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道を外した陰陽師

作者:biwanosin
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第二十一話

 メールで指示した時間になったので、俺は陰陽師課の元トップが現在住んでいる家に、雪姫とともに来ていた。

「ふぅ・・・警備員は、これで全員かな?」
「まあ、さすがにこれ以上は配置していないだろう。中はどうだか分からないが」

 そう話しながら気絶させたやつらを全員眺めて、問題はなさそうなので先に進む。

「それで?あいつらはどうするんだ?」
「信者じゃないみたいだし、このまま放置。全部終わったら光也の部下が回収する予定だ」
「・・・まるで、その宗教とやらの信者はそうではないかのようだな?」
「いや・・・そんなことはない。ただの信者なら、こいつらと同じように放置するよ」

 元々は、ここでは信者は皆殺しにするつもりだったんだけど・・・
 一人で来ていないおかげか、それはやめておこう、と冷静な判断ができるようになっている。
 そんなことを話しながらトラップを破壊して進み、玄関までたどり着く。
 さて、と。ここまででいいか。

「雪姫、お前はここに残れ」
「・・・断る。ここまで来てそれはあんまりだろう」
「トップレベルの国家機密に抵触することになる。席組みでもないお前が聞いたら、面倒にしかならないぞ」
「それこそ今更だ。二つも知っている」

 それに、と雪姫は続けた。

「そんなことを気にするやつではないだろう、一輝は。だとすれば、機密などではなく・・・そうだな。私のため(・・・・)、と言ったところか?」

 ・・・はぁ、なぜこうも、人の考えを読めるのか。

「当たりみたいだな。だとすると、あまり見せたくないものでもあるのか?」
「・・・はぁ。いや、あまり見せたくないことをするんだよ」
「それも、もう今更だな。私は元々、暗殺をしていた身だ。どれだけ、と表せないくらいには闇を見ている」
「うそつけ。暗殺なんざ、俺が初めてだろ」

 俺がそう言った瞬間、雪姫は目に見えて驚いた。
 全く・・・俺が分からないとでも思ったのかね?

「ガチで暗殺に慣れてたら、そんな目はしないんだよ」
「どうして、そんなこと」
「俺は外道の一族の血をひくものだ。普通のやつらとは比べ物にならないくらいの闇の中で生きてきてるし、この手も血に染まってる」

 そして、そのことに対して一切の罪悪感を抱けていない。
 それほどまでに、俺は人としての道を外している。

「そういうわけだから、お前はここに残れ。お前まで、そんなものに染まる必要はない」
「・・・勝手な言い分だな。断る」
「なら、前に謝っとく。・・・埋め合わせは、何でもする。スマン」

 そう言ってから充電式の電池を取り出し、首をかしげている雪姫に対して、気絶するギリギリの電流を流す。
 ・・・出来ることなら、こんなことはしたくなかったんだけど。
 さすがに、友達や仲間に対して攻撃しても心が痛まないほどに道を外しちゃいない。

 倒れてきた雪姫を抱きとめながらそう心の中で呟き、柱に雪姫を持たれかけさせる。
 それでも、今回はこの間とは比べ物にならないくらいには、マズイことをする。本気で、人としての道を外してしまう。だから、雪姫は連れて行けない。形として連れてきたことにするには、ここまでで十分だ。

 まだ寒いので俺の上着をかけ、何かあった時のために結界と攻、防一体ずつの式神を配置。
 安全を確実なものにしてから、俺は玄関を破壊して中に乗り込む。

 その瞬間には俺に向かって走ってきたやつがいて、何人かは例の名前が大量に描かれている本を持っていたので・・・一撃のもとに、全員の動きを封じる。
 そのまま書物を取り上げて目の前で燃やし、次に来たやつらの対処をする。
 一号以外は必要ない。だから・・・手加減は、いらないか。
 そう考えて火、水、木、土、金の五枚の札を取り出し、円状に並べてから投げる。

