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【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス

作者:海戦型
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闖入劇場
  第七九幕 「あの碧い空へ」

 
前書き
自粛中なので今回はこれまで。中途半端で申し訳ない。

というかちょっと待って・・・総合評価いつ2000超えたの?不覚にも全然意識してませんでした。中断だらけなこの作品に付き合ってくれる人が多くいるんだと思うと、早く結果を出して舞い戻りたい気持ちが高まります。 

 
昔、この青い空に果てはあるのか疑問に思った。
当時まだ天動説だの地動説だのといややこしい言葉は知らなかった時期の事だったと思う。
空に果てはあるのか?あるのならどんな所だ?飛行機に乗ればそこまで行けるか?そこは何と呼ぶべき場所なのだろうか?あの頃は子供だったから、夜に寝る間も惜しんでいろいろ考えた。

そんな疑問の答えが、無限の(インフィニット)成層圏(ストラトス)だった。
成層圏の言葉の意味は正しく理解できなかったが、空に果てはない事をこの時初めて知ったのだ。
それでもどうしてか、兄さんは『そうとは限らない』って笑っていた。

『昔戦闘機乗りに聞いたんだけどな?あの蒼穹をずうっと飛んでると、不思議と“もっと速く、もっと高く”って心が疼くんだってよ。で、速く飛べば飛ぶほど自分がどこか普通とは違う場所に生きているような気がしてくるらしい。その世界見たさに耐G限界寸前まで加速しまくっては降格されたらしいがな!馬鹿だよな、そいつ』
『違う世界?同じ空なのに?』
『ああ。あいつはこうも言ってた。『飛べば分かる』・・・ってな。だから空を飛ぶ人間には、そいつにしか見えないし分からない世界がきっとあるのさ』

どこまでも加速する。何所までも速く飛ぶ。それに意味があるのかと考え、ふと自分を振り返る。
もっと上へ、もっと強く―――そう思っている僕とではどう違うのだろう。辿り着くゴールが見えているかいないか?それとも本当は、二つは同じことなのか?

どうなんだろう。―――って、悩むまでもなかったな。

答えは、『飛べば分かる』。そうでしょ?風花。いや―――


飛翔()べ!!風花・百華(ももか)ぁぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!」


行こう。僕達の敵が、待ってる。



―――各連結部分異常なし。駆動域御座コンマ0。ENバイパス問題なし
―――展開装甲問題なく稼働。プログラム最適化完了
―――システム“武陵桃源”との接続・・・クリア
―――シールドエネルギー直列。回復量1000

次々と風花のハイパーセンサーモニターに表示される情報が、風花がその真の力を発揮するに相応しい形へ成ったことを証明する。

淡赤色の飛沫を撒き散らす風花が天高く上昇し、直後ドゥエンデに『噴射加速を超える速度』で突進した。

「よくも今まで好き放題殴ってくれたね・・・仕返しだ、阿婆擦(あばず)れ」

風花の脚が、ドゥエンデの顔面を完璧に捕らえた。

《――――――!?》

それまでに“彼女”が蒐集していたデータを大幅に上回る速度と衝撃に少なからず動揺が奔るが、その身体は機械的にも衝撃を逸らすため上体を逸らしていた。既に人間の反射神経を超えていると思われる程の回避反応―――

―――だが。

「おおっと、その手はもう喰らわないよ!!」

ごしゃあっ!と突如軌道を変えた足が激突し、パーツジョイントから異音が響く。

《――――――!!?》

瞬時に動きを停止させる技術“一零停止”から重ねられた蹴り潰しが、今度こそ完全にドゥエンデの動きを捉えた。“彼女”の得たデータでは、風花はその推進系の致命的な欠陥から「ISの空中機動技術が使用できない」というデータがあったにも拘らず。
蹴りの衝撃で地面を転がりながらも絶妙のタイミングでスラスターを吹かし素早く空中に逃げたドゥエンデだったが、既に風花は追撃のために至近距離まで近づいていた。―――速すぎる。

「そこに来るのはもう読めてたし・・・」

ユウの拳が一直線に振るわれ、やはりそれを不自然な機動で躱すドゥエンデ。しかしそれでもまたあの”読めない”攻撃が迫る。回避動作のまま唐突に独立した動きを見せた脚が、ユウを蹴り飛ばそうと異様な速度で襲いかかった。しかし、最早それを喰らうユウではないことに、ドゥエンデは気付くべきだっただろうう。

