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ドラクエⅤ・ドーラちゃんの外伝

作者:あさつき
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番外編:バレンタインだよドーラちゃん

 
前書き
 おひさしぶりです。
 諸事情により本編が止まってる中、こんなもん出したら逆に怒られそうですが、出します。
 番外編ですが、設定はルラフェン滞在中の本編に準じます。
 語ってるお前は誰だ的な二人称でお送りします。 

 
『バレンタインだよ、ドーラちゃん!』

 キラキラした瞳で、モモちゃんがドーラちゃんを見詰めて訴えかけています。
 大きいモフモフ可愛いです。

「なにそれ、おいしいの?」

 対するドーラちゃんはポカーンとして、ボケてます。
 こんな対応でも可愛いとは、美少女とは得なものです。

 初見なら誤魔化される可愛さですが、さすがに慣れてるモモちゃんには通用しないようで、胡乱な目で見返しています。

『……ドーラちゃん』
「ごめん、冗談。でも、……あるの?この世界に」
『うーん。人間の世界のことは、あたしはよくわかんないけど。ドーラちゃんが知らないなら、無いのかな?たぶん』
「だよね、無いよね。そんなキャンペーンを仕掛けるほど積極的にチョコレートを売りたがる人もいないだろうしね」

 見た目は美少女でも、流石の残念女子です。
 女子力を示すイベントに対する十六歳美少女のコメントとしては、残念極まりないです。

 残念ではない元女子高生のモモちゃんが、憤慨している模様です。

『そんな前世的な夢の無い大人の事情はどうでもいいの!そうじゃなくて!問題は、この世界にバレンタインがあるかどうかじゃなくて!あたしたちが、知ってるってことなの!』
「それの、何が問題なの?」
『だから!ヘンリーさんも、知ってるでしょ?』
「それはもちろん、知ってるよね」
『だから!期待してると思うの!』
「……ええー?……それは無いんじゃないー?」
『なんで!?』

 モモちゃんが凄い勢いで聞き返してます。
 文字通り、食い付きそうな勢いです。

 いくら可愛いモフモフでも大きい肉食獣でもあるので、ドーラちゃんじゃなかったら逃げ出しててもおかしくないですね!
 別の意味で、ドーラちゃんも引いてますが!

「え、えっと。だってこの十年間、そんなのやってこなかったし。今さら前世のそんなイベントとか、いちいち思い出さないんじゃないかな、って」
『そんなことない!だってそれは、二人きりになれるプライベートな時間なんて全然無かった、奴隷だったときの話でしょ?やったとしても、他の男の人とまとめて義理扱いされちゃって当たり前みたいな、奴隷だったときの話でしょ!?』
「そ、そうだね」

 モモちゃんは更にエキサイトしてきた模様です。
 ドーラちゃんは完全に気圧されています。

『それが今!!せっかく、好きな女の子と二人きりで旅をしてるのに!!こんな恋愛イベントをスルーされちゃうなんて、そんな悲しいこと無いと思うの!!』
「いや二人きりって、そんな。みんなもいるし」
『人間は二人だけじゃない!!ライバル不在なんだから、二人きりって言っても過言ではないと思うの!!』
「いや過言じゃないかな、それは」
『とにかく!!これまでの十年間とは違うの!!今年は、初めて二人で迎える記念の年なの!!絶対、期待してると思うの!!』
「付き合っても無いのに、記念も何も。それにヘンリー、甘いものは嫌いじゃないけど、特別好きってわけでもないし。いらないんじゃないかな、チョコとか」
『それとこれとは別なの!!嫌いじゃないなら、この日だけは絶対に欲しいものなの!!好きな女の子からなら、なおさら!!絶対に!!』
「……そうとも、限らないんじゃ」
『絶対に!!』
「……そうだね」

 ドーラちゃんが負けました。
 モモちゃんの気迫に、押し切られました。

 元々、興味が薄かっただけのドーラちゃんと、乙女イベントへの熱い想いを持っていたモモちゃんとでは、勝負にもならなかったようです。

『わかってくれた!?じゃあ!!』
「うん、作るよ。ルーラを覚えたから、オラクルベリーに行けば材料は揃うだろうし。……ヘンリーには、言わないほうがいいよね?一人で行かせてもらえるかな……」
『大丈夫!それは、あたしにまかせて!あたしが着いていって、ドーラちゃんを守ってあげるから!ヘンリーさんにもあたしから言っとくから、大丈夫!』
「そう?それじゃ、よろしくね。念のため、男装していくね」
『うん!じゃあ、ヘンリーさんたちに言ってくるね!』



『ヘンリーさん、ピエールさん!ドーラちゃんとあたし、二人でちょっとおでかけしてくるから!』

 随時、ピエールなりコドランなりの通訳が入っているということで、ご都合によりその辺は省略します。

「二人で、か?」
『うん!女同士で!二人だけで!』
「モモ殿。差し支えなければ拙者が、護衛として同行致したく」
『ごめんね、ピエールさん!今日は、ドーラちゃんと二人で行きたいの!ドーラちゃんは男装するし、あたしが守るから大丈夫だから!』
「……俺たちが、着いて行ったらまずいのか?」
『うん!』
「……モモ殿、それは」
『女の子にはいろいろあるの!』
「おい、ピエール、ヘンリーも。しつこい男はきらわれるぞー?ドーラちゃんにも、きらわれるぞー?」
「ピキー!」
『さすがコドランくん!スラリンくんも、わかってるー!』
「……」
「……」
『それじゃ、行ってくるね!』
「気を付けろよ、モモちゃん!なんかあったらすぐ逃げろよ!」
「ピキー!」
『ありがと、コドランくん、スラリンくん!』



『おまたせ、ドーラちゃん!わ、かっこいい!!王子様みたい!!』
「ありがとう。……やっぱり、王子様なんだ。高級感皆無な、ただの旅装なのに。……それはともかく、むしろ早かったね。もっと時間かかるかと思った」
『コドランくんとスラリンくんのおかげ!あたしがあそこまで言うわけにいかないから、助かっちゃった!』
「……あそこまで?……どこまで」
『いいから、早く行こ!遅くなっちゃう!』
「そうだね。行こっか」



 ドーラちゃんのルーラでオラクルベリーに移動します。



『ドーラちゃん、お店の場所わかる?』
「うん。最初にヘンリーと来たときに、かなりあちこち歩いたからね。確か、こっちだったはず」
『え?それって……デート?初デート、済ませちゃってたの!?』
「そんなような設定だったね」
『きゃー!ヘンリーさん、やるー!そうやって、徐々に距離を詰めてきてたのねー!』
「モモー?行くよー?」
『あ、うん!今いくね!』



 オラクルベリーの製菓材料専門店に入ります。
 実際そんなものが存在するのかは作者適当につき決めてませんが、今回はあることにします。

『わー、可愛いお店!女の子ばっかりだね!』
「そうだね、男装だとちょっと浮いちゃうね。まあいいか、えーと」
『……ドーラちゃん。……すごく、見られてるね……』
「そうだね、いつものことだね。えーと、これとそれと」
『……見られてるのは、いつもだけど。女の人のこれは、初めてっていうか……』
「ああ、モモと一緒の時は初めてだったね。いいよね、女性の熱い視線は心地良いよね!野郎共の、暑苦しくかつ