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星の輝き

作者:霊亀
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第40局

 プロ試験第20戦。
 この日、上位陣同士の対局は、4敗の和谷対5敗の真柴、3敗の本田対7敗の足立、そして2敗の伊角対5敗の小宮で組まれていた。

 ここまでの上位陣の成績。

 塔矢 19勝。
 奈瀬 17勝2敗。
 伊角 17勝2敗。
 本田 16勝3敗。
 和谷 15勝4敗。
 辻岡 15勝4敗。
 真柴 14勝5敗。
 小宮 14勝5敗。
 足立 12勝7敗。
 飯島 12勝7敗。
 片桐 11勝8敗。


 和谷にとって、第19戦での奈瀬の敗北はかなり意外だったが、かなり助かったのも事実だった。奈瀬と片桐の両者とすでに対局していた和谷から見て、実力的には奈瀬が上にいるのははっきりしていた。それなのに奈瀬が落としたのだ。こんなにありがたいことはなかった。自分が負けていただけに、自分より成績がよい奈瀬の負けは助かる。

-ま、いくら調子がよくても、取りこぼしはあるってことだな。このまま勝ちまくられなくてほっとしたぜ。とはいっても、今日の奈瀬の相手は同じ院生の中村。中村じゃあ、奈瀬相手にはさすがに無理だろうな。今の奈瀬に院生下位が歯が立つとは思えない。だから、今日の俺の対局は大事だ。院生試合では俺が負け越してる真柴さんだけど、勝てない相手じゃない。残り8戦しかないんだ。俺は次戦が塔矢だから、1敗を覚悟しておかなくちゃならないんだ。ここで差を広げられるわけにはいかない。

 和谷は思いをかみ締めるように、碁盤を拭き清めた。


 4番手につけている本田も、必死だった。

-塔矢はともかく、奈瀬と伊角さんならまだまだチャンスはある。特に奈瀬だな。俺が24戦で当たって、伊角さんが25戦だ。ここの直接対決で黒星をつけられれば一気に逆転だ。俺はもう伊角さんとも塔矢とも終わっているからな。後はきっちりと勝ちきるだけだ。そうだ、まだまだいける!今日の足立に勝って、終盤戦に向けての勢いをつけるんだ!


 この日、和谷対真柴は真柴の勝ち。本田対足立は足立の勝ち。伊角対小宮は小宮の勝ちとなる。それ以外の上位陣は、順調に白星を稼いだ。







 第21戦。
 この日上位陣同士の対局は、7敗の飯島対4敗の本田、5敗の和谷対無敗の塔矢で組まれていた。

 飯島対本田の対局で、序盤、飯島は大なだれ定石を仕掛けてきた。大なだれ定石は初っ端から接触戦となり、変化が多く、非常に難解で難しい。プロの対局でさえ、研究してきた相手の新型にはまってしまうことがあるくらいだ。そのため、相手の仕掛けを避けて、簡易な形で打たれることも多い。
 しかし、本田はあえて受けてたった。

-俺はプロになるんだ。ここで挑んできた飯島相手に逃げるわけには行かない。俺だって大なだれは研究している。受けてたってやるさ!前回の負けは痛かったけど、伊角さんも負けてくれたんだ。ここで引くわけにはいかない!

 白の飯島は外マガリ型だった。お互いしっかり時間を使いながら丁寧に打ち進め、定石が終わろうかというほぼ最後、本田が中央に飛んで上辺を補強した黒の一手。その一手が敗着だった。飯島はすかさず、左辺の黒三子にカケる。その一手で、左辺の黒三子が死んだ。本来ならば黒の勢力となる一帯が白地となってしまったのだ。本田の顔色が一気に真っ青になった。

-本田は知らない形だったか…。前回足立に負けてあせっていたかな?最後の大寄せで間違って勝ち碁をひっくり返されたからな。俺が勝ち残る可能性は低い。だが、簡単に負けてやるつもりはないぞ。

 
 この日、飯島対本田は飯島の勝ち、和谷対塔矢は塔矢の勝ちとなった。
 そして、それ以外の上位陣に黒星がついた。足立が院生の高倉に負け、奈瀬が外来の畑中に負けたのだ。

 奈瀬の敗因ははっきりしていた。序盤で慎重になりすぎ、時間を使いすぎたのだ。その結果、中盤で秒読みに入ってしまい、畑中が仕掛けてきたコウ争いに負け、逆転となった。

-時間さえあれば、今日の碁は勝てたのに……。いえ、結局は言い訳ね。時間がなくなったのも自分のせい。これで伊角君と並んだ。でも、ここで踏みとどまらないとね。残りは6戦か……。
 





 第22戦。
 この日上位陣同士の対局は、7敗の飯島対8敗の足立で組まれていた。

 この日も飯島は大なだれ定石を仕掛けたが、足立は難解戦になるのを嫌い避けた。その結果、ゆっくりとした碁になり、勝負は終盤までもつれ、ヨセ勝負となった。

 この日、飯島対足立は足立の勝ちとなった。その他の上位陣に波乱はなかった。連敗をまぬがれた奈瀬と和谷は、ほっと息をついていた。

 ここまでの結果、上位陣の成績は次のようになった。

 塔矢 22勝。
 奈瀬 19勝3敗。
 伊角 19勝3敗。
 辻岡 18勝4敗。
 本田 17勝5敗。
 真柴 17勝5敗。
 和谷 16勝6敗。
 小宮 16勝6敗。
 足立 14勝8敗。
 飯島 14勝8敗。
 片桐 14勝8敗。

