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万華鏡

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第七十九話 マラソン大会その十一

「出来たよな、皆」
「里香ちゃんもね」
「嘘みたい・・・・・・」 
 里香もへたり込んでいる、流している汗は他の四人よりもさらに多い。そして最も苦しそうな様子である。
「完走出来たなんて」
「里香ちゃん今までは、よね」
「うん、部活入ってなかったから」
「こうして走ることも」
「なかったわ」 
 とても、というのだ。
「だから余計にね」
「完走出来て」
「嬉しいわ」 
 苦しいながらもこう言った。
「本当にね」
「そうなのね」
「ええ、これまで自信なかったの」
 マラソン大会で完走出来るかどうかがだ。
「全くね、けれど今日完走出来たから」
「本番でもいけるわよね」
「そう思えてきたわ」
 はあはあとした息の中でだ、琴乃に答えた。
「今日も何とかいけたから」
「じゃあ皆でね」
「ええ、完走ね」
「それ目指そう」
「そうね」
 琴乃に顔を向けて笑顔での言葉だった。
「一緒にね」
「完走ね、それじゃあ」
「今からね」
 こう話してだ、そしてだった。
 五人で完走出来たことを祝い合った、しかしここで。
 自分も完走して汗だくになっている部長がだ、部員達にこう言った。
「皆、今日は部活これで終わりだから」
「あれっ、楽器はですか」
「やらないんですか」
「もう皆そんな体力ないでしょ」
 大会の時と同じ距離を走ったからだというのだ。
「だからね、もう皆シャワー浴びて帰って」
「そうですか、今日は」
「もうこれで」
「身体を休めるのよ、整理体操も忘れないでね」
 それもだというのだ。
「いいわね」
「はい、わかりました」
「さもないと、ですよね」
「筋肉痛とかになるからね」 
 だからだというのだ。
「運動した後こそが大事なのよ」
「身体を痛めない為には」
「その時がですね」
「だからちゃんとしてね」
 整理体操、それをというのだ。
「私もするから」
「それにしてもあんたって」
 ここで書記がその部長のところに来た、そしてだった。 
 ストレッチを手伝う、そうしながらこう言うのだった。
「案外身体柔らかいわね」
「そうでしょ」
「ええ、身体が柔らかいとね」
「怪我しにくいのよね」
「よくそう言われるわね」
「実は毎日ストレッチしてるのよ」
 前屈をしつつ書記に背中を押してもらいながらだ、部長は笑顔で言った。手の先が足の先に完全に付いている。
「だからなのよ」
「身体柔らかいのね」
「そうなの、ただお兄ちゃんはね」
「あんたのお兄さんね、あの足の長い」
「そう、足が長いから」
 だからだというのだ。
「こうして前屈してもね」
「手の先が足の先に付かないの」
「そうなの」
「それはまた羨ましいわね」
「お兄ちゃん背一八〇あるしね」
「あんたと違ってね」
「私は小さいけれど」
 だが、というのだ。
「お兄ちゃんは高いのよ」
「兄妹であれだけ背が違うのはどうしてなのよ」
「私はお母さん似なのよ」
 それで、というのだ。
「だから小さいのよ」
「それでその小柄なことが、ですね」
「部長さんにとっては」
「いいことなのよ。実際これで男子にももててるから」
「じゃあ彼氏もですか」
「部長さんは」
「それは言わないけれどね」
 肝心なことは内密にする、部長ならではである。
 そうした話をしてだ、この日の部活は解散となった。とりあえず全員完走出来たことは彼女達にとっていいことだった。


第七十九話   完


                          2014・5・1 
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