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ギロチンの女

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第一章

                   ギロチンの女
 ナポレオンの第一帝政の頃の話だ、フランスのある町において不気味な噂が流れていた。その噂はというと。
「夜になると出て来るのか」
「ああ、誰もが寝静まった頃にな」
「その頃に外に出ると町を歩いているらしい」
「そしてその女を見るとな」
 どうなるかということもだ、噂の中にあった。
「妙に自分で首を切りたくなるらしい」
「それで自分で首を切って死ぬのか」
「そうするのか」
「そうなるらしいぞ」
 こう話されるのだった、町の者達が集まると。
「何でもぞっとする位に美人だがな」
「その美人を見るとか」
「自分で首を切って死ぬのか」
「そういえば何か夜警が最近夜は詰所にばかりいるな」
 ここでこの話も出て来た。
「それはそのせいか」
「夜警は夜の見回りが仕事だからな」
 だから夜警である、職業の名前通りだ。
「それはその女を見たくないからか」
「だから詰所にいるんだな」
「そういえば夜警の数が減ったな」
「首切ったんだな、女を見て」
 このことからもだ、噂がどうやら真実だということを察する彼等だった。真夜中の町に美女が出て来てその女の姿を見ると自分から首を切って死にたくなるという噂を。
「じゃあ本当にな」
「ああ、夜に町に出ない方がいいな」
「少なくとも真夜中にはな」
「死にたくないからな」
「剣呑なことだよ」
「全くだ」
 こうした話をだ、町の者達は集まると話してだった。実際に真夜中に町を歩く者は全くいなくなった。夜警達ですらだ。
 しかしその話を聞いてだ、皇帝であるナポレオンはこう大臣達に言った。
「妖怪がいるかどうかはともかくとしてだ」
「夜警が町を見回らないことはですね」
「あってはなりませんね」
「夜警はそれが仕事だ」
 だからだというのだ。
「ここはな」
「絶対にですね」
「ここはですね」
「その美女がいてもだ」
 ナポレオンもそうした存在は否定しなかった、ジャコバン的な考えが強く現実派であっても戦場にいるとこうした話は実によく聞くからだ。
「退治すればいい」
「そうして町の憂いを消してですか」
「夜警達をまた働かせますか」
「美女が怖いのならその美女を倒せばいい」
 実にナポレオンらしい言葉だった。
「それだけのことだ」
「ではその美女を倒す者は」
「誰でしょうか」
「まずはその美女のことを知ることだ」
 ナポレオンは冷静なまま述べていく、玉座において。
「それが出来る者には心当たりがある」
「その人物は誰でしょうか」
「一体」
「この者だ。すぐに仕事を頼む」 
 こう言ってだった、すぐに。
 フォブール=サンジュルマンのデュノ街十三番地にある古い家にだ、ナポレオンの命を受けた警官達が向かった。だが。
 警官達は町に向かう中でだ、こう話していた。
「夜に行けとはな」
「またおかしな話だな」
「ええと、依頼先はシラノ=ド=デュパンか」
「革命前は子爵位の家の嫡男だったんだな」
「貴族の出か」
「まだ若いらしいがな」
 そのナポレオンが言った男についてだ、彼等はいぶかしみながら話すのだった。
「仕事には就いていないのか」
「革命で家が落ちぶれ僅かに残った遺産で生きている」
「そして昼には外に出ず夜に出歩いている」
「また変わった男だな」
「そんな男があの町の問題を解決出来るのか」
「どうなのかね」
「いや、陛下が言われたことだ」
 ナポレオン、彼がだというのだ。 
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