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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第八五幕 「Feather Girl」

所謂原作勢に関わらずに過ごすのは無理がありそうだと今更ながらに感じた佐藤さんは、最近では専用機持ちと一緒に訓練することも珍しくない。織斑先生のせいで大分ハードルが上がっている気がしないでもないが、特に試合で敗北を喫したセシリアと技術において格上のシャルとはよく訓練をする。
二人の的確なアドバイスと容赦のない射撃に身を晒されつつもなんとかやっていける人間って不思議だね。と、この前ゆこちーに言ったら「一番不思議なのは被弾率が未だに10%を切ってる佐藤さんだよ」とクソ真面目な顔で返答された。ベル君ほど不思議ちゃんじゃないもん!ちょっと変だって自覚はあるけど!きっと普通の範囲に収まってるもん!

それはさておき、一緒に訓練すれば当然着替えも一緒にする訳で。今日はシャルちゃん居ないから隣はセシリアになる訳で。そうなると、どうしてもセシリアのすらっとしたモデル体型には目が行ってしまうのだ。

一度自分の胸を見る。暫く見てサイズを確かめた後、再度横でISスーツを脱ぐセシリアの胸を見る。・・・それなりに敗北感があった。同じ15歳の筈なのに、箒ちゃんといいセシリアといい発育良すぎじゃない?私だって標準くらいはあるけど、流石代表候補生は格が違うってことかもしれない。顔に関しては勝ち目ないし。張り合う気もないけど。

「どうなさいました、佐藤さん?」
「え?あっと・・・セシリアって、やっぱグラビアモデルの依頼とか来るのかなって思って」

視線を集中させすぎて訝しがられてしまったので、それっぽい疑問を投げかける。ちょっと無遠慮だったかとも思ったが、セシリアは間を開けずあっさりとした口調で答えた。

「来ますわね。受けたことは一度しかありませんが」
「断ってるの?」
「だって、やってみて面白くなかったんですもの。私の身体は見ず知らずの殿方の鼻の舌を伸ばすためにある訳ではありませんし、両親に品の無い女と思われるのも癪・・・もとい、悪いですから」
「なるほど・・・っていうか、そう言う話ってあっさり断れるものなんだ?」
「場合にも寄ります。同じ写真でも、用途が違えば重要度が変動しますから」
「女の子の憧れであろう仕事も選ぶものかぁ~・・・浮世離れだねぇ」

知られざる代表候補生の裏事情である。代表候補生としての宣伝用と本屋のグラビアでは前者の方が国としては重要度が高いと言った感じだろうか。言われてみれば、日本代表候補生である簪ちゃんのグラビアなんて一度も見たことが無い。胸のサイズが控えめとはいえ顔は凡百を凌ぐ美少女であるから写真集の撮影依頼くらいは来たことがあるだろう。言い終えたセシリアは、こちらを見て悪戯っぽくクスッと笑う。

「・・・?なんか可笑しかった?」
「いえ・・・そう言う貴方にも依頼が来てらっしゃるのではなくて?」
「ぎくっ!!」

やっぱり、と言わんばかりにくすくす笑うセシリア。思わぬ不意打ちを不覚にも深く喰らってしまった。そう、実はあの悪目立ちしまくったトーナメント以降、どういう局所事象変異が起きたのか写真撮影系の依頼はそれなりの数来ているのだ。しかも殆どが何故かグラビア。どういうことなの・・・
しかも日本国内はもとより、国外からの依頼も想像以上に多かった。というか依頼の半分くらいがIS用武器製造会社からの名指しで、ついでに「月刊Girls And Military」というよく分からない雑誌の編集者から衣装まで送り込まれてきた。どないせーっちゅうの?無論私のセクシーともダイナマイトとも言い難いボディを晒してもしょうがないだろうと断ってはいるのだが・・・

やはり初戦でラウラ相手に無傷で勝ったりしたのがいけなかったらしい。専用機相手に訓練機でノーダメージ勝利など、よく考えればどうあがいても素人に出せる結果ではない。今や私は不本意ながら時の人となっている。一般がどうとか努力家がなんだとかマスコミは好き放題に取り上げ、面倒くさいので取材を拒否したらしたで「マスコミに媚びない謙虚さがいい」とか言われるわで歯止めがかからないのだ。もうやめて!これ以上持ち上げないで!私のライフはもうゼロよ!!

