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道を外した陰陽師

作者:biwanosin
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第十三話

「ふざけるなよ、お前。俺が今日、何のために学校をサボったと思ってるんだ?」

 そう言いながら近づいていき、クナイを掴んで無理矢理引き離す。
 掌に空気を纏わせて、傷だけはつかないように工夫しながら、雪姫の目を覗き込む。

「それは・・・自分を暗殺しようとしたものについて喋らせるために・・・」
「そんなこと、わざわざ聞きだそうとしなくても分かる」

 はっきりとそう言うと、雪姫は目を見開いた。

「俺には、そのあたりを簡単に調べられるだけのパイプは有るんだよ。だから、そんな理由じゃない」
「なら、どうして・・・」
「お前に、考えを変えさせるためだ」

 はっきりとそう言ってからクナイを抜き取り、その場に座る。

「座れよ。話はそれからにしようぜ?」
「・・・・・・・・・」

 雪姫は何も言わなかったが、そのまま俺と背中合わせに座った。
 顔を見せる気は、ないのだろうか。それでも、話さえ聞いてくれればそれでいい。

「・・・お前は、私に何を考え直させたいんだ?」
「自殺すること・・・そんな主のために、死ぬことだよ」
「いつ、それを?」
「クナイを返して欲しい、って言ったとき。あのクナイが何のための物かくらい、見れば分かったからな」

 そして、殺女が雪姫のことを問題なしと判定したから、俺は止めることにしたんだ。

「・・・死なれたら、困るのか?」
「ああ、困るね。後味悪いし」
「はじめて会った相手・・・それも、自分を殺そうとしてきた相手に、何で」
「俺からしてみれば、そんなことは大した問題じゃないんだよ。事実、俺はまだ死んでないんだし」

 それにこの世界、こんな立場になった時点で暗殺なんかがあることはもう諦めてる。
 だから、その上でどう行動するのか。そこに観点を当てていかないと。

「で、だ。話を戻すが・・・お前は本当に、死んでもいいと思ってるのか?」
「・・・ああ、それでいいと思って・・・思って・・・」
「る訳はないよな?」

 そう、そんなはずはない。
 あの場で一つだけ取り戻そうとしたこのクナイ、これには家紋が・・・自分の家を示す唯一残された物が記されている。
 逃げることを考えずにそれだけを考えたってことは、まだ家のことを考えている。

「お前が死んだら、その瞬間にお前の家は存在しなくなる。今ならまだ再び存在できるようになるかもしれないのに、その可能性がなくなるんだからな」
「・・・そう、だな。確かに、それだけは避けたい。避けたいよ・・・でも、」

 そして、ようやく少しは心を開いてくれたのか・・・俺のほうに体重をかけてきて、話を続ける。

「だが、それ以上に嫌なことがあるんだ。それは・・・この身に宿る一族の力を、悪用されること」
「そんなこと・・・」
「出来るんだよ、あの人は」

 その言葉に、俺は驚きを隠すことが出来なかった。
 それって、まさか・・・

「あの人・・・家を失った私を保護している人は、陰陽師の体を解剖してその力を取り出すことが出来る」
「まさか、そんなこと・・・」
「私だって信じられないさ。だが、仕事に失敗した同僚の力を、他の人間が使っているのを見てからは信じるしかなくなった」

 それはまた・・・反吐が出るな、うん。

「・・・だったらなおさらだ。そんなヤツのために、お前が命を捨てる必要はない」
「だったら、どうしろと・・・このままここで暮らせとでも言うつもりか?」
「ああ」
「無理だ」

 はっきりと言い返された。

「そんなことをしたら、私を消すためにさらに強い追っ手が出されるだけだ。向こうには、ランク持ちすら何人もいる」
「そんなの、大した問題じゃない。俺だってランクは持ってるし、殺女なんて第九席だ」

 一応、嘘は言っていない。
 ランクは持ってるし。嘘の方(十五位)本当の方(第三席)も。

「ってか、それ以前に送り込むなんてことは出来ないしな」
「・・・何を、言って・・・」
「今から、そこに乗り込むぞ」

 その瞬間、背中合わせになっていた雪姫が振り返る気配を感じた。
 そこには、俺が携帯でメールを打っている姿が丸見えだったであろう。

「そのメールの内容・・・!」
「ああ。お前に対して暗殺を命令したヤツの情報、ようやく集まったみたいだな」

 そう言いながら立ち上がり、空間に穴を開けてそこからペットボトルを取り出す。

「で、どうする?俺の家で帰ってくるのを待つか、このままついてくるか?」

 差し出した手には、雪姫の手が重ねられた。



   ========



「こ~ん~に~ち~わ~!!」

 邪魔な扉をハンマーでぶっ壊して、中に入る。
 ここまで来る間にも邪魔してくるやつが何人かいたけど、とりあえず一人残らず気絶させて置いた。

「何してるんだ、お前は・・・」
「何って・・・扉が開かなかったから壊しただけだが?」

 そう言いながら入っていくと、中では札を構えていつでも攻撃できるようにしている連中と、その奥で偉そうにしているやつがいる。

「君、ここがなんなのか分かっているのか?」
「ああ。陰陽師課東京支部副所長の研究室。本庁の中とは別に持ってるから何やってるのかと思えば、こんなことやってたんだな」

