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東方魔法録~Witches fell in love with him.

作者:枝瀬 景
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30 面子~On the other hand , in Scarlet Devil Mansion.

 
前書き
紅魔館って英語でScarlet Devil Mansionらしいです。違ってたら言ってください。マンションって元々は邸宅の意味で、日本で使われる意味合いとはちょっとずれているかもしれませんね。 

 
ガタン!

「むきゅ!」

いつものクセで座ったまま明希に寄りかかろうとしたけど、明希はいないから失敗して椅子から落ちてしまった。机の上の器材が無事なのは不幸中の幸いだ。

「……」
「大丈夫ですかパチュリー様?」

今は明希がいない。私の研究の為にとある鉱石を採りにいってもらっている。
その村はただの人間が住んでいて、翼が生えている小悪魔をお使いに出すのは厳しい。美鈴は門番から離れる訳にはいかないし、まさかレミィが採りにいくわけない。そこで明希が採りに行くことになったのだけど……

「むきゅーむきゅー!むきゅ~!明希ぃ~」
「禁断症状を発症しないでください!」

明希が出掛けて約3日。こんなに長い間明希と離ればなれになったのは初めて。物心付いたときから明希と会わない日は無かったのに…。

実はマロウの時でさえ、死んだと思ったら半日ぐらいで会うことが出来た。今回だって半日ぐらいで戻ってくるはずなのに…

「むー、きゅ~。むー、きゅ~」
「どこぞの米堕ー卿の呼吸音みたいに鳴かないでください…」

まるで薬が切れたように身も心も明希を求めて止まなくなってしまった。もしかすると明希には中毒作用でもあるのかもしれない。今度研究してみようかしら?

レミィに運命を覗いてもらったら、明希は魔法使いの掟に縛られる運命にあるらしい。人間の村で何かトラブルがあって帰れなくなったみたいだから心配ではあるけど、明希が死んだと勘違いしていたときみたいにはならないわ。むしろ明希を求めて止まないけど。

「紅茶でも飲んで落ち着いてくださいよ」
「カップが一個多いわよ」
「え…あ、そうでした…」

………………………………………
……………………………………
…………………………………

「一皿多いわよ美鈴」
「え…あ、そうでした」
「その受け答えはさっきやったばっかりじゃないですか…」

夕食、美鈴も小悪魔と同じような間違いをしていた。

「明希がいなくてなんだか調子狂うわね」
「レミィ、口に付いてるわよ」
「……………」

指摘したのにレミィは目を瞑ってじっとした。

「明希が拭くのを待ってるのかしら?」
「そ、そんなわけないじゃない!」

そう言ってレミィは慌てて口元をナプキンで拭いた。

明希がいなくて皆の調子が狂いっぱなし。明希が如何に私たちにとってなくてはならない存在であることを痛感する。

スプーンで食事を口に運ぶときもモグモグと口を動かすときも常に頭の中では明希のことばかり考えている。ああ、早く明希は帰って来ないかしら……















「――オホン。これより吸血鬼・レミリア・スカーレットとその仲間たちについての会議を始める」

とある何処かの部屋。そこでは軍服を纏った人狼達の姿があった。そこにいる全員の服には名誉のあるバッチやワッペンをところ狭しと飾り付けており、この人狼達の優秀さや勇敢さを物語っている。
そんな人狼達が円卓の席につき、憎き己が宿敵である吸血鬼について会議を始めていた。

「こやつはつい数十年前に現れたのにも拘わらず既に数百もの同胞がこいつの手により戦死してしまった…!」

その人狼の声は悔しさと、散っていった同胞への無念を代弁するかのように憤り声を震わせていた。
レミリアからしてみれば、勝手に襲ってくる火の粉を振り払っているだけなのだが塵も積もればなんとやら。そんな理由では済まない事態に達していた。全く、迷惑甚だしい。

