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道を外した陰陽師

作者:biwanosin
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第十一話

 雪姫が着替え終わってから、俺たち二人は家を出た。
 こんな時間に中学生が歩いているのを警察にでも見つかったら面倒だから、念のために色々と手回しだけしてから。
 あれだよな。人脈って、作っといて損はないよな。

「そういえば・・・ここに来るときに気になったことを聞いてもいいか?」
「ん?ああ、いいけど」

 この辺、そんなに珍しいものってあったか・・・?

「では・・・あの土地、妙にいやな感じがするんだが・・・なんだ?」

 そう言いながら雪姫が指差すのは、住んでいるマンションのすぐ横、一軒家が建てられるくらいに広い土地。
 ああ、あそこか。

「なんて言ったらいいかな・・・持ち主は、ここの大家さんだよ」
「そんなことを聞いているのではない。やけに禍々しい気がするんだが?」

 やっぱり、そこだよな・・・

「・・・呪われた土地、だよ。何かがとり付いてるのか、地縛霊でもいるのか、そこまでは知られてないけどな」
「お払いをする気は無いのか?あれだけの土地、遊ばせておくにはもったいないと思うが・・・」
「したんだよ。確か、専門の人が四回だったかな?」

 そう、ちゃんとお払いはしたのだ。
 それでも・・・

「それでも、ほんの少しすら払うことは出来なかった。それどころか、四回が四回とも、その専門の人が死んで終わってる」
「・・・そこまでの土地なのか?」
「みたいだな。で、それ以来お払いもせず、誰も近づかずで放置されてるんだよ。・・・ほら、わざわざお札まで貼ってある」

 俺が指す先には、様々なお札が貼ってある。
 その全てが、悪霊退散のもの。効果を表した様子は無く、一部は折り紙にして遊ばれちゃってるけど。

「・・・その依頼されたやつらは、序列で言うとどれくらいだったのだ?」
「そぅだな・・・一番上で、三十二位」
「・・・それでダメなら、もう席組みに頼むしかないんじゃないか?」
「だろうな。だから、こうして放って置いてるんだよ。周りに危害が有るわけじゃないし」

 少し不気味、という程度だ。
 この近くに住む人は、たまにここの前をコースの一つにして肝試しなんかをしている。

「ま、そう言うわけだからそこまで気にする必要があるわけじゃない。危害もないし、ここの前を通るたんびに寒気がする程度だ」
「・・・それはそれで、十分に問題だと思うのだが・・・」

 まあ、それくらいならちょっと特殊な土地ってことで、受け入れてもらいませんと。



   =========



「・・・なぁ」
「なんだ?」

 テキトーに町をぶらついていたら、隣から雪姫に声をかけられた。

「どうして・・・こんなことをしてるんだ?」
「こんなこと、って言うと?」
「なんで、わざわざ猫探しなんてしているのか、だ」

 そう、俺は今猫を探している。
 理由は、特に無い。探し猫の張り紙があったから、なんとなく探しているだけ。
 強いて言うなら、ほら。動物ってリラクゼーション効果があるって言うじゃん?心を開いてもらうにはちょうどいいかな、と。

「まあ、いいじゃん。ちょうど暇なわけだし」
「確かに暇だが・・・お前は、暇というだけの理由でこんなことをするのか?」
「んー・・・休日とかは、依頼をこなすことが多いかな。それも無かったら、大家さんに頼まれたことをこなしたり」

 大体、俺の休日はそんな感じである。
 最近は席組みに入った関係であまりやるな、と光也に言われたから依頼量を増やした。
 そんな理由で俺のやることを制限されてたまるか。料金も、市場価格なんてガン無視してやってる。
 おかしいと思うんだよね。金があるヤツからもないやつからも同じ値段なんて。

「そうやって生計を立てているのか?」
「いや?言わなかったっけ。俺、もう一生だらだらしても問題ないくらいには蓄えがあるぞ?」
「なら、なんで・・・」

 なんで、ねぇ・・・

「元々、俺の一族はそんなに世間からのイメージが良くなかったんだよ。今はそうでもないけど、昔は酷かったらしい」
「・・・で?」
「だから、まあそんな汚名を雪いで見るのも面白いかな、とね。もうその名前を名乗れないかもしれないけど、もしも奥義を習得できたときに若干はイメージが良くなるかもだろ?」

