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水辺の菖蒲

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第四章

「今から屋上に行く?」
「そうだね、それじゃあね」
 光弘も相手をそこに呼ぶつもりだった、そしてだった。
 二人で今二人がいる校舎の屋上に出た、そこでだった。
 光弘は覚悟を決めていた、まるで居合の刃を抜く様にして美里に菖蒲を差し出した、だがそれは彼だけではなかった。
 美里も菖蒲を早撃ちのガンマンの様に抜いていた、そして。
 二人同時にだ、こう言ったのだった。
「よかったら僕と」
「私と」
「付き合ってくれるかな」
「交際してくれる?」
 二人同時に言った、その言葉をお互いに聞いてだった。
 光弘も美里も驚いた、そして言うのだった。
「夏目さん今なんて」
「白川君まさか」
「僕に告白?」
「私を好きって」
「まさかと思うけれど」
「その菖蒲は」
 二人はお互いの菖蒲を見たまま呆然とさえしていた、そのうえでのやり取りになっている。
「源氏池の」
「あのお池の」
「ということは夏目さん僕を」
「白川君が私を」
「そんな、お互いにだったんだ」
「相手を」
 その言葉を出していく、屋上の青い空の下で。
「まさかこんなことになるなんて」
「嘘みたいだけれど」
「ええと、これって」
「どうしたら」
 二人は話をしながら何とか落ち着きを取り戻した、そうして。
 まずは光弘からだ、こう美里に言った。
「僕でいいんだよね」
「私でいいのよね」
 美里も同じことを言う。
「まさかと思うけれど」
「それで」
「若し僕でよかったら」
「私なんかでいいのなら」
「これからね」
「宜しくね」
 二人共たどたどしく言う、だが。
 そのお互いの菖蒲を受け取った、それでだった。
 二人共その菖蒲を見て言った。
「じゃあこれからは友達じゃなくて」
「恋人ね」
「その立場で宜しくね」
「こちらも」
 こうして光弘は美里と交際することが出来る様になった、その話は雅道の耳にも入った、すると彼は笑ってこう言った。
「いいことだよ、これも菖蒲のお陰だよ」
「そうか?関係あるのか?」
「最初から両思いだっただろ、あの二人」
「それならああなるのも当然だろ」
「当然の帰結だろ」
 彼の友人達は怪訝な顔で彼に言った。
「菖蒲は必要なかっただろ」
「そう思うけれどな」
「それが違うのか?」
「確かにあの二人は両思いだったさ」
 その通りだとだ、笑って応える雅道だった。
「けれどどっちも中々言えなかっただろ」
「菖蒲を取ったら告白しても適うか」
「その話があるからか」
「そうだよ、それであの二人はな」
 その話を聞いてだったというのだ。
「どっちも菖蒲を手に取っていけたんだよ」
「だから菖蒲がなかったらか」
「告白出来なかったか」
「そうなんだな」
「そうだよ、あの菖蒲の話のお陰だよ」
 二人が交際をはじめられたのはとだ、雅道は笑顔で言う。
「本当によかったよ」
「じゃあ俺もやってみるか」
「俺もな」
 雅道に話す彼等はここで言うのだった。
「それで好きな娘と結ばれるんならな」
「やってみるか」
「そうだな」
 こう話してそしてだった、彼等も菖蒲のことを思うのだった。
 雅道もだ、こうも言った。
「じゃあ俺もな、やってみるか」
「ああ、源氏池に行ってな」
「そうしてみるか」
 彼等もまた満月の池に行くのだった、そしてそれぞれの恋愛を適えるのだった。源氏の君がそうした様に。


水辺の菖蒲   完


                           2013・10・19 
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