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曹操聖女伝

作者:モッチー7
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曹操聖女伝第3章

 
前書き
趣旨は封神演技を題材とした作品やPSPのJEANNE D'ARC等の様々な作品の様々な設定をパクリまくる事で、曹操が三国志演義内で行った悪行の数々を徹底的に美化していくのが目的です。
モッチーがどの作品のどの設定をパクったのかを探すのも良いかもしれません。
 

 
橋瑁(字は元偉)は我慢が出来なかった。
朝廷の実権を握った董卓は、洛陽の富豪を襲って金品を奪ったり、暴飲暴食三昧と好き勝手だ。
人事も出鱈目で、まだ簪も挿していない(成人していない)孫娘・董白に渭陽君として領地と部下を与えそれを証明する印綬まで授けた。
このまま董卓の専横を見て視ぬフリをしていて良いのか。いや、良くない!良い筈が無い!だが、橋瑁には力が無い。橋瑁だけでは董卓に勝てない。
しかし、
「貴方が橋瑁殿か?」
「そなたは?」
「私は曹操と申します。どうやら董卓がお嫌いだと聞きましたが」
橋瑁は董卓への怒りを荒々しく口にした。
「あの男は人間ではない!人間の皮を被った獣だ!」
橋瑁の想いを聴いた曹操はある知恵を授けた。
「ならば他の諸侯を一箇所に集めるのです。酸棗辺りが良いかと」
橋瑁は至極真っ当な質問をするが、
「しかしどうやって?」
曹操はしれっと言い放つ。
「三公の公文書を偽造し、董卓に対する挙兵を呼びかける檄文を造れば良い」
それを聴いた橋瑁は納得した。

曹操は早速橋瑁に檄文を書かせた。
それから間もなく、曹操の義従弟・曹洪(字は子廉)が私兵を率いて陳留に到着。続いて曹仁(字は子孝)と曹純(字は子和)も駆け付けた。更に、帳下の吏(記録係)の楽進(字は文謙)まで1000もの兵を引き連れ帰還して、結果、曹操軍は兵力5000以上となった。
曹操軍が出陣の前祝をしていると1人の男が馬に乗ってやって来た。
「曹操殿、張邈(字は孟卓)様からの差し入れです。軍資金の足しにして欲しいとの事です」
「これはありがたい!」
「ところで……貴方の御名前は?」
男は漸く自己紹介を忘れていた事に気付いた。
「あ!いけねぇ、忘れてた!」
皆が笑う。
「おいらは己吾の人間で張邈様の家来の家来になったばかりの典韋ってもんです」
曹操は典韋を甚く気に入った。
「なかなか良い面をしとる。気に入った。お前も一杯やっていけ」
「頂きます!」
典韋は曹操から貰った酒を一気飲みした。
「プハー!うめぇー!」
再び皆が笑う。皆、本当に戦場に行くと言う悲壮感が微塵も無かった。

曹操、橋瑁、張邈の軍勢が酸棗に布陣していた頃、洛陽の董卓は困り果てていた。
「曹操の奴、やはりまだ儂の命を狙っておるのか!」
「橋瑁が偽装した公文書に従い酸棗にのこのこやって来た事を考えますと……」
董卓は一度曹操に殺されかけていたので、極力曹操との再戦を避けたかったのだが、曹操が天下を統一し邪凶のいない平和な世の中を目指す限り、魔王クラスの邪凶である董卓は曹操に命を狙われる運命にある。
李儒が提案する。
「真面にぶつかる等と考えない方が宜しいかと。とりあえず長安に下がり様子を窺うのが上策かと」
李儒の提案に納得する董卓。
「そうだな、長安なら我が本拠地に近くて安全だからな」
しかし、他の文官達が反対する。
「しかし、長安は荒廃して住民も少なく、遷都に耐えられないかと」
それでも曹操との直接対決を避けたい董卓の意思は固い。
「洛陽の住民を一人残らず連れて行く!嫌とは言わせん!」
今度は呂布が反対する。
「どうせ曹操が怖いだけだろう!ならば曹操を殺せば良い!」
それを聴いた1匹の大凶クラスの邪凶が名乗りを上げた。
「ならば私にお任せし、董相国はゆっくりと長安に向かいなされ!」
「胡軫(字は文才)か?」
すると、人間の様な体型をした鶏の様な邪凶が現れた。
「本当に出来るのだな?」
「お任せを」
董卓は2匹の中凶クラスの邪凶を召喚しながら、胡軫に命令を下した。
「胡軫!お前には5万の兵を預ける!今すぐ酸棗にいる曹操を殺せ!華雄!徐栄!お前達には2万ずつの兵を預ける!これなら胡軫隊が伝令や兵糧集めに兵を割く必要性が少しは減るだろう!」
華雄は人間の様な体型をしたヒヨコの様な、徐栄は人間の様な体型をした雀の様な姿をした中凶クラスの邪凶だ。
胡軫は満足げに答える。
「少々多い気がいたしますが、まあ何、大船に乗ったつもりで吉報をお待ちください!」
胡軫、華雄、徐栄が退席すると、董卓はとんでもない事を言い始めた。
「それー!城外百里に渡って火を放って!強制的に長安に旅立たせるのだぁー!」
その際に洛陽の歴代皇帝の墓を暴いて財宝を手に入れ、宮殿・民家を焼きはらった。正に強行策である。
また、長安への遷都中に李儒が一旦董卓の許から離れた。董卓に廃された前皇帝・劉弁を曹操に利用される前に殺害する為である。