「五行相生、輪廻。急急如律令」

 オリジナルの術式の中でも最上の攻撃力を持つ術の一つを放ち、一気に片を付ける。



 ========



「ったく・・・一切の邪魔をするな、って書いただろうが」
「元々、半信半疑であったのでな。最後の一文がある以上、可能性はあったのだが」

 最奥の部屋の扉をぶち破ってから愚痴ってみたら、返事があった。
 ふむ・・・十人、か。意外と多かったな。

「だからこそ、私たち以外に伝えることはできなかったわ」
「彼らには神の御姿を拝見する権利こそあれ、神のお言葉を拝聴する権利はない」
「そして、神の降臨が起こるのがこんなにも早いわけがない」
「だとすれば、今回僕たちの元に訪れるのは神のみつかいに他ならない」
「そこで聞くのは、神のお言葉のみ」
「さすれば、ここにいてよいのは我ら十人」
「いやしくも、今になって新なる神が何なのかに気付いたものではない」
「かつて、神のために集まりし時よりいるもののみ」
「すなわち、この十人のみである」

 ふぅん・・・ご先祖様は、中々にいい仕事をしたみたいだな。
 立場が高すぎて手を出せなかったやつと、その他九人。それ以外の信者をすべてどうにかしたみたいだ。
 まあそれでも・・・たった二人しかいない生き残りの片割れに後始末を丸ごと任せることになったのは、どうかと思うけど。

「とはいえ・・・君からは、神のみ使いという気配をまるで感じないな。君、神徒かね?」
「ん?・・・ああ、勿論違うぞ。ヤタガラスの同類でもないし、あんたらが言う神から何か伝えるよう言われているわけでもない」
「ならば、なぜあの言葉を・・・いや、なぜあの言語を使える」
「あの最後の一文は、我々に理解することのできる最上のお言葉だ。ただ人には理解できないはず」
「あ、やっぱあそこで止まってるんだ。いやはや、予想通りで何よりだ」
「答えよ、なぜ知っている」
「答える義理はない」

 言霊で喋らせようとしたみたいだけど、そんなもん効くか。
 たかが日本最高レベルの言霊の奥義を持つ一族程度が、鬼道に何かできると思うな。

「・・・まあ、でも。そうだな。言ってやった方が面白そうだから、答えてやるよ」
「・・・・・・・・・」

 よっぽど自信があったのか、一切効いていない様子に戸惑っている。
 そうそう、その顔が見たかったんだよ。

「あ、そうだ。その前に一つ聞いとくぞ」
「・・・何?」
「幹部クラスは、これで全員か?」

 誰も何も言わなかったので、肯定と受け取ることにした。

「よし、それなら話してやろう・・・鬼道星夜から直接習った。・・・原初ノ書も読んだぜ?」

 その瞬間、スーツ姿の女性が一瞬で刀を抜き、走りながら突きを放って駆け抜けた。

「・・・無礼な発言を悔い、死になさい」
「やだよ。ってか、どこが無礼な発言なんだか」

 俺がそう言った瞬間に、女性が持っていた刀が砕ける。

「な・・・今、何を」
「鬼道流体術、防ノ型八番、刃殺し。文字通り、刃を殺すための技だ。知らないだろ、これは」

 ちなみに、原理は単純極まりない。
 刀が当たる一瞬の間に呪力の塊をぶつけ、圧縮したものが解放した勢いで破壊する技。

「・・・今、鬼道流と」
「言ったぞ。つっても、これは書物の五号までの中に書かれている技じゃない。・・・お前たちには、理解のできない言語で書かれている技だ」

 ついでに、と俺も刀を抜き、先ほどやられた技を完全な形でやりかえす。
 速さを大体三倍くらいにして。

「・・・カハッ」
「これくらいの速さで正確に肋骨の間を通して心臓を貫く。これだけのことをしてやっと、鬼道流剣術、奔り、一ノ型、心殺を名乗れる。まだまだ足りねえよ」

