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誰もいなくなった

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第六章

「出るか、もう」
「ああ、そうだな」
「自警団はどんどん酷くなってるしな」
「市長は一切対応しないからな」
「自分の身を守るのは自分だ」
「それならな」
「出ような」
 彼等もどんどん逃げていった、街はどんどん寂れていった。小売の店も次から次に他の街へ移っていった。
 役人達もだ、市長に愛想を尽かして。
「あいつは馬鹿だ」
「何もわかろうとしない」
「仕事をしようとしないからな」
「じゃあな」
「他の街に移るか」
「自警団は役所や警察にも攻撃してきてるしな
「それだったらな」
 役人も逃げて行った、警官達もだ。彼等もまたどんどん逃げて行った。そして残ったのは自警団だけだった。
 自警団の連中が役所や警察の仕事もする様になった、これを見て市民や役人達は余計に逃げた、彼等は横暴を極めしかもまともな仕事は全く出来なかったからだ。
 もう誰も市長に意見を言わなかった、そして。
 気付いた時には街はゴーストタウンになり果て誰もいなくなった家やビルだけが朽ち果てていっている惨状になっていた、道路には車はなくコンビニもガソリンスタンドも全て閉まっていた。市長が必死に誘致していた企業や他の街も。
「この街はどうしようもない」
「ここと提携しても駄目だ」
「治安が酷過ぎる」
「皆逃げているしな」
「我々も去ろう」
「ここからな」
 こう言ってそしてだった、彼等もいなくなった。
 街に残っているのは市長と自警団だけになっていた、市長は誰もいなくなった街を観て愕然としてこう言った。
「何故こうなったんだ」
 その廃墟となった街を観ての言葉だ。
「ついこの前までこの国で一番栄えていた街だったというのに」
「貴方のせいです」
 僅かに残った役人、年老いた彼が言って来た。
「貴方の愚かさのせいです」
「私のせいだというのだ」
「貴方は街の為に何もしませんでした」
「何もだと」
「市民を守ろうともせず誰の忠告にも耳を貸さずならず者達の好きにさせてきました」
「馬鹿な、他の街や大企業を誘致してきたぞ」
「それよりもです」
 彼が思ってきていた仕事よりもだったというのだ。
「市民の為に動くべきだったのです」
「街の企業の為にか」
「貴方は本当に何もされませんでした」
 面倒臭そうに返すだけだった。
「それがこの結果です」
「街が滅んだというのか」
「もうこの街には何もありません」
 そして誰もいなくなっていた。
「これからも誰も寄り付かないでしょう」
「全て私のせいか」
「はい」
 まさにだというのだ。
「誰も貴方を信用し尊敬していません」
「ではこの街は」
「終わりです、私もこれで」
 年老いた役人は懐からあるものを出して来た、それは。
 辞表だった、市長にそれを出して言うのだ。
「家族共に去りますので」
「そうか・・・・・・」
「さよならは言いません」
 彼は市長に冷たい声で告げた。
「貴方はそれに値しない人ですから」
「私は市長だぞ」
「貴方は市長としてすべきことを何も為されませんでした」
 つまり市長ですらなかったというのだ。
「ですから」
「馬鹿な、私は」
「貴方を受け入れる場所は何処にもありません」
 役人は冷たい声で告げる。
「この世の何処にも」
「この街しかないのか」
「この廃墟しかありません」
 市長がいられる場所はというのだ。
「この街で余生を過ごされて下さい」
「この街の人口は今どれ位だ」
 市長は去ろうとする役人に問うた、最後にこのことを。
「三百万いたが、かつては」
「三十万位ですね」
「百分の一か」
「皆貴方と自警団に粛清されるか嫌気がさしてです」
 死刑に遭うか去ったというのだ。
「そうなりました、そして今もです」
「去っているというのか」
「次から次に、もう駅も無人駅で商店街もシャッターしかありません」
 そうした場所もすっかり寂れているというのだ。
「道の両端の店も」
「総て出て行ったのか」
「その街で余生を過ごされて下さい」
 役人の言葉に悪意はない、冷たいものだけがあった。
「では」
「・・・・・・・・・」
 市長はその場に崩れ落ちた、かつては見事だったが何もなくなった市庁舎において。そして市庁舎の一室において。
 自警団の者達だけが騒いでいた、今度はどの市民を槍玉に挙げようかという話をしているだけだった。その話をしながら仕事をしているが。
 所詮はならず者だ、まともな仕事なぞ出来ない。決裁すべき書類が山の様になっているが。
 彼等はそれ等の書類を平然と燃やしてこう言うだけだった。
「決裁終わり」
「じゃあ今度はあいつだな」
「ああ、あいつも俺達を批判しているみたいだしな」
「あいつを消すか」
「そうしようか」
 彼等だけが騒いでいた、しかし彼等が話す間にも市民達は逃げていく。
 街に残ったのは市長と自警団だけになっていた、そして街がどうなったのかを伝える者もいなくなった。廃墟となったその街に近寄る者は誰もいなくなったからだ、かつての繁栄は愚か者達の為に廃墟に成り果ててしまった。


誰もいなくなった   完


                        2013・9・23 
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