「中にはチンピラや誇りを忘れたクズ供も数には含まれているが、それでも!彼らとて我らと同じ人狼だ。吸血鬼にやられたまま黙って見過ごす訳にはいかない」

その場にいる人狼全員がこの発言に大いに納得し、同意していた。中には吸血鬼への怒りで顔を歪ませ、強く握りこぶしを作っているものまでいる。

人狼は狼であるからこそ集団で行動し、独自の社会を作り上げる。彼らが大事にするものは誇り、名誉、仲間、そしてメンツ。例え、誇りや名誉を忘れて人狼社会を追放された者であっても、吸血鬼にやられっぱなしでは示しがつかないし、メンツが丸つぶれだ。こうなっては他の種族に舐められてしまう。

「議論の人物はレミリア・スカーレットだけではない。その従者、紅美鈴に眷属である明希・ヘルフィ・水原、魔法使いのパチュリー・ノーレッジ、使い魔の小悪魔。いずれもかなりの実力者だ」

正確には明希は眷属ではないし、妹のフランドール・スカーレットの名が無いのだが、そのことで紅魔館について情報を集めた者を責めることは出来ない。むしろ名前がわかっただけでも誉めるべきである。
紅魔館に足を踏み入れて生きて帰ってきた人狼はいないからだ。そのため人狼は紅魔館の内部を知らないし、地下に幽閉されているフランの存在を誰が知り得ようか。

明希が眷属でないことは、ズワイガニとタラバガニ程度の違いなのでたいして気にはしなくていいが、妹のフランドール・スカーレットの情報を掴めなかったのは痛いと言えるだろう。何故なら単純な破壊力だけなら彼女が一番なのだから。
実力者の中に小悪魔が入っているのは彼らが全員の戦闘力を把握出来ていないが故の勘違いでもあるが…あまり言わないでおこう。小悪魔がいじけてしまう。

「だが、泣き言を言っている暇はない。このままでは人狼のメンツは丸つぶれだ。そこで我々は……紅魔館へ宣戦布告を行う!!」

そうだ!我々の力を思い知らせてやる!そんな声が飛び交った。

「静粛に!……全面戦争するにあたってやつらに正面から挑むのは自殺行為だ。人狼の矜持には些か反するが、背に腹は変えられん。やつらの弱点を考えよう」

己の誇りを曲げてでも今は吸血鬼を倒さなければならない。そこまで事態が切迫しているということを切に訴えていた。

「朝に襲撃するのはどうだ?」
「それは無理だ。我々は月が出ていないと力が出ない。例え弱点の日光があったとしても月なくして我らに勝てる相手ではない」

人狼は月の満ち欠けによって強さが変わる。月が満ちれば満ちるほどその力は増していき、満月のとき人狼は無敵に近い強さを発揮する。しかし、朝や新月のように月が見えないときは人狼の強さは極端に落ちる。

その点、吸血鬼は日光は弱点ではあるが、弱体化はしない。例え人狼が朝に襲撃したとしても十分に力が発揮出来ない人狼には勝機はないのだ。

「ウーム、なればここは満月の夜を待つべきではないか?」
「いや…今すぐ攻撃を仕掛けるべきだ」
「……ほう、それはどのような理由からかな?」

その場に集まった人狼の中でも比較的若い人狼が今すぐに仕掛けるべきと提案した。ここに集まった人狼は勇敢で仲間思いの者しかいない。自分が考えるなかで最良で、人狼社会にとって、仲間にとって利となることだけを考える。若い人狼は決して自分が成り上がるために提案したのではない。

その事を十分にわかっているので、自分の考えを否定されたのに拘わらず満月を待つべきと発言した人狼は素直に若い人狼の意見を聞くことにした。

「俺が仕入れた情報によると、今の紅魔館には明希・ヘルフィ・水原がいないらしい」
「それは本当か!?」

敵が一人いない。これだけでチャンスになる。単純に戦力が減っているからである。もっとも、明希がいないことで紅魔館の住人のモチベーションが下がっていて、紅魔館を襲うにはこの上ない機械であることは彼らに知ることではないがチャンスに変わりはない。

「よし!今すぐに戦える戦士を集められるだけ集めろ!…待っておれ…今すぐにでも息の根を止めてやる。俺達のメンツに賭けて!!」 
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