| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

宇宙を駆ける一角獣 無限航路二次小説

作者:hebi
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三章 二話 スカーバレル幹部総会

 
前書き
今回はスカーバレル回。
白野、ギリアスの出番は無い。 

 
スカーバレル本拠地 人工惑星ファズ・マティ

エルメッツァ中央宙域の辺境、メテオストームという天然の防壁に守られた人工惑星ファズ・マティにエルメッツァ各地に散っていた宇宙海賊スカーバレルの幹部達が手下の艦隊を率いて続々と終結しつつあった。
その顔ぶれは、エルメッツァの保安担当部隊が見れば卒倒は確実と言えるほど極悪犯罪者達で埋め尽くされている。
罪状は殺人に始まり窃盗、強姦、誘拐、公的施設の不法占拠などなど多岐に渡る。
そんなある意味そうそうたる顔触れの中に、一際目立つ二人の男がいた。
一人は筋骨隆々のゴツい男。もう一人はその相方とは対照的にヒョロヒョロとした感じの男である。
ゴツい方が【ドミニコ・ルース】。ヒョロい方が【キト】。白野とギリアスとワレンプス大佐の三人によって完膚無きまでに叩きのめされたネージリンス方面のスカーバレル海賊団唯一の生き残りである。もっとも実力というよりは運によって生き残ったというほうが正解なのだが、運も実力の内という結果論を用いるのならばユニコーンから逃げた延びた数少ない海賊のうちの一つにカウントされることになるだろう。
あの後この二人はワレンプス大佐の敷いた厳重な警戒網を運と実力と勘とで突破し、白野達と似たり寄ったりのルートでこのエルメッツァ中央へと逃げ込んで来たのである。

「いやーそれにしても壮観でゲスね〜親ビン」

ドミニコの腰巾着であるキトはファズ・マティのドックを見て感嘆の声を漏らす。それもそのはず、ファズ・マティに集まって来たスカーバレルの幹部達は他の幹部への見栄もあって統制可能な艦船は全て連れて来たのである。
ドックにはスカーバレルでもっともポピュラーなジャンゴ、フランコ水雷艦を手始めに実力派の愛用するオル・ドーネ級巡洋艦や幹部仕様のゲル・ドーネ級、果てはカルバライヤの重巡洋艦バゥズ級まである。

「まったくだ。やっぱり俺たちスカーバレルは最強だな!」

「そうでゲスね、親ビン」

ある意味幸せな連中と言えるだろう。



人工惑星ファズ・マティ アルゴン・ナバラスカの広間

スカーバレルの幹部が一人、アルゴン・ナバラスカは義兄弟たるやはりスカーバレルの幹部のバルフォスや他の幹部達と酒を飲み交わしつつ今後の展望について討議する…というよりも互いの願望をやり取りしていた。
もとより一枚岩などという状態からは程遠い海賊達である。しかも深刻な脅威にさらされたわけでもなく、エルメッツァ政府軍は依然として骨抜き状態であるため彼らの注意喚起を促すような要素は何も…

「ときにバルフォス。我が手下の間に不愉快な噂が流れているのは知っているか」

酒を飲むバルフォスに語り掛けたのは一同の中でも最年長と思われる白髪の老人である。座っている席が上座であることからこの老人はスカーバレル幹部のなかでも高い地位にいることがわかる。

「いや」

答えるバルフォスの声は硬い。それを聞いて老人は手下の間で流れている噂が事実であると確信したようである。

「お前さんが子供にしてやられたという話だ」

それを聞いて、他の幹部達がザワザワと騒ぎ始めた。

「なんと…」

「どういうこった?」

「子供に?冗談だろ」

否定的な囁きが多い。バルフォスは面目が潰れたと思ったのだろう。渋い顔をしていた。

「そうむくれるなバルフォスよ。お前さんはまだ生きているのだからその小生意気な小僧を叩き潰し機会を失ったわけではあるまい。そやつが仮に我らに再び牙を剥くというのならば今度こそ身の程を知らせてやれば良いではないか」

この老人、どうやらスカーバレルで相当な影響力を持つ人物のようである。荒くれ者の集まりであるスカーバレル、そしてその幹部連中が完全に一目置いている。
彼が話しているときは他の幹部もザワザワと騒ぐのをやめて話に聞き入っているのだ。狡猾で有名なアルゴンですらそうである

