| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

カンピオーネ!5人”の”神殺し

作者:芳奈
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

祝勝会

「それでは!遅くなったけど、護堂君のカンピオーネ就任(?)と、クトゥグア、ルリム・シャイコースの討伐を祝して!カンパーイ!!!」

『カンパーイ!!!』

 キン!とグラスがぶつかる音が響く。今始まったのは、鈴蘭が主催した、護堂に対するお礼のパーティーである。因みに、命をかけてカンピオーネに新生したのが、本当に目出度いことなのか、という質問は却下の方向で。

 今回の敵は、【伊織魔殺商会】のみならず、【冥王】を除いた全てのカンピオーネにとって相性最悪であり、冗談でも誇張でもなく、下手をすれば世界が滅んでいた。

 実際、護堂と【冥王】が対処して尚、サルデーニャ島、シチリア島、ニューヨーク、アーグラという様々な場所が壊滅的な被害を受けていることからも、それはお分かり頂けるだろう。

 犠牲者は軽く見積もっても三百万人以上。ニューヨークでは人的被害はあまり出なかったが、街が壊滅している。

 被害を最小限に抑えてこれだ。もし、護堂が神殺しにならず、【冥王】と鈴蘭たちだけで対処していたら。

 それだけではない。もしも、クトゥルフ関係のまつろわぬ神が出てきた国のトップ陣が狂わされていれば?もし、彼らが乱心して、世界崩壊の切欠(核兵器)を使っていれば?

 錯乱したカンピオーネ(魔王)地球最強の兵器(核兵器)が飛び交う世界。

 その結果訪れる地獄を想像出来る人間たちは、護堂に最上級の感謝を捧げていた。

「いえーい!飲んでるー護堂君!?」

 既に顔が若干赤くなっている鈴蘭がやってきたのは、何だか異様な雰囲気の護堂の所だった。今回の事件のMVPだというのに、彼の近くには誰も寄り付かなかったからだ。新しく誕生したカンピオーネである。友誼を結びたい、顔つなぎをしておきたい人間はいくらでもいるはずなのに、誰一人として近寄らない。
 それを不思議に思った彼女は様子を見に来たのだが、それが間違いだったとすぐに後悔した。

「大体護堂は酷い人よね。・・・わ、私がファーストキスを捧げようとしたのを拒んだクセに、何日もしないうちに新しい女を作ってるんだもの。それでも、私が始めての女だというのなら我慢も出来るけど、始めてはそこの彼女にあげちゃうだなんて。本当に酷い人!」

「いや、だからアレは仕方がないだろう。誰が、ファーストキスを出歯亀共の前で、しかも撮影されながらやりたいっていうんだ・・・。っていうか、始めて始めてって誤解を招くような言い方をするな!それに、祐里とのキスは人命救助の為であって、人工呼吸のようなものだ!そもそも、お前とだってそんなことをするような間柄じゃないわけだし・・・。」

「ご、護堂さん・・・。あれだけ激しく求めて下さったのに・・・。私とのことは遊びだったのですか・・・?」

「そんな間柄じゃない・・・?酷いわ護堂!このエリカ・ブランデッリが身も心も捧げようと言うのよ!?一般的な男性なら、泣いて喜ぶような栄誉なのに。私をここまで堕として(・・・・)おいて、責任も取らないというの!?」

「お、堕とすって・・・!護堂さん!不潔です!!!」

「やってないって言ってるだろう!!!」

「・・・・・・・・・なにこれ?」

 修羅場であった。そして混沌としていた。

 本来、エリカ・ブランデッリは酒類に滅法強い。・・・だが、まつろわぬナイアーラトテップに始まり、クトゥグア、アフーム=ザー、ルリム・シャイコースというクトゥルフ邪神大襲来のせいで溜まっていたストレスによって、少々ハメを外してしまったようだ。完全に悪酔いしている。
 おまけに、愛しの護堂が命懸けの戦いから帰ってきたと思ったら、新しい女を連れているし、更にはその女に、護堂のファーストキスを奪われていたのだ。愚痴の一つや二つは言いたくなるだろう。