 倒れていく女の後ろでそう言って、刀を振り血を払う。
 その後呪力を少し流し込んで、刀自体に血を吸わせる。こいつは妖刀。血は切れ味を上げる役目を果たしてくれる。

「・・・そう言えば、書を回収しておったな。読み、会得したか」
「さて、どうだろうな?・・・ああ、それと」

 俺は一度刀を納刀し、開いた両手で真後ろから迫っていたやつの襟を掴み、両足で蹴りあげる。

「ここにいる奴らは、一人も生きて返すつもりはない。全員この手で殺す」
「・・・それで、正義を成せると思ってるのか?」
「正義なんかじゃねえよ。一個人上の都合、ただ目障りだから殺すだけ・・・悪行でしかない」

 そう言った瞬間に跳び、先ほど天井にめり込ませておいたやつの首を一太刀のもとに切り刻む。

「鬼道流剣術、殺ノ型、刻首(こくしゅ)。対人戦において相手を殺すための技だ」

 そして、と言いながら落ちてくる俺を待ち構えているやつの首を、蹴りで切り落とす。

「鬼道流体術、攻ノ型十三番、脚首(きゃくしゅ)。・・・このタイミングで俺に使うなら、昇竜(しょうりゅう)昇龍(のぼりりゅう)がベストだったな」

 さて、これで後七人。全員が基礎的な技は使ってくるとみていい。
 だからこそ、警戒を解いて余裕を持って相手をすればいいか。

「・・・僕でも、使えない技を当然のように使うだと!?」
「キサマ、一体・・・」
「・・・おいおい、まさか自分たちが今の日本で最も鬼道について知ってるとでも思ってるのか?・・・って、そうか。まだ名乗ってすらいなかったな」

 いやはや、つい苛立ちが先行して忘れてた。
 この名乗りを上げて初めて、あいつらを絶望させきれるんじゃないか。

 ということで、俺はやけに芝居がかった口調で名乗りをあげることにした。

「これはとんだ失礼を、鬼神ノ会の皆様・・・いえ、こうお呼びしたほうがよろしいでしょうかね。外道信者(・・・・)の皆様方」

 そう、外道信者。
 こいつらがかつて自らを名乗っていたものであり、宗教の名は鬼道信仰。
 非公式であったために気付くことができず、完全にうちの一族が出遅れた・・・鬼道の一族を神と崇める宗教。
 自らも人としての道を外すことによって少しでも鬼道に近づき、いずれは完全な外道とならんとする宗教。本気で、へどが出る連中。

 今回は、その鬼道の一族が完全に滅んだのをいいことに出てきたんだろうが・・・さすがに、死んだご先祖様や父さんのことを刺激されて、いい気はしない。
 ここで、全員潰す。もう二度と出てこれないまでに。

「日本国第三席、『型破り』寺西一輝」
「ほう・・・光坊が連れてきた、卵の席組みか」

 その口調は一瞬、とても優しいものになったが・・・次の言葉で、そんなものは消えうせる。

「失いし名は鬼道。外道と呼ばれし、道を外した一族也」

 その瞬間に、全員から割と本気の殺気を向けられた。
 うん、やっぱり大したことないね。

 次の瞬間には槍を構えて向かってきたやつの槍を掴み、膝を使って壊して手に入れた穂先で脳天を貫き、その体を次の向かってきたやつに投げつけて頭に銃弾を二発撃ちこむ。
 その瞬間に遠距離から弓が放たれたので掌で受け止めて投げ返す。
 さすがにそれで殺すことは無理だったようなので、五行符のうち木行符と火行符を投げ、木で拘束してから火で燃やす。
 五行相生、木生火。