「儂の手下を使うがよい。罠を張り小僧を仕留めるのだ」

「感謝する、ロデリック老…」

「うむ、うむ」

ロデリックと呼ばれた老人は頷き、好々爺のような表情を浮かべて一同を見回した。

「さあ、兄弟達よ。我らスカーバレルの力を生意気なエルメッツァの軍人どもや0Gドッグ共に見せつけようではないか」

そして、酒の入ったグラスを掲げた。一同もそれに続く。

「乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」

彼に合わせ、他の幹部達も唱和する。海賊達の宴が始まった。



人工惑星ファズ・マティ 内部

ファズ・マティには海賊が必要とするありとあらゆる設備が揃っている。酒、女、賭け事に麻薬。その他にも人目を憚る快楽を得る手段が多種多様に入り乱れているが、ネージリンススカーバレルの生き残り、ドミニコとキトは残念ながらまだ下っ端なのでどれも無縁であった。
ネージリンスから這々の体で逃げ帰って来た彼らの新たな親玉となったのはエルメッツァ中央で勢力を振るうスカーバレルの幹部、アルゴン・ナバラスカである。
そして、彼が取り仕切る拠点で海賊幹部の総会を行う以上、幹部やその手下への接待は遅滞なく行わねばならない。
アルゴンの手下は現在フル回転で人工惑星内部を駆け回りコンパニオンの真似事に従事していた。

「酒が足りねえぞ!」

「ただいまでゲス!」

「クスリくれぇ」

「はいはいただいまでゲス」

「おんなはどこだぁ!?」

「向こうの部屋でゲス!」

このようにコンパニオンに甘んじているのはドミニコの腰巾着のキトだけであったりしたのだが。

「おい、キト」

一仕事終え、人工惑星内に無数にある酒場の一角で無聊を囲っている彼にとっての親ビンであるドミニコの元に戻ったキトは暗い顔のドミニコに一つの提案をされた。

「さっき幹部達から俺たち下っ端に連絡があった」

「なんでゲス?」

「このファズ・マティに攻めてくるかもしれない奴らがいるらしい」

「ここにでゲスか?そんなバカな…ここは天然の要塞でゲス」

「そうだな。だが、その攻めてくるかもしれない奴らはバルフォスの旦那を倒したらしい」

「マジでゲスか!?……まさか!」

キトの脳裏に浮かんだのはネージリンスで彼らの仲間を一切の容赦無くタンホイザに叩き込んだ彼らにとっては銀色の衣を纏った死神にも等しい存在のことである。
だが、ドミニコはそれを否定した。

「ネージリンスで俺たちを潰した奴じゃない。旦那がやられた日時と俺たちがネージリンスで【勇敢に戦った】時と時期が被るからな。だから、あのバカデカイ銀色の船じゃない」

「そうなんでゲスか…ふぅ」

「そこで話は戻るがよ、俺たちでその攻めてくるかもしれない奴を倒せば…」

「この雑用に追い回される日々から解放されるというわけでゲスか!流石親ビン!」

「シッ!声を下げろ。他の連中に聞かれたら抜け駆けされるじゃねえか」

「ヘイ」

二人の下っ端海賊は酒場の隅っこでコソコソと密談を始めた。彼らがスカーバレルで栄達を図るにはそれ以外に方法はあるまいというわけである。



ファズ・マティ ドック

悪巧みを計画した悪党二人はさらに下っ端の下位構成員にコンパニオンの仕事を押し付けて自分達のの艦【デスペラード】の艦橋に篭り、ファズ・マティ周辺宙域の航路図を見て謀議を行っている。

そんな巡洋艦デスペラードからかなり離れた位置に、スカーバレルの幹部が一人バルフォスの新造艦、カルバライヤの重巡洋艦【バゥズ級】が係留されておりノーマルカラーからバルフォスのパーソナルカラーである黒に塗り替える作業が下っ端海賊を酷使して昼夜を通して行われている。
バルフォスをエルメッツァ宙域のラッツィオで撃ち破った0Gドッグへの復讐のためである。

