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セニョール

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第六章


第六章

「そんなのないから」
「何っ!?我がチームを否定するのか!?」
「伝統と格式ある我が虚塵軍を」
「否定するというのか」
「自分達で言ってるだけじゃない」
 これがサンターナの言葉だった。まさに正論であった。
「そんなに盟主っていうんなら今度のシリーズで日本一になるんだね」
 こう告げてだ。彼はその自称盟主の誘いを断った。そうしてその年のシリーズでだ。
 彼のいるチームはシリーズに出場した。そこでだ。
 自称盟主のチームのピッチャー達を打ちまくりだ。完膚なきまで粉砕した。自称盟主は見事四連敗を遂げ無様な姿を晒した。これに日本中が狂喜した。
「サンターナ、やったぞ!」
「よくやった!」
「最高だ!」
「球界に盟主なんてないからね!」 
 日本一になった時にも叫ぶ彼だった。
「そんなことを言うなんて間違ってるよ!」
 このことも知らしめたのだった。彼はまさに真の野球人だった。
 その彼が遂に引退する時にはだ。流石にだった。
 その時も監督をしていた蟻田がだ。その彼に告げた。
「今日だけはな」
「今日だけは?」
「御前だけを胴上げするからな」
 そのシーズンの最後の試合でのミーティングでだ。微笑んで告げたのだった。
「いいな」
「今日だけは?」
「そうだ。御前の引退試合だからな」 
 それでだというのだ。
「だからだ。いいな」
「ううん、だからなんだ」
「今日だけはいいな」
 また彼に告げる蟻田だった。
「御前だけの胴上げだ」
「ああ、そうだ」
「今日だけはサンターナの為にな」
「皆で胴上げするぞ」
「いいな」
 ナイン達も口々に続く。
「サンターナ、それでいいな」
「今日は御前の為の試合だ」
「だから最後の最後までな」
「頼むな」
「有り難う」
 サンターナは彼等の言葉に笑顔で応えた。
「それじゃあ今日だけはね」
「ああ、やるぞ」
「最後の試合だ」
「今からな」
 こうしてだった。その最後の試合がはじまったのだった。彼は三番ライト、その定位置で出場してだ。ファン達の声を聞くのだった。
 一塁側からも三塁側からもだ。彼等は感謝の文字を書いた垂れ幕を持って声をかけた。
「サンターナ、さようなら!」
「これまで有り難うな!」
「何時までも忘れないからな!」
「本当にな!」
「僕も忘れないよ!」
 サンターナもだ。彼等に笑顔で応えるのだった。
「皆、今まで有り難う!」
「ああ、忘れるか!」
「何があっても!」
「あんた最高の選手だったよ!」
「うちにいてくれて有り難う!」
「本当にな!」
 彼に口々に声をかける。そしてだった。
 サンターナもだ。笑顔で応える。
「皆今まで有り難う!」
「ああ!じゃあな!」
「さようならだな!」
「これでお別れじゃないよ!」6
 すぐにこう返すサンターナだった。
「また会えるよ!」
「また?」
「嘘だろ、それは」
「またって」
「あんた引退するのに」
「確かに僕は引退するけれど」
 それでもだというのだ。
「それでもね。僕は」
「僕は?」
「あんたは?」
「僕はずっと野球とこのチームが好きだから」
 それが彼の言う理由だった。
「だからずまた会えるよ」
「会えるんだ、また」
「またあんたと」
「あんたと会えるんだ」
「そうだよ。だからお別れじゃないよ」
 こうファン達に話してだった。そのうえで。
 グラウンドでナイン達の胴上げを受け。満面の笑みでまた言ったのだった。
「また会おうね!」
「ああ、またな!」
「また会おうな!」
 誰もが花束を持ち手を振るサンターナに満面の笑顔で応える。誰が笑顔の引退セレモニーだった。
 それが終わってからだった。彼は。
 メキシコ球界でコーチを経てだ。そして。
「戻って来たよ!」
「ああ、お帰り!」
「待ってたからな!」
 そのチームにコーチとして戻ったのだ。秋のキャンプに早速来た彼をナイン達もファン達も笑顔で迎える。彼は約束通り戻ってきた。そして愛する野球を愛するチームで行うのだった。それが彼の幸せだった。


セニョール   完


                 2011・1・30
 
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