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魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編

作者:blueocean
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第53話 聖王器パールバティ

 
前書き
こんにちはblueoceanです。

気が付けば夏………
この小説も8月で4年目です。………長いなぁ。


ほんと亀みたいな投稿スピードで申し訳ないです……… 

 
六課でジェイル・スカリエッティの話が始まる数時間ほど前………



「到着」

車を止め、キーを抜く大悟。

「ここが聖王教会………」

加奈は緑に囲まれた綺麗で大きな教会の姿に感動しながら進む大悟の後ろを付いて行く。

「いらっしゃい大悟君」
「こんにちはシャッハさん」

そんな大悟達を出迎えてくれたのは修道服を着たショートカットの女性だった。

「初めましてですね佐藤加奈さん。私はシャッハ・ヌエラ。聖王教会所属のシスターです」
「は、初めまして………あの、私の事ご存知なのですか?」
「はい、大悟君から色々と」

そう言われ、シャッハに気が付かれない様に大悟の背中をつねる加奈。

「!!?」
「どうしたんです?」
「い、いいえ、何も………」

平然を装いながらそう答える大悟だったが、加奈に思いっきりつねられている為か、涙目になっているのをシャッハは気が付いているが、本人が何も無いと言ったため、気にしない事にした。

「それじゃあ早速なのですが、来てもらえますか。ハッキリ言えば時間がありません………」
「それほど不味い状況ですか?」
「はい。かなり危険な状態です」

2人とも真面目な顔で話始めるのだが、話に付いていけない加奈は困った顔で2人の反応を見ていた。

「あれ?大悟さん、加奈さんに何も言ってないんですか?」
「言いましたよ。パールバティの使用許可を受けに行くって」
「目的と条件は………?」
「流石に何処で聞かれるか分かりませんからまだ言ってません」
「そうですか………いえ、そうですね、分かりました。でしたら加奈さん」
「はい?」
「済みませんが取り敢えず私に付いてきて下さい、その途中で詳しい話をさせてもらいますので………」
「わ、分かりました………」

結局対して分かった事を得られなかった加奈はよく分からないまま、シャッハと大悟に付いて行くのだった………













「こんな中まで入って来て良いの?」

最初こそ、観光用のエリアを歩いた加奈は初めて見る地球に似ながらもまた違った情景を見せる教会に感動していたのだが、進むにつれ、一般人立ち入り禁止の様な場所まで来て、更に普通の聖王教会のシスターでも入れそうに無さそうな場所まで来ていた。

「ええ。もう少しで到着しますので………」

そう言ってシャッハはとある一室の扉の前に止まった。

「ここです、入りますよ」

そう一言言って中に入るシャッハ。大悟と加奈も続いて中へと入って行った。

「えっ!?」
「………」

中に入るとそこは簡易な集中治療室となっており、その中心にある台のそばで一生懸命祈っているカリムがいた。

「カリム連れてきました」
「本当ですか!?」

顔を上げ大悟達を見たカリム。その目は赤く少々腫れぼったい。

「佐藤加奈さん、お願いです!!バルトを助けて!!」
「えっ!?」

いきなり初めて会う人にそんな事を言われ驚く加奈。

「だってバルトさんはなのはと一緒に病院へ………」
「加奈、バルトマンだよ」

そう大悟に言われて以前にバルトから聞いた過去の話を思い出した。
それと同時に台の上で治療を受けている人物を見る。

「バルトマン………」

小さく、弱々しく呼吸するバルトマン。顔色も悪く死の淵にいることは加奈でも分かった。

「無理よ、こんな状態だと私でも………」
「分かってる、だけど加奈の力が必要なんだ」

加奈の言葉を遮り、大悟が言う。

「だけど私じゃ………」

そんな加奈にシャッハは部屋の奥に安置されていた細長い木の箱を持って来た。

「これは?」
「開けてください………」

手渡され、加奈は指示通り箱を開ける。

「綺麗………」

中には一本の杖があった。豪華な装飾も無く、普通の杖のデバイスと遜色ない作りとなっている。
しかしそんな何の変哲もない杖が加奈にはとても綺麗で、何か特別な物にに見えた。

「やはり………」
「?どういう事です?」
「この杖を見て、そう反応出来る事こそ、この杖に選ばれる素質があると言っている様に思えたので………」
「杖に選ばれる?」
「そう、聖王器パールバティに」
「聖王器!?それって………」
「ああ、管理局にあったジルディスと同じ様に聖王教会にも聖王器があったんだ。そしてその聖王器は聖僧女と呼ばれたリアレスの杖でもあるんだ」
「???」

