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梅と共に

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第二章

「悲しくなるから。泣かないで済むから」
「だからなのね」
「私今は梅見る、ひいお祖母ちゃん私が泣いたらいつも悲しい顔になったから」
「ひいお祖母ちゃんを悲しませない為にもなのね」
「ひいお祖母ちゃんにはいつも笑顔でいて欲しいから」
 だからだというのだ。
「私今は梅を見るから」
「そうしてなのね」
「泣かない、絶対に」
 そうするというのだ。
「ひいお祖母ちゃんの為にも」
「そうね、私達が泣いたらね」
 母も笑顔になった、娘の言葉を聞いて。
 そうしてだ、こう言うのだった。
「ひいお祖母ちゃんも悲しいから」
「笑うから、私」
 こうした時こそだとだ、妙子はまだ幼いながらこう母に言ったのである。
「そうするから」
「そうなのね」
「うん、じゃあ今はね」
「お母さんも一緒にいるわ」
 母は微笑みになって娘に言った。
「ここにね」
「一緒に梅を見てくれるの?」
「ええ、そうするわ」
 今はだというのだ。
「一緒にね」
「うん、じゃあね」
 こうして妙子は母と共に曾祖母が亡くなった時も梅を見た、夏の中の梅は暑い日差しの中で立っていた。
 妙子が小学校に入った時に妹が生まれた、しかしその妹はやんちゃでいつも彼女に悪戯をした。それで小学五年の時に。
 部屋の中で妹と一緒に遊んでいる時にふとその妹に噛まれた、それで怒ったが。
 この時も庭に出て梅を見た、冬で梅も庭も全て雪に覆われている。
 その雪で白くなっている梅を見ながら立っていた、その彼女に。
 妹の妙美、幼い時の妙子にそっくりの彼女が来てこう言ってきた。噛んだ本人が。
「お姉ちゃん何してるの?」
「梅を見てるのよ」
「この木を?」
「ええ、そうよ」
 そうしているというのだ。
「今はね」
「私が噛んで怒らないの?」
「怒ってるわ」
 それは確かだというのだ。
「今ね、とてもね」
「けれど私に怒らないの」
「怒っているから見るの」
 梅をだというのだ。
「私この梅を見ていると怒りが収まるから」
「それでなの」
「怒ったら駄目だから」
 何故駄目かもだ、妙子は妙美に話した。
「そうしたら優しくなれないから」
「だから今は梅を見て」
「優しい気持ちになるの」
 怒っている顔からだというのだ。
「そうなるから」
「じゃあ私は」
 ここで妙美は反省した、自分が姉を噛んだことを。
「お姉ちゃんみたいに」
「私みたいに?」
「優しくなるから」
 こう姉に言うのだった。
「怒らないで」
「そうするのね」
「私もう噛まないから」
 今自分がしたことをだというのだ。
「誰にもね」
「そうするのね」
「他の悪いこともしないから」
 姉と同じ木を見つつだ、妙美は言うのだった。 
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