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白波

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第三章


第三章

「ほら見ろ、俺一人で充分だったろ」
「くっ、こいつ何て強さなんだ」
「化け物かよ」
「化け物じゃなくて悪党なんだよ」
 南郷はその派手な雷獣の着流しの袖の下で腕を組みながら答える。
「この天下に逃げも隠れもしねえ大悪党よ」
「くそっ、覚えてやがれ」
「今度会った時はただじゃおかねえからな」
 捨て台詞と共にだ。ゴロツキ達は逃げ出した。その彼等の背を見てだ。
 今度は忠信と赤星がだ。こんなことを言った。
「結局小者は小者だな」
「どうってことはない奴等だな」
 彼等から見てもだ。先程のゴロツキ達はそうした連中に過ぎなかった。
「さて、後はだ」
「娘さんだがな」
「それでどうしたのだ」
 駄右衛門がその娘に尋ねる。見れば小柄で実に可愛らしい。
 その娘にだ。駄右衛門が穏やかな様子になり尋ねたのである。
「あのゴロツキ達は何じゃ」
「はい、実は」
「待て。まずは御主の名を聞こう」
 駄右衛門は娘が話す前にだ。彼女の名前を聞くことにした。
「名は何というのじゃ」
「おきよといいます」
「ふむ。おきよというのか」
「五条の長屋に住んでいるのですが」
 つまり町娘ということだ。何処にでもいる。
「お父が。前までからくり職人をしていたのですが」
「身体でも壊したか」
「しかもその病でお金がかかりまして」
 自分からだ。おきよは駄右衛門達に話していく。
「お金を借りたのがその」
「あのゴロツキ達だったのじゃな」
「はい、金貸しの越後屋さんに借りました」
 この店の名前を聞いてだ。四人がそれぞれ言い合う。
「また鎌倉でも何処にでもある名前だな」
「悪い商売人の名前だな」
「ああ、こりゃかなりタチの悪い高利貸しだな」
「悪どく儲けてるんだろうな」
 四人はこれまでの盗人稼業からこのことをすぐに察した。おきよの話と店の名前を聞けばそれだけでもうわかることだった。彼等にしてみれば」
 その四人の話も聞きながらだ。駄右衛門はおきよの話を聞いていく。おきよは駄右衛門に対してさらに話した。
「それで借金のかたに私を」
「遊郭に売るつもりなのだな」
「証文をたてに」
「よくある話だ」
 ここまで聞いてだ。駄右衛門はまずはこう言った。
「小悪党共のよくやることじゃ」
「危ないところを助けて頂き有り難うございます」
 おきよは五人に深々と頭も下げてきた。
「本当に助かりました」
「いや、今はよいがだ」
 駄右衛門はそのおきよに話す。
「その場凌ぎでしかないぞ」
「それは」
「とりあえず親父さんは今どうなったのだ」
「病は何とか治りました」
 それはどうにかなったというのだ。
「それで仕事にも戻っています」
「しかし借金がじゃな」
「毎日長屋にも取り立てに来ていますし」
「先程の様なこともあるな」
「そうです」
「では金が必要じゃな」
 駄右衛門はまずはこう言った。
 
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