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IS インフィニット・ストラトス~普通と平和を目指した果てに…………~

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number-14

千冬に許可をもらった後、蓮とラウラの二人は一組と二組が合同でIS操縦の訓練を受けているグラウンドが見える校舎の屋上に来ていた。落下防止のフェンスに背中を預けて、蓮はラウラと向き合う。


「一か月ぶりだな、兄上」
「……ああ」


形式上の挨拶を手早く終えた二人は、今この場を監視しているものなどがないか辺りを探り、それがないことを確認すると再び会話を始める。


「経過報告から。私とクラリッサ及び、部隊の複数名の一階級または二階級昇格。果たしました」
「そうか、よくやった」


一瞬にして場の雰囲気が変わったが、それもすぐに戻った。何かの錯覚だったのかもしれない。怪しく感じてしまうかもしれないが、蓮がラウラの頭を優しく撫でて、ラウラが猫のように喜んでいるのを見ると、先ほど感じたものなど風に飛ばされるように遠くへ飛んで行ってしまう。女性にしては高めの身長であるが、蓮と並ぶと身長差が丁度よく兄妹のように見える。


さすがに恥ずかしくなったのか、ラウラが名残惜しそうにしながらも自分から離れる。そんなラウラに特に反応するわけもなく、フェンスに背中を預けて見えていなかったグラウンドの方を向く。彼と同じように彼女も隣に並んでグラウンドを眺め始めた。IS訓練が行われているグラウンドは、イギリスの代表候補生と中国の代表候補性が学園教員と戦っている。2対1と教員側の方が人数的に不利ではあるが、あの二人のコンビネーションを見ると些細な問題としてとらえてしまってもいいだろう。事実、ほとんどダメージを負うことなく、二人を完封して落として見せた。流石元日本代表候補生である。彼女の実力は、銃などの分野においては織斑千冬よりも上だろう。


だが、そんな専用機持ちの無様な姿を見て業を煮やすものがここにいる。ラウラである。
彼女は完全に実力主義の中生きてきた。軍でも、強いものが正義みたいなもので。亡国機業ではそれが顕著だ。完全なる実力で位を定めている。民主主義の世の中、様々な意見を取り入れなければならないという状態になっているが、実力主義はそんなもの関係ない。強ければいいのだ。権力的にでなくて、勿論武力で。


彼女的には実力の伴わない物がなぜISに乗っているのだろうかと考えていることだろう。それも一つの考え方ではあるが、本来の考え方としては間違っている。
IS――――インフィニット・ストラトスは、もともとは宇宙圏の探索のために篠ノ之束が発案、開発していったものである。宇宙をもっと知りたい。最初はそんな小さな願いからコツコツと積み上げて形にしていったものを、自らが望んた形とは違う運用方法で使われている。さぞかし悲しかったに違いない。
人とはそういう物なのだと割り切って、人嫌いになった。それが篠ノ之束という人物である。


「……? 兄上? どうしたのだ、いきなり考え出して」
「ん? ああ、特に何でもない。気にしないでくれ」
「……そうか」


ラウラがいきなり黙って考え出した蓮に心配気に問いかける。特に話すことでもないため、蓮は誤魔化したが、ラウラはすんなりは納得してくれず不承不承、といった様子だった。
蓮は、蓮中心でほとんどの物事を考えているラウラに一抹の不安を持ったが、ラウラ自身がそれでいいのなら特に言うことでもない。彼女がいてくれるのならそれでいい。あまり人をもののように言ういい方は好きではないが、貴重な戦力である。彼女が亡国企業にいるからドイツ軍にいるシュヴァルツァ・ハーゼ部隊は、いるのだから。


ラウラが隊長であるから、あの部隊がいる。人数は30人弱と少数ではあるが、その分強者揃いだ。ドイツ軍からの指令の達成率は100%。そして、亡国機業からの指令の達成率も98%と高水準を保っている。ドイツからの指令はともかく、亡国機業からの指令はどれも難易度の高いものであることに間違いはないのだが、彼女たちは失敗しない。


隣を見れば相変わらずラウラがあのぬるま湯につかったようなISの実習を見て、業を煮やしている。そんな彼女に苦笑を漏らすしかない蓮。だが、蓮もラウラの気持ちが分からなくもない。確かにここにいれば、平和でいいところだ。何もなければ、日本に永住したいとも思う。


しかし、今の彼らにその言葉は不要なのである。この腐った世の中を是正する。クソッタレな各国の上層部たちを全員殺してやる。それが、今の亡国企業の最終目標なのだ。戦争、戦い、戦などと言えば聞こえはいいかもしれないが、所詮は殺し合いである。それが時間の流れとともに規模が拡大していっただけにすぎない。はるか昔の武士の時代の刀同士で斬り合うにほぼ等しいのだ。
今はまだ行動は起こせない。きっかけも戦力もないから。戦力に関して言えば、あとは時間の問題であろう。束が面白くするためだけに自分の妹にすぎた力である第4世代機のISを渡そうとしている。そのうえ束監修の元、そのISの劣化型量産機の製造に入っている。劣化とはいえ、今主流になりつつある第3世代とほぼ同等のスペックを持つ。若干スペック的に足りなくはあるが、そこは操縦者で補えるレベルである。問題ない。ちなみにこれらの第4世代機劣化型に乗るのは、ラウラの部隊である。
それに加えてアメリカ、イスラエルの合同研究軍用ISの《シルバリオ・ゴスペル》の略取も決まっている。操縦者はナターシャ・ファイルス。


