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IS インフィニット・ストラトス~普通と平和を目指した果てに…………~

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number-19



 学年別タッグトーナメント当日。一夏にとってようやくこの日がやってきた。ボロボロにやられてしまったラウラにリベンジをする機会なのだ。絶対に勝ってやると息巻いている。そんな一夏を見て面白くないのは篠ノ之箒である。


 自分だけを見ていてほしいのに。最近はどうもセシリアや鈴と一緒にいる姿を見かける。どうしてその隣にいるのが私じゃないんだろうか。私を見ていてほしい。
 だけど、それは叶わないことだって言うのは箒も重々承知していた。一夏の性格は、自分を犠牲にしても他人を助けたがる自己犠牲の精神からなる性格だからだ。これは幼いことから変わっておらず、箒はその性格から何度も助けられていた。その過程で一夏に恋をしていったのだが、その一夏が馬鹿にされていることも箒を怒らせるのに十分だった。けれども、IS以外のことで傷つけてしまうのは一夏の望む所ではない。一夏が手を出していないのだから、私が出すわけにはいかない。
 モニターを見つめる一夏を見て、誰にも気づかれることなく拳に力を込めた。


『只今より、学年別タッグトーナメント一年生の部のトーナメント表を発表したいと思います!』
「おっ、始まったぞ箒」


 一夏に呼ばれて隣に並ぶ箒。その顔には緊張が現れていたが、そんなことは一夏が気にするわけもなくただモニターを見ていた。内心、少しは気に留めてくれてもと思うが、それが一夏であることを理解している箒はため息をつく。恋する乙女、恋は盲目。篠ノ之箒という少女の世界は、織斑一夏という少年を中心に回っていた。


 ◯


「…………」


 大絶賛満員御礼のアリーナ。先程、一年生のトーナメント表が発表されて会場内のボルテージが最高潮に達していた。誰もが興奮を隠しきれず、目を輝かせて始まるのを今か今かと待っている。それは、学園の生徒は勿論。来賓の企業の幹部や各国の要人も同じだった。
 だが、そんな会場内でテンションを上げるようなこともせず、ただ気怠そうにアリーナに設置されているモニターに目を向ける少女がいた。隣には袖の長さが余ってだぼだぼな制服を身に纏ったのほほんとした少女が座っている。


「……? どうしたの~、かんちゃん」
「……別に、どうもしてない」


 のほほんとした少女――――布仏本音にかんちゃんと呼ばれた少女は、一度本音に視線をやるとまたモニターに目を戻した。本来であれば、こんなところに座らず、ドックで自分の専用機の組み立てを行っている筈なのだが、それを織斑千冬に咎められて大会中は絶対参加を言いつけられてしまっている。それを破ってまで調節しようにも、反省文を原稿用紙100枚分書かねばならないのは更なる時間ロスにしかならなかった。しょうがなく、しょうがなく渋々このアリーナにいるのだ。時々、投影タイプのコンピュータを出してパーツの確認をしている。いつも試しては変えるという作業ばかりを繰り返してパーツの整備を怠っていたため丁度いいとばかりにパーツのリフレッシュ作業を行っていた。


 このタッグトーナメントには隣にいる本音と出る少女。専用機はまだできておらず、訓練機である打鉄かラファール・リヴァイブのどちらかになるが、少女はラファール・リヴァイブを選んだ。別にクラス代表というわけでもない少女は、負けられないとか期待を背負ってるとかないため一回戦で早々に負けようと思っている。幸いにも嫌いな織斑一夏とは真逆のトーナメントブロックにいる。自分の番が回ってくるのは相当後になるからここにいるのだ。そんな少女が気になることが一つだけあった。


(……見袰衣蓮)


 すごく、ものすごく見覚えのある名前だった。少女がまだ幼稚園に通っていたころの友達の名前にあった。最も幼いころから内気な少女は友達なんてほとんどいなくて、姉としか遊んでいなかったが。とにかく懐かしい名前だ。本当に本人なのかはまだ分からないが、御袰衣なんて名字は彼らぐらいのものだろう。


(……蓮、くん)


 その名前を口にするたびに冷え切った心にポッと温かみが宿る。この気持ちが何なのかは分からない。恋? ……全然分からない。そもそも恋っていったい何だろう。異性のことが好きになること。じゃあその好きって何?
 好きって云ってもいろいろある。恋慕、親愛、敬意、友情。この抱いた気持ちが恋なのかもしれない。それとも親愛なのかもしれない。自分がそうだって言えばそうなるし、そうじゃないっていえばそうではなくなる。何とも曖昧でゆらゆらと空気中を漂っている感じがする。理論的に考えられない物が恋でいいじゃないか。恋って頭で考えるモノじゃなくて体で考えるモノなのじゃないか。


 自然と少女の口に笑みが浮かんでいた。こういう哲学みたいなことを考えるのは好きな少女。答えのないものに答えを見つけ出そうと馬鹿みたいに試行錯誤を繰り返しているとなんだか楽しくなってくる。そしてこの答えのないものに答えを出す方法を見出す。


