはたかれるまで、俺はその女子に見入っていた。
――それにしても。
あの女子、どこかで見たような気がするんだが。
 俺がいろいろと考えを巡らせている間に、彼女は週刊誌の売り場へ直行した。
――え、待って。それって、それって――!
 まあ、何故気付かなかったのかと言えば、いつもと服装が違いすぎるからとしか言えず。
 そのどこかで見たことのある彼女は、他でもないポッキーちゃんだった。
なんで、今日は土曜日なのに!夏休みだからか、そうなのか!?
「へぇ~、美人な子だねェ…」
店長がポッキーちゃんのことを見ている。
「ちょっと店長。客相手に鼻の下伸ばしたらバイト権限で訴えますよ、どっかに」
 店長の眼が(俺の偏見抜きで)エロ親父そのものだったので、俺は即座に言い返した。
「酷いなあ…ていうか、バイト権限ってなに?」
 俺は軽く無視して客の会計を済ませる。
新人のバイトにもいじられてしまうちょっと(?)おちゃめな店長である。
「そうだ、ねえ。傘、出しておいてくれる?」
 は、傘?こんなに晴れてるのに?
そんな疑問が顔に現れたのか、店長は得意げに鼻を鳴らして答えてくれた。
「ほら、入道雲。今朝の天気予報では降水確率も高かったしね。あっちの方の空も曇ってるだろ、絶対夕立が来るんだよ」
「なるほど…だから、ビニール傘」
うんうんと頷きながら、また親指をつきだす店長。
「最近ゲリラ豪雨とか多いからね。急に降り出したら、駆け込むべきはコンビニだろ。そこに傘を置いておけば売上アップなんだからね!」
 さすが店長、と思う一方で。
ドヤ顔じゃなければいいのにな、と思ったのもまた事実だった。
 しかし、雨はその後本当に降り出した。しかも結構激しく。
道行く人たちが慌てだすのが分かる。店長の言うとおりだったわけだ。
ただ誤算としては最近続くゲリラ豪雨のせいで折り畳み傘を持ち歩く人が増えていた、という点だろうか。客の入りはいつもと変わらず、傘もそんなに売れる気配がない。
「―――あれ?」
 そういえば、と思って雑誌コーナーを見る。そこにはポッキーちゃんの姿があったが、その様子がいつもと違う。
 簡単に言えば、余裕がなさそうだ。遠目からもおろおろしているのが分かるほどで、いつもの無表情が崩れている。
――ああ、これは。俺は客がいないのをいいことに推測を始めた。
傘を持っていなかったんだろう。それだけなら、濡れて帰るという選択肢か傘を買うと言う選択肢がある。この様子だとポッキーちゃんは傘を変えるほどのお金を持っていなかったようだ。
それなら、濡れて帰るという選択肢があるが……
「あの恰好じゃ、ダメだろうなあ…」
  白いレース生地のチュニックは、ただでさえ下着のラインが透けないか心配になるほどの薄さ。
そんな恰好のまま雨に濡れてしまったら―――想像に難くない。
 いつ止むか分からない雨。完全に帰れなくなってしまった状況。
おろおろする材料としては十分じゃないだろうか。
(さて、俺はどうしたらいいかな)
 若干気になっていた子がピンチ。ここは、男としてかっこよく助けるべきじゃないだろうか。
「て、店長」
俺は慌てたように話しかける。もいちろん、演技である。
「俺、午前までのシフトなんスけど傘がないんですよー!」
「ええ、そうなの!じゃあ、午後までいなよ」
――何を言っているんだ、このおっさんは。
「そ、そうはいかないッス。いろいろ用事もあるし。濡れて帰るには遠い距離なんですよ!店の傘買っちゃダメっスか?」
 拝むようにして店長を見ると、肩を竦めて傘を見た。許可は下りたらしい。
「じゃ、じゃあすみません…」
そう言って控室に戻りリュックを漁る。
「財布と――あ、やっぱり持ってきてた」
 連日のように続くゲリラ豪雨。家も結構遠いので、傘はずっと持っていたりする。
店に戻って、数分の間客として店長から傘を買った。
 いまだ激しい勢いで降り続ける雨を、不安そうに見ているポッキーちゃん。
俺は、棚整理の名目で雑誌コーナーに近づいた。
「あ、あの…」
小声で話しかけると、ビクッと身体を縮ませた後に俺の方を見てきた。
――ヤバい、まともに見られると照れくさい。
 雑誌を読むふりをしてと指示を出してから会話を続けた。
「か、傘持ってないよね。しかもその恰好じゃ外に出られない」
わざとらしく雑誌をめくる手が止まる。図星だったらしい。
「これ、使う?」
 俺はそっと折り畳み傘を差し出す。ポッキーちゃんは受け取っていいものかどうか迷っていたが、やがてそれをひったくるように受け取ると一礼してもうダッシュして去っていった
――あれ、ビックリされた?