大悟に説明されても歴史を詳しく知っている訳では無い加奈は説明されても何が何だか分からなかった。

「そしてその杖はどんな傷でも癒せる聖なる加護があると言われてきました。………ですが、今までその杖を使えた者は誰も………でもきっと加奈さんなら!!」

そうシャッハが話した後、カリムが加奈の手を掴み、頭を下げた。

「お願い………!!」

縋るように頼み込むカリム。

「そんなに頭を下げなくたって協力しますって!!私そんなに性格悪く見えますか!?」
「まあ性格は悪くないけど結構キツ…あだっ!?」

横から拳が飛んできて頬に喰らう大悟。

「私の力が及ぶか分からないけど………やるわよ、パールバ………あなた長いからパティね!!」
「ちょ!?加奈、勝手に………」

と頬を抑えながら突っ込む大悟だったが、その言葉とは裏腹に、パールバティは加奈の言葉に反応し部屋一帯を眩しい光で包む。

「何!?」
「これが聖王器!!」

混乱と驚きに思わず声を上げるシャッハとカリム。

「加奈!!」

大悟は心配そうに加奈を呼ぶ。

『私はパールバティ。聖なる光で安らぎを与える杖なり。しかし使えば光の恩恵の代わりに使い手に代償を与えるであろう………その覚悟があるならば使うがいい』

そんな不気味な言葉が聞こえてくるか加奈。しかし加奈の返答は早かった。

「恐ろしい事を言ってくれるじゃない………何か逆に試したくなってきたわ!!」
「加奈!?」

いきなり大きな声でそう宣言した加奈に周りも驚く。

「パティ、セットアップ!!」

すると再び目が眩むほどの光を放ち、それが収まると加奈の手には、宝珠を取り付けた立派な杖があった。
杖の先に赤い宝珠の物があり、白を基調とした杖は先ほどの物とは違い、聖王器ならではの威風がある。

「それがパールバティの真の姿………」
「それじゃあやるわ………」

そう言うと杖を持っていない手を杖の先端に寄せて、集中し始める。

「行くわよ………命の光よ、かの者に生命の息吹を!!レイズソウル!!」

詠唱を始め、それが終わると、宝珠から光が飛び、バルトマンを包み込んだ。

「………」
「バルト………?」

光が収まり、場は静かになる。しかしバルトマンに目立った変化は無かった。

「失敗したのか………?」
「いいえ、成功よ………バルトマンに私の魔力を加え、失った自己治癒力を向上させ、更に爆発的に活動させる。だから外見は目立った変化は無いかもしれないけど、早いうちに目を覚ますだろうし、暫くすれば動ける様になると思うわ。後は………あれ?」
「加奈!?」

いきなりクラっと立ちくらみを感じた加奈はそのまま倒れそうになるが、大悟が支えてくれたおかげで難を逃れた。

「大丈夫加奈!?」
「ええ………ちょっと休めば大丈夫。大分魔力を消費したから………」
「魔力を?」
「大悟のジルフィスと同じよ。魔力があればあるだけ効果が上がる。バルトマンを助けるのに急激に魔力を消費して目眩がしただけよ」
「そうか………なら良かった」

そう言って優しく加奈を座らせる。加奈がそう言ったが誰が見ても疲労が表に出ているのは明らかで魔力に関すること以外で何か原因がある様に見えた。

しかし大悟はあえて何も言わなかった。

「脈拍安定してきてます。加奈さんの言う通りみたいです」
「ああ………!!」

歓喜に溢れ地面に座り込み、涙を流すカリム。

「ありがとう加奈さん………」
「良いですよ、困った時はお互い様です………」

顔色が悪い中、加奈はそう答えた。

「加奈少し休もう」
「駄目よ、これから六課に行くんでしょ………?恐らく星達が話を始めているわ」
「そうだけど………」
「私は平気。車の中で寝てれば気分は楽になると思うわ」

弱々しくもそう答えた加奈。そんな加奈の様子を見た大悟は苦笑いしながら「やっぱりね………」と小さく呟いた。

「分かった。加奈は言っても聞かないからね………だけど俺が無理だと判断したら俺が無理矢理止めるから」
「分かったわ」
「それじゃあ俺達はこれで失礼します。パールバティは加奈が持っていますね」
「ええ。大悟君、加奈さん………バルトを助けて、もう一度会わせてくれてありがとうございました………」

