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恋の矢

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第四章

「告白しようって」
「待て、告白って何じゃ」
「だから、好きなのよ」
 その真っ赤になった顔でだ、優子は敦史に顔を向けて言った。
「あんたのことが」
「嘘じゃないのう」
「嘘でこんなこと言わないわよ」
 ややムキになってだ、優子は返した。
「それも二人だけで」
「じゃああいつがわしをここに呼んだのは」
「頼んだのよ、私が」
 そういうことだというのだ。
「これでわかったわよね」
「ああ、そうか」
「それで返事は?」
 真っ赤になった真剣な顔でだ、優子は敦史に問うて来た。
「いいの?それとも駄目なの?」
「待つんじゃ、いきなりで」
 これ以上ないまでに戸惑ってだ、敦史は優子に返した。その戸惑いが顔にも身振りにもはっきりと出ている。
「何て言えばいいんじゃ」
「わからないの?」
「少し待ってくれるか」
 敦史はこう返すだけで精一杯だった。
「三日、三日な」
「三日ね」
「その間に決めるわ、三日後のこの時間にここでじゃ」
 答えを言うというのだ。
「それでいいか」
「わかったわ、三日後のこの時間にここね」
「ああ、そうじゃ」
 優子に再び答えた。
「それじゃあのう」
「ええ、待ってるわね」
 優子もそれでいいと頷いた、そして。
 敦史は一旦優子と別れた、だがそれからだった。
 頭の中が混乱していた、正直どうしていいかわからなかった。
 折角何とか振り切った相手にまさかの告白だ、それを受けてだった。
 何が起こったのかさえわからずにだ、ただただ考えを乱すばかりだった。 
 授業でも部活でもだ、完全に上の空で。
 心はそこになかった、それで空手部の顧問の先生も言うのだった。
「おい、どうしたんだ」
「えっ、答えは三日後じゃ」
「馬鹿、何言ってるんだ」
「だから三日後まで待ってくれるかのう」
「御前大丈夫か?」
 顧問の先生は敦史の言葉に呆気に取られながら返した。
「三日とか何だ」
「だからのう、それは」
「こいつ、本当にどうなったんだ」
 先生も今の敦史はわからかった、そして。
 他の部員達もだ、呆れるばかりだった。
「おかしいな、これは」
「こいつ魔法少女にでもなったか?」
「あれは男にはなれないだろ」
「あの何処かの星から来た白いのも男には興味ないしな」
「だからな」
 それはないというのだ。
「じゃあどうしたんだ」
「こいつ何があったんだ」
「急に頭が動かなくなったじゃねえか」
「悩みごとでもあるのかね」
「急にああなったな」
 皆彼の様子におかしなものを感じていた、それは家でもだった。
 夢うつつであれこれ考えている顔の彼を見てだ、両親も言うのだった。
 父は腕を組んでだ、母に言った。
「あいつ、どうしたんじゃ」
「うちもわからんけえ」
 母もこう返すばかりだった。
「あれは黒田がメジャーに行った時みたいじゃけえ」
「マエケンはまだの筈じゃ」
 父は実は前田がメジャーに行くことを覚悟していてこう言うのだ。
「それで何でじゃ」
「わからんけえのう」
「そうじゃな」
「これはどうしたことじゃ」
 親達もいぶかしむのだった、だが今の敦史はその周りの目にも気付かない、彼だけで考えるばかりであった。  
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