「先に動いたのは敵さんの方ですね」
董卓配下の大凶クラスの邪凶・胡軫が9万の兵力を持って酸棗に進軍しているのだ。
対して反董卓連合軍は未だに曹操、橋瑁、張邈の軍勢のみであった。やはり公文書を偽造したのがばれたのか、それとも自らの利益を重視していたためなのか、諸侯が全く集まらない。
業を煮やした曹操が歩み出る。
「言い出したのは私だ。私が責任をとる」
張邈は呆れながら言い放つ。
「止めても無駄の様だな!よし、たいした協力は出来んが、俺の兵を少しばかり随行させよう」
「恩に着るよ張邈」
曹操が自分の陣内に戻るや否や、
「出撃だ。董卓軍が酸棗を攻めて来た」
それを聞いた哪吒が皮肉を言う。
「やるな董卓!どこぞの駄目諸侯共とは大違いだぜ!」
趙公明も一応同感する。
「かは義挙なんじゃぞ!損得を思案する刹那かで候!」
が、二郎真君が残念そうに首を横に振った。
「所詮は自分さえよければ全て良しの者達ですからね、私達仙人や妖怪の様なしっかりとした信念が彼らには無いのですよ。曹操殿を見習って欲しいです」
曹操が照れくさそうに命じる。
「馬鹿やってないでさっさと行くぞ!敵軍は待ってくれないぞ!」

一方、本当に曹操が酸棗に居るのか不安になってきた胡軫は、徐栄隊2万を斥候部隊として先行させた。
「胡軫様」
「ん?何だ華雄?」
「これだと、曹操の首級が徐栄の手に渡ってしまいますが―――」
胡軫は気楽に答えた。
「それならそれで良いではないか。楽だし、曹操がそこまでの者なら俺様の出番は無いよ」

滎陽県汴水で曹操軍と徐栄隊が遭遇したため、董卓軍対反董卓連合軍の初戦が唐突に始まった。
燥ぐ哪吒。
「うほほい!敵の大軍だあ!旗印は“徐”の文字……」
二郎真君が予測する。
「恐らく董卓配下の中凶の徐栄かと思われます」
曹操が薄ら笑いを浮かべる。
「中凶が長の部隊か、嘗められたモノだな」
趙公明が景気の良い事を言いだす。
「されば彼らを撃破して董卓の眼を覚ましめてやりましょうぞ!」
曹操は自軍に号令をかける。
「此処まで来て引き下がるわけにはいかん!みんな心してかかれ!」
「オオーーー!」
一方の徐栄は慌てふためく。
「“曹”だと!?いきなり曹操がお出ましかよ!だが、敵は少人数だ!一気に押しつぶせ!」
「うおー!」
武勇に優れた仙人を3人も有している曹操軍であったが、曹操の本当の両親を失った時と同様、今回も数の暴力に悩まされる事になる。
徐栄隊は質の差を埋める事が出来ず、曹操軍は数の差を埋める事が出来ず、曹操も無駄に神兵化して悪戯に七星剣のエネルギー補給の時間を増やす訳には行かず、丸一日続いた戦いは結局決着を見なかった。
「みんな良く戦ってくれた。これで曹操軍の武勇が天下に轟く事になろう。それだけでも戦った意味はある」
曹操の励ましの言葉に対して哪吒は悔しそうに言う。
「くそう!兵の数がせめて倍有れば何とかなったモノを!」
だが、趙公明は哪吒の意見に否定的だ。
「いやはや、戦は数だけならば出来ん。数と質、しかして智の三拍子そろとはこそ天下無双の軍団と云ゑるのでござる」
「でもよー」
それを聴いた曹操は皆に誓う。
「しかし、私は誓うぞ!いつか必ず、どんな邪凶にも屈さぬ地盤を持ってみせるぞ」