頭を下げるカリムに戸惑いつつ、聖王教会を後にした2人だった………





















さて、休憩中の機動六課に居たメンバーだったが、誰も口を開こうとはせず、その部屋の中で休んでいた者は話す事は無かった。………のだが、

「ウーノ、トーレは間に合いそうかい?」
「トーレはティーダさんと一緒に管理局の仕事に出ていているみたいで、行けそうにないと連絡がありました」
「やはり事件で人手が足りないと訓練校の教師も駆り出されるんだね………まあ仕方がないか………」
「あの………兄はスカ………イーグレイさん達を知っているんですか?」

そんな中、普通に世間話をするジェイルとウーノ。ウェンディ達や、有栖家の面々でさえ、重い空気と秘密にしていた申し訳なさで口を開いていなかったのに、この2人は別だった。

そんな中、ティアナがおずおずと質問したのだ。

「………実は私は会った事があるわよ。飲んだくれの三女と付き合っている彼氏が本当に迷惑してないか確認しにね」
「飲んだくれ!?トーレ先生ってそんなに酒癖悪いんですか!?」

そんなウーノの言葉にスバルも反応した。

「かなり酷いよ。家ではウーノが酒を隠しても隠しても探し続けて飲んでいたからね。小遣いも他の娘達とは違って全て酒に使っていたし………」
「全然想像出来ない………」

ジェイルの話を聞いて唖然とするスバル。ティアナは少々思い当たる節があったため、それほど衝撃的では無かった。

「………まあトーレも実際に社会に出て自分で生活するようになってからは少々控えていたみたいだから関心したのだけれど」
「あれで少々………」

妹の様に可愛がられていたティアナは実はトーレが仕事を始めるにあたって1人暮らしを始めた家に遊びに行った事があった。

「あの時も色んな種類のお酒が家にあったんですけど………」
「まあ確かにいっぱいあったけど空の酒瓶の数を見て前よりは控えてるって言うのは分かったわ」
「あれで控えてる………」

ティアナの見たゴミ袋いっぱいの空瓶を思い出し青ざめる。

「あら?何か可笑しな事言ったかしら?」
「い、いいえ!!そうですよね!!お酒の量だって人によって違いますよね!!ゴミ袋いっぱいの空瓶をだってお酒に強い人にとっては普通で………」
「ゴミ袋いっぱいの空瓶………?」

一気に雰囲気の変わったウーノの姿を見て、ティアナは『あっ、口を滑らした………』と後悔した。

「あの子………タイミング良く片付けていたみたいね………なるほど、あの時の真っ青な顔はそう意味だったのね………うっかり信じた私がバカだったわ………」
「う、ウーノ………?」

誰がどう見ても怒りが頂点に達したのは明らかだった。
そんな中、ジェイルが恐る恐る声を掛けた。

「ジェイル、用事が終わったらトーレに会いに行きます」
「いや、ちょっと今は大変だろうし、もう少し落ち着いてからでも………」

と、ジェイルが宥めてもウーノに変化は無かった。

「嫁入り直前なのに体たらくな生活をしている妹を直ぐにでも改心させなければイーグレイ家の笑いものです。直ぐにでも会いに行きます」
「いや、別に私も兄も全然平気………」

と言いかけた所でウーノに両手を掴まれた。

「本当に私の妹が苦労を掛けたわね。これからは何かあったら直ぐに言ってね。私が直ぐに駆けつけるから!!」
「は、はい………」

(この人、トーレさんと兄さんが結婚したらうるさい姑になりそうだな………あれ?だけと姑って義母の事を指すのよね………?)

と勢いに抑え、返事をしながら頭の中でそんな事を思うティアナ。
凍り付いた空気の一室にジェイルとウーノが居た場所だけ、変な空気になっていた。

しかしそれが幸いした。

「何やろな………拍子抜けやわ………でもこの家族にウェンディありって事やな」
「私も何か納得………」

そんなやり取りを見ていたはやてとフェイトがボソリと呟いた。

「前々からドクターはウーノ姉にタジタジな部分があったんスけど、2人が相思相愛になってからは更にウーノ姉に頭が上がらなくなって………」
「鬼嫁やな………」
「鬼嫁だね………」

