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幸せの色

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第五章


第五章

「そうよ」
 母親は二人のそんな様子には気付いていない。だがこう言った。自分の子供に。
「しんちゃんだけでなくて皆もね。幸せにしてくれるのよ」
「そうなんだ、凄いんだね」
「わかったかしら。葉っぱの凄さが」
「うん、その葉っぱ貰っていい?」
 男の子は目を輝かせて母親に尋ねてきた。
「ええ、いいわよ」
 その優しい笑みのまま答えを返す。
「緑はいい色だから」
「本当だね、何か」
 男の子は母親からその葉っぱを受け取って言った。
「気持ちが穏やかになるみたい」
「気持ちが!?」
 二人はその言葉に耳を傾けさせた。
「お母さん、有り難う」
「もっと欲しい?」
 有り難うと言う自分の子にさらに言っていた。
「もっともっと欲しい?」
「くれるの?」
「ええ。だからおうちに帰りましょう」
 優しい声で我が子に語り掛けている。
「お庭にも緑が一杯あるからね」
「あっ、そうか」
 男の子はそれを言われて気付く。
「そうだね。草やお花が」
「だから帰りましょう」
 母親はまた言った。
「それでそれをお母さんと一緒にね」
「見せてお母さん」
「ええ、今からね」
「お母さん、緑もっと見せてよ」
 男の子の声が公園に響いている。その母子は笑顔で公園を後にする。その手に緑の葉っぱを見て。達也と諒子はそんな二人をずっと見ていた。
 母子が見えなくなってから。やっと達也が口を開いた。
「あのさ」
 諒子に声をかける。
「さっきの話だけれど」
「幸せの色よね」
 諒子はそれに応えた。
「今気付いたんだけれどね」
「何に?」
「あれだよ、さっきの男の子緑色の葉っぱ持って楽しそうにしてたじゃない」
「ええ」
「それでさ、思ったんだけれど」
 彼は少し戸惑いながら諒子に語っていた。
「何て言ったらいいかな。ほら、僕は青じゃない」
「それで私は黄色」
「合わせたら・・・・・・緑になるじゃない」
 達也はそのことに気付いたのだ。
「青と黄色を合わせたら」
「二人の幸せの色を合わせたら」
 諒子も気付いた。
「緑になるよね」
「そうよね。だから幸せの色って」
「緑もそうなんだよ」
 達也も諒子もやっとそのことに気付いた。
「青や黄色だじゃなかったんだよ、緑だってそうだったんだよ」
「そうよね、私達の色を合わせたら」
「うん」
 達也は笑顔で頷いた。
「また幸せの色になるんだ。だから」
「それも描けばいいのよ」
「そうだよ、本当に一つじゃなかったから」
 笑顔が明るさを増していく。
「描こう、すぐに」
「そうね、緑を」
 諒子もまた。明るい笑顔だった。達也のそれと同じく明るさを増していく。
「描きましょう」
「うん!」
 二人は頷き合う。そしてそれぞれのキャンバスへ戻った。
 二人は今それまでとは全く別の、新たな幸せの色を描こうとしていた。キャンバスにそれまでとは違う色が描かれていく。それが二人の答えであった。見つけ出した答えであった。
「あっ」
「色、変えたのか」
「うん、ちょっとね」
「これが私達の答えだから」
 部の仲間達に笑顔でそう返す。
「答え!?」
「そうだよ」
「それがね」
「何かよくわからないな」
 事情を知らない彼等は首を傾げさせた。だが先生は違っていた。そんな二人の絵を見てにこやかに笑っているのであった。別の幸せの色を見て。



幸せの色   完


                   2006・9・18
 
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