圧倒的な数の差のみで曹操軍に引き分けた徐栄隊が酸棗襲撃部隊の本隊に合流すると、なぜか慌しかった。
「な、何事!?」
兵士の1人が事情を簡潔に説明した。
「華雄様、討死!」
「え……?」
事情がいまいち呑み込めない徐栄。

さて、曹操軍が徐栄隊と戦っていた頃、董卓軍酸棗襲撃部隊は何をやっていたかと言うと。
「報告します。魯陽にて不審な動きを見せる一団を発見しました」
それを聴いた華雄がいきり立つ。
「橋瑁の呼びかけに応えた馬鹿の仕業でしょう。ここで叩き潰しとくべきでしょう」
只殺戮をしたいだけの華雄と違い、胡軫は冷静だ。
「待て、魯陽からだと酸棗からは遠い。橋瑁の呼びかけに応えたと言えるのか?」
華雄は何とか胡軫を説き伏せようと必死だ。そんなに殺戮がしたいのか。
「劉焉(字は君郎)でしょう。益州からだと―――」
「いや、本気で董相国を狙う者が益州にいたとすれば、酸棗なんぞに行かずに直接洛陽に殴り込む筈だ。あの時の曹操の様に」
事実、劉焉は、賈龍らに迎えられて益州に州牧として赴任し、綿竹県を拠点とした。劉焉は離反した者達を手懐け迎え入れ、寛容と恩恵で住民を懐柔しながら、秘かに独立する構想を持ったという。
「じゃあなんですか?あの集団は?」
「近づかん方が良い。我々の目的は曹操を殺す事だ。先頭の徐栄隊の報告を待ってから動いても遅くはあるまい」
しかし、夜中の内に華雄隊が本隊から抜け出し、不審な動きを見せる一団がいる魯陽に向かった。
「あの馬鹿」

魯陽に到着した華雄隊の目に留まったモノは、“孫”一文字の旗。孫堅軍だ。
一体なぜ孫堅軍が魯陽にいたのかと言うと、荊州南部で起こった区星の反乱鎮圧の最中に反董卓連合軍の報を聴いたのだ。最初から参加する心算であったが、孫堅軍の反董卓連合軍加盟を後押ししたのが袁術(字は公路)である。
袁術もまた名門である汝南袁氏出身であるが、同族の袁紹が自身より声望が高いことを妬んでおり、今回の反董卓連合軍を使って汝南袁氏の当主の座を袁紹から奪おうと考えていた。ちょうど反董卓のために挙兵し北上してきた長沙太守の孫堅が南陽太守の張資を殺害していたところであったため、袁術はその後任として南陽郡を支配し、孫堅を影響下においた。
しかし、二兎追うものは一兎をも得ずというが、呆れた事に袁術軍が道に迷ってしまい、酸棗に行くはずが間違えて魯陽に到着してしまったのだ。孫堅軍もこれに巻き込まれて魯陽に到着。
其処へ、董卓軍酸棗襲撃部隊の本隊から抜け出した華雄隊まで魯陽に到着してしまったのだ。
「大将!何か来やすぜ!?」
「旗は?」
「“華”の様ですぜ!」
孫堅は部下の報告に対して首を傾げた。
「はて?性が華の諸侯がいただろうか?」
袁術が意見する。
「いや、違う!そんな名の者は聞いた事が無い」
「だとすると……董卓軍の刺客か!?」

