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勇者達

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第三章

「奴等を攻めよ」
「そうすれば長老が」
 捕虜になっているならだ。
「何をされるかわかりませんが」
「本当に」
「その場で殺されます」
「そうなります」
 人質は役に立たなければそうされる、それが謀略というものだ。
「ですからその様なことは」
「ここは誰か若い者を行かせましょう」
「強い者を」
「強いのならそれこそじゃ」
 長老は強いという言葉に対して微笑みで答えた。
「わしが行くべきじゃな」
「それなら余計にですか」
「長老がですか」
「そうじゃ、わしのことは知っておろう」
 実は長老は村で一番の魔術の使い手でありしかもレイピアや弓矢といったエルフが得意とする武器の使い方も見事だ、魔法剣士として数多くの冒険にも出て来た。
 それでだ、こう言ったのである。
「例えゴブリン達の中にあってもだ」
「やられることはない」
「そう仰いますか」
「御主達が攻めてもじゃ」
 ゴブリン達が約を違えてどんな要求をしてきてもだ、そうしろと告げたうえでの言葉だった。
「わしは中からあ奴等を倒してくれるわ」
「逆にですか」
「そうされますか」
「安心せよ、わしは死なぬ」
 決してだというのだ。
「何があろうともな」
「では、ですか」
「話に行かれますか」
「そうしてくる。ではな」
 こう応えてだった、長老はゴブリン達との話に応じ単身その陣地に向かった。礼装でしかとした背筋で赴いた。
 それでゴブリン達の首領の前に来た、陣地の中は人相が悪く醜い武装したゴブリン達で囲まれていた。黒い小鬼達だった。
 首領も同じだった、彼は卑しい顔で長老を見つつ言った。
「よく来た、しかも一人か」
「文の通りにな」
 一人で来たとだ、長老も答える。周りは既にゴブリン達に囲まれているが臆することも動じたところもない。
「そうさせてもらった、それでだ」
「話のことか」
「うむ、どういう要件か」
「要件?そんなものはない」
 首領は下卑た、まさに質の悪い者そのものの顔で言ってきた。
「森を貰おう」
「森とか」
「そうだ、この森をだ」
「それが要件か」
「だから要件ではない」
 それですらないというのだ、首領は。
「これは命令だからな」
「面妖なことを。森は誰のものでもない」
「皆のものとでもいうのか」
「我等エルフだけのものではない、森の全ての者だ」
「いや、俺達のものになるのだ」
 ゴブリンである彼等のだというのだ。
「これからな」
「そのことをわしに告げに来たのか」
「森を寄越せ」
 その全てをだというのだ。
「寄越さぬ場合は実力行使だ」
「断ると言えば」
「御前を捕らえる」
 そしてだというのだ。
「そのまま御前を人質にしてエルフ共に森を引き渡す様命じる」
「それも断ると言えば」
「皆殺しだ」
 首領の返事はあらかじめ決まっているものだった。 
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