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彷徨った果てに

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第四章


第四章

 そしてだ。彼は妻にこんなことも言ったのだった。
「そうだな。他にも食うか」
「他のスパゲティも?」
「スパゲティ以外のものもな」
 それ以外のものも食べようというのだ。
「フェットチーネやマカロニもな」
「そうそう、パスタってシュ対が多いから」
「だから色々食うか」
「ワインも美味しいしね」
「しかも言葉が似てるしな」
 イタリアはそうなのだ。アルゼンチンはスペイン語だ。同じラテン系でイタリア語とは近いのだ。だから学ぶにあたってもかなり楽だったりするのである。
 それ故にだ。彼は言うのだった。
「ナポリは、イタリアは好きだ」
「じゃあいい場所に来たわね」
「イタリアのよさは永遠だからな」
 こうまで言う彼だった。
「イタリアを愛さない奴は世の中がわかっていない奴だ」
「同時にアルゼンチンもね」
「本当にな。そう思う」
 こんな話をしながらだ。彼は妻とパスタを楽しんだ。同時にワインも。
 その後でだ。彼はだ。
 ホテルのビーチで妻と二人でラフな白い服装で昼寝を楽しんだ。ナポリの海はサファイアを溶かした様な輝きを見せている。その輝きを見ながらだ。彼はパラソルの下で妻に言った。
「落ち着くな。いや」
「いや?」
「楽しいな」
 こうだ。微笑んで言うのだった。
 その顔には楽しみがある。そのうえでの言葉だった。
 だがここでだ。彼はこんなことも言ったのだった。
「けれどそれでもな」
「それでもって?」
「何かが足りないな」
 こうも言うのだった。白い砂浜も見ながら。
「そんな気がするな」
「何かがって?」
「いや、そう言われてもな」
「それが何かはわからないのね」
「ちょっとな」
 楽しみの中に一抹の寂しさを含ませての言葉だった。 
 青と白は海と砂浜だけではなかった。空にもあった。
 何処までも続く青い空の中に白く小さな雲達がある。そのうちの小さな丸い形の雲を見てだ。
 彼はだ。不意にこんなことを言った。
「あの雲何かな」
「雲がどうしたの?」
「ボールみたいだな」
 雲を見上げつつだ。妻に言ったのである。
「何かな。そんな感じだな」
「ボールみたいって」
「サッカーボール?ははは、何だろうな」
 自分で言ってからだ。ロペスは自嘲した言葉を出した。
「サッカーはな」
「そうよね。離れるのに」
「自分で言っても仕方ないよな」
 こう言うのだった。
「そんなことをしてもな」
「そうよ。何で思ったのかしらね」
「何でだろうな。じゃあな」
「サッカーのことはまた、ね」
「忘れるさ」
 半分以上自分自身に言い聞かせた言葉だった。実は。
 この言葉を出したうえでだ。また言ったのである。
「もうな」
「そうよね。だからね」
「何だろうな。トマトか?」
 かなり強引にそういうことにした。
「それじゃあな」
「トマトなのね」
「あれも丸いからな」
「それはそうね。けれどね」
 ここでだ。ミレットはだ。ロペスに対して言うのだった。
 
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