「最近はすっかりお茶の間の人気者ですからねぇ、佐藤さん。いえ、確か巷では『フェザーガール』と呼ばれてるんでしたっけ?」
「うう、やめてぇ・・・超恥ずかしいからやめてぇ・・・!!」
「謙遜することはありませんわ?私でさえ追いきれない瞬間があるのですから、胸を張って名乗っても良いのですわよ?」

ほほほほ、と冗談めかして笑うセシリア。実に楽しそうである。いつからこの子は愉悦部の門を叩いたのだろうか、それともつららちゃんの所為で溜まった鬱憤晴らしか。セシリアも溜まるもの溜まってんのね・・・休日も平日もつららちゃんは基本セシリアにべったりだから今日は開放感で羽目を外しているのかな?
とはいえ、ここは私もセシリアに気を許されているのだと肯定的に受け取っておっくことにしよう。でなければ私は学校ぐるみのさん付けイジメに屈してしまう・・・!負けてなるものかぁ!!

・・・え?フェザーガールって何かって?・・・・・・すっっっごい言いたくないけど、話が進まないから一回だけ答えてあげるよ。もう・・・

説明しよう!フェザーガールとは!私の動きが空を舞う羽のように捉えどころがない事に由来する仇名らしいのだが・・・これが正直穴があったら入りたくなるほどに恥ずかしいデス。だって二つ名みたいなノリで広まってるんだよ?みんなして人の事をフェザーガル、フェザーガールって・・・何それ!?直訳したら「羽娘(はねむすめ)」じゃん!?全然格好よくも上手くもないじゃん!!そういう中二ネーム的なアレは要らないんだって!見てるこっちの顔が火を噴きそうになるんだから・・・

「折角ですから仕事を受けてみては如何かしら?“浮世離れ”した貴重な経験ですわよ?」
「ううう~・・・うん?」

セシリアによる畳み掛けに唸っていた私は、そこで少し引っ掛かりを覚えた。それがなんなのかを考えた後、私は重要なことを思い出してうっかり屋過ぎる自分のピンク色の脳細胞を恨んだ。

「そういえば・・・水着!!林間学校用の奴買ってないじゃん!?」



= =



外出許可には種類があり、帰郷などを目的とした短期外出申請と日帰り外出申請の二種類があり、前者は完全予約制なうえに後者は門限18時までというシビアな時間設定があるのだ。まぁ唯の外出申請なら許可を取ることは簡単なので外出自体は難しくなかった・・・が。

「・・・ねぇセシリア。周りにバレてない、よね?」
「そのようですわ・・・心配しすぎではありませんこと?」

上品にも日傘をさして日本の街並みを歩く超場違いお嬢様にたしなめられてむむむ・・・と唸ってしまった。何がむむむだとか思うかもしれないが、私にとっては割かし重要な話である。

まさか表通りを歩くのが怖くなる日が来ようとは思わなかった。幸い周囲の視線は突然町に現れた金髪ビューティーに目を取られて刺身のつま的な私の事は目に入っていないようだった。今はその真実がとってもありがたい。現在私は近所の店で買ったサングラスと帽子というベタな顔の隠し方をしながら、セシリアと一緒に近くのショッピングモールへ向かっていた。幸いにも季節が夏という事もあって、周囲には唯の紫外線対策に見えるみたい。

なお、行き先のショッピングモールは奇しくもユウ君たちとワンサマーの行き先と同じだ。まぁ一番近くて品揃えがあるからしょうがないっちゃしょうがないんだけど。

(でも一部の人はセシリアの事気付いてるよねぇ・・・)

あのトーナメントでセシリアは優勝を飾った。イギリス人と日本人のコンビ故に世間はセシリアの事を悪く言う声は少ないが、それでも日本大好きすぎる皆さまには「日本人コンビを潰した悪女」みたいに考えてる人だっている。事実、周囲から時々いやーな目つきでセシリアの顔を見る人がちらほら見受けられた。一部のマスコミでは何故か私のライバルということになっているんだが、正直勝てる気がしない。

しかし肝心のお嬢様はそれを知ってか知らずか時折日傘を優雅に回しながら手入れの行き届いた金髪を揺らして町を闊歩している。絶対気付いてて「あーら何か言いたいことでもおありかしら?黙っていては分かりませんわ!ほーほほほほほ!」とか考えてるんだろうなー。

「そこまで性悪ではありませんことよ?」
「・・・声に出てた?」
「いいえ、顔に」

クスリと微笑を浮かべるセシリア・・・おぉう、凄く色っぽいんですが?女として負けを認めるレベル。ベル君の可愛さといい勝負かもしれない。脳内永久保存フォルダに放り込んでおこう。・・・というかサングラス越しで分かるんですか?観察眼凄いですね。ベーカー街の出身だったりします?

