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万華鏡

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第七十四話 冬化粧その十三

「髪の毛は一日一回位でいいでしょ」
「洗うのはね」
「お風呂の時に洗うから」 
 だからこれから髪を洗うのはいいというのだ。
「櫛で整えるから」
「ならそうしなさい。そのままじゃあまりよくないから」
 つまりみっともないというのだ。
「だからね」
「そうするわ、櫛でね」
「それじゃあ幽霊みたいよ」
 母は笑ってこうも言った。
「本当にね」
「幽霊って」
「そう、そんな感じよ」
「じゃあ着物着たらよね」
 琴乃は冗談で手をその幽霊の姿勢にさせてみせた、両手をだらんと曲げて少し前に出してみせたのである。
「今の私幽霊になるのね」
「なるわね、完全に」
「やれやれね」
「髪は長いとね」
「そうなりやすいわね」
「そう、だからね」
「御飯食べたらね」
 それからだと言う琴乃だった。
「歯を磨いてお顔も洗ってね」
「髪も整えてね」
「そうして学校に行くから」
「途中こけないでね」
 母は今度はこう言ってきた。
「道、危ないわよ」
「雪で滑って」
「雪道には慣れてないでしょ」
「慣れる筈ないじゃない」
 これが娘の返答だった。
「神戸にいるのに」
「そうでしょ、だからね」
「早めに出た方がいいわね」
「だから早く食べなさい」 
 こう言いながら母が出してきたものはというと。
 お茶漬けだった、琴乃はそのお茶漬け、梅のそれを見てから母に問い返した。
「朝これなの」
「おかわりいる?」
「おかわりはいいけれど」
 それでもだとだ、母に言う言葉は。
「朝にお茶漬けって珍しくない?」
「気分でなのよ」
「それでこれにしたの」
「あっさりと早く食べられるでしょ」
「ええ、確かに」
「だからね。それさっと食べてね」
 そうしてというのだ。
「身支度して行きなさい」
「それじゃあ」
「勿論おかずもあるわよ」
 おかずはほうれん草のひたしにメザシだった、それに海苔と豆腐の味噌汁もある。
「それも食べてね」
「学校ね」
「ええ、行きなさい」
「それじゃあね」
 琴乃は母の言葉に応えてだ、そしてだった。
 そのお茶漬けにおかずも食べてだ、身支度も整え。
 家を出て学校に向かった、道は一面雪だった。普段はアスファルトの黒に近い青の道も今は純白の絨毯だった。
 その絨毯の上を身長に進めてだ、何とかだった。
 バス停まで着けた、そして。
 そこからバスで学校に行った、そのバスの中で親しいクラスメイトと会ったが彼女とする話は。
「昨日凄かったよね」
「そうよね」
 まずはこうしたやり取りから話をはじめた。
「大雪でね」
「動けなかったわね」
「ちょっとね」
「学校もお休みだったし」
「バスも電車も動かなかったからね」
 これではどうしようもないということについての話だった。
「ちょっとね」
「有り得なかったわね」
「だから私ずっとお家にいたわ」
「私もよ」
 二人共だった、もっともこれはどの生徒も先生もだが。
「お風呂入ってゲームしてたわ」
「お酒も飲んだでしょ」
「そっちもね」
「私もよ」
「ああ、あんたもなの」
 まさに二人共だった、二人でバスのつり革を掴んで立ちながら話をする。
「飲んでたの」
「だって他にすることないでしょ、ゲームしながらね」
「あっ、私そっちは違ったから」
「飲みながらはしなかったの」
「別々だったの」
 琴乃はそうして飲んでいたこともクラスメイトに話した。
「そうしてたの」
「ふうん、そうだったの」
「けれどね。それでもね」
「お外には出られなかったでしょ」
「どうしてもね」
 このことはだった。
「雪かきには出たけれど」
「琴乃ちゃん雪かきしたの」
「うん、家族皆でね」
「そうだったの、私はね」
 クラスメイトはどうだったかというと。
「それはしなかったわ」
「そういえばあんたのお家ってマンションだからね」
「そう、中に雪は入ってこなかったから」 
 外からマンションの中の部屋を行き来する際の通路にというのだ。
「入って来なかったからね」
「だからなのね」
「そう、ただお風呂入ってお酒飲んでね」
「ゲームしてたのね」
「それだけだったわ」
「そうだったのね」
「うん、かなり退屈だったわ」
 昨日は、というのだ。
「いや、一日何も出来ないっていうのもね」
「退屈よね」
「そうよね」
 二人でこうした話をしながら登校する、雪は止んだとはいえ何十センチも積もっている。バスはその雪の中をゆっくりと進んでいた。


第七十四話   完


                         2014・3・25 
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