 祐里にしてもそうだ。彼女にとってもあれはファーストキスである。それを、あんなに情熱的に奪っておきながら、人命救助の活動だからノーカンなどと言われれば、そりゃ傷つく。

「うわ・・・しまった。こんな場所に来るんじゃなかった・・・!」

 独り身には辛い光景である。傍目には、浮気相手(エリカ)女房(祐里)に離婚を迫っているのを必死に宥める最低亭主(護堂)のように見える。最初に護堂に恋をしたのも、キスしようとした正妻ポジションもエリカだったはずなのに、何故こうなったのだろう?

「あぁ・・・これが、噂に聞くSYU☆RA☆BA!というものですか!見たのは初めてです!」

 全員が一歩を引いてチラチラと見る中で、一人アリスだけは瞳を輝かせながら見つめていたが。

(あぁ・・・放っておきたい・・・)

 鈴蘭は切実にそう思った。リア充爆発しろ!とも思うが、それよりもこの空間に長居したくないという気持ちのほうが大きかったのだ。

(・・・でも、報告もあるしねぇ・・・)

 取り敢えず、話しておくべきことを話してから逃げよう。彼女はそう決心すると、一歩を踏み出した。

「あー、ちょっといい?」

『あ。』

 ヒートアップしていた三人が同時に停止した。流石にこの状況でも、鈴蘭が相手ならば止まるらしい。カンピオーネという存在が、いかに魔術関係者に対して影響力を持つかの証であった。

「すぐに済むから。私がいなくなった後で続きをしてねー。」

「いやいや、やんないですよ!」

「そうかしら?私はまだまだ言いたいことがあるのだけど。」

「私もです護堂さん。」

「ぐ・・・!」

「はいはいストップストップ!エリカちゃんと祐里ちゃん。貴方たちに関することなんだよ?」

 手を叩いて黙らせると、鈴蘭は書類を取り出した。

「取り敢えず、君の実家には連絡しておいたから。泣くくらい凄く心配してたから、後で電話でもしてね。」

「は、はい!」

 【聖魔王】との会話で緊張する祐里。それを苦笑しながら話を続ける。

「で、祐里ちゃんの検査結果なんだけど・・・うん!問題はなさそうだね。ただ、ちょっと強い衝撃を受けると、炎になっちゃうのは制御の訓練が必要だと思うよ?日常生活が送れなくなるでしょ?」

「はい・・・。」

 少し落ち込み気味の祐里。実は、あの戦いが終わって船に帰ってきてから丸一日を、祐里の検査の時間に当てていたのだ。

「鈴蘭さん。そんなに詳しく検査する必要があったのか?」

 という護堂の質問に、しら~っとした表情を浮かべる三人。これには護堂も焦る。

「あのね護堂君。クトゥルフは有名だから、名前とかくらいは聞いたことあると思うんだけど?それを理解した上でそんな質問してるの君は?」

 と鈴蘭。

「護堂。病院でも説明したわよね、クトゥルフの神々がどれだけ危険か。それは、貴方だって嫌になるほど体験したと思うのだけど?ましてやこの娘は、貴方がクトゥグアから簒奪した権能と、ルリム・シャイコースの権能の二つの影響を受けたのよ?肉体的、精神的に、私たちが見逃した変化があるかもしれないでしょう?」

 呆れ顔でエリカが言い。

「護堂さん・・・。私も、自分がどうなっているのか気になっているんです。護堂さんの権能を受けたのは後悔していませんけど、護堂さんも把握していなかったあんな能力(・・・・・)まで発現してしまっていますし。」

 最後に当事者である祐里が締めくくった。

「あ、ああそうだよな!お、俺が悪かった!」

 流石に、三人に言われては何も言い返せない。そもそも、彼が意図していない能力があるのは事実なのだから。他にも何かがあるかもしれないというのは分かる話であった。

「それにしても、護堂君自身も把握してなかった能力が生まれたから、最悪の場合『精神汚染』の力も受け継いでいるかと焦ったけど・・・そういうのが無くて本当に良かったよー。」

