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ラーメン馬鹿

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第五章


第五章

「野菜や生姜を入れればその風味も生きるのだ」
「スープにですか」
「そしてその豚骨自体もだ」
 彼はその豚骨も見ていた。
「肉もふんだんに付けている。おまけにじっくりと煮込み」
「ダシを取っているんですね」
「スープにも工夫が必要なのだ」
「それはわかりますけれど」
「スープはラーメンの基本だ」
 これは言うまでもないことだった。
「そして」
「そして?」
「ああして豚骨や野菜に生姜まで入れてスープを完成させようとしている。ラーメンは一日にして、スープは一日にしてならず!」
 今度は断言であった。
「双方共それがよくわかっている」
「そうですか」
「そして次はだ」
 委員長の目はスープにだけ向けられてはいなかった。
「麺だ」
「麺ですか」
「どちらも自分で作っている」
 委員長は一目見ただけでそのことを見抜いたのだった。この辺りの目も流石だった。
「九州の麺は細く」
「はい」
「そして北海道の麺は太めだな」
「そういう違いがあるんですか」
「屋台だからその太さは限られているが」
「そうなんですか?」
 アナウンサーはこの辺りの知識は乏しかった。
「屋台だと麺が細いんですか」
「屋台はスピードが勝負だ」
 これは屋台のラーメンの鉄則である。お客さんを待たせてはどうにもならないということである。委員長は正論を述べているのであった。
「だから手早く茹でる為に」
「麺を細くですね」
「その通り」
 委員長は断言した。
「だから屋台の麺は細いのだ」
「そういうことだったんですか」
「どちらも豚骨だが」
「それでも違いがあるんですね」
 今度の話はそれぞれのラーメンの違いに移っていた。
「同じ豚骨でも」
「豚骨といえどもそれぞれの味があるもの」
 委員長は断言する。
「そう。北海道には北海道。味噌だ」
「味噌ですか」
「味噌に大蒜が入る。そして九州ラーメンは紅生姜と胡麻が生きる」
「北海道はスープの味、そして九州は薬味ですね」
「それだけではない。作り方によっても変わる」
「同じ素材でもなんですか」
 アナウンサーにとっては目から鱗の言葉であった。実は彼女は素材が同じならばそれで同じものになると思っていたのである。ところがであった。
「はあ。それはまた」
「今その違いがわかる」
 委員長の言葉は続く。
「今な」
「あと五分です」
 ここで放送が入った。
「あと五分で作り時間は終わりです」
「麗!」
「わかってるばい!」
 麗は雄大の言葉に元気よく答える。今は雄大がスープを作っていて麗が麺を茹でていた。
「このスープで!」
「この麺で!」
 まずは丼にスープを入れそこに湯を切った麺を入れる。忽ちのうちにそのラーメンから湯気が立ち起こる。そうしてそこに薬味やもやし、チャーシューが素早く入れられていく。
 そして北海道側も。今それが完成した。
「舞!」
「兄ちゃん!」
 兄妹で声を合わせこちらもラーメンを入れる。やはりこちらもそれぞれ薬味ともやしにチャーシューを入れていく。見れば同じ豚骨でも外見が微妙に違っていた。
「見比べてみるとわかるんですね」
「今わかったな」
「ええ」
 委員長の言葉に頷くアナウンサーであった。
「何となくですけれど」
「何となくであればわかったな」
「はあ」
 ここでもかなり強引な委員長であった。アナウンサーも頷くしかない。完全に彼のペースだ。
「まあ一応は」
「そしてだ」
「そして?」
「違いの次は甲乙だ」
 つまり決着ということだった。
「どちらが上か」
「それがこの番組の本題ですけれど」
「人生は勝負なり!」
 またこの委員長のペースになっていた。
「さあ諸君!」
「誰に言ってるんだろ」
「屋台の人達は作り終えたから視聴者じゃないのかな」
 今の呼び掛けの意味はスタッフ達にはわからないものだった。
「今ここに!伝説の勝負が決まるのだ!」
「よっし!どっちが上か!」
「これではっきりするとよ!」
「北海道を制覇した俺達兄妹のラーメン!」
「絶対に負けないわよ!」
 彼等は彼等で盛り上がっていた。その熱さの中で今審査が行われるのであった。
 審査員達はそれぞれのラーメンを食べる。当然委員長も。雄大達も光達もどちらも自分達が勝利を掴むものと信じて疑ってはいなかった。
「勝つのは俺達だ」
「そうよ」
「おいどん等のラーメンは無敵ばい」
「そうたい」
 それぞれそんな調子だ。そんな調子で判定を待っていた。そして今委員長が前に出てその判定を下すのであった。
 
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