ドプンと浸かりきっていた思考の海から出てきた蓮。ふと時間を確認するともう授業の終わりに近かった。ラウラは隣で相変わらず実習を見ているが、そろそろ片付けに入るところなのか先ほどのようにくいるようには見ていなかった。


「ラウラ、時間だ。戻るぞ」
「分かった」


      ◯


ようやく午前の授業もすべて終わり、お昼時。蓮とラウラの二人はすでに食堂で昼と食べ始めていた。テーブル席で開いてはいたが、誰も座る者はいない。手前の方を開けているため分かり易いとは思ったが、二人分しか空いていないため誰も座らないようだ。――――と、こちらに近づいてくる人が。


「申し訳ありませんが、相席よろしくて?」
「悪いわね」


セシリアと鈴の二人だった。物珍しい組み合わせではあったが、これといって話すようなことでもないため、そのままスルーしておく。
二人に了承の意を伝え、二人が席について食べ始める。ラウラと蓮が向かい合って、ラウラの隣にセシリア、その向かいつまり蓮の隣が鈴だ。今朝、ラウラが一夏の頬を叩いたため、この二人は敵意をむき出しにするかと思ったが、そうでもなく至って普通に食べている。


このテーブル席には会話がなく、騒がしい食堂内でここだけ異彩を放っている。だが、それを気にする四人ではない。……よく考えてみてほしい、ここのテーブルに座っている人を。全員が専用機持ちでそれなりの実力を持っている。ラウラと蓮に至っては二人で一国を落とせる。
とここで、蓮がラウラに話しかけた。


「なんだ全然食べ進んでいないじゃないか」
「むぅ……この箸が使いづらくてな」
「だから大人しくバウムクーヘンにでも噛り付いていればよかったんだ」
「この和食というものを食べてみたかったんだ」
「……はぁ、仕方がねえな。ほれ」


蓮が自分の箸で焼き魚をつついてラウラに食わせてやる。さも当然のように出されたものをぱくっと食べるラウラ。ご飯、野菜と食べさせた後、その食べさせた箸で自分の分を食べる蓮。そんな二人を信じられないような目で見るセシリアと鈴。その二人を知ってか知らずか同じように繰り返す二人。ラウラの令嬢を彷彿とさせる綺麗さと、先ほどから食べさせてもらっているため、小動物のような可愛らしさがある。さらにぱくっと食べるたびに揺れるセシリアと同じくらいに豊満な胸を見て、鈴が嫉むような視線を向けていた。


そうして食べ終わる二人。食べ終わった二人を見てセシリアと鈴は、ようやく我を取り戻し、まだ食べ終わっていない昼食を食べ始めたが、鈴のラーメンはもう伸びてしまっていて涙目になっていた。


「ありがとう」
「ふん、そう思うなら次は和食じゃなくてザワークラウトとヴルストにでもしておくんだな」
「ああ、そうしよう。私はやっぱり自分の国の料理が一番みたいだ」
「誰だってそうじゃないか? 中国人はうまい中華が一番だし、イギリス人はあの食いたいとも思えないような料理が好きなんだからな」


蓮の言葉を聞いたセシリアと鈴の表情は対称的だった。自分の国の料理を褒められた鈴は、向日葵の様な笑顔だし、セシリアは般若のような怒りに満ちた形相だった。


「む、それは違うぞ兄上。イギリスにはもともと食文化を大事にしなかったから、食に対する関心が薄いんだ。それにローストビーフやステーキは美味しい」


自分の想い人を叩いた敵であるラウラから思わぬフォローが入ったセシリアは、驚きつつも感謝していた。第一印象が悪いあの二人ではあるが、それがひっくり返りそうな感じである。かなり珍しいことだ。
蓮は、コップに残っていた水を一息に飲んで食器を持って立ち上がる。ラウラもそれに倣って立つ。そして二人が席を開けて食器を返して食堂から出ていくと、まるで狙ったかのように一夏がシャルルと一緒にセシリアと鈴のもとに近づく。


「隣、いいか?」
「えっ!? ええ、構いませんわ」


だが、鈴は席を立つとセシリアに目で合図を送り、来るように伝える。慌てて席を立ったセシリアは、何も言わずに去った鈴の代わりに断りを入れてから鈴のもとへ駆け寄る。
その後ろ姿を見送るしかない一夏とシャルルは、顔を見合わせて首を傾げる。だが、昼休みの時間はそんなに残っていないため、特に気にするようなことでもないと二人は判断し、昼を食べ始めた。


だが、この時一夏は気付くべきだったのかもしれない。
鈴は、確かに一夏に恋心を抱いていた。しかし今はどうか。本当に一夏のことが好きなのだろうか。セシリアは、本当に好きであろう。それは見ていてわかる。では鈴はどうか。その答えは鈴の中で出しつつあった。


――――昔の一夏は確かにかっこよかった。でも、今の一夏は違う。アタシは、今と昔の差に目を背けていただけだったんだ。アタシはむしろあいつの方が気になる。でもそれは決して恋心とかじゃない。
……ああっ。時間ってひどいなあっ……!


 
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