 何せ、先ほどエリカも言ったように、祐里はルリム・シャイコースと、護堂が簒奪したクトゥグアの権能を受けたことになるのだ。護堂の眷属になるということは、フサッグァになるということ。所詮は眷属なのでそこまでの力は無いだろうが、精神に干渉する力を持っていても何ら不思議ではなかった。

「これで、エリカちゃんともキス出来るよ!やったね☆護堂君!」

「やったねじゃないですよ!!!」

 とてもいい笑顔でサムズアップした鈴蘭に、全力で突っ込む護堂。彼は、どうしてこうなったと頭を抱えた。

 実際、隠しておける話ではなかったのだ。そもそも、クトゥグアから簒奪した権能を使っても大丈夫かをドクターや鈴蘭に相談している時点で、祐里が彼の眷属になったというのは周知の事実になった。それを聞けば、護堂の第一の騎士を自称しているエリカが嫉妬するのも当然である。
 帰ってきた護堂に質問攻めするエリカ。護堂自身は何とか【炎の王国(フレイム・キングダム)】の秘密(発動条件)を守ったのだが、祐里は守りきれなかった。
 キスという、彼女的にとても恥ずかしい行為が条件なので、それを意識すればするほどに言動が怪しくなって行くのだ。
 顔を真っ赤にして俯くその様子と、護堂の態度などを鑑みれば、幾度となく交渉事を行って相手の隠し事を見抜くことに長けているエリカが『恥ずかしいことをすること』が条件なのだと気がつくのは当然のことであった。

 それから数度の質問で、条件は『キス』なのだと気がついたエリカ。祐里に先を越されたことに嫉妬を覚えながらも、二人目の眷属となろうとした彼女にストップをかけたのは、他ならぬリップルラップルであった。

 彼女は、護堂から断片的に得られた情報から、『護堂が把握していない力がまだある』ことを見抜いていたのである。実際、神獣程度の力しか持たないハズの祐里が、どうやってルリム・シャイコースの動きを止めたのか、彼には分かっていなかったのだから。
 それが完全に把握できるまでは、新しい眷属を増やすのは危険であった。

 不承不承ながらもその意見に賛同したエリカ。そこから、ドクターやリップルラップルによる徹底調査が行われたのである。

 その結果知れ渡った、彼女が手に入れた力。それが・・・

「それにしても、『幽霊と意思を通わせる』なんて、また変な力を得たもんだねー。元々姫巫女は幽霊とかを認識する力が常人より優れてる。それが、魂に深く関係するクトゥグアの力によって強化されたと考えるべきかな。」

 鈴蘭が語るこの知識は、全てリップルラップルから教えられたものである。

「ま、ルリム・シャイコースは自業自得ってところだね。所詮幽霊。普通なら、まつろわぬ神にとっては小石と何ら変わりない。普通の魔術師にだって、一体一じゃなんの影響も無いだろうね。・・・でも―――」

 そう。護堂が最後に言った台詞。『人間を舐めすぎだ』。これがそのまま、彼の神の敗北原因であった。

 祐里は、周囲に漂う無数の幽霊に呼びかけたのだ。『一矢報いたくはないですか?』と。不条理に命を奪われ、悔しいのは人間も動物も、植物だって変わらない。そして今の彼女は、『対象が幽霊ならば』、例え虫や動物や植物とでも話が出来るのだ。
 『一寸の虫にも五分の魂』。この(ことわざ)が真実だったという事が判明した瞬間であった。生きている者全てに、等しく魂は宿っていた。

 確かに、祐里によって意識が統一されても、たかが幽霊である。まつろわぬ神には勝てない。足止めすら出来ないだろう。千集まろうが、一万集まろうが。

 ・・・だが、十万なら?百万なら?

