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道を外した陰陽師

作者:biwanosin
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第九話

 夜、一輝が住んでいるアパートの壁を登っていく人影があった。
 小柄ゆえの身軽さか、ひょいひょいと音を立てずに上っていき、一輝の部屋のベランダに下りる。
 そのまま窓に手をかけ、少し動かして鍵がかかっていないことを確認するとほんの少し驚いた顔を見せてから、すぐに表情を引き締める。
 癖なのか、口元を隠している布を引き上げてから、音を立てないよう慎重に慎重をきして開け、中に侵入。そのまま見回して、一輝が寝ているのを発見。
 再び口元の布を引き上げて、足音を一切立てずに近づき、腰の後ろに手を回して小刀を引き抜く。
 そのまま一輝の心臓に向けて振り下ろし・・・一輝が寝返りをうつことで避けられる。
 しかも、それだけでは済まずにナイフを蹴り飛ばし、一輝は相手の獲物をすぐには取れないところまで飛ばした。

「!?」

 そこでさすがに危険だと思ったのか、その人影は距離を置こうとするが・・・その手を掴まれ、一気に引き込まれる。
 そのまま布団に倒れ、起き上がるまもなく一輝の両腕が人影の背に回り、動きを封じる。
 偶然か必然かは別として、両腕も胸の前で曲げていたせいで一輝の腹部に押し付けられ、新たに武器を取り出すことも出来ない。
 そして、トドメといわんばかりに足をその人影の足に絡め、足も封じる。

「~~~~~~~!!?!?!?」

 その人影は顔を真っ赤にしながら抵抗しようとし、腕も足も動かないことを確認すると顔を上げ、最後に残った手・・・頭突きを決めようとするが・・・その頭すら、一輝が片手で自らの胸に押し付け、動きを封じる。
 今度こそどこも動かなくなった人影はしばらく抜け出そうと動いていたが、やがて力尽きたように全身から力を抜き、眠りについた。



   =======



「ふぁ~・・・なにこの状況」

 俺は目を覚まして、今いる状況につい、そう漏らした。
 いや、何で俺の腕の中で人が寝てるんだ・・・あ、ベランダの窓開いてる。
 それに、壁に刺さったナイフ・・・

「・・・ああ、暗殺か」

 俺はそれで納得して、とりあえず暗殺者の観察を始める。
 年齢は・・・見た目で判断すると、俺の一つか二つ下くらいか?結構小柄だ。
 ポニーテールの髪は結構長め、ポニーテールを梳いたら間違いなく髪を引きずることになるくらいに長い。
 口元を隠していた布を取り、その顔つきを観察した感じでは、性別は女だろう。結構かわいい。
 最後に目に付く位置に装備していた武器を一通り外して、俺の倉庫の中に放り込む。
 壁に刺さっていたナイフも同じようにしてから、ベランダに出て隣の部屋へ。

 鍵はお互い、何かあったときにすぐ入れるように、と掛けていないのでそのまま室内に入り、寝ている殺女に近づく。
 寝ながらでも警戒しているせいか、何発か打撃が跳んできたのを全て避けて体を揺すり、それでも起きなかったので呪力を流し込んで起こす。

「ふぁ~・・・おはよう、カズ君!」
「おはよう、殺女。少し声のトーンを落としてくれ」

 一応、逃げられないように俺の部屋には結界を張ってあるが、それでもまあ起こさないに越したことはないだろう。

ガンッ!

 とか音がしてきたから、もう手遅れかもしれないけど。

「・・・今の音は?」
「多分、俺の部屋に閉じ込めてある暗殺者」
「へぇ、暗殺者・・・暗殺者!?」

 あ、ようやく目を覚ましたな、殺女。
 まったく、早く目を覚まして欲しかったのに・・・ま、起きてくれたんだしいいか。

 そのまま視線でとなりに行くぞ、と指示して二人でベランダから隣に移動。
 窓際のところで頭を抑えてしゃがみ、涙目になっている暗殺者を発見する。

「・・・本当に暗殺者?」
「間違いない。俺、殺されかけてたみたいだし・・・無傷だけど」

 そう言いながらしゃがんで視線を合わせて、声を掛ける。

「おーい、暗殺者さん。話を聞いてくれませんかー?」
「!?」

 その瞬間に後ろに跳んで距離をとり、服の中から小型のナイフを取り出した。
 まだ隠し持ってたのか・・・まあ、さすがに服の中に手を突っ込むわけにもいかんし、これ以上の没収は無理だったはずだ、うん。

「まあまあ、一回武器を下ろして。ついでに、武器を全部捨ててくれません?」
「・・・・・・」
「話し合いの機会を作りたいんだよ、こっちは。それに、出来ればとりたくない手段をとらざるを得なくなる」
「・・・何をするつもりだ?」

 予想以上に高くて可愛らしい声だな、と感心しつつ、俺はそれを告げる。

「全裸にひん剥いて、武器を全部没収。服も返せないな」
「分かった。すぐに捨てるからお前は後ろを向いていろ」

 即答だった。
 もう、清々しいくらいに即答だった。
 まあ、おかげでさらにやりたくない手段を言いすらせずに済んだけど。

「ねえ、カズ君。この感じだと・・・」
「ああ。腕は確かみたいだけど、暗殺者としてはまだまだ未熟だな」
「うん。のんでた小型ナイフも捨てちゃってる」
「そうか」

 たったあれだけの会話で武器を捨てることを選ぶのは、暗殺者としては二流、三流もいいところだ。
 本来なら、今回みたいに捕まった時点で自害。依頼者の情報を隠しにかかるべきなのだ。
 なのに、この子が選んだのは全ての武器を捨てること。
 確認しても見つかりにくいのんでいたものすら捨ててしまった時点で、そんな意思は消えたと考えていいだろう。

「・・・全て捨てた。他の武器がどこにあるのか、教えてもらうことは出来るか?」
「ん、了解。振り向いても大丈夫か?」
「大丈夫だ」

 俺は言われて振り向き、そのまま倉庫の扉を開く。

「この中にしまったよ。安心しろ、壊したりはしてない」
「・・・一つだけ、返してもらうことは出来るか?」

 俺が少女が捨てていた武器をもう一度倉庫に入れていると、そう声をかけてきた。

「どれだ?」
「一番小さいクナイだ。・・・こんなこと頼める立場じゃないのは、分かっているが・・・」
「はい」

 俺が言葉を遮ってそのクナイを少女の手に置くと、殺女と暗殺者の二人がぽかんとした。

「・・・・・・」
「ただし、それで殺しにかかってきたら今度こそひん剥いて吊るす。そのつもりでいるように」
「・・・いいのか?」
「別にいいよ。そんなんで俺は殺せないし・・・大切なものみたいだし?」
「・・・恩に着る」

 俺は立ち上がって寝室の扉を開け、リビングに入り、二人に向けて言う。

「とりあえず、朝食を取りながら自己紹介しようぜ。名前と年齢、趣味とかその辺。な?」

 二人はあっけに取られていたが、そのままリビングに入ってくる。
 さてさて、今日は三人分お食事を準備しないと、か。張り切っていきましょう!
 
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