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作り笑い

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第二章


第二章

「十五の時に父の後を継いで、ですから」
「じゃあ五十ですか」
「五十歳でその動きなんですか」
「それも凄いですよ」
「そうでしょうか。これでも家に帰れば」
 どうかというのである。彼の家に帰れば。
「もう息子も娘も結婚して古女房がいるだけのしがないおっさんですよ」
「いえ、しがないなんて」
「そんなことないですよ」
 ジュゼッペは笑ってメイド達に返す。
「本当にね。化粧を落とせばですよ」
「ただのおじさんだっていうんですか」
「そうなんですね」
「はい、そうです」
 その通りだというのである。
「家じゃ本当に女房に頭があがりませんから」
「けれどそう言う人って大抵奥さん大事にしますよ」
「そうですよ」
 ここで言うのである。メイド達は。
「奥さんに頭が上がらない位がいいんじゃないですか?」
「私達はそう思いますけれど」
「ははは。そうかも知れませんね」
 笑ってだ。ジュゼッペは彼女達の言葉に応えた。
「まあとにかくです。私もです」
「化粧を落とされたらですか」
「普通におじさんなんですね」
「そういうことです」
 こんなことを話していた。そして実際にだ。彼は化粧を落とすと普通の顔に皺のある姿勢が少し悪くなっている痩せた初老の男だ。その彼が。
 家に戻るとだ。彼とは逆にビア樽の様な女が出て来て出迎えてきた。
「お帰り」
「ああ、只今」
 笑顔でだ。彼はその女に応えた。そして言うのだった。
「何もなかったかい?」
「あったよ」
 その女、ジュゼッペの女房であるカーチャは笑顔でこう彼に話す。
「市場に行ったらね」
「市場に行ったら何があったんだよ」
「いいトマトに大蒜があってね」
 話は食べ物に関するものだった。
「それとマカロニもあったんだよ」
「じゃあ今日はマカロニか」
「それと鰯だよ」
 それもあるというのだ。
「鰯をオリーブで煮たからね」
「いいなあ、マカロニに鰯か」
「そうだよ、それじゃあワインと一緒にね」
「ああ、食おうな」 
 こんな話をしてだった。二人は家の中、質素だが奇麗に掃除されたその家の中に入ってだ。そうしてそのマカロニに鰯を食べながら話すのだった。
「美味いな」
「そうだよね。いいトマトに大蒜だね」
「鰯もいいな」
 その鰯にかぶりつきながらの話だった。
「これも中々」
「実はスパゲティもあったんだよ」
「ああ、あれもか」
「あれにしようかっても思ったけれどね」
 カーチャは笑いながら話す。木のスプーンでマカロニを口の中に入れながら。
「前に食べたよね」
「食ったな。チーズをまぶしてな」 
 そうして手で掴んで上に掲げてから食べる。この時代のスパゲティの食べ方だ。
 それをして食べたというのだ。二人で。だからだというのだ。
 
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