 そのまま二人組で連携してきたやつらの足元を壊して生き埋めにし、水行符で溺死させてから残りの二人に目を向ける。

「で、どうする?今大人しく殺されてくれるなら、出来る限り痛みは少なめのコースにしてやるけど」

 俺の目的は苦しめることじゃない。
 ただ殺すこと。だから、その辺りの譲歩はしてやれる。

「そう言われて、大人しく殺されるとでも?」
「だよなぁ・・・ま、なら仕方ない。せいぜい苦しんで、必死に抵抗して、死んでくれ」

 そう言いながら呪札を取り出し、俺の周りに漂わせる。

「・・・邪なる呪札よ。聖なる呪札よ。今ここに、我がために一切の区別なく消滅させよ」

 その言葉を合図に、呪札が俺の周り360度全てを攻撃圏内にとらえる。

「今ここにありしは正義にあらず。我が示すのは悪のみ。我が悪行を成すため、その力を解放せよ」
「・・・我らが神よ、信者たる我らを助けたまえ!」

 残念だけど、俺がその、あんたたちが崇める神の生き残りなんだよ。
 神なんて、立派なものじゃねえけどな。

「我がために、我が悪を示したまえ」

 その瞬間、呪札から放たれた呪力が荒れ狂い、ありとあらゆる物を食らっていく。
 生物であろうとなかろうと、一切の区別なく。
 全ての証拠を、食らいつくす。

「・・・こんなもん、か」

 俺はある程度壊せたところで暴走状態になっていた呪力をたたき壊し、その先にあった隠し扉を破壊する。
 そのまま奥に進んでいき・・・祭壇と、そこにおかれた書物を発見する。
 書物を手に取ると、そこには確かに一号と書かれていて・・・中には、鬼道と言う一族のあり方が記されている。

 白澤が率いる妖怪軍団に襲われた際、分家に保管されていた書物の行方は分からなくなっていた。
 それがこうしてやつらの手に渡っていた。そして、今こうして俺のもとにそろった。
 鬼道と言う一族の在り方が記された、一号。
 対術、剣術、弓術、槍術、その他もろもろの鬼道が編み出した武術が記された、二号から四十号。
 最後に、鬼道の奥義全てが記された零号。

 一応、門外不出ってことになってるからな。これは、俺がしっかり管理することにしよう。



  ========



 今回の件について、光也はかなり力づくでの隠蔽を行うことにした。
 まず、俺が元トップの家に行った際に色々と大暴れしたり元トップを殺したことについては、少し複雑だ。
 まず、俺と雪姫は光也からの書状を届けに行き、その際に土蜘蛛が複数発生。
 歳もあって抵抗できずに食われた元トップと、その部下や知人たち。それを仮にも十五位である俺が全て殺しはしたが、間に合わなかった、ということになった。

 次に、席組みが全国で暴れていた件だが・・・こちらはもっと大胆だ。
 刑部姫が出現したことにして、それにまどわされた人間を全て取り押さえた、ということにしたのだ。
 確かにそれなら大量の人間を収容したことにも理由が付くし、治療という名目で記憶をいじっても問題がなくなる。席組みの出動についても、まあ問題はない。
 それでも、だからと言って霊獣が出てきたことにするのはどうなのだろうかとも思うのだが・・・

 まあ、これについては各方面から文句を言われないだけの理由があればいいのだから問題はない。
 刑部姫は神とも言われている霊獣。そこに対して席組みを出動させても、文句を言われる筋合いなどないのだ。
 ただ、問題があるとすれば・・・

「何で、こうなってるんだろうな・・・」
「何でも埋め合わせはする、と言ったからだろう。ほら、さっさと行くぞ」

 俺は今、雪姫と一緒に出かけている。
 二人きりで、だ。正直、何でこれが埋め合わせになるのかは分からない。

「・・・ま、いいか」

 別にいやではないし、俺も男だ。こうしてかわいい女の子と一緒に出かけられる、というのは純粋にうれしい。
 雪姫にどんな意図があるにせよ、楽しむことにしよう。

「どうしたんだ?」
「ん?いや・・・雪姫と遊びに来れてうれしいな、と思って」
「な・・・何を言ってるんだ!」

 雪姫はそう言ってからマフラーを少し引き上げ、歩調を上げていく。
 その頬が少し赤くなってる気がするけど・・・気のせい、かな。
 とりあえず、置いて行かれないように少し走り、雪姫の隣まで追い付いた。
 
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