ウェンディに説明され、互いに声を合わせてそう答える2人。

「………って私普通にいつも通り話しちゃったっス!!」

その後直ぐにウェンディは頭を抱えながら唸った。

「何を言っとるんや。別にウェンディ達がどうだろうと私の後輩なのは変わらへん」
「えっ?」
「そうだよ。零治やはやて達と一緒に学校を盛り上げたウェンディ、3人の中では一番しっかりしてるノーヴェに時々悪ノリするセイン3人とも例え、どうだったとしても私の大事な後輩達だよ」
「フェイトさん、姉御………」

接点のあったはやてはともかく、あまり話した事の無いフェイトにもそう思われていた事にウェンディは感動していた。それは話を聞いていたノーヴェとセインも一緒だった。

「だけど私達は………」
「その………」

そしてノーヴェとセインはそう呟いて黙り込む。
まだジェイルも説明していない事、自分達が『戦闘機人』であること。

これを話せば今言われたことも変わるのでは無いかと言う不安が2人をよぎった。

「………でも私達も普通じゃ無いんス。私達姉妹はドクターに作られた戦闘機人なんスよ?」

しかし、そんな中、姉の不安をよそにウェンディが真面目な顔で話した。

「へぇ〜そうなんか………で?」
「で!?でって………」
「戦闘機人って言われてもなぁ………イマイチピンとこうへんわ」
「そうだね。………だって3人ともどう見ても普通の女の子だもん」
「………2人とも、ありがとうっス!!」

そんなはやてとフェイトの言葉にセインとノーヴェの顔も明るくなり、ウェンディは嬉しそうにお礼を言った。

「さて、それじゃあ休憩も終わりにして話の続きと行こか?」
「そうだね………」

明るくなって来た部屋の空気が再び重々しくなる。そんな中、みんなの準備が出来たのを見計らってジェイルは再び話し始めた。


























ストーカーにあっているかもしれない。そう相談されてから俺はエリスの家の近くまで一緒に帰る様になった。家は大学を挟んで反対側。遠回りになり、帰る時間が遅くなったがそれでも悪くないと感じた俺がいた。

「じゃあまた明日」
「ああ、じゃあな」

静かな住宅街のアパートに父親と住むエリスの家の近くに来た後も、近くの店で夕食を食べながら終電に近い時間まで一緒に居た。
そんな毎日の為、バイトの時間も減り、食事もするため、財布の中身はピンチになりつつあるがそれでも満足していた。

「………さて、また遅いって加奈に小言を言われそうだな」

最近帰りの遅い俺に加奈が執拗に嫌味や小言を言ってくる。両親は「構ってほしいだけよ」とからかう為、ビンタを喰らった俺だが、今日は何事も無い事を祈りたい。

「………やっぱり」

エリスの家を離れて5分ほど、ずっと俺を見ている様な視線を感じていた。
気のせいだと思いながら歩いていても変わらず、未だに視線を感じる。

「さて、どうするか………」

まさかエリスのボディガードとして付いてきている俺にも嫉妬心なのか付きまとって来るとは思っていなかった。ストーカーはエリスの家を特定しても手紙を送ったり電話をしたりする事は無いみたいで。ずっとエリスを見ている様だった。

そしてそのストーカーは必ず帰りの時間帯にエリスに付きまとって来るらしい。
となると………

「同じ大学の生徒………って可能性が一番ありそうだな………」

エリスの家は大学から約片道1時間程度。距離的に考えても朝から張り付くとなると朝6時くらいからここでエリスを付けなくちゃいけないだろう。更に電車での移動になるので、金銭的にも厳しい筈だ。

「だけどそれでも帰りにはちゃんと付けてくる辺り、金持ちのボンボンなのか………いずれにしても………」

相手にバレない様に注意しながら周囲を見てみる。しかし夜遅いのもあり、人影は無いのだが、感じる視線の先にも人影は無かった。

「相手は忍者なのか………?おい、俺を付けてどうするつもりか分からないがまだエリスに付きまとうつもりなら俺も考えがあるぞ」

夜なので大声で言ってはいないが、静かな夜の今なら相手にも聞こえただろう。
これで多少は控えてくれればいいが、そんなに甘くはないだろう。

(何にしても警察は動いてくれるか分からないし、今は俺が何とかしなくちゃな………)