「急げ!総会が終わる前に仕上げねえとバルフォスの旦那に締め上げられっぞ!」

「わかってるでやんすよ〜」

こっちはこっちでドミニコとキトのような海賊コンビがペンキの入った桶を片手にバゥズ級の周りを足場で覆って右往左往と塗装作業に狂奔している。海賊もつらいのである。

「マークはしっかり書けよ!じゃねえとバルフォスの旦那が他の幹部に舐められっからな!」

「了解でやんす」

スカーバレルのマーク……ようするに見掛け倒したが宇宙では見かけというやつもまんざらバカにできない。
姿を見た敵が逃げ出すようになったあたりで一人前という認識さえある。
そこに、その海賊コンビの首魁たるバルフォスが手下を引き連れてやって来た。塗装途中の自らの艦を見てホクホク顔である。

「ぐふふふ…ようできとるようできとる」

「ありがたき幸せ!」

「ありがたき幸せでやんす!」

ペンキ塗りの二人はやって来たバルフォスの前にて平伏する。

「続けろ二人とも。さっさとこの船をこのバルフォス様が乗るに相応しい艦へと染め上げるのだ!」

「へへー」

「へへーでやんす」

ペンキ塗り二人は早速ハケとペンキ桶を両手に磁力履を履いて艦体底部を縦横無尽に駆け回り黒塗りを続けて行った。

「ぐふふふ…」

塗装作業を眺めるバルフォスの脳裏に浮かぶのは彼を打ち負かした生意気な小僧を、この新たな艦でコテンパンに叩きのめして鼻水と涙の海に沈めてやるという常人の感性からすれば愉快ならざる妄想である。

そんな風にバルフォスが復讐を誓いニヤニヤと危ない笑顔を浮かべているドックのすぐ隣には、スカーバレルの幹部が扱うことがよくあるゲル・ドーネ級巡洋艦のアルゴン仕様が係留してある。
この巡洋艦はミサイル装備が充実しており、レーザー対策が進んだ昨今の艦船においては実弾こそ大きな脅威になるという点を利用した水雷艦からの一変種である。
その主たるアルゴンは未だ大広間で他の幹部達とよからぬ話をしているので今は乗艦してはいない。
現在は整備途中なのかミサイルハッチに実弾をしこたま詰め込む作業がやはり下っ端達の手で行われている。

そしてその隣、スカーバレルの幹部達のそうそうたる艦船がズラリと並んでいる。その中で一際異彩を放つ艦が一隻。
どう見ても段ボールを幾つかくっ付けて作ったような単純だが堅牢な造形の艦がある。
辛うじて残る元型艦の名残からどうやらカルバライヤのドーゴ級戦艦を改造したものであることがわかるが、ドーゴ級の最大の特徴である艦首部の超遠距離砲撃用のユニットは取っ払われており、カルバライヤ艦船の前提装甲技術であるディゴマ装甲配置を想定した曲線的な艦形を排している。
これが、先の幹部総会で場をまとめていたロデリック老人の乗艦【ゴライアス】である。
艦船設計士の資格を持つ白野がこの艦を見れば、その剛直な艦形と超遠距離砲撃用のユニットを外した思い切りの良さを賞賛したことだろう。
そのゴライアスに、ロデリック老人が手下を引き連れて乗り込んで行った。老海賊の出陣である。



ファズ・マティ 大広間

バルフォスが新造艦を前にホクホク顔になり、ロデリック老人が改造戦艦に乗り込み出陣し、他の幹部達も続々とドックの乗艦に集う四時間ほど前、ファズ・マティの大広間で幹部総会はなかなかヒートアップしていた。
殆どは自分達の略奪品の取り分についての主張であったが。
そのなかで最も自説を主張していたのは、バルフォスがエルメッツァのラッツィオという方面で好き勝手暴れていた頃の旧手下である。このバルフォスの旧手下は珍しいことに略奪品の取り分けの主張をしなかった。
バルフォスがスカーバレルと対抗した0Gドッグに叩き潰され、這々の体で逃げ出した際置いてけぼりをくらい、治安強化のために送り込まれたエルメッツァ中央軍の大佐の苛烈な取り締まりからなんとか逃れて中央まで辿り着き、まだ逃げる逃げれずラッツィオで潜伏しているスカーバレル残党のためにラッツィオからのスカーバレルの全面引き上げを主張した。

「ラッツィオじゃあ、オムスのクソ野郎が取り締まり強化なんてふざけたことしてくれたおかげでおまんまの食い上げなんだぜバルフォスの旦那。買収してたテラーとかいう軍人も逃げちまったしよぉ…んで、ロウズってえ田舎に狩りに行った連中も戻らねえ。どうにもなんねえんだよな…もうラッツィオからは完全に引き上げちまった方がいいんと違うか?」