「……そうだ、会えばいいんだ。あの人に、強くて優しくて、格好いい友達に」
「……かんちゃん?」


 内気な少女――――どこかで見たことのある水色の髪。性格を表しているのか、内側に巻いてくせ毛のようになっている。視力が悪いわけでもないが、眼鏡をかけている。どこかで見た似ている少女と違う点は、あとは胸の大きさぐらいであろうか。コンプレックスな自分の胸の大きさを今は忘れて、しばらく笑みを浮かべる。ずっと笑わなかった少女が笑っているのを見て、本音は嬉しくなる。笑うきっかけは分からないが、ただ嬉しかった。
 この大会が終わったら会いに行こう。そう決めた少女は、これからに胸を躍らせた。少女――――更識家第17代目当主、更識楯無の妹、更識簪の曇り切った視界が色付き始めた瞬間だった。
 今にして思えば、簪が戦隊物などのヒーロー系が好きになったのは蓮が影響しているのかもしれない。


 ◯


 蓮は控室でラウラと一緒に先程発表されたトーナメント表を見てミーティングを行っていた。この二人の実力をもってすれば、こんな大会を制覇することなんて片手間にできることなのだが、だからといって油断するほど戦いをなめてはいない。
 二人の中で要注意人物としてあげられるのは三人だった。


 まず一人目。これは言わなくても分かると思うが、織斑一夏である。意外に思われるかもしれないが、あいつの実戦における成長スピードは異常の一言に尽きる。クラス代表戦の時からその頭角を見せ始めている。最初は飛ぶこともおぼつかなかった一夏が相手の不意を突いたとはいえ、ミサイルを切り裂いてからの懐に入り込んだ一撃。結果は自分でエネルギーを切らすという自爆であったが、もしあの攻撃が通ったら零落白夜の効果攻撃で確実にセシリアを落としていた。天性のセンスを持っている。
 次にセシリア・オルコット。彼女の持ち味は、何があっても動揺しないという冷静さにあるだろう。クラス代表戦の時には、男に負けるはずがないという驕りと油断があったが、今は違う。不測の事態にも対応できる柔軟さと判断力も持っている。また、自分が強くなったらどうだと先日発破をかけたが、それ以前から努力は続けていてビットを動かすには自分は動けなくなるという制限があったが、今は六機中四機までなら操作しながら自分も攻撃できるようになっている。彼女もまた一夏とは違うジャンルの天才だ。
 三人目は、シャルル・デュノア。本名をシャルロット・デュノア。まだ誰にも明かしていないようだが、一夏には知られてしまっているようだ。そして彼女もまた天才の部類に入るのかもしれない。彼女の機体は第二世代の改造機体(カスタム機)。他の第三世代のトライアル機と比べると見劣りしてしまうが、そこを彼女自身の操縦技術でカバーしている。高速切換(ラピット・スイッチ)ですべての重火器を展開する速度は同じ。これもなかなかに侮れない。


 だが、蓮とラウラにしてみれば一番警戒するべきは一夏であり、残りの二人はついでに注意しておくぐらいの感じなのだ。セシリアに関しては、蓮がミサイルなどで面制圧に動けば自然と使いづらくなるだろうし、シャルロット――――今はまだシャルルの方は、高速切換(ラピット・スイッチ)をもっとえげつない様に使ってくる仲間がいるためその対策はもうできているといってもいいだろう。ただ同じように攻めて来るとは限らないため警戒しておくと言った方が正しいのだろう。


「こんなものじゃないか? 兄上」
「……ああ、そうだな。注意しておくのはこの三人でいいだろう。あとは乗り始めて間もない奴らがほとんどだからな」
「……それにしてもこの組み合わせは悪意を感じるな」


 ラウラの言うことももっともだろう。なぜなら、ラウラと蓮の一回戦の相手がセシリアと箒で二回戦が順当にいけば一夏とシャルルなのだから。一年の専用機持ちを全部端の方に固めてきたことになる。おそらく理由としては、一般生徒にも勝ち進められるようにという配慮だろうが、果たして必要な処置なのかは定かではない。分かることは、一、二回戦を勝てばセオリー通りに行けば優勝できるだろう。ということだった。
 蓮たちの試合はすぐに始まる。ピットに向かう途中に蓮はラウラに問いかけた。


「そういえば、ラウラはプラズマブレードを使ってなかったか? どうしてロットを使うんだ?」
「それは、相手を殺さずして制圧していく兄上の姿が格好良かったからだ。私も憧れて使うことにしたんだ」


 ラウラの答えは即答で問いかけた蓮にとって若干恥ずかしくなるような理由だった。蓮は誤魔化す様に足早にピットへ向かった。ラウラは、置いて行かれないように後ろをついていった。


 ◯


「ふふっ、いよいよ始まるねれんくん。この束さんも会場で応援しちゃうよ~」
「束さん、あまり不用意にうろつかないでください。織斑先生が来てしまいます」
「たっちゃん、別に敬語は使わなくてもいいからね。……でもちーちゃんに見つかるのは勘弁かな。分かったよ大人しく見てる」
「ええ、そうしてくれると助かるわ」
「さて、らーちゃんも実力を上げて来てるからね~、二人とも頑張ってほしいな」



 
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