「その攻撃も今更通用するもんか!!」

それより速く、純粋な反応速度で体を回転させたユウの拳がのドゥエンデ腹を殴り飛ばした。ギチリ、と金属同士が軋む音を立てながら再びドゥエンデは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
が、壁から引きずり出されるようにして再び立ち上がったドゥエンデは両手の高周波ブレードを構え直して空を舞った。予想外の反撃があったとはいえ風花側はまだ空中戦に不慣れなはずであるという推測の元の行動だ。不規則な高速移動で狙いを絞れにように加速したドゥエンデに―――風花とユウの顔が待っていた。

「遅い遅い。今更まだ風花に空中戦で勝てるって思ってるのもいただけない。あと戦いの相手を馬鹿にし過ぎ。合わせて減点60点だよ」
《――――――!?!》

風花が並列飛行でドゥエンデに並んでいる。それも速度を合わせてぴったりと、だ。行動を変更しようとした瞬間、風花の拳が唸りを上げた。

「行動が遅い!そりゃそりゃそりゃぁッ!!」

右拳、左膝、左肘、再び右拳、最後に流れるような後ろ回し蹴りがドゥエンデの身体を力任せに吹き飛ばす。蹴りを受けた左腕の高周波ブレードが負荷に耐えきれずへし折れ、再びドゥエンデは壁に激突した。
まるでそれが当然であるかのような空中機動。先ほどまで全くダメージを与えられていなかったという事実が嘘であるかのように、傾城は完全に逆転した。

「・・・とはいっても、この翼の補助が無ければここまで完璧には対応できなかったけどね」

風花の今までの弱点の一つに、ISならできて当然の空中機動が幾つかできないというものがあった。無反動旋回、無反動旋回など、ISならできて当然の機動が風花にはできない。空中における機体の素早い機動に不可欠なPIC補助パーツがごっそり無くなっていたからだ。
それを補ったのが風花の“翼”―――「桃花扇(とうかせん)」である。この翼の驚くべき所は、今だ現行ISの中では白式改にしか使用されていない「展開装甲」の技術を限定的ながら独自開発で搭載していることにある。「展開装甲」の細かい説明は今回は省かせてもらうが―――この技術によって、風花は今まで持っていた利点を一切潰さずに空中戦が出来る域へと昇華された。

風花は今日この日より、天翔(あまかけ)る翼を得たのだ。
その上で、ユウは壁から立ち上がったドゥエンデを態と上から見下ろす。それは今まで自身が散々やられた行為への意趣返し。イニシアチブの奪取。そして、ユウにとっての答え合わせ。

「―――キミのそのISさ。いや、ISなのかどうかも知らないんだけど・・・“PIC、搭載してない”でしょ」
《――――――》

相も変わらずドゥエンデは何一つリアクションを起こさない。だが、ユウは既に確信に近い域へ至っていた。度重なる不自然な動きがパイロットではなくシステム的なものであることに思い至ってしまえば、応えは自ずと絞られる。

「PICありきならもう少し上手に躱せるし、一々空飛ぶのにスラスター噴かす必要もない。それにあの不自然な動きはPICで再現するのは無理だろう。多分君の“それ”に搭載されているのは指向性の引力だか重力だか、そういったものを発生させる装置なんじゃないのかな?」

例えば殴られそうになった際に、自分の身体が背後に引っ張られるように引力を発生させればノーモーションから突然回避することができる。
例えば相手を殴る時、自分の腕を指向性の引力で敵の方へ強引に引っ張れば、体勢に関係なくその引力分の衝撃を相手に与えることができる。
例えばこのシステムを使って緊急回避した場合、PICならできて当然の加速減退を行えないから、結果として足かスラスターでその動きを止めなければならなくなる。
全てがおかしく感じた理由はそれだ。機動がISのものではなかったのだ。

「さあ、答えてもらうよ。僕を襲った理由、その“ISのような何か”のこと、全部ね・・・」

風花の背中のスラスターから漏れる光が少しずつその濃密さを増していく。



―――これ以上の情報収集任務はアニマスの無用な情報漏洩を起こす可能性あり。アニマス16、強襲任務の優先順位を変更し、“同業者”との情報交換の後戦闘空域を離脱します。アニマス28は所定の指示あるまで現任務を続行されたし―――



瞬間、ドゥエンデは直立の体勢のまま噴射加速を超えるほどの速度で上昇を始めた。同時にジャミングと電磁迷彩を最大稼働。これでISにも監視衛星類にも姿を目撃されず、尚且つ自身よりも最高速度が上な風花からも逃げられる―――筈であった。