こうして、孫堅軍と華雄隊が魯陽で激突した。
(なんだ?あの化け物は?黄天軍の一員の中にも似たような者がいた様な気が……)
「我は孫文台!貴様は誰だ!?」
「董卓軍酸棗襲撃部隊小隊長の華雄だ!貴様らは魯陽で何をしている!?」
「酸棗に行くはずが間違えて魯陽に到着してしまったのだ!酸棗は何処だ!?」
「酸棗だと!?貴様は曹操の董卓殺害に協力する気か!?」
孫堅が不敵に笑う。
「いや……違う」
「ではなぜ酸棗を目指す!?」
「私が董卓を殺すからだ!」
「ぬかしたなー!良いだろう!貴様達の体に流れる血を曹操殺害成功の前祝の酒にしてくれるわ!」
「やめておけ。江東の虎の血は荒々しすぎて口に合わんぞ!」
この戦いは、曹操軍対徐栄隊と違って数はほぼ互角。故に質の差が結果に影響する。
曹操戦の余興程度にしか考えていなかった華雄隊に対して、孫堅軍は朱治(字は君理)や程普(字は徳謀)などが気を吐いてくれた御蔭で士気が非常に高かった。特に黄蓋(字を公覆)なんか大張り切りで、
「うおらー!大将首は何処だ!?」
と言いながら多節棍に変形する特殊な鉄鞭と虎が彫りこまれた盾と鋭い爪が一体になった武具を振り回しながら敵陣に突っ込む。
最初の内は余裕だった華雄もこれには驚きを隠せない。
「な、何故だぁーーー!何故我らが手古摺る?董卓に選ばれた我々が!?」
そうこうしている内に、目の前に孫堅を乗せた軍馬が迫って来た。
「おのれー!これでも食らえ!」
華雄は背中のヒヨコの翼から羽手裏剣を連射したが、孫堅を乗せた軍馬がジャンプで躱してしまった。
「くそ!貸せ!」
慌てて馬に乗り槍を握りしめる華雄。
孫堅の刀と華雄の槍の応酬は孫堅の勝利に終わり、華雄は大きく背中をそらし、そのまま落馬してどさりと地面に突き落とされた。
孫堅が勝利を宣言した。
「敵将華雄、討ち取ったり!」
その言葉を聴いた華雄隊の兵士達が蜘蛛の子散らす様に逃げてしまった。
「逃げる者は追うな!手向かう者とだけ戦え!」

その2日後、徐栄隊が曹操軍と引き分け、華雄隊は壊滅状態。董卓軍酸棗襲撃部隊でありながら酸棗を拝む事無く汜水関に引きこもる羽目になった。

袁紹軍が酸棗に到着し、孫堅軍と袁術軍が漸く酸棗に到着。その際、孫堅が華雄の首級を梟首にしたと言う噂が流れた事で、漸く他の諸侯も重い腰を上げた。
しかし、袁紹は少々憂鬱だ。それは、袁紹軍の遅参に関係があった。
「元気が無いな。どうした?」
「実はな……俺は上司運が無いのかもしれん」
袁紹の意味不明な言葉に曹操は答えようがない。
「劉協様の後見人となった董卓に対抗して、漢王室の年長の宗室である劉虞(字は伯安)を皇帝に擁立しようとしたが―――」
それを聴いた曹操が激しく反論。
「馬鹿げている!それでは規律と大義に反する!そんな事は通せない!」
袁紹はため息を吐きながらこう答えた。
「劉虞にも同じ事を言われたよ」
結局、劉虞擁立が難航した事が袁紹軍の遅参に繋がり、要らぬ無駄足となった。