 とまあ、他にも本気でやることが無いとか、なんとなくとかはあるんだけど。
 他には、まあ色々と問題児的行動もしてるから、せめてプラマイゼロくらいにはしときたいな、とかもある。
 要するに、無償の善意なんかじゃなくて、俺の勝手な都合だ。

「・・・そんな一族だったのか。まあ、それでもうちに比べたらマシだっただろうな」
「へえ、そんな自信が?」
「ああ。うち以上のところなんて早々ない。・・・家業が家業だったからな」

 そう言っている雪姫の顔はどこかさびしそうだった。が・・・

「それは無いな。うち以上に評判の悪いところなんて、存在しない」
「ずいぶんと大口を叩いたな。だが、日本で最も評判の悪いのは『外道』の一族だろ?そして、あの一族はもう潰れたと聞いている」
「・・・ああ、そうだな」

 外道。
 日本のある一族に与えられた通称。
 その名前を知らない日本人は存在しないくらいで、高校の教科書には、その一族の中で一番でかいことをした五代目の名前まで載っている。
 それほどまでに、有名な一族なのだが・・・うん、まあいいか。

「さて・・・どこにいるのか、この猫又は」
「そうだな・・・今、なんと言った?」

 俺が捜しながらつぶやいた言葉に、雪姫が反応して来た。
 聞き流してくれた方が楽なのになー・・・

「ちょっと待て、なんだ?この猫は猫又なのか?」
「ああ。・・・つっても、正確には猫又になりそう、くらいのもんだけど。・・・この写真からすると、後三日、かな?」

 確かそれくらいで、満月だったと思う。
 満月、新月は妖怪にとって重要な意味を持つ。
 その日なら様々な恩恵をえられるから、妖怪にもなりやすいだろうし。

「まあ、多分この猫もそれが分かってて家を抜け出したんだろうな。自分が塗りつぶされていく感覚、それを死の前兆と勘違いして」

 ほら、猫って誰にも見つからない場所で死ぬって言うじゃん?
 そんな感じだろう。まあ、なんにしても早いところ見つけないと。

「さて、と・・・まずは目障りなものをゴミ捨て場に捨てようかな?」
「何が言いたいのかは分かるが、やめて置け。余計に面倒になるだけだ」
「そうか?俺には、全部綺麗に潰せば面倒ごとなんてないと思うけど」

 そう言いながら見るのは、謎の布教活動をしている宗教団体。
 その名前にも、聞き覚えは無い。
 そもそもなんだ、神の一族の光臨を願いましょう、って。どんな一族だよ。
 彼らは死んだのではない、一度天に帰ったのだ、って。

「はぁ・・・まあいいや。何か問題があるなら他の団体が動くだろうし」
「そうだろうな。・・・あ」

 雪姫が何かを見つけたかのように声を上げたので、俺は立ち止まって雪姫が見ているほうを見る。
 そこにあるのは、先ほどの宗教団体の車と・・・その先にいる猫の姿。

 その尾は二つに分かれ、特徴は張り紙が有った猫に似ている・・・

「ようやく見つけた・・・ちょっと行ってくる」
「・・・は!?」

 俺は驚く雪姫を放置して走り、猫のいる位置まで近づいて抱き上げる。
 うん、性別も一致するし・・・尾が増えてること以外は、完璧に一致だな。

「オイ、小僧!さっさとどけ!ってか手を離せ!」

 にしても、こんなに早く尾が分かれてるとは・・・あ、一本に戻った。まだ不安定で、どっち付かずになってるんだな。

「聞いてんのか!?」
「ん?・・・ああ、ゴメンゴメン」
「軽いな!?」

 俺はようやく、今の状況を思い出した。
 俺は猫を発見して、その瞬間に車の前に飛び出した。
 そして、そのまま発進し始めていた車を片手で押さえ込み、そのまま猫の観察をしていたのだ。

 無意識って怖いな・・・結構面倒な力のコントロールとか、さらっとやってたぞ・・・
 
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