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裏生徒会と正しい使い方

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第4話 床の色の種類と人の色の数

「……そうだね、君には迷惑をかける」
 峰年は、うんざりとした様子の瀬礼戸にニャリと微笑みかけた。
 ここは職員室。パソコンに向かう人、電話で応答する人等様々な姿の教師を介して労働の片鱗を見ることの出来る場ではあるが、峰年はその目的で職員室に遊びに行ったことが無い。
 放送室ジャックが終わり教師達に連れられた峰年達3人は、職員室にて各担任に注意を受けることになった。
 ということで峰年は今、急に面白い話を強要されたような顔の瀬礼戸と向かい合っているのだ。
「……以後気をつけるように、以上」
 瀬礼戸はそれだけ言うと椅子を回してパソコンに向き合
「待った待った待った」
 ……おうとしたが峰年に呼び止められた。
「なんだよ?」
「そんな寂しいことを言わないでくれ。咲かない花に水をあげるのが教師の役目だろ?」
「それはないな」
「そうだな。言ってて可哀想になってきた」
 峰年はあっけらかんと即答した。
「……」
 瀬礼戸は観念したようにフゥと息を吐いた。そして、峰年の目を見る。
「……で、なんであんなことを?」
「暇だったんだ。それで、私以上に頭のネジが外れた人々と交流したくなった。そんな人を簡単に見つけるにはどうすればいいか。……簡単だ」
 峰年はそこで言葉を切って人差し指を1本伸ばした。
「頭のネジが外れたような勧誘をすればいい」
「よく分からんが、もっと学校に迷惑をかけない方法は思いつかなかったのか?」
「時間さえあれば思いついたかもしれない。だけど、今日でなくては駄目なんだ」
「何かあるのか?」
 聞きようによっては真面目な話になるそれを、瀬礼戸は胡散臭げな目で尋ねた。
「明日になったら飽きそう」
「じゃあ飽きればいいじゃねぇか……」
 呆れた様子の瀬礼戸をよそに峰年は少しだけ熱を込めて口を開く。
「駄目なのだよ。それでは乏しい。明日の自分が悔い無く飽きるようにする為にも、今日は色々と行動しなければならないのだよ」
「じゃあ明日には人集めに飽きてるってことか?」
 瀬礼戸はジトっとしたやる気の感じられない目を峰年に向けた。
「次の興味は集まった人との雑談だ」
「都合がいいというか……。まぁ、興味は都合がいいもんだけど」
「まぁ明日になって人が来なかったら、次に集合をかけるのは暫く後になるだろう。よかったな」
 峰年は励ますように瀬礼戸の肩をポンと叩いた。
「迷惑かけてる自覚はあるんだな」
「人は迷惑をかけないと生きていけない。難儀なものだよ」
 峰年は大根役者のように悲しげに微笑んだ。
「話をすり替えるな」
「冗談だ」
 峰年はフフと笑った。
「……まぁとにかく、公共の場を私物化しないように。教師に怒られるだけだからいいってもんじゃないだろ?」
「そうだな。規範を守れなかった所は今回の計画の失敗点だと思っている。善処するよ」
 峰年は瀬礼戸の目を見た。
「はい、じゃあこの話はおしまい」
 瀬礼戸は膝をパンと叩いた。
「では次に世間話でもしようか」
 峰年はすぐ言葉を継いだ。
「そういうわけにはいかないんだよ。どっかの誰かが人の時間を食ったもんでね」
 瀬礼戸はそう言うと椅子を回転させてパソコンに向き合った。
「やれやれ、だから私がその人に代わって時間の質を上げてやろうと言うのに……」
 峰年はそう言いながらゆっくりと立ち上がった。