その後、鮑信・王匡・孔伷・劉岱・張邈・張超・橋瑁・袁遺・韓馥・朱儁・許瑒・李旻・崔鈞らが集まり、反董卓連合軍は漸く“らしく”なってきた。
曹操は会議の場でこう言い放った。
「孫堅殿の話では、董卓軍酸棗襲撃部隊が汜水関に籠っておるとの事。そこでまずは我々曹操軍が先鋒となり、汜水関城門を攻撃します。その後は各諸侯の判断に任せたいと思う」
反対意見は無い。他の部隊が自分達の部隊の被害を軽減してくれるのはありがたい事だからだ。
(美味しい所だけ貰おうとしているのが見え見えだな)
「後は、私が汜水関を攻撃しに行った後の盟主役には袁紹を推したいのだが、皆さん宜しいか?」
袁術が早速反論したが、だれも聞いてくれなかった。
「連合軍を纏められるのは、この俺しかおるまい!」
「なんでだよ!?この袁術を差し置いて!」
(早速諸侯は互いに牽制か……漢王朝の今後はどうなってしまうのだ)
呆れる曹操をしりめに会議は終了した。

その頃、汜水関では胡軫が困り果てていた。
「なんて事だ!このままでは董相国に顔向けが出来ん!」
徐栄が慌てて胡軫を宥める。
「大丈夫です!我々の目的は曹操を殺す事。酸棗で殺すも汜水関で殺すも同じ事です!」
だが、背後から胡軫の感情を逆なでする言葉を言い放つ者がやって来た。
「フン!寄らば大樹の陰か。腰抜けの雑魚らめが」
「なんだとぉ!」
胡軫が後ろを振り返ると、そこには呂布がいた。
「華雄が梟首になったと聞いて長安から駆けつけて来てやったのだ。ありがたく思え」
胡軫が即座に反論する。
「とか何とか言って、本当は曹操と一騎打ちがしたいだけであろう!」
「んん?」
呂布に睨まれた胡軫が急に萎縮してしまった。
「何でも御座いませーん!」

それから2日後、曹操軍は汜水関に到着した。
「到着したのは良いのですが、これから如何いたす御積もりで?」
二郎真君の質問に曹操は笑いながら答えた。
「ここでは人の流儀では無く、仙人の流儀で戦う」
つまりそれは、道術や宝貝が使い放題である事を意味する。
哪吒は大喜び。二郎真君は苦笑い。
「よっしゃー!さっきの借りを返すぞぉー!」
「しかし、そんな事をすれば、諸侯も黙ってはいまい」
趙公明が二郎真君を宥める。
「まあまあ、良きではござらぬか。かも邪凶から地上界を救うためでござるよ」
そんな曹操軍のやり取りを遠くで眺める者が一人。若くして「王佐の才」とも称揚された男・荀彧(字は文若)である。
(やはり、私の目に狂いは無かった。曹操こそ私の望みを叶えてくれる英傑だ。漢王朝を復旧させると言う私の悲願を)

曹操軍の汜水関攻略が始まった。
先ず始めに城壁の弓兵や散兵を片付ける。その役目は哪吒と二郎真君だ。
手始めに哪吒が、
「金磚」
と言うと、城壁の弓兵達や散兵達の脳天に無数の金ダライが降って来た。
その隙に哪吒と二郎真君が城壁の上に登る。風火輪を持つ哪吒と七十二変化の術であらゆるモノに変身する二郎真君にとって、城壁を飛び越える事は造作も無い事だ。
「ひえー!鷹が仙人に化けやがった!」
「うわー!何何だこの小娘は!うお!」
哪吒と二郎真君が卓越した槍捌きで城壁の弓兵達を蹴散らしていく。
胡軫にとっては困った事態である。敵軍への遠距離攻撃が出来なければ、城壁の意味は半減する。壁に梯子をかけるも良し、門を壊すも良し。勿論、曹操がこの好機を逃す筈が無い。
「趙公明殿!金蛟剪を!」
「任させた!」
趙公明の持つ鋏・金蛟剪は仙邪戦争後期に作られた宝貝で、龍型大凶2匹が封印されており、攻撃時には2匹の金の龍を出現させ、鋏を動かす事で2匹の金の龍を自在に操るのである。
その例の2匹の金の龍が門を押してこじ開けようとしていた。
胡軫が必死で命じる。
「門を抑えよ!城壁の兵達は何をしている!早く門を攻撃している者達を攻撃しろ!」
だが、城壁の弓兵達は哪吒と二郎真君に翻弄されてそれどころでは無い。その間にも閂が悲鳴をあげる。
胡軫が慌てふためく中、呂布はわざとらしく欠伸をしながら嬉々としてこう告げた。
「漸く俺の番か……待ちくたびれたぜ!」