 札を構えてる連中を無視して中に入り、ぐるっと見回すと、様々な生体ポットに入った人間、妖怪の死体が。
 なるほど、こうやって死体を保存して力を取り出してるのか。

「それで?たかが卵ごときが何の用かな?」
「あれ?何で俺が卵だって知ってるの?まだ名前すら言ってないのに」
「フン、白々しい。そこの欠陥品を仕向けたのが誰なのかくらい、分かったから来たんじゃないのか?」
「あっさりと認めてくれたな。これで色々と楽になるよ」

 刀を抜いた瞬間、札を構えていた連中が全員札を投げてきたので・・・効果を現す前に全て斬り裂く。

「・・・君は、」
「さて、と。まだやるのかい?」

 なんか言ってくるのを無視して周りの連中に問いかけると、全員が一歩引いた。

「最終警告だ。そこの首謀者以外にはチャンスをくれてやる。今すぐここを出て、自首して来い」

 その言葉が何か琴線にでも触れたのか、言霊を唱えて奥義を発動しようとする。
 まったく・・・せっかくの親切心を、無駄にするなんてな。

「聞くきはない、と。・・・口を閉じろ」

 その瞬間、言霊を唱えていた全員が口を閉じた。
 この程度の古い言霊でどうにかなるなら、かなり楽が出来るな。

「・・・君、本当に卵なのかね?」
「ああ、紛れもなく卵だよ。それくらいは分かってるんじゃないか?・・・いや、分かってたから暗殺なんて仕向けたんだろう?」
「・・・そうだな。そうであったか。・・・日本の面汚しが」

 おーおー、睨んできてますなー。
 何人かはその霊圧だけで倒れそうになってるが、俺には何の被害もない。

「全く・・・光也のヤツの人選だけは信用していたのだがな。それをまさか、このようなヤツに・・・」
「副所長、それはどういう・・・」
「オイオイ・・・側近にすら言ってないのかよ」
「言う必要はなかろう。消え行くものの事など」

 俺のことは殺す前提かよ・・・ったく、面倒な。
 雪姫も何かと見てるし・・・いっそ名乗っちまうか。

「はぁ・・・そういや、アンタは俺の元の名前について知ってるのか?」
「知らないね。なぜか、私の権限でも知ることが出来なかった」

 なるほど、やっぱりそっちの方が機密レベルは高いのか。
 そう考えながら結界を張る。

「何のつもりかな?」
「誰も逃がさないためだ。・・・さて、皆様方。冥土の土産に俺の名乗りを聞かせてやる」

 ここにいるのは雪姫とこれから殺すやつらだけ。
 だったら、名乗っても大した問題はないよな?

「日本国第三席、『型破り』寺西一輝」

 この時点で、副所長以外の全員が驚いていたが、次の一言でさらに上書きされる。

「失いし名は鬼道。外道と呼ばれし、道を外した一族也」
『っ・・・・・・!!』

 お、全員が息を呑んだな。
 さて、と。

「まずはザコを一掃」

 そう言いながら腕を一閃し、副所長以外の敵全員が真っ二つになる。
 本当に弱いな。防御の術くらい反射で張れるようにしとけよ。

「今、何を・・・」
「これから死ぬやつに、これ以上の土産はいらないだろ?」

 そう言いながら刀を構え、鞘に入れずに刃の腹に手を添える。

「く・・・急急如律令!」
「苦し紛れか・・・払え」

 急ぎ実行せよ、とすら言わずに攻撃を全て払う。
 これが副所長の実力なのかよ・・・はぁ、日本で席組みに権限が与えられてる理由、よく分かるな。

「あ・・・ま、待て!謝る!謝罪が欲しいならなんでもする!これからはもう君に手は出さない!」
「命乞い、早すぎないか?それに、暗殺者を仕向けられたことで来たんじゃねえんだよ」
「な、なら・・・雪姫についてももう開放する!それでいいだろう!?」
「言い訳ねえだろ、アホ。まだ俺が何で来たのか、分かってないのか?」

 俺がここに来た理由は、別にこいつが許せなかったからじゃない。
 そんなたいそうな正義感、俺は持ち合わせちゃいない。

「な、ならどうして・・・」
「テメエが気に入らなかった。だから殺しに来た。それだけだ」

 そして、鞘なしの居合いで目の前のクズを切り裂き、返り血すら浴びずに殺す。
 
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