バルフォスとてこの旧手下をほっぽり出して逃げた手前あまり強いことを言えずにいる。
しかし、それに口を挟んだのは老獪さに定評のあるアルゴンである。

「そりゃいい。さっさと引き上げさせるといいヨ」

「よかったよかっ…」

「脱出の手引きはキミがやるといい。取り締まりが厳しいだろうが言い出しっぺだからネ。頑張るといいヨ」

絶句するバルフォスの旧手下を黙らせるとアルゴンは本題に入った。

「そんじゃあはじめようカ。まずは……そうだネ、アレがいい。拉致って来た女の取り分けだヨ」



フォス・マティ 大広間

不幸な拉致被害者達が海賊達にどのように遇されたかは各員の想像に任せるとして、海賊達は略奪品の取り分を怒号や苦言や苦情や罵声や咳払いやブラスターの発射音をBGMとして評議した結果、なんとか双方納得のいく取り分けをすることに成功していた。これは狡猾さでは人後に落ちないアルゴンの卓越した舌先の成果である。
先ほどなんとも言えぬ威圧感とスカーバレルのような底辺の海賊とは思えない威厳で場を取り仕切っていたロデリック老人は、拉致被害者が災難にあう少し前に退室している。
以外と誇り高いタイプの海賊なのかも知れぬ。
それはともかく、略奪品の取り分けを自艦に積み込んで各々のいわゆる【ヤサ】に戻るべく、幹部達はぞろぞろと大広間を出て行った。
それを見送るはファズ・マティの首魁、アルゴンである。彼としては満足のいく量の略奪品を分配させることができたので今回の幹部総会は御の字の結果で終わったとかんがえている。
惜しくらむはスカーバレルに対抗する0Gドッグの小僧とやらが他の幹部の数を減らして分配量を増やしてくれなかったことであろう。死ねばいいとは思いつつ容易に実行には移さないのが彼である。

「いやはや楽しみだネ。その小僧を嬲り殺しにするのが」

「おう」

バルフォスは酒を飲みながらニマニマと嫌らしい笑みを浮かべている。やはり、自分を倒した生意気な0Gドッグをボッコボコにして涙と鼻水の池でのたうち回らせてやろうと健康ならざる妄想を思い浮かべている。

「案外メテオストームで消し飛ぶかもしれんがネ」

「おう、それは困るぞ兄弟。あの生意気な小僧はこの手で殺してやる…」

グフフ、と聞く者の嫌悪感を刺激する笑声をあげてバルフォスは酒を飲み干した。

「まあ、わざわざカルバライヤからバゥズ級なんてもってきたからネ。無駄にしてもらっては困るヨ」

「心配するな兄弟。このバルフォス、二度も不覚は取らぬ」

何故エルメッツァの海賊がカルバライヤの重巡洋艦を保有するに至ったか、それはひとえにあのロデリック老人のおかげである。バルフォス、アルゴンの二人よりもさらに長い間スカーバレルの幹部を勤めていたあの老人はカルバライヤの出身で、昔のツテを辿り自艦やバルフォスの新造艦を工面したのである。
そんなスカーバレルの個性的な面々ではあるが、結局のところやっているのは海賊行為であり、多くの0Gドッグが好意的である理由はどこのポケットを探っても出てこないのである。



ファズ・マティ ドック

さて、ファズ・マティのドックである。
その一角に停泊しているオル・ドーネ級巡洋艦の海賊、ドミニコとキトは【手柄独り占めして幹部になっちゃうぜ計画】なる発案者のネーミングセンスに絶望せざるおえない計画を実行しようとしていた。

「ンフフフ……バルフォスの旦那に内緒で兵器庫から多弾頭ミサイルをくすねて来たでゲス」

「すげえなキト。見直した」

「ンフフフ……スカーバレルに不可能は無いでゲス」

「これで例の0Gドッグをぶっ殺すでゲス。ンフフフ……」

「ヌフフフ……」

「ンフフフ……」

デスペラードのブリッジに響き渡る不気味な笑い声×2。不健康である。
それはともかく、装備を整えたデスペラードは【手柄独り占めして幹部になっちゃうぜ計画】を実行に移す運びとなったのである。

続く

 
 

 
後書き
短くて作り込みも甘いかもしれないけどとにかく書きました。
至らぬ点がありましたら指摘していただけるとありがたいです 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