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美しき異形達

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第三話 怪人と炎その六

「けれどね」
「けれど?」
「田舎だから」
 それもかなりの田舎だ、奈良の南部の山奥の。
 そうした場所に住んでいたからだ、だからだったというのだ。
「その種類は少なくて」
「そうだったんだな」
「新しい種類のものは流通がいい場所に最初に行くじゃない」
「どうしてもそうなるね」
 智和も裕香のその言葉に頷く、世の中はどうしてもそうなっている。流通というものにも格差があるということであろう。
「流通にしても」
「そうなんです、ですから」
「あまり新しいパンは食えなかったんだな」
「そうだったのよ、それで神戸に出て」
 それでだったとだ、また薊に話した裕香だった。とはいっても裕香が今食べているのは昔ながらのアンパンである。 
 そのアンパンを牛乳、これも智和が買って来てくれたものだがそれと一緒に食べながらこう言ったのである。
「八条パンも新しいものが一杯あって」
「嬉しかったんだな」
「そうなの、というか普通の場所だったら普通に新商品も出回るでしょ」
「ああ、八条スーパーとかにな」
 まずは系列店である、同じグループの。
「オークワとかエーコープにもな」
「そうでしょ、けれどね」
「田舎過ぎるとなんだな」
「実家そこまで田舎なの」
 奈良の山奥、そこはというのだ。
「もうね」
「本当に困ってたんだな」
「田舎といってもね、あまりにも凄いとね」 
 裕香の住んでいた場所である、そこは普通の田舎ではなかったというのだ。
「不便過ぎるから」
「そうなんだな。あたしそういうのはな」
 横須賀にいた、都会といっていい。
「わからないからな、悪いけれど」
「悪くないわ。あと薊ちゃん横須賀じゃない」
「ああ、そうだよ」
 薊はクリームパンを食べながら答える。
「生まれはよくわからないけれどさ、孤児院にいたし」
「それでも海よね」
「ああ、もうちょっと行けばな」 
 伊達に軍港の街として発展し今も海上自衛隊やアメリカ軍の基地がある訳ではない、尚横須賀のアメリカ軍は海軍であり紳士的な軍人が多い。
「泳げるぜ」
「そうよね、けれど私のところはね」
「奈良の山奥だよな」
「物凄い場所だったから」
 だからだったというのだ。
「もうね」
「とてもだったんだな」
「そうなの」
「神戸にも山はあるけれどな」
「海が見たかったのよ」
 このことを憧れと共に言う裕香だった。
「ずっとね」
「それもあって奈良から出たかったんだな」
「そうだったの、だからね」
 それでだとだ、裕香は今度は新商品のパンを食べつつ話す。その新商品のパンは柔らかくかなり質のいい食パンだ。
 その食パンを食べつつだ、こう言うのだった。
「もう実家には戻らないつもりなの」
「ずっと神戸なんだな」
「ここにいたいわね」
 実際にそうだというのだ。
「本当にね」
「そうか、不便で海がないからか」
「故郷が恋しいとかいうけれどね」
 そのことはだ、裕香にとってはどうかというと。
「私にとってはあまりなの」
「そうなんだな」
「だって、不便過ぎるから」
 それが大きかった、裕香にとっては。 
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