美しき異形達

「頃合ね」
「タイミングね」
「それですね」
「そうね」
　また菊と桜に述べた。
「そろそろね」
「さて、どうなるか」
「向日葵ちゃんの技はどういったものでしょうか」
　それを見ようとする少女達だった、そして。
　向日葵は怪人の心臓のところに一撃を浴びせた、光の矢を。それは誰がどう見てもかなりのダメージだった。
　流石に怪人も動きを止めた、その彼を見つつ。
　向日葵はまずはだ、自分の頭上その斜め後ろ後頭部のところにだった。光の矢を放った。するとその光が。
　宙に浮かぶ壁となった、一メートル四方程の橙色に輝く壁だ。
　そしてその壁を浮かばせてからだ、向日葵はその壁の方に向かって跳んだ。
　バク転の要領で壁に向かって跳び両脚を揃えてそれを台にしてだ、今度は地上にいる怪人に対して跳ね返りで身体を仰向けにした状態になって急降下し。
　まずは右足で、続いて左足で交互に蹴った。その両足で繰り出した蹴りでだ。
　怪人を倒した、怪人の背中に浮かんだ符号は。
「アリオト」
「そうですね」
　智和の呟きにだ、菖蒲が応えた。
「あの符号こそが」
「力を使って倒したからね」
　その符号が出て来たというのだ。
「出たね」
「そうなりましたね」
「しかし」
　ここでまた言った智和だった。
「向日葵君の技も」
「見事ですね」
　菊もその向日葵の蹴りについて言う、唸る様に。向日葵は怪人の後ろに膝を屈めさせて着地していた。橙色の残像を残しながら。
「あの蹴りは」
「接近戦は素人と言っていたけれど」
「しかも運動神経はよくないって」
　確かにだ、向日葵は自分で言っていた。
　だが、だ。今の動きは。
「見事でした」
「君達と変わらない位にね」
「どうやら彼女もね」
「運動神経が覚醒したんですね」
「うん、どうやらね」
　智和もこう言う。
「そうなったみたいだね」
「だからあれだけの動きが出来た」
「そうだと思うよ」
　こう言うのだった。
「それ故にだよ」
「そうですね、それにしてもあの強さ」
「うん、頼りになるよ」
「そうですね」
　菊は半ば唸る様にして智和の言葉に頷いた。そのうえで向日葵も見ていた。薊と共に。
　向日葵は着地してからだ、起き上がってだ。
　振り向いてから自分に背を向けていた怪人に言った。見れば怪人もまた最後の力を振り絞って彼女に身体を向けてきていた。
　その怪人にだ、向日葵は微笑んでいた。そのうえでの言葉だった。
「私の勝ちね」
「うむ」
　それを認める返答だった。
「貴様は俺に勝った」
「その通りね」
「しかし」
「しかし？」
「見事な蹴りだった」
　先程のそれはというのだ。
「いい動きだった」
「さっきのあれね」
「まさかああして攻撃を放つとはな」
「ううん、考えたんだけれど」
　向日葵はこのことは悪戯っぽく笑いつつ言った。