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たすけ

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第五章


第五章

「何かあったのかな」
「何かが?」
「そうじゃないと変わらないだろう?」
 こうした見方も出ていた。
「やっぱりな」
「じゃあそれは何なんだろうな」
「さてな」
 そこまでは誰もわからなかった。
「そこまではわからないがそれでもだ」
「ああ、変わったな」
「そうだな」
 このことだけは確かだった。確かに三神さんは変わられたのだった。
「あんなにやさぐれていて乱暴だったあの人がな」
「全く違ってるよ」
「まず酒も飲まないし」 
 最初はそれからだった。
「それに博打も女も喧嘩もな」
「全部しなくなったな」
「顔も変わってきていないか?」
「そういえば確かに」
「顔も」
 次にその表情についても言われた。
「全くな。これまでとは全然違うよな」
「完全な別人になってるよな」
「そうだな」
 皆三神さんを見てこう言い合ったという。
「何か雰囲気も全然」
「今までと違うし」
「穏やかになったよ」
 雰囲気についてもだった。
「どっちにしろ付き合いやすくなったよ」
「よかったよかった」
「全くだ」
 皆は素直にそのことを喜んだという。しかしこの人達は喜んだだけでそれ以上は見ることもないし考えることもなかったのだという。
「これで街も平和になるよ」
「善き哉善き哉」
 これで話を終えた。ところがであった。家族、特に奥さんにしてみればその違いはまさに切実であり切羽詰ったものでもあったのだ。
 ある夜に三神さんは奥さんと御二人でこんなことを話されたという。お子さん達が寝られて御二人だけで誰もいない暗い居間で。話されたという。
「それであんた」
「ああ」
「あと三ヶ月だよね」
「そうだ」
 三神さんに対して言われたという。
「あと三ヶ月だな。本当に」
「お医者さんは何て言ってるの?」
「同じだよ」
 こう奥さんに返したのだという。
「あと三ヶ月だってな」
「実際に言ってるのね」
「変わらないさ」
 そしてこう返された。
「それはな」
「そう。変わらないの」
 三神さんのこの言葉を聞いて今まで生きているうちで一晩落胆されたそうだ。
「それは」
「あと三ヶ月か」
 三神さんは達観されて期限を述べられたという。
「短いか長いか」
「短いわよ」
 奥さんは今にも泣きそうな顔で述べられたという。
「三ヶ月しかあんたといられないなんて」
「おいおい、また随分と言うな」
 三神さんは次第にやつれてきている顔で奥さんに対して述べられた。
「それまではあれだろう?」
「ええ」
 その泣きそうな顔で御主人に対して頷かれた。
「そうよ。もう一緒にいるのが嫌で嫌で」
「それで別れたいって何度も言ったな」
「そのことは覚えてるわ」
 やはり酒に博打に女といった無頼な生活を見ていて嫌気がさされていたのだ。それに三神さんは何かあれば奥さんやお子さん達に暴力を振るわれていたという。おそらくそれもあったことは間違いない。
「子供を連れて家を出たこともあったじゃない」
「ああ。七年前か」
「あの時は本当に別れようと思ったわ」
 実際に僕もそれを聞いてよくそこで離婚にならなかったことだと思った。しかしそうはならなかったというのも思えば何かの縁だったのだろう。
 
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