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道を外した陰陽師

作者:biwanosin
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第三話

 で、明日には鬼退治に行くことになり、俺は面倒なのでさっさと現地の方で宿を取ってそこでラノベを読んでいる。
 それと、何故鬼退治なんてことを席組みがやるのかを聞いたところ、鬼の属性が一箇所に集まった結果、イザナミが顕現する危険があるからだとか。何でそこまで考えるのか、本当に面倒極まりない。

 と、一冊読み終わったタイミングで仕事用の携帯に着信があった。

「はいもしもし。どちらさまでしょう?」
『ヤッホー寺西君』
「土御門さん・・・であってます?」
『おー、大正解!』

 何てテンションの高い人だ・・・あの場で必要だったとはいえ、全員と連絡先の交換をしたのは間違いだったかもしれない。
 仕事用だけで収めておいたのは、まだ良かったか。

「それで、どういった御用で?」
『暇ならどこかに遊びに行かない?』

 何のためらいもなく俺が暇だと決め付けてきた・・・席組みとして有名なやつと遊びにいくとか、周りからの好奇の視線がどうなることか・・・

「スイマセンが、これでもショックが抜けきっていませんので・・・」
『そっか~。じゃ、仕方ないね。また明日!』

 最後まで聞ききる前に電話を切った。
 はぁ・・・さすが席組み、キャラが濃そうだ・・・



       ===========



「ん~・・・これで終わりかな?」
「多分そうですね。そこらじゅうに放った式神に反応もないですし」

 そう言いながら俺は式神を回収する。
 少なくとも大量発生、というレベルではなくなったわけだし、これで解決だろう。
 あとは、大量発生の原因が分かるといいんだけど・・・ま、面倒だし偶然ってことで片付けるか。

「さて、それじゃあ・・・始めようか」
「はい?一体何を・・・!?」

 その瞬間、土御門さんが叩きつけるように拳を放ってきた。
 慌てて避けたけど・・・クレーターできてるよ・・・何にも使ってないはずなのに・・・

「・・・何のつもりですか?」
「いや、ね。ちょっと拳と拳のぶつかり合いでもしてみない?」
「その意図は?」
「その作った表情が気に入らない!」

 そう言いながら再び拳を放ってきたので、俺はその腕をつかみ、投げる。
 背負い投げを途中で放した形だ。

「やっぱり、体術も出来るんだ」
「アンタほど極めちゃいないけどな」

 投げた瞬間に膝でけられた後頭部が痛い。
 かなり素早くやったはずなんだが、何であのタイミングで攻撃を返してこれるのか・・・それに、しっかりと着地しやがったから俺しかダメージ食らってねえ。

「それでも、できるんならいいよ。さぁ、始めよう」
「・・・拒否しても無駄そうだな・・・」

 俺は腹をくくって拳を構える。

「もしかして、最初からそのつもりで俺を連れてきたのか?」
「うん、そう」

 そんな間にも、俺は攻撃を避け、向こうは攻撃をあてようと続けて攻撃をしてくる。
 会話しながら、か・・・まあ、苦手じゃないしいいか。

「何があったのかは知ってるけど、だとしてもその態度は何!?」
「別に・・・なんでもない」
「そんなはずないでしょ!」

 確かにいわれた通りなので動揺してしまい、その隙に一発入れられる。
 クソ・・・イッテエ・・・

「だとしても、アンタに何の関係がある!?」
「何にもないわよ、だから何!?」
「何じゃねえだろ!?」

 これは予想外だった。まさか、何の理由もなくやっていたとは・・・

「そんなことどうだっていい!今重要なのは、何でアンタがそんな・・・本心を隠してるのかよ!」
「・・・テメエに何が分かる!!」

 もう少し我慢できると、自分を抑えられると思ったんだけど、俺は素が出た。
 家族を失ったこと、そのせいで苗字をなくし、鬼道だったころの友達と別れることになったのが、予想以上にきつかったみたいだ。笑えねえ・・・