その間、反董卓連合軍は曹操の汜水関攻略を遠くから傍観していた。しかし、一人気を吐く者が余計な事を言い始めた。
「孫堅殿、そう目くじらを立てなくても―――」
「何を言われるか!今回の集まりの元は曹操と聞き及んでおりますぞ!このまま曹操に功績を奪われてばかりで良いのですか!」
しかし、孫堅の言い分も馬の耳に念仏だ。
「曹操が戦いたいと言っておるのだ。戦わせておけば良い」
が、伝令の一言で事態は一変した。
「総大将!汜水関の城壁の敵兵が一掃されました!」
孫堅がちくりと皮肉を言う。
「ほれ見た事か。曹操を勢いだけの小娘と侮ったのが失敗でしたな。曹操は最初から勝算あってこの戦いに臨んでおったのだ」
鮑信が孫堅支持に回る。
「よう言うた孫堅殿!宦官の孫娘ばかりに活躍の場を奪われてばかりでは、諸侯の名が泣きましょう!」
そこまで言われては引っ込みがつかないので、袁紹は渋々命令した。
「では曹操軍を後方に下げ、孫堅軍と鮑信軍が汜水関攻略の攻略に当たれ」
そんなやり取りを聴いていた荀彧はため息を吐いた。
(やはり漢王朝の命運を託すなら……袁紹より曹操だな)

武勇に優れた仙人3人による汜水関城壁への攻撃を満足げに見ていた曹操であったが、直ぐに孫堅に呼ばれ、
「交代だ。そなたらは後方に回れ」
「何ですと」
汜水関城門を金蛟剪で攻撃中の趙公明の背後から威勢の良い声が響く。
「おらおら、退け退け!」
趙公明が後ろを振り返ると、大きな丸太を持った複数の兵士が城門に突撃しようとしていた。
「やいやい、まふ交代かで候」
汜水関城壁で暴れまわる哪吒も異変に気付く。
「どうなってんだ!?」
二郎真君が納得したかの様な顔をした。
「旗印は“孫”。と言う事は、華雄を斃したあの男の差し金か。成程成程、どうやらただ気が荒いだけでは無い様ですね」
胡軫は反董卓連合軍の攻撃手段が仙人の流儀から人の流儀に変わった事で、更に混乱した。
「のわー!只でさえ曹操殺害命令を未だに遂行できていないのに、更に厄介事が増えるのか。しかもあの旗印は華雄を殺った者ではないか!」
呂布が少々焦る。
「早う門を開け!曹操に逃げられてしまうではないか!」
その直後、金蛟剪の攻撃に晒された閂が遂に破壊され、鮑信軍兵士が雪崩込んだ。
「木っ端共、どけどけ。曹操は何処に在りや」
呂布が叫びながら鮑信軍兵士達を蹴散らして突っ込んで行く。
それを見ていた曹操が叫んだ。
「呂布だ!」
孫堅が頷きながら言い放った。
「ほう、あれが丁原軍3万を相手に1人で大立ち回りをした呂布か」

汜水関に雪崩込んだ筈の鮑信軍兵士達が呂布に押し返されていた。
「木っ端共、どけどけ。曹操は何処に在りや」
呂布の叫びに哪吒が答えた。
「なら変わろうかー!風変わりな馬鹿オジサン!」
呂布は哪吒の挑発を無視しつつ、曹操を探しながら孫堅軍・鮑信軍兵士達を蹴散らしていく。
「曹操を出せ!曹操と戦わせろー!」

後方で呂布の頑張りを見ていた袁紹はたまげていた。
「なんなんじゃあの男は!?30人がかりで漸く互角だと!?」
袁紹は呂布の飛び抜けた武勇を見て決心した。
「顔良を呼べ!」

