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美しき異形達

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第二話 目覚める炎その一

           第二話  目覚める炎
 薊は昼休み教室を出ようとした、だがここで。
 裕香がだ、こう彼女に言ってきた。
「お昼どうするの?」
「屋上にでも出てさ」
 そうしてだとだ、布に包まれた弁当箱を出しながら裕香に応えた。
「これ食おうって思ってるんだよ」
「寮で貰ったお弁当ね」
「ああ、これな」
 寮生は寮から弁当が「出る、それで昼を食べるのだ。
「これ食おうって思ってたんだよ」
「そうなの。それじゃあね」
「それじゃあって?」
「二人で食べない?」
 裕香は微笑んで薊にこう提案するのだった。
「屋上に行くのなら」
「ああ、二人でか」
「それか教室でね」
 教室を見回すとだ、もうクラスの面々はそれぞれ数人ずつのグループに分かれて弁当なりパンなりを出している、そのクラスを見回しながら言う裕香だった。
「皆と一緒に食べる?」
「一人で食うより美味いからか」
「ええ、そうする?」
「そうだよな、実は金は貰ってるけれどな」
「お金あるの」
「実は誰か知らないけれどさ」
 薊は何故孤児でありながら収入があるのかを裕香に話した。
「ガキの頃から口座に結構な、少なくともいつも腹一杯食えるだけの金を振り込んでくれてる人がいるんだよ」
「足長おじさん?」
「みたいだよな、孤児院の院長さんは笑ってアルトマンじゃないかって言ってたよ」
「アルトマンって古いわね」
「昔ロッテにいた助っ人だよな」
「そうだったわね、確か」
 かなりの長身、いや大柄な助っ人だった。球場に来る時はスーツであり礼儀正しく温厚な人格者でもあった。
「あの人が身体の悪い子供を球場に招待したりしていたのよね」
「シートも用意したりしたんだよな」
「それでその人みたいだからなのね」
「ああ、足長おじさんだからってな」
 それでだ、その謎の仕送り主をそう呼んでいたというのだ。
「結構野球好きな先生なんだよ」
「薊ちゃんと一緒ね」
「同じ横浜ファンなんだよ」
 横須賀はベイスターズの地元だ、二軍の寮と練習場もある。
「生まれも育ちも横須賀らしくてさ、お祖父さんが海軍だったとか」
「あっ、海軍だったのね」
 裕香は院長先生の祖父がそうだったと聞いて目を輝かせてこう言った。
「八条グループも海軍と縁があったのよ」
「今も海上自衛隊とだよな」
「そう、それで軍艦とか造ってたのよ」
「だよな、それで先生の祖父さんは日露戦争に何でも機関士でいたとかさ」
「機関士?」
「ああ、よく自分の祖父さんは兵学校出てて親父さんも空自でパイロットだったって自慢してたよ」
「代々だったのね」
 裕香は薊の話を聞いて目を瞬かせてから頷いた。
「面白いわね」
「ああ、院長先生は戦後生まれだけれどな」
 薊はこのことは断った。
「親父さん兵学校は受けずに予科練を受けたらしくて」
「そうだったのね」
「それでパイロットでさ、海軍の」
「そこから空自さんに入ったのね」
「そうだったらしいんだよ、何でも戦闘機乗りだったってよく言ってたよ」
「格好いいわね、それはまた」
「それで院長さんはな」
「孤児院の先生だったのね」
 二代続けて軍人だったが、だ。本人はというのだ。 
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