「おっとぉ、帰らせる訳ないでしょ?本社を襲ってくれちゃって・・・これはわが社を代表しての“遺憾の意”です。遠慮なく受け取りなさい!!」

それはある種飛び道具を使用していなかったが故の偶然なのだが―――管制塔下にある、破壊されずに残っていた対IS防衛装置が再び火を噴いた。人間が喰らえばミンチよりひどくなる火力、恐ろしい遺憾の意もあったものである。
その中のトリモチが、電磁迷彩を阻害した。やはり“遺憾の意”は最強だったようだ。


「あれだけ殴られたのに仕返しがこれで終わりってのは割に合わないからねぇ・・・」

第3世代兵装“武陵桃源”、最大稼働(フルドライブ)。両肩の音叉の様なパーツが勢いよく淡赤色の粒子を噴き出し、風花の全身に奔っていた濃桃色のラインが噴き出すような閃光を放ち、スラスターを中心に全身からオーラのようなバリアエネルギーが循環を始める。そしてその巨大なエネルギーの奔流は両腕に収束、グローブのように拳を覆った。

表面から剥がれるように宙を散る花弁のような飛沫を撒き散らす。そう、「十握拳」を使ったあの時と同じだけのエネルギーが今、風花の“両手”に集まっていた。大気が歪み、そこに集まった力が急速に可視化される。


「両腕部バリア最大出力!!・・・自慢していいよ?これを食らったのはセシリアさんに続いて世界で2人目だからね」

―――風花とは、こういうISである。


「でやぁぁッ!!」

―――1発。ドゥエンデの躯体が再び壁に叩きつけられる。

「せぇいッ!!」

―――2発。壁に叩きつけられたドゥエンデが更にコンクリートの壁に沈む。

3発目以降は、既に数を数えられるほど生温いものではなかった。


「ふんッ!!はぁッ!!せぇぇいッ!!うぅぅぅぅぅおおおおおおおあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ!!!!」

ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガァンッ!!!!


その一撃一撃が“投桃報李”を使った旧風花のそれとは比較するのも馬鹿馬鹿しいほどの威力へ進化した拳の連打が、一切の情け容赦なく暴力の壁となってドゥエンデの全身に襲いかかった。拳が一度当たるたびに壁に叩きつけられ、その反動で正面に体が動いた瞬間に更に何度も輝く拳を叩き込まれる。異常なまでの密度を誇るバリアでの連打攻撃に全身装甲は次々に殴り砕かれ、その躯体は見るも無残にズタズタに変わり果てていった。

しかし、拳は止まらない。


「おりゃぁぁ!!ふっ!!でぇぇぇぇりゃぁぁぁぁぁぁあぁぁああああ!!!」

ゴギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャァンッ!!!!


あの時―――初めて風花に乗って拳を振るった時のあの感覚。肉体が、精神が、加速していく。
もっと強く、もっと速く。熱くて、激しくて、刺激的で情熱的な、言葉に形容しがたい昂揚。風花とならどこまでも前へ進めるという根拠のない確信。この戦いの先に見えるような気がする、僕と風花だけが見ている世界へ―――

―――いけるよ。僕らはまだ進める、成長できる。風花(おまえ)と一緒なら幾らでも―――

だから、この一撃に僕らの全てを懸けよう。いつの日か、今日の僕たちを越えるために。


「受け取れ、この拳をッ!!『  神 度 拳  (か む ど の け ん)』ッッ!!!」


腰だめに構えた両腕を同時に突き出し、両拳に収束された凄まじい密度のバリアがその圧縮補助を失う。堰を切られたバリアエネルギーは音を置き去りにして一直線にドゥエンデへと殺到し―――その胴体をを重く、深く穿った。

直後、ドゥエンデの背後にあった壁が巨人の両拳で殴られたように粉々に破砕され、鉄筋を糸屑のように引き千切りながらドゥエンデを薙ぎ飛ばした。歪み、割れ、軋み、膨大な破壊を秘めたその拳に晒されて耐える事は、ドゥエンデには出来なかった。

吹き飛んだドゥエンデはあちこちの装甲が脱落し、またはあり得ない形にひしゃげていた。両腕に高周波ブレードも完全にへし折られ、それ以上の動作を見せることは―――出来なかった。


「・・・ふぅ、ちょっとやりすぎたかな?」
≪―――――≫

心なしか、風花がその言葉に答えるように脈打ったような気がした。・・・ドン引きされてたらどうしようか。
 
 

 
後書き
パワーアップ回なんだし、派手に暴れないとね。 
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