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宇宙人

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第八章


第八章

「あいつは確かに天才だった」
 中日の監督である落合も言うのだった。
「寂しいな。あいつがいなくなると」
「そうですね。本当に」
「ああ。これで見納めだな」
「そうですね。本当にね」
「いい奴だったよ」
 語る落合の目も温かかった。こうして新庄はバッターボックスに入る。しかしあまりよくは見えていなかった。誰にも言わなかったが彼はこの時泣いていたのだ。
「おい新庄」
「はい?」
 その彼に声をかけてきたのは谷繁元信だった。彼が阪神にいた頃から幾度となくバッターとキャッチャーとして対決してきた男だった。その彼が声をかけてきたのである。
「泣くな」
「泣きたくないんですけれどね」
 返事は苦笑いになっていた。
「それでも何か。どうしても」
「全部ストレートでいく」
「ストレートですか」
「だから最後まで御前らしく行け。いいな」
「・・・・・・有り難うございます」
 最後に礼を述べた。そうして彼は最後の打席を終えた。三振だったが見事な空振りでの三振だった。ファン達もその彼を見て言うのだった。
「三振は三振やけれどな」
「ええ三振やな」
「そや。思いきり振っとる」
 いつもの新庄の三振だったのだ。
「見ていて気持ちのええ三振やな」
「そやな。けれどそれもこれで終わりやな」
「本当にな」
 こう言い合い拍手でベンチに戻る彼を迎えた。そのまま試合は進み遂に九回裏になった。
 試合は日本ハムリードのままだ。遂にツーアウトにまでなった。
 そして遂に試合が終わる時が来た。レフとフライを森本稀哲が捕球する。喪芋とはボールを掴むとそのままセンターの新庄の方に向かって歩いていく。そのまま二人で抱き合った。
「これで終わりなんですよね」
「うん、もうね」
 新庄は今も泣いていた。喜びに沸く日本ハムナインはマウンドに雪崩れ込む。しかし新庄はそこまで辿り着くことができない。涙でそこまで歩くこともできなかったのだ。
「皆、行こう」
「はい」
「そうですよね」
 ここで監督であるヒルマンがナインに声をかけた。皆彼の言葉に従いそのままセンターの方に歩いていく。新庄はその彼等と一人一人抱き合っていく。ファン達の中にもその彼を見て泣く者すらいた。
 そして今ヒルマンが彼等に声をかける。
「皆、胴上げだ」
「はい」
「僕のことはいい」
 まず自分のことは置いておけというのだ。監督である自分を。
「新庄だ。新庄を胴上げするんだ」
「いいんですか?」
「監督は」
「後でいいんだ」
 あくまでこう言うのだった。
「僕は後で」
「わかりました。それじゃあ」
「新庄さん」
「・・・・・・僕が」
「ええ。僕達も」
「是非。やらせて下さい」
 新庄に対しての言葉だった。そして今新庄を囲んで彼を高々と胴上げした。これが彼の最後の晴れ舞台だった。
「よおやった」
 それを見ていた野村の言葉だ。
「今まで野球の為にな。よおやったわ」
「そうですね、本当に」
「新庄選手は今まで本当に」
「これも野球選手や」
 野村はまた言った。
「最後の最後までな。新庄は新庄やったわ」
「はい・・・・・・」
 見れば野村の目も暖かかった。その暖かい目こそが彼の新庄への言葉だった。何もかもが終わった。彼は最高の花道を飾ったのだった。
 ところが。彼はまたやったのだった。
「何や、あれは」
「ええと、あれは」
「何なんでしょうね」
「あれでヨン様のつもりなんか」
 日本ハムの優勝パレードでのことだった。何故かそこに韓流スターがそこにいたのだ。
「一発でわかったぞ」
「何なんでしょうね」
「まああの人ですからね」
「引退してもアホはなおらんな」
 野村はその彼を見てこう言った。
「つける薬があらへんわ」
「はあ」
「そうかも知れませんね」
「まあええわ」
 しかしまた言うのだった。
「あいつはそれでな」
「最後まで新庄さんらしいからですか」
「御前と一緒や」
 丁度いいタイミングで隣に来た一茂に対しても言う。
「アホはなおらんわ」
「馬鹿でもいいんですよ」
「わしはアホやと言うたんやがな」
「まあ大した違いはないじゃないですか」
 そんなことにこだわる彼ではなかった。彼もまた新庄を見ている。
「そう思うんやったらええわ」
「とにかく。最後の最後まで新庄ですよね」
「それでええんや」
 野村はそれを見て頷くのだった。彼はそのスターの格好で満面の笑顔でパレードに参加していた。新庄はあくまで新庄であった。


宇宙人   完


                 2008・11・7
 
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