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ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~

作者:蕾姫
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悔恨の黄昏

 
前書き
アリシゼーション編に突入ー。急展開に御注意ください。 

 
六月。春も終わり、夏に入りかけ、その暑さが気になり出したとある金曜日のことだ。

俺は相変わらず肩にユウキのプローブを付けて駅前でボーっと人の波を見ていた。

というのも詩乃に夕食に呼ばれたのだ。少々遠いのだが、たまにこうして金曜日に呼ばれ、土曜日にデートをして帰るということをしている。

今回はユウキも一緒に呼ばれた。

「現実のしののんに会うのは久しぶりだなー」

肩のプローブから声がすると周りを歩いていた人々がぎょっと目を見張る。ついでに言えばこんな変な機械を付けているからか注目の的であった。やはり鬱陶しい。

陽気に喋るユウキに相槌を時折挟みながら、待ち合わせ場所である駅前で詩乃を待った。

「あ! あれ、しののんじゃない?」

それから数分後、ユウキの声を聞いてキョロキョロと辺りを見渡すとこちらに向かって歩いてくる詩乃を見つけた。あちらも俺の姿を見つけたらしく、嬉しそうに微笑むと手を振ってくる。

こちらも手を振り返すと詩乃に向かって歩き出す。

その時だった。詩乃の右後ろにあった路地の影から誰かが飛び出して来たのは。

最初、フードを被っていたその男だったが、走る過程で風圧によりフードが取れた。

ボサボサの髪の毛。血走った目。そして包帯の巻かれた顔、といった姿だが、俺はやつを知っている。詩乃のことを恋慕し、狂気に囚われて殺人に走ろうとした。その名前を新川恭二という。

その手に握られているのは以前彼が持っていたもの。機能性を追求した鈍く光る注射器。

その針の切っ先を詩乃に向けて一気に迫っていく。

こちらを見て嬉しそうな詩乃は全く気づく様子がない。

「チッ……」

一つ舌打ちすると俺も詩乃に向かって走り出す。新川恭二は足を引きずっていて俺に比べて走るスピードはかなり遅い。だが、距離は圧倒的にあちらの方が近い。

粘ついた笑みを浮かべた新川恭二。このままでは間に合わない。

「しののん! 走って!」

ユウキは新川恭二の起こした事件を知らないはずだが、俺の様子と新川恭二自身が浮かべる笑みにただならぬ予感を抱いたらしい。

詩乃は不思議そうな顔をしつつも素直にこちらに向かって走り出す。

ユウキの指示は的確だった。もし、具体的な指示ではなくもっと曖昧な「逃げて!」や「危ない!」だったらすぐに詩乃は追いつかれていただろう。

そしてようやく詩乃が俺の元にたどり着く。しかし、そのすぐ後ろには新川恭二がいた。

詩乃を迂回していては間に合わない。

……やむを得ないか。

俺の元にたどり着き、疑問の表情を浮かべながら後ろをみようとする詩乃にスピードを多少殺しながら抱き着く。

「り、燐!?」

詩乃から驚きと恥ずかしさの篭った声が出るが構っている暇はなかった。

ダンスの要領で自分と詩乃の位置を入れ替える。

その直後……鋭い痛みが背中に走った。

「……っ」

その痛みに顔を多少歪めつつ、詩乃を放して振り返る。

目に入った顔は元々浮かべていた粘っこい笑みが多少歪み、怒りの表情になっていた。

「邪魔をするな! なんで、、なんで、なんで、なんで、いつも、いつも、いつも、いつも、イツモ、イツモ、イツモ……」

壊れたレコードのように同じ単語をブツブツと呟きながら手に持っていた空の注射器を投げ捨てると懐から新たな注射器を取り出す。

「退けぇぇぇぇ!!」

「詩乃、下がれ」

突き出された注射器を持った腕を下からの手刀で弾く。手首の部分に当て、瞬間的に握力を奪い、注射器を落とさせた。

そして、新川恭二の懐に入り込み襟首と手首を握りしめる。

少し押してバランスを崩させたところで手首を返し、俺の背中を相手の腹に付け、そのまま背中を基点にして新川恭二を投げ飛ばした。

途中で手を離し、威力を増幅させるのも忘れずに。

「ユウキ、すまんが救急車と警察を……」

新川恭二が動かないのを確認したあとユウキに話し掛ける。

動いたせいで薬が回ったのかクラッとした。心なしか息が苦しい。

「今呼んでるから!! あの薬ってなに!?」

ユウキの悲鳴の様な声も遠くから聴こえてくるように思える。

「おそらく……サクシニルコリン……だと」

胸にトンと軽い衝撃が走ったのでそちらに目を向けると、そこには瞳一杯に涙を溜めた詩乃の顔があった。

それを見たのを最後に意識が暗転した。















〈Side 朝田詩乃〉

幸せだった。

燐と出会ったのは私が殺人犯とか言われていじめられていた頃だ。

最初は結構積極的に話し掛けてくる燐を冷たくあしらっていたのだけれど、何度も庇って貰って、何度も話し掛けて貰って……。あの時は素直に慣れなかったけれど本当は好きだったと。