「テメエに、あの失うつらさが分かるのか!?一度に一人二人じゃねえ!一族皆死んで、お偉いさんの都合で“鬼道”としての俺は、“鬼道”として生きてきた俺は死んだことになった!俺がこれまで築いてきた関係が、全部一度に失われたんだぞ!」

 攻撃が単調になるなんて今まででは絶対にありえなかったことを、今の俺はしていた。
 頭に、血が上っていた。

「その辛さが分かるのか!?全て、そう全て失ったんだ!もう二度とあんなの味わいたくねえんだよ!!」
「だから、人との関わりを持たない、とでも言うつもり!?」
「そうだよ!幸いにも、今の境遇なら出来そうだしな!」

 小さなつながりこそ出来るかもしれないけど、失って辛いほどのものは絶対に作らない。
 そのために、これまで以上に作った表情に作った感情で生きていけばいい。

「だから、もうこれ以上」
「うっさい!その態度が気に入らないっつってんのよ!」

 その瞬間、思いっきり腹を殴られ、山の木を何本も折りながら飛ばされた。
 そのまま起き上がれずにいると、土御門が腰の上に乗ってきて、俺の胸倉をつかんで無理矢理に引き上げる。

「そんなことで、人とのつながりが出来ないとでも思ってるの!?私達陰陽師は基本、人に感謝される仕事をしてるんだよ!!そんなやつらが、人とのつながりを造らずに過ごせると、本当に考えてる!?」
「ああ、考えてるよ!」
「甘い!そんな考えが通用すると思うな!それに・・・」

 そこで土御門は自分の顔を目と鼻の先まで近づけ、

「妹さんは、どうすんのよ!」

 そう、言ってきた。

「オマ・・・なんで、それ・・・」
「こんな啖呵切るんだから、そのために少しくらい調べるわ。それで、どうなの?」
「・・・・・・生きてるのかどうか、それすら分からないんだ。いや、あいつらが俺のところに来る前にって可能性も・・・」
「そう。だったら、一個だけ教えてあげる」


「アンタの妹の湖札ちゃん、生きてる」


 俺は、その発言が衝撃的過ぎて何もいえなかった。

「これは間違いない。ウチの婆様に頼んで調べてもらったから」
「・・・託宣」
「そう」

 土御門の婆様といえば、託宣で有名だ。
 視ることさえできれば、その的中率は百パーセント。

「じゃあ、改めて聞く。アンタは、この世で唯一の家族と再会したとき、そんな自分を見せるつもりなの?」
「・・・」
「その時、湖札ちゃんはどう思うでしょうね?自分が海外にいる間に一族はお兄ちゃん以外皆死んじゃってて、そのお兄ちゃんもこんな様子」
「・・・・・・」
「後、コウコウを問い詰めて聞き出したことだけど、湖札ちゃんはアンタ以外皆殺されちゃったことを知ってる。そんな状況だと知らされて、これからどうするかと聞かれても、帰るとは言わなかった。それはなんでか分かる?」
「・・・・・・・・・」
「まだアンタがいるから、そう言ったそうよ」

 気がつけば俺は、涙を流していた。
 湖札がまだ生きていると知って、涙を流していた。

「『まだ兄が生きてるなら、大丈夫です。全部終わったときに帰る場所もありますし、そんな状況に兄がいるのに、自分だけ今から逃げることは出来ません』って。なのにアンタはこんな状況で、それでどうするのよ?」
「・・・・・・・・・・・・ハハハッ。アイツは、そんな事を言ったのか・・・」

 ブラコン、まだ治ってないのかもな・・・

「だったら・・・お兄ちゃんが頑張らないわけには、いかねえじゃねえか・・・」
「そう」

 土御門がどいてくれたので、俺も立ち上がって涙を拭く。

「・・・で?これからどうするの?」
「そうだな・・・まずは、学校始まるまでの間に、人との繫がりでも作るか。光也のヤツには何か言われそうだけど、何人か前の学校の奴等と会うのもいいな」
「それがいいんじゃない?実質、コウコウよりも席組みの私達のほうが立場は上なんだし」