 残り5戦となり、対戦表を眺めながら本田は考えていた。

 ここまで奈瀬と伊角さんに注目が集まっていたけど、辻岡さんも負けないな……。やばいな、この人もう上位との対局が残っていないんだよな。23戦で片桐さん、26戦で小宮とあたるくらいか。残りを全勝されると23勝になって俺は追いつけない……。もう上位同士の対局も少ないもんな。24戦で俺と奈瀬。25戦で伊角さんと奈瀬。27戦で俺と真柴か…。






 第23戦。
 この日上位陣同士の対局は、4敗の辻岡対8敗の片桐、3敗の伊角対7敗の飯島で組まれていた。

-今日の片桐君は、負けが嵩んでいるとはいえかなりいい碁を打つ。決して油断はできないな。

 初手を打った辻岡は、いったん控え室に戻り高ぶる鼓動を沈めていた。

-あせっちゃいけない。平常心だ。平常心でなければ自分の碁は打てない。まず落ち着くんだ。



 飯島は今日も伊角を相手に大なだれを仕掛ける気でいた。

-もうこうなったらとことん引っ掻き回してやるさ。伊角さんには普通に打ってもなかなか勝てるチャンスはないからな……。形によっては新手を仕掛けてやる。そこで伊角さんが間違えれば儲けもんだ。

 伊角は仕掛けられた大なだれは無難にしのいだ。だが、そこから発生した上辺での戦争で痛恨の読み間違いを犯した。その結果、右上角が死に、碁は終わった。 

 この日、辻岡対片桐は辻岡の勝ち、伊角対飯島は飯島の勝ちとなった。伊角が一歩後退。それ以外の上位陣は問題なく勝ちとなった。

 この結果、片桐は14勝9敗。残りが4戦のため、3位以内に入る可能性が消えた。








 第24戦。
 この日上位陣同士の対局は、3敗の奈瀬対5敗の本田で組まれていた。

 序盤から、お互いの小目にカカッテ来た石を挟み合う乱戦になった。

-乱戦上等!負けないわよ!

-調子がいいとはいえ、奈瀬相手には俺が勝ち越してるんだ!負けるわけにはいかない!

 互いが互いの薄みをついていく激しい争いになった。しかし、右辺の争いが奈瀬有利に分かれた段階で、形勢は奈瀬に傾いた。

-よし。これで下辺に向けて私が有利になった。地合いも大丈夫。このままでいける!

-くそっ!奈瀬がここまで強くなってるなんて。……。だめか、逆転の余地が……。

 半ば勝負をあきらめかけていた本田が打ったアタリを奈瀬はあっさりとツグ。その手を見て本田は驚愕した。

-えっ!ツギ!!

 その本田の驚きを目にして、奈瀬が改めて自分の打った手を見た。

「あっ!」

 思わず漏らしてしまった声に周囲の視線が集まったが、奈瀬はそれどころではなかった。

-あああっ!そこ、ダメが詰まったらっ!ばかっ、何でそんな手を打ったの私っ!

 そう。奈瀬が手拍子に受けたその手。本田が次の手を間違えなければ、大切なタネ石が死んでしまうのだ。通常であればありえないレベルのミス。いくら乱戦とはいえ、あまりにひどい見落とし。奈瀬は自分が打ったその手が信じられなかった。そして、本田も落ち着かないまま、正しい応手を打ち、奈瀬の石をしとめた。

 この日、奈瀬対本田は本田の勝ちとなった。それ以外は大きな波乱はなく、上位陣は白星を稼いだ。
 

 この日の全員の勝敗が確定した時点で、ここまで24戦全勝の塔矢アキラのプロ棋士採用試験合格が決まった。2番手の成績が、20勝4敗の奈瀬と伊角と辻岡の3人。その結果残り3戦で追いつける人間がいなくなったのだ。

 そして、残り3戦を残してのアキラの合格を横目に、16勝8敗の成績となった足立と飯島に3位以内に入る可能性が消えた。






 
 
 第25戦。
 この日上位陣同士の対局は、4敗同士の奈瀬対伊角で組まれていた。

-私は、どこかでプロ試験を勝ち抜いた気になっていたのかもしれない。まだ結果が出ているわけでもないのに、なんてうぬぼれだろう。こんなんじゃだめ。ヒカル君に鍛えてもらったんだ。ちゃんとした結果を残すんだ!

 奈瀬対伊角の対局は、一進一退の緊迫した碁になった。互角の布石から、いったん奈瀬がややリードしたものの伊角の巧手で盛り返し、碁は終盤を迎えていた。


-よしっ!このままでいけば半目残る!いけるっ!

-……半目足りない。だめだったか。去年とは比べ物にならないくらい強くなったな、奈瀬……。

 そのまま互いにミスなくヨセも終わった。この日、奈瀬対伊角は奈瀬の勝ちとなった。

 そして、小宮が外来の北原に負けて7敗目となり、3位以内に入る可能性が消えた。そのほかの上位陣は無難に下位の者を下した。

 その結果、上位陣の成績は次のようになった。

 塔矢 25勝 合格確定。
 奈瀬 21勝4敗。
 辻岡 21勝4敗。
 伊角 20勝5敗。
 本田 20勝5敗。
 真柴 20勝5敗。
 和谷 19勝6敗。

 残り2戦。勝ち残りの枠は2枠。
  
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