「そも、学園に入った時点で既に浮世から少し浮いているようなものです。気にし過ぎでは?」
「日本人の気質です。出る杭は叩き潰される国柄なのです」
「で、本当は?」
「・・・・・・そんなに目立つほど自分に自信が無いから、かな」

我ながらしおらしい事を言っていると思うけど、どうしても自分が特別優れた人間だと思えないのだ。それは恐らく前世の価値観と今世の経験が混ざって感覚の何所かが麻痺してしまっているのだと思う。だから自分で動いた証以外、つまり他人の評価が素直に腑に落ちて来ない。

「ブリュンヒルデに自信を持てと言われても、ですか?」
(・・・前世も含めればあの人は10歳くらい年下だもん。そう思っちゃうと、全然説得力を感じないんだよね)

口をつぐんで目を逸らす。尊敬していない訳じゃないけれど、あの人の事を全面的に肯定するほど私は若くはないのだ。ただ、そんなことを面と向かって言うほど私は我の強い人間ではないだけだ。

「そうですか。随分と精神が熟成してらっしゃるのね」
「え?」
「元世界一と言えど、言ってしまえばまだ二十代前半の独身女性です。人生経験豊富とは言い難い部分があるのは否定できません。違いますか?」
「う、うん・・・そだね」

わたし今、言葉に出したっけ?・・・ハッ!まさかセシリアもジョウさんの仲間ですごい勘の持ち主とか!?私の思考の一部が読まれているとしか思えないレスポンスに戦慄が走る。というか、織斑先生の事をそんな風にあっさり言い切ってしまうセシリアの我の強さにも少し呆気にとられた。普通なら本人が見ていなくとも少しは動揺するものだが、当のセシリアは事実をありのまま言っただけと言わんばかりのすまし顔だ。

「まぁ目立つ目立たないは個人の趣向ですからあれこれ言う気はありませんが、自分の実力に得心がいかないのでは本当に欲しいものに手が届きませんわ」
「セシリアの欲しいものって・・・宇宙へ行くことだっけ?」
「ええ。私は宇宙へ行きます。これは私の中での決定事項であって、何人にも覆されることの叶わぬ意志の方向性です。障害は私の手で、手の届かぬところは仲間の手で押しのけます」

セシリアはどこまでも自然体で、そう言い切った。絶対に行くという意志と、それに足る資格を持っているという確固たる自信。そして障害を人の手を借りてでも押しのける正しい覚悟。正直、同じ女なのに惚れ惚れするほどのカリスマを感じる。
―――若い子には負けてられないな。ベル君だって、一応とはいえちゃんと目標を定めているのだ。半保護者の私がこれでは本当に格好がつかない。

「・・・そっか。じゃあ私も早く“本当の欲しいもの”を見つけよっと。先ずはスタートラインとゴールを定めないとね」
「ふふ・・・きっともうすぐ見つかりますわ。それまで風に吹かれて飛びなさいな、風に流され行き先の定まらないフェザーガールさん?」
「うぐぐ・・・なんか上手いこと言われた気がする!っていうかフェザーガールは止めてってば~!!」

意地の悪い友人にからかわれながらも私は決意を新たにした。

羽は風に流されて、宙を舞うだけだ。重力に惹かれればいつか落ちる。

だから私に必要なのは、羽ばたく翼。乗るべき風を見定めて、いつかは自分の望む場所へ。

そのために―――


「とりあえず水着買って今を楽しもう!もう羽娘は気にしない事にしよう!今、私がそう決めた!」
「刹那的ですわね・・・まぁそれも天邪鬼(あなた)らしくていいのかもしれませんが」

佐藤稔は止まらない。それだけ定めていれば、案外うまくいくのではないかと思うセシリアだった。
ちなみに周囲は、隣にいるのがセシリアであることから「あれひょっとして佐藤さんじゃね?」と疑問を抱いていたが、目立つサングラスの所為で普遍的な普通さが阻害されていたため確信には至らなかった。彼女にとっては目立つことこそが真のカムフラージュなのである!
 
 

 
後書き
テレビの効果って凄いな、と思いました。 by佐藤さん

現在彼女の母校では英霊のように崇められているが、両親はあんまりにも娘が目立ちすぎて取材とかが殺到して若干迷惑に思っている。ちなみに佐藤さんの子供の頃の渾名は「みのりん」なのだが、のほほんですらその名で呼んでくれない。

どうでもいいけどセシリアをISで暴れさせたいです。よってセシリア主役のバトルをこっそり考えています。お披露目はもっと先になると思うけどね。という訳で、前座として次回は生身のセシリアが暴れるという事で(?)・・・ 
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