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心は王様で

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第一章


第一章

                          心は王様で
 ブルネイに住んでいるアリー=アハムドの仕事は普通の仕事ではない。
 ギャンブラーだ。日々カジノやそうした場所に出入りして過ごしている。その彼にだ。
 周囲は呆れてだ。こう言うのだった。
「それで生きていけるのかい?」
「賭けごとばかりしてるよな」
「普通の仕事に就けよ」
「何でもいいからな」
「普通の仕事なんて何がいいんだよ」 
 しかし彼は明るく笑ってだ。周りの言葉をいつも否定した。見れば見事な口髭に白い奇麗な歯を持っている浅黒い肌の好人物だ。少なくとも顔立ちは立派だ。
 容姿も整い身なりも整えている。外見はいい。だが、だった。
 彼はいつもだ。こう言うのである。
「こうしたな。一か八かの仕事がな」
「いいっていうのかよ」
「それでなのかよ」
「そうだよ。ギャンブラーってのがな」 
 どうかというのだ。
「俺の天職なんだよ。確かにな」
「確かに?」
「確かにって何だよ」
「負ける時もあるさ」
 それもあるとだ。アハムド自身もそれを認めて言う。
「けれどそれでもな」
「それでもか」
「賭け事は続けるのかよ」
「それを生業にするんだな」
「ああ。勝ち負けで言うと勝ちが七、負けが三」
 アハムドは勝率も言ってみせた。
「それなら何の問題もないさ」
「言うなあ。こりゃ駄目だ」
「こいつは真面目に生きられないな」
「一生そうして博打で生きていくのか」
「そうするんだな」
 周囲はそんな彼にいつも呆れる。しかしだった。
 彼だけは相変わらず陽気なままでだ。ギャンブル稼業を続けていた。確かに彼はトータルでは勝率が高くそれで生きていられていた。生活も裕福だ。しかしだ。
 この日の彼はだ。負けが続いていた。朝からカジノでポーカーをしているが。
 そlのポーカーで負け続けていた。一度も勝てない。それでだ。
 周りの客達がだ。こう言うのだった。
「これは珍しいな」
「ああ、アハムドが負け続けてるな」
「こんなこともあるんだな」
「今日は一度も勝っていない」
「勝率はゼロか」
 その七割の彼がそうなっていてだ。周りは言ったのである。
「これは波乱だな」
「さて、このまま最後まで負けていくのかね」
「今日はそうして終わるか?」
 最後までそうして負け続けるのではないかといった言葉も出て来ていた。しかしだ。
 当のアハマドは落ち着いていてだ。こう言うのだった。
「こんな時もあるさ」
「おいおい、負けてるのにか?」
「随分余裕だな」
「まるで何でもないといった感じだな」
「王様みたいだな」
「王様か」
 周囲の王様という言葉にだ。アハマドは。
 少し笑ってだ。こう返したのである。
「そうかもな。俺は確かにギャンブラーだけれどな」
「王様っていうのかい?」
「それだって」
「心は王様さ」
 そうだというのだった。
「まさにな」
「だからそんなに負けてもかい」
「平気なんだな」
「ギャンブラーってのは余裕なんだよ」
 そういうものだとだ。アハマドは実際に余裕のある顔で周囲に話す。
 彼はまだテーブルについてそのうえでカードをしていた。ポーカーの勝負を続けているが今は相手が向かい側にいない。彼一人が席に座っている。
 
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