 アーグラという都市の人口は157万人以上。観光客を含めると、160万に届くかもしれない。人間だけじゃない。犬や猫などの動物を含めれば、その数は倍以上に膨れ上がる筈だ。
 そしてそこに、小さな昆虫や植物などを含めたら?その総数は、一体どれほどになるのだろうか?

 それら全てが、ただ足止めだけに力を費やせば・・・まつろわぬ神といえども、止められるのではないか?

 物理的に止める必要などどこにもない。そう、例えば・・・

 叫ぶ、とか。

「みーこさんやリップルラップルだって、騒音には耳を塞ぐ。五月蝿いってね。
 例え、まつろわぬ神が人間を石ころか何かとしか認識していなくても、私たちの声は聞こえているんだよね。人間が、コオロギとか蝉とかの虫の声を聞けるみたいに。
 ルリム・シャイコースは、人の魂を喰らう邪神。当然、幽霊の声も聞こえる。億や兆に届く・・・いや、超えるかもしれないほどの幽霊が出す騒音。それを耳元で聞かされれば、悶絶するのも当然か。」

 そして、それを邪魔されない為に、自身の身体の一部を炎の糸と化して巻きつける。神獣未満の力しか持たないが、十数秒の時間が稼げれば良かったのだから。
 そして、それは成功した。

 ルリム・シャイコースの敗因。
 それは、意味もない虐殺だったのだ。

「鈴蘭さん。確か、あの時世界中の人間を生き返らせたのは鈴蘭さんなんだよな?だったら、今回も何とか出来ないのか?」

 改めて今回の事件を振り返り、被害の大きさに溜息を吐く護堂。そして、鈴蘭に尋ねた。・・・が、彼だってわかっている。それが出来るなら、既にやっている筈だ。人が生き返るなんて世界中で混乱が起きるとか、そういうことを考える人間じゃないのは既に理解しているのだ。そうじゃなければ、あの騒ぎだって起きなかったはずだし。
 ならば、未だにやっていない理由があるはずで。

「あ~あの時の事?あれはね、私がやった訳じゃないの。知り合いの神様にやってもらったことなの。対価は私が渡したけどね。その時に、『もう二度と死者蘇生なんてやりません』って釘を刺されちゃっててねー。」

 今明かされる衝撃の事実である。

「知り合いの神様って・・・いえいいわ。下手に突っ込むと痛い目を見そう。」

「・・・あはは。」

 護堂と違い、魔術にドップリと使っている二人は、神様に頼みごとが出来るというその事実に目眩を覚えていた。そして、天敵であるハズの神殺しに手を貸すまつろわぬ神がいることにも驚いていた(まつろわぬ神ではなく、正規ルートを通ってきた真なる神なのだが)。

「まあ、今回の被害者たちには申し訳ないんだけど、どうしようも出来ないね・・・。」

「そうですか・・・。」

「私がいうことじゃないけど、落ち込んでても仕方がないよ。護堂君はむしろ、この後に待つエリカちゃんとの契約のことを考えるべきじゃないかな!」

「な!?」

「でも、気を付けないとダメだよ二人共?きっと彼、目を離した隙に、次々女の子が増えていくタイプだし。ちゃんと手綱を握っとかないと。」

「おい!?」

『・・・はい!』

「おい!?」

 女性二人の心に炎を滾らせるような発言をしてから、彼女は去っていく。背後から聞こえる、護堂の叫びも無視して・・・。 
 

 
後書き
祐里の設定、無理があると言われるかもしれないですね。ちょっと強くしすぎたかな?
でも、この結果は最初から考えていました。原作でも、ルリム・シャイコースは、自身が取り込んだ幽霊たちのおかげで正気を取り戻した魔術師によって、腹を割かれて死んでいるんです。人を甘く見て、所詮人間の魂だからと侮った挙句、格下に殺されるんですね。そういうのを再現したいと思って、こういう能力にしました。
冥府の神とか、そういう神に対して結構効果的な能力じゃないでしょうか。

念願のダクソ2を買ったんですけど、まさかのPS3が動かないという事態に・・・。給料日までお預けです・゜・(ノД`)・゜・ 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