「今日は色々あった。祭りだと思うと愉快だが騒乱と考えると少し混沌が過ぎたように思う。周囲に居るのは観客ではなく赤の他人なのだ。そのことを理解していなかったばかりに花火を火薬の爆発として扱わせてしまった。これは確かに私達の責任ではある。そしてそれを総括した時、二の句となるであろう一言は、教師も大変なのだな」
 峰年と仙翁と葉蓮は帰宅の途についていた。
 今日はドタゴタがあったので部活もせずに帰ることにしたのだ。
「そんなこと考えてたんだ」
 仙翁は苦笑した。
 時間は4時位。学校から最寄駅まで15分程度歩く必要があるので、今はその過程を歩んでいる。
 辺りには人がまばらにいるが、七弓中高の制服を着た人が多い。
 峰年はその人の集まりをぼうっと眺めながら自分も七弓高校の制服を着ていることを再確認してミイラがミイラを観察する気分はこんな感じなのだろうかとふと思ったことがあることを思い出したところで頭の中を仙翁達の会話に戻した。
「まぁ私が教師だとしても私みたいな生徒は相手したくないな。フォークで味噌汁を飲まされるようなものだ」
 峰年はニュースキャスターが芸能人の財布がスられた事件の原稿を読むように言った。
「あー、こっちは結構言われましたね」
 葉蓮は空を見ながら独り言のように言った。
「えっと、君のとこの担任は……」
木原(キバラ)です」
「あぁ、木原だったか。同情するよ」
 峰年は先程よりは少し人間味のある声で言った。
 木原は40代後半位の厚化粧の女で、自分の立ち位置を、尊大で荘厳な所から矮小で脆弱な所まで自在に行き来させられる技能を持っている。
「まぁ、あの人が担任になった時にある程度覚悟してたんですけどね」
 葉蓮は上を見ながらのんびりと言った。
「なんであれ、大袈裟だろうがなんだろうが、これからも上のお世話になる予定ではある」
 峰年は口笛でも吹きそうな軽い調子で言った。しかし、峰年は口笛が吹けないのである。
「あんまりやりすぎるのもよくないよ」
 仙翁はやんわりとたしなめた。
「そうだな。だが、蹴った空き缶が線路に入れば大惨事だ。……で、木原はなんて言ってたんだ?」
 峰年は顔を葉蓮に向けた。
「教師の許可無しに放送室を使用するなんて信じられない。学校はあなた達のお遊技場じゃない」
 葉蓮は前を見ながら淡々と言った。
「それは知らなかった」
 峰年はクスリと笑った。
「姉のことも言われましたよ。お姉さんをもっと見習いなさい。学校の為に尽くしているでしょう?あなたがふざけたことをすることで、お姉さんにまで迷惑がかかる」
「迷惑をかけるのは、誰なんだろうね」
 仙翁は微妙な表情をした。
「まぁ仕方無い。昔から板チョコのことを叱る時はカレールーを引き合いに出すものだ」
 峰年はトラブルに遭遇したように肩をすくめた。
「あれって、どう返せばいいんでしょうね?」
 葉蓮が峰年のほうを向く。
「『姉が私を見習わないのが悪い』。咄嗟に浮かんだのはこれだな」
「却下で」
 葉蓮は即答した。
「お気に召さなかったか」
 峰年はフフと笑った。
「……ということでどうだ仙翁?」
 峰年は急に仙翁に話を振った。
「うっ、……『先生こそウーパールーパー辺りでも見習ったらどうですか』、かな?」
「うん、嫌いじゃない」
 峰年は満足気にニヤリと笑った。
「さっきのよりは気に入りました」
 葉蓮は無表情で言った。
「それで、仙翁は何を言われたんだ?」
 峰年は話を続けた。
「それが、何も言われなかったんだよね」
「……えっと担任は、梅臣(ウメオミ)先生だったよな?」
 峰年の確認に仙翁は「うん」と頷いた。
 名前は知っているしどんな人なのかは仙翁に聞いてはいたものの、峰年は梅臣について殆ど知らない。
 初老で白髪の男で、なんとなく優しそうな雰囲気はすれ違った時に感じてはいたが、その程度だ。
「ずっと先生の前で座ってて、先生は僕をずっといつもみたいに見てるんだよ」
「……それを、どれ位?」
「10分位、かな?」
「10分。ずっと。何も言わず。ただ見てるだけ」
「そうだね」
「それはなんともユニークだな。ユニークだが、いまいち伝わるものが無い……ぁ」
 峰年は急に顔に手のひらを当てて天を仰いだ。
「どうしました?」
 葉蓮は表情を変えずに尋ねた。
「……いや、これは妹の管轄だ」
「?」
「……」
 意味が伝わってない葉蓮とは対照的に、仙翁は妙に生暖かい視線を送った。
「……いやすまないいやすまない」
「まぁ、思いついちゃうのは仕方無いよね」
 仙翁は穏やかで優しい声を出した。
「そうだなうん。ゼンマイ駆動だろうと電動だろうと与えられたことをしっかり果たせばいいのだよそうだな」
「そんなに気にしてないよ」
「よし……」
 峰年はフゥゥと息を吐いた。
「盗浦先輩って、何人きょうだいなんですか?」
 ひと段落着いたところで葉蓮が尋ねた。 
「下に妹、更に下に弟がいる」
「へぇ、どんな人なんですか?」
「2人共それはそれは酷い人間だ。なにせ私と似ている」
 峰年は問題児の教師のような目で肩を竦めた。
「2人共ですか?」
「あぁ。とは言っても、各自得手不得手はあるがな……それで、凌霄のきょうだいは姉の他にいるのか?」
「いえ、2人姉妹です」
「そうなのか。……」
「そうですね。それで、節黒先輩は?」
 葉蓮は顔を仙翁の方に向けた。
「僕?1人っ子だよ」
「そうなんですか」
「やっぱり、きょうだいがいると1人っ子に憧れるもんなの?」
「昔は色々思ってましたけど、もうなんとも感じませんね。いた方がいいとか、いない方がいいとか」
 葉蓮は空を見上げた。
「たまにはな。吐き出すのは溜め込みたくないからだし」
 峰年は両手を頭の後ろにやった。
「ふぅん」
 仙翁が流すような反応をしていると、そういえば、と峰年がポツリ呟いた。
「明日の行動予定を練らねばならない。あれだけ予告しておいて何もしないというのもなかなかに味のある行為だが、それをするのは人生の賭けだ。ここは素直に行こうと思う」
 峰年は歩きながらゆっくりと言った。
「でも、先生がそこを張ってる可能性も0じゃないよね?」
 仙翁は峰年の顔を見た。
「ありえなくはないけど大丈夫でしょう。流石にそこまで教師も暇じゃないと思います」
「大丈夫だと思うけど、念の為その対策は考えておいた方がいいんじゃない?」
「そうだな、生徒達が危険な組織が結社するのを阻止するのは教師の仕事だ」
 峰年は冗談めかして言った後、
「それに、当事者としてもその説は否定出来ないのだよなぁ」
 初めて困ったような顔つきをした。 
「そうなると、先生側から干渉されるかもしれないね」
「そこで仙翁の力を借りるわけにはいかんからなぁ」
 峰年は空を見た。空は自分勝手にカラッと晴れている。
「どうする?話し合う?」
 仙翁は2人を見た。
「そうだな、仙翁の家に行こう。凌霄は予定あるか?」
「堕落するっていう予定があります」
「そうか、じゃあその予定を遅らせてくれ。堕落なら仙翁の家でも出来る」
「そっすね」
 葉蓮はそこで仙翁の方を向いた。
「じゃあ、お世話になってもいいですかね?」
「うん、いいよ」
 仙翁はにっこり微笑んだ。
「よし、では各自準備をしてから仙翁の家に集合」
「はい、了解」
「分かりました」