そんな事を思いながら依然感じる視線を無視し、俺は帰路に着いた………


























「さて、それじゃあ話の続きだけど、あのマリアージュ事件の後、私達は依然クレインを追っていた。しかし有力な手がかりは得られる時間だけが過ぎていた。有栖家の面々はクレインが起こすであろう事件の為に各自でそれぞれ力を付けていた。そして時間が流れ今年になってクレインが表舞台に現れたんだ」
「バリアアーマーの開発者としてやな………」
「そう。最高評議会を葬った件から管理局に通じる部分もあると思い、本局勤めの次女にもそれなりに探らせ、管理局で働くと言ったフェリアにも手伝ってもらっていたが、それでも何も情報は得られなかった。桐谷君にも協力してもらい、もしかしたらパイプがあるかもしれないレジアス中将にもクレインとの接触をお願いしていたのだが………」
「桐谷君が機動七課に入ったのってもしかしてそれが目的………?」
「まあそうだね」
「私達の知らない所で色々ありすぎや………零治君、大嘘つきやないか」

と皮肉めいた言葉で愚痴を溢すはやて。

「済まないね、零治君が嘘を付いていたのは私の為でもある。代わりに私が謝るよ。………済まなかった」

そう言って深々と頭を下げるジェイル。それとほぼ同時にウーノも頭を下げた。

「………まあその件はもうええ。個人的に零治君にお仕置きするとして、零治君はどうしてああなったんや?その経緯を教えて欲しいんやけど………」

そう言いながらはやては横目でライトニングの3人を見た。3人とも今にも泣きだしそうな顔ではやての言葉の返事を待っていた。

「………分かった」

頭を上げたジェイルは目を瞑りながら深く頷いた答える。
そして重々しく口を開いた。

「………零治君はクレインの罠に捕まって操られているんだ」





















「加奈、加奈!」
「………ん?着いたの?」
「ああ。着いたよ。気分はどう?」
「………ちょっとだるいかな。だけど生理の時とそう変わらないわ」
「せ、生理………」
「………何顔赤くしてるのよ」

と呆れながら起きる加奈。
そんな加奈に大悟は慌てて付いて行く。

「もう話終わってるかな?」
「さっき星からメールが来て、一旦休憩するって言ってたから終わっていないんじゃない?」
「そうか。………まあ大体スカさんが話しているし、ハッキリ言えば俺達はそんなに必要無さそうだけど………」
「何言ってるのよ。これからの事話すんでしょうが!!それと、もうスカリエッティじゃないんだがら『スカさん』やめなさいって!!」
「ごめんごめん………どうしても言い慣れちゃって………」
「兄さんも直ってなかったし………」

そう言いながら暗い顔になる加奈。

「加奈………」
「ごめんなさい、私以上に星達の方が不安なのよね………私はしっかりしないと………」

そう言って笑う加奈。しかしその顔は大悟の良く知っている笑顔とは違っていた。

「加奈」
「ん?何よ?」
「別に無理はする必要無いよ」
「べ、別に無理なんて私は………」

大悟の言葉に少なからず動揺してしまった加奈。そんな加奈を怒らせない様に大悟は言葉を続けた。

「………星達の前はともかく、俺の前では無理をしないでほしいな。そんな加奈俺は見たくないし無理してたら零治を助ける前に加奈が倒れちゃうよ。………今回の事件はアニメのJS事件よりも大きな事件になると思うんだ。ミッドチルダを守るため、零治を救うためにも俺の傍で支えて欲しい」
「大悟………」

そんな大悟の言葉に感動している自分が居て、ハッと我に返った。

「ちょっと情けない………かな?出来れば1人でもしっかりやれれば加奈も安心出来ると思うんだけど………」

そう言って苦笑いする大悟。

「そんな事ないわ。大悟らしくて好きよ。………ありがとう大悟」

そんな大悟の手を握り、笑顔をお礼を言う加奈だった。

「そっ、それと話は変わるんだけど、明日なんだけど俺と一緒に来てほしい所があるんだ」
「来てほしい所?今日行った聖王教会じゃなくて他に?」
「うん、明日なのはとバルトさんが入院した病院へ行こうと思うんだ」
「パールバティね」
「うん………加奈悪いんだけど………」
「何言ってるのよ。全然大丈夫よ!私を誰だと思ってるのよ!!」
「そうだね、だけど無理はしないでくれ………」
「分かってるわ大悟………」