 俺は頷いて立ち上がると「棚の整理終わりました!」と少しわざとらしいくらいの大声で店長に報告した。
「つか、そろそろ午後のシフトじゃないスか?」
「あ、本当だ。じゃあ、お疲れ様」
うス、と返事をして着替えていたときに午後のシフトで先輩が入ってきた。
「お疲れ」
「お疲れ様です」
 俺と入れ違いで入ってきたの、先輩だったのか。見ていなかった。
この後、自分で買っておいた昼食に舌鼓をうち、俺はコンビニを後にした。
 バイト先で購入した傘だが、強風になすすべもなくぶっ壊れた。
雨に打たれたせいか、家の前にたどり着いたときには俺の頭は冷え切っていた。おかげで帰宅してからは自分のベッドにダイブして――――
「俺のバカああああ!」
ゴロンゴロンとのたうちながら大反省会を開催するはめになった……一人で。
 ビックリされた?じゃねえわ!
完っ全にドン引きされたわ!変な男だって、思うに決まってんじゃん!
毎週顔合わせているとはいえ、急に傘差し出されたら驚くよ、そりゃあ!
だいたい顔も覚えられてるか分かんないもん!
ていうかどうして自分の傘を差し出したんだよ、買ったやつあげればよかったのに―――
「うああああ……」
 夏だから、頭からかぶる布団がない。
しかたなく、布団の上で丸くなる。俺はこのまま布団と一体化したい気分になった。
でもこの季節、一体化したら暑くて気持ち悪いのかなと半ば現実逃避気味に思考を巡らせる。
「――最悪じゃん、俺」
枕に顔をうずめて呟いてみたり。自分の息が跳ね返ってきて、暑苦しいことこのうえないので十秒ともたずに顔を上げてしまうけれど。
 こうして反省会を終えた俺は、携帯を取り出して、二人の男子を思い浮かべていた。
悪友と呼ぶにふさわしい友人たち。しかし、込み入った相談はこいつらにしかできない。
別に俺がぼっちというわけじゃない。こういう相談は女子と違ってどこから情報が漏れるか分かったもんじゃないから相談できる相手が限られるんだ。
――さて、恋愛相談をするのにふさわしいのはどちらか。
一、この間のイケメン。
二、この間の天然。
これだけで比べるなら、確実に前者の方がいいだろう。しかし、そいつにはつけたすべき重要なことがある。
「俺にたいしてのデリカシーが0」これは、かなり重要だ。
俺が恋愛相談なんてしようものなら、帰ってくる答えなんてもう予測がついている。
「え、君が恋?ブハッ……あ、ちょっと待って笑いが止まらな…アッハハハハハ!」
そうしてひとしきり笑った後にとどめを刺すんだ。
「それで?君が好きになったのって、人間?」
 想像して鳥肌がたった。だめだ、こんな奴に相談なんてできない。
 俺は、後者を選び大人しい方に電話を掛けた。
『―――誰?』
そろそろ留守番電話に切り替わりそうになった頃、眠そうな声がした。
「あ、悪ぃ。俺だけど、寝てた?」
『別に平気だよ。帰省先に親戚が大集合してて全然寝た気がしないまま一週間過ごしたあげく、次の日から友達が遊びに来て三日間くらい完徹して友達がちょうど帰ったからさてやっと寝られると思ってた時に電話の音で叩き起こされた、なんてことはないから安心して』
「分かった、二日後くらいにかけなおすからホントにごめん!」
まさか、そんなに寝ていないとは思ってなかった。夏休みだからって、こいつが不規則な生活をしているなんて、想像がつかなかったから。
しかしこの問題は二日も待っていられないんだ!ポッキーちゃんがいつもの格好で来店するのは明後日なんだよお!
 ベッドに寝転がって本気で悩み続けることおよそ十分。俺は、結局もう一人のデリカシー0のイケメンに電話するほかないと悟った。そして俺は――
『はい、もしもし――ああ、君か』
爽やかな声を相槌に事情を説明し、
『え、君がまさか恋愛相談?ブハッ…あ、ちょっと待って笑いが止まらな…アッハハハハハ!』
想像通りの反応をいただいた後、
『それで?君が気になってるのって、自由研究で出会った微生物かなにか?』
 推測上回るとどめにより、心をバキバキに折られたのだった。

さらに後日談として、ポッキーちゃんにあの日以来避けられている。それはもう、あからさまに。
 こうして、俺の恋は失恋という形もなく幕を閉じた―――――かのように思われた。
 
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