朱治、程普、黄蓋が一気にかかって来ても呂布の勢いは止まらない。
「しかし、その程度では俺には勝てん!」
其処へ、細かな装飾が施された、先端が人間の胴の太さをも上回る巨大な金色の鉄槌を振り回し、大声で叫びながら応援に駆け付けて来た男がいた。袁紹が先ほど言っていた顔良である。
「待て!袁本初の許に顔良ありと言う事を教えてやる!」
「ふん、まだ命知らずがいるのか」
呂布は一向に恐れる様子が無い。余裕をもって朱治、程普、黄蓋、顔良の攻撃を捌いた。
其処へ、また応援の男がやって来た。袁紹が頼るもう1人の猛将・文醜だ。肉厚な刃で重圧感を感じさせる巨大な剣が武器だ。
「待て!この文醜が相手する!」
呂布は叫ぶ。
「面倒だ!みんなまとめてかかって来い!」
呂布に言われた通り、朱治、程普、黄蓋、顔良、文醜が一斉に呂布を攻撃するが、やはり丁原軍最強の戦士は伊達では無い。只でさえ兵士30人分の武勇を誇る呂布なのに、5種類の形態を持つ万能且つ臨機応変な武器・変々戟まであるのだ。
朱治、程普、黄蓋、顔良、文醜はあっさり追い詰められた。前進しようとすれば進路を塞がれ、うっかりしようものなら退路まで奪われかねない。
見かねた哪吒が、
「金磚」
と言うと、呂布の脳天に金ダライが降って来た。しかし、
「こんな物が俺に効くか!?」
金ダライを打ち返され慌ててしゃがむ哪吒。
「あ、あっぶねぇー」
袁紹が呂布の強さに舌を巻く。
「なんという男よ。文醜と顔良を、子供の様にあしらっておる」
其処へ徐栄が呂布に声をかける。
「そろそろ引いた方が良いのではー」
この言葉に呂布は、今日は曹操との一騎打ちが出来ない事を悟って苦虫を噛み潰した顔をした。
「く!孫堅め!よくも俺と曹操との一騎打ちを邪魔してくれたなー!この借りは忘れんぞー!」
そう言うと、口笛を吹いて愛用の赤い重種馬・赤兎馬を呼んだ。
「赤兎馬、頼むぞ!」
と赤兎馬に声をかけ、孫堅軍・鮑信軍の囲みを破って汜水関に逃げ込んだ。
それを見た李旻軍は喜び勇んで汜水関の城門を潜ろうとしたが、徐栄隊が呂布の通過を確認すると、一斉に泥の様な油を大量に撒いた。
「な、何だこれは?」
地面に撒かれた大量の油に滑り転んでしまった李旻軍を背中の雀の様な翼でホバリングしながら嬉々として見る徐栄。その手には火の点いた弓矢が。
「不味い!逃げろー!」
李旻が慌てて叫ぶが時既に遅し。徐栄が放った火矢が油に引火し、炎が李旻軍を包んでしまった。
「ぎゃはははは、どうだ!この徐栄様の策は!」
だが、徐栄はとんでもない者を忘れていた。哪吒だ。哪吒の火尖鎗で斬首される徐栄。
其処へ孫堅が胡軫に追い打ちをかける様な事を言いだした。
「甘いわ!左右が崖に挟まれた場所での火計がどれだけ恐ろしいか……それを知らんと思ったか!」
孫堅軍が複数の巨大団扇で炎を押し返してしまった。巻き込まれた董卓軍酸棗襲撃部隊は壊滅状態となった。
その後、炎が収まるのを待ってから孫堅軍が悠々と汜水関の城門を潜った。
曹操軍は孫堅軍に美味しい所を持って行かれた形となった。不敵に笑う曹操。
「孫堅か、中々面白い男よ」