……その時な好きが恋愛感情なんかじゃなくて単なる自己防衛のための拠り所だったんだろうけど。

それが恋愛感情に変わったのは燐がソードアート・オンラインに囚われてからだ。

燐と話せなくなって、燐と触れ合えなくなって初めて確信した気持ち。釣り合わないから捨てようと思っても捨てきれない。

ソードアート・オンライン事件での死者が増えるに連れて次は燐じゃないかって思って人知れず泣いていたあの時。

失ってから気づいたことだ。

燐は強かった。ソードアート・オンラインをクリアして無事に帰還して、自身の両親との問題を解決して……さらには私の過去に絡む死銃事件を解決し、私を過去の亡霊の呪いから解き放ってくれた。

強くて、優しくて、自分から進んで裏から支えてくれる人。自分は英雄なんかじゃないって言ってるけれど、私の中では燐は英雄だ。

……撃墜された私が言うのもなんだけど、英雄色を好むって言うからか燐の周りには私も含めて三人も彼女がいるけれど。

ユウキもある意味で助かったし、これから皆で幸せな人生を歩める……そう無邪気に信じていた。

でもそれは。

燐が私をかばって刺されたことで泡沫の夢と消えた。

待ち合わせの時間に合うように駅に向かっていた金曜日。

夕飯をなににするかとか明日なにをして遊ぶかとか、これから来る楽しい時間を心待ちにしつつ、駅前にいた燐と目が合ったので手を振った。

早足になりそうな気持ちを抑えつつ、燐に向かって歩いていると突然ユウキの鋭い声が耳に響いた。

「しののん! 走って!」

「へ?」

間抜けな驚きの声が漏れる。

思わず燐の顔を見ると無表情ながら焦燥の色を滲ませた顔でこちらに向かって走り出していた。

訳がわからないが、とりあえず指示に従おう。そう思って私は走り出す。

間の距離が少なくなり、私は走るのをやめたが燐はそのまま私にぶつかってきて、そのまま抱きしめられた。

服の上から見ただけではわからないが、しっかりと引き締まった彼氏の胸元と、背中に回された腕、この場が公共の場所であることもあって疑念はすぐに消失し変わって私を支配したのは恥ずかしさだ。

「り、燐!?」

思わず声をあげてしまったが、燐の返答はなくダンスのように位置が入れ代わったのが辛うじて理解できた。

すぐに離され、振り返った燐の背中から見えたのは、かつての友人にして死銃事件の犯人の一人であり、現在は裁判中であるはずの新川くんが手に持った空の注射器を投げ捨てるところだった。

空の注射器と燐の行動から容易に事情が飲み込めてしまう。

「あっ……ああ……」

「詩乃、下がれ」

そんな時でも燐は冷静だった。

自分のことよりも私を守ることを優先して。

結局、私が動けたのは燐が倒れた後だった。

それも、何も出来ずただただ燐に縋り付いて泣くだけ。

救急車で病院に運ばれていく燐を見送りながら、私はその場にへたりこむことしかできなかったのだ。 
 

 
後書き
はい、前書きでも言いましたが、アリシゼーション編に突入しました。

どうも蕾姫です。

多分初となる詩乃視点を絡めてみました。ずっと燐視点の一人称だったからかなり心配です(笑)

アンダーワールドに飛び込む方法として何通りか考えたのですが……なかなかピンと来なくてですね。もう、いいやと新川クン再登場。脱獄すると罪が重くなるじぇ……。しかも殺人未遂とか。

余罪を羅列すると
殺人未遂、殺人教唆、暴行、恐喝、盗難、危険物所持……etc.

アメリカとかの罪が累計するという法律があったら懲役何年行くんだろう……。

詳しくは知りませんから間違ってたらごめんなさい。

まあ多分、この作品の新川クンはもう娑婆に出てこないので気にしないでください。

次回から本格的にアリシゼーションに入ります。ちなみにキリト君も出てきますよー。大分あとになるけど。

感想その他お待ちしていますね。

ではでは 
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