「用があってここに来た」
「はい、いらっしゃい」
 峰年は手を洗うと居間の扉を開けた。
「それで、例の物は用意してあるか?」
「おやつとゲーム以外が必要なら今から用意するけど」
「……いや、いい」
 峰年はそう言いながらクッションに腰掛けた。
 居間には白い布のかかった正方形に近い形のテーブルが1台置いてあり、その周囲にはパステルカラーのクッションが2つずつ向かい合うように、計4つ置かれている。
「それで、凌霄はまだ来てないのか?」
「うん、ここまで来るのには峰年君の家より遠いからね」
「そうだな、先にお菓子でも食べるとするか」
「はぁい」
 仙翁はそう言うと、少し深みのある皿を2つ持ってきてバナナチップとソフトクッキーを開けた。
「さて、1つ考えたことがあるが凌霄が来てから話そう。それまではゲームでもするか」
「そうだね」
 2人は立ち上がった。
「何やる?」
「ここには無いゲームをやりたい?」
「別荘行く?」
「冗談だ」
 2人は茶番をやりながらゲームのコードの準備をした。
「おじゃましまーす」
 と、その頃に葉蓮の声がした。
「おじゃまします」
 それに続く、聞いたことのある声。
「……やれやれ、こりゃ、ゲームはお預けかな?」
 峰年は肩をすくめた。
「……」
 仙翁は立ち上がって居間を出た。峰年もそれに続く。
 そして2人が玄関に着くと、
「おじゃまします」
 花が丁寧に一礼をした。 
 

 
後書き
さるとんどる。おみのづえSPです。
3/31。これが何の日か知っていますか?
なんと、この小説の前話の投稿日です!
……つまり1年近く放置してたんですねおい。
さてさて、1年近く経つとキャラを忘れてしまって、読み返しても空気に慣れないもんですね。
違う作品になってしまっていないかと少し不安だったりしておりますが、これからはもっと頻繁に書いていきたいです。
では、これで。感想や誤字脱字の指摘等あったら下さいな。そういうの友人以外から全然貰えなくてちょっと無力感を感じてるんですよ。
これがあなたにとって悪くない暇潰しでありますように、では。 
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