 それでも、周りに言わないよう口止めくらいはしないといけないよな・・・
 それに、“寺西”として付き合っていかないといけないわけだし、あんまりたくさんの人とは会えないけど・・・ま、それくらいは仕方ないか。

「・・・あ、でも。その前に席組みの皆にあやまらねえと」
「それもあったね~。ま、大丈夫だよ。アレで皆、歓迎する気はあったんだし」
「それはお前もか?」
「うん。カズ君を歓迎するつもり満々だったんだよ~。なのに、肝心のカズ君はあんな調子だし・・・」
「悪かったよ、本当に。ってか、何でカズ君?」
「私、親しくなった人のことはあだ名で呼ぶことにしてるの。それとも、いやだった?」
「いや、全然」

 少し驚いたけど、その程度だ。親しくなったと思ってもらえるなら、今の俺は嬉しいし。

「じゃあ、これからもよろしくな、殺女」
「お、名前呼び捨てだ!ってことは、私が“寺西一輝”の友達一号ってことでいいのかな?」
「そっちがいやじゃなければな」
「大歓迎!!」

 許可もいただけたことだし、これからは呼び捨てでいくか。

「ふぅ・・・じゃあ、私はもういくね?報告とか行かないといけないし」
「あれ?それって俺はいかなくていいんだっけ?」
「うん。それに、カズ君は今すぐにでも行きたい場所があるんじゃない?」

 殺女はそう言いながら街が見下ろせる場所まで歩き、鳥の妖怪を元にしたであろう式神を展開した。ここから直接飛んでいくようだ。

「私のほうからその辺りのことも伝えておくから、言ってきていいよ~」
「じゃ、お言葉に甘えさせてもらう」
「そうしなさいそうしなさい。じゃ、私は行くね!」
「おう・・・って、ちょい待ち!」

 まだ一つ、いい忘れちゃいけないことを言っていなかった。
 殺女の方も飛び立とうとしていた式神に待つよう命じ、こっちを見て首をかしげている。

「今回のこと、サンキューな。おかげで目が覚めた。このお礼は、またいつかするから」

 そう、まだお礼を伝えていなかった。
 だから、もういつから使っていないのか分からない、素の笑顔を向けながらそう伝えたのだが・・・

「・・・・・・」
「えっと・・・殺女?どした?」

 殺女はしばらく固まっていたかと思うと、急にボンッと音が鳴るくらいの勢いで顔が真っ赤になった。
 どうしたんだ、急に・・・?

「ちょ、それは・・・今までの表情が表情なだけに、ギャップが・・・」
「えっと・・・きこえないんだけど、何か言ったか?」
「え!?あ、ううん!!何にも言ってないよ!!!」
「そうか?ならいいんだけど、顔真っ赤だし・・・」
「あはは!ちょっと暑いのかなー!?」
「そうでもないと思うけど・・・本当に大丈夫か?」
「大樹オブ大丈夫!あ、もう私行くね!!またねー!!」
「あ・・・本当に大丈夫か?」

 なんか噛んでたし、式神の飛び方も不安定だし・・・まあ、本人が言ってるなら大丈夫か。それに、金剛力もあるんだから、落ちたくらいで怪我をするとは思えないし。

「さて、とりあえず・・・いくつか連絡とってみるか」

 俺は番号まで全て変更したプライベート用の携帯を開き、(今更だが、仕事用プライベート用両方とも番号まで変更している。仕事用はスマフォ、プライベート用はガラケーだ。もう一個席組み用も準備したほうがいいかもしれない)何人かにメールで生存報告と、今からこのメンバーだけで会えないか?というメールを送った。
 
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