2人は手を繋いだままはやて達の元へ行くのだった………






















『………ここは?』

ふと気が付くとバルトは空の上に居た。ふよふよと風船の様に漂う。夕焼け空に染まる赤い空はまるで地獄の空を描いている様に感じた。

『そうか、俺は死んだのか………』

そんな風に思いながら今まで行って来た事が走馬灯の様に頭の中に思い浮かぶ。
しかしその思考は直ぐにかき消された。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

バルト自身にも負けないほどの怒声が我に返らせた。

『な、何だ!?』

下から聞こえた声に釣られるように下を見るとそこは戦場だった。
しかしその戦場は明らかにおかしかった。

『1対………何百人相手にしてるんだアイツは!!』

数百人いる敵に向かって行く1人の男。その存在に驚きつつ、男の使っている斧に目が行った。

『あれは………バルバドス!!』

銀色に輝く大斧はその使い手による豪快な斬撃によってボールの様に人が吹っ飛ぶ。

『いや、似てるが違う………だがバルバドスに似ている………』
「怯むな!!討て討て!!!」

指揮官に鼓舞され、男に何10人と一斉に襲い掛かり、遠距離からも魔法が男を襲う。

「やられるかあああああああああ!!!!」

しかし男はそんな攻撃もろともせず、敵の波に突っ込んで更に蹴散らす。

『一騎当千………』

その無類の強さにバルトは思わず呟いた。
敵に攻撃され、傷つき、血を流し、それでも男は歩みを止めない。

「ま、まさか………」

やがて男は遂に指揮官だけを残し、敵を全て蹴散らした。

「後……は、テメエ……だけ……だ………」
「ふ、ふざけるな!!!」

虫の息の男にめがけて斬りかかる指揮官。それを交わす事なく、少ない動くで先に相手の首を落とした。

『………凄え』

思わず呟いた言葉。バルトにとっても驚愕してしまうほどの戦いだった。
しかし男は負った深手の傷に一生懸命耐えながら前へと進む。

その先には荒野には全く合わない綺麗な玉座の椅子に金髪の綺麗な女性が座っていた。

『ヴィヴィオ………?』

そう思ってしまったほど、その顔は似ていた。

「オリヴィエ………ったく、気持ち良さそうに寝ていやがって………」
『オリヴィエ………だと………!?』

オリヴィエと呼んだ女性の静かな寝息を聞いて嬉しそうな顔をしてその場に座り込む男。
体から多くの血を流し満身創痍なのはバルトも見ていて明らかだった。

「………そんなにその女がいいわけ?」

そんな不意に聞こえた声と共に赤い模様が入った黒い刀身が男に突き刺さっていた。

「く、クレア………?」
「あなたが悪いんですよ団長………あなたがこんな女に………」

刀を抜き、刀に着いた血をなめながらクレアと呼ばれた女が呟く。

「お、お前……が………」
「この女のどこが良いんですか?私のどこがいけなかったんですか?ねえ!!」

そう言い泣きながら男を斬り付ける。

「クレ………ア………」
「でも安心してください。貴方が死んで1人になっても私が直ぐに後を追いますから!!そこの女が絶望して世界を壊したのを見た後に!!!」

涙を流しながら恍惚とした表情でそう叫ぶ。
それに反して男の意識は揺らいでいった。

(………全ては俺の責任か。済まないオリヴィエ………だが、ただでは死なん………)

薄れゆく意識の中、男は愛斧に手を添え、震えた手つきである操作をした。

(俺の人格をコピー………そして聖王器バルバドスへ………)

その思いながら男は操作を終え、そのまま力尽きたのだった。

「あははは!!そうだ、オリヴィエ様が起きた時にサプライズを用意して置かないと!!」

そう言ってクレアと呼ばれた女性は男の首めがけて刀を振り下ろした………




























「こ、こは………」

ゆっくりと瞼を開け、視界が戻るとそこには見知らぬ壁があった。

「お、れは………」

体を動かせなかった為、首を動かし周りを見る。

「びょう………いん?」

様々なチューブやケーブルが繋げられ、色々な機械がバルトを囲んでいた。

「おれ…は………生き………てる?」

覚醒していく意識と共に起き上がろうとするがやはり体は動かない。感覚を感じない様に思えた。

「麻酔………か?それほど重傷………だったって事……か」

マスクをしている事にも気が付き、起きた時と同じように仰向けになった。

「クレア………オリヴィエ………そしてあの男の思考………バルバドスお前なのか………?」

マスク越しのバルトの問いに答える者は誰もいなかった……… 
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