漸く洛陽に到着した反董卓連合軍であったが、その時既に董卓が洛陽の町を焼き払って長安に撤退した後だった。これにはさすがの曹操も絶句した。
だが、反董卓連合軍は不協和音の連続で、誰も董卓を追撃しようとしなかった。
哪吒があきれ返る。
「解らんなぁー。何で誰も追撃せんのだ?」
「追撃ばかりか、皆の衆勝手に己の本拠地へ引き返してちょーだい勢力争ゐを始めてしもうた」
二郎真君は既に判り切っていた感じだ。
「本当に董卓を討つ心算で酸棗に集まったのなら、もっと集合も出発も早い筈。だが、結局孫堅と袁術が華雄を斃すまで動こうともしなかった。これが意味するモノは……」
「正に群雄割拠の到来でござるな」
趙公明の言葉に哪吒が怒りだす。
「ふざけんなよ!なんでそうなるんだよ!」
曹操はたまらず立ち上がり、
「董卓は非道にも都を焼き、天子を強引に西へ連れ去った。天下は揺れに揺れている!今こそ天が彼を滅ぼさんとしている時!この好機を逃さす一挙に勝負を決すべきだ」
だが、曹操を止めようとする者がやって来た。
「待たれよ。董卓の暴挙は度を超え過ぎています。必ず近い内に自滅するでしょう」
イライラする曹操。
「聖戦の邪魔をするか!」
しかし、男は一歩も見せずに言い放つ。
「ですが、戦いは董卓との戦いだけではない。群雄割拠の時代だからこそ正しい者に正しい力を与えるべきです」
それを聴いた二郎真君が男に賛同する。
「確かに……人間に転生した魔王は3匹いますが、その内、行方を知っているのは張角と董卓の2匹のみ。最後の1匹は名前すら知らない」
二郎真君にそこまで言われ漸く冷静になる曹操。
「確かに短絡な考えであった。すまなかった」
「所業にて、この後、拙者等は如何すらば良きのでござる?」
「その前に名乗らせてください。私は荀彧。字は文若と申します」
曹操が改めて荀彧に質問した。
「ならは荀彧殿、私達はどうしたら良い?」
「兗州東郡に侵入した賊軍を討伐するのが上策かと」
哪吒がからかう。
「ははーん、東郡太守の座が目当てな訳ね」
曹操がふと何かを思い出した。
「そう言えば、袁紹も荀彧殿を誘ったと聞くが?」
「私の悲願は衰えた漢王朝を再興させる事。しかし、残念ながら袁公は大事を成し得る器ではありません」
曹操は少し考えて、
「……可哀想に、袁紹は大魚を逃してしまったな」
その直後、外が騒がしくなってきた。
「何事だ!?」
伝令兵が慌ててやって来た。
「敵将が数人の兵を率いて攻めてきました!」

外では胡軫が純白の戈(ピッケル状の長柄武器)を振り回しながら曹操陣営に乗り込んでいた。かなりの兵と斬り合ったのかかなり傷だらけで、数人の兵を率いていた筈が既に胡軫1匹のみとなっていた。
「曹操は何処だぁーーーーー!」
哪吒がワザとらしく言う。
「あれー?あいつ生きてたのー」
胡軫は必死だ。
「反董卓連合軍が洛陽に到着してしまった。しかも曹操はまだ生き延びている。このままでは俺は長安に行けぬ!」
「じゃから最後の賭けに出たと申す訳でござるな」
「除けい!俺は曹操を……殺すのだぁーーーーー!」
そう言いながら胡軫が鶏の様な翼を広げて無数の羽をばら撒く。
「これで煙幕の心算かよ!?」
哪吒と趙公明が胡軫に斬りかかる。
「うおー!曹操ぉーーーーー!」
胡軫の執念は最早狂気の域であった。流石の哪吒と趙公明も多少苦戦する。
「天晴董卓の刺客、見事じゃ」
「ほざくなぁーーーーー!」
胡軫は背中の鶏の翼から羽手裏剣を連射した。だが、哪吒も趙公明もいやしくも仙人だ。敗ける訳には行かない。
「金磚」
「あぐわ!」
「縛れ!縛竜索で候!」
「うぐお!」
「止めだ!火尖鎗!」
「あぎゃーーーーー!」
哪吒の火尖鎗に腹を貫かれた胡軫の体が炎に包まれた。
「あばよ!邪凶のおっさん!」
それを見ていた曹操は一言、
「危うくとんでもない勇み足をして本来の使命を蔑ろにする所であった」
曹操は決意を新たに、邪凶対策と戦乱終結の為の地盤固めの為に兗州東郡に向かった。
 
 

 
後書き
曹操聖女伝も今回が3回目ですが、まだまだ三国志演義以外の作品の設定が大部分を占めている状態です。第4章辺りから三国志成分が増量される予定なので、三国志ファンの方はどうぞ暖かい目でご覧ください。

後、華雄の処遇についてですが、三国志演義では華雄が胡軫の上司で孫堅に勝っていますが、曹操聖女伝では一応正史側の意見を尊重した形になっています。
 
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