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不細工な王様

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第四章

「それであまりしません」
「睡眠時間も長いね」
「しかもいいものを食べてるね」
「宮廷のお仕事は大変だと聞いてましたけれど」
 だがそれでもだった。
「よく寝てよく食べて」
「太ったっていうんだね」
「そう言うんだね」
「三キロ太りました」
 このことは本当のことだ、アズチェンナは宮廷に入ってから食べて寝て満足して三キロ太ったのである。
「衣食住はかからなくてお金も溜まってます」
「日本の宮廷じゃこうはいかないよ」
「とてもね」
 日本の宮廷の方が給与はよく食事もいいだろうがそれでもだ。
「あそこはね」
「こんなものじゃないからね」
「ああ、日本はそうですよね」
 アズチェンナも日本の宮廷のことはわかる。四千年の伝統を持ち竹のカーテンで覆われた絶対の世界の中のことは。
「あそこは物凄く厳しいですよね」
「日本の皇室の教育は厳しいからね」
「もう箸の上げ下ろしなんてレベルじゃないから」
「爪の長さなんてゼロコンマ一ミリの単位でチェックされて」
「朝も夜も大忙しで」
「いつも代々宮廷にお仕えしている女官長が目を光らせていてね」
 ケベックの宮廷にも女官長はいる、しかし至って優しい人だ。
「服にも埃一つ付いているといけない」
「アイロンがけも完璧にしないといけないから」
「身だしなみは連合軍レベル」
「しかも二十四時間、寝る姿勢まで決められている」
「あそこは特別だよ」
「鬼があちこちにいて見張ってるしね」
 無論本物の鬼ではない、鬼の様に厳しい人達がというのだ。
「皇室の方々も大変だよ、あそこは」
「その鬼達のチェックはあの方々にもいくからね」
「だからあそこまで生活が整っているんだろうけれど」
「こことは全然違うよ」
「本当に鬼が一杯いるから」
「三キロ太るなんてね」
 夢物語だというのだ、日本の宮廷にいる人間は太った人間が一人もいないというのはジョークではなく本当のことだ。
「有り得ないからね」
「とてもね」
「ケベックの王宮は元々こんな雰囲気らしいですけれど」
 和やかで穏やかな雰囲気だというのだ。
「今の王様はですね」
「ああしてね、温厚でね」
「しかも質素で何でもご自身で為される」
「そうした方だよ、威張らなくてね」
「国民を大事にしているよ」
「そうですね、とてもいい方ですね」
 まるで菩薩の様にとだ、アズチェンナは自分が信仰している仏教の仏を思い出した。その菩薩とは弥勒菩薩である。
「本当に。じゃあ」
「じゃあ?」
「じゃあっていうと?」
「あっ、何でもないです」
 自分で思ったことはここでは言わなかった。
「お気になさらずに」
「そうなんだ、まあとにかくね」
「陛下はそうした方だからね」
「皆陛下がお好きなんだ」
「とてもいい方だから」
「そうですね、私もです」
 かく言うアズチェンナもだった。
「陛下が好きです」
「ただ、好きになっても陛下は王妃様一筋だからね」
「浮気とかもされないよ」
「その辺り街の軽薄男とは違うよ」
 こうした男は何時でも何処でもいる、そして時折女性問題だの男性問題だの金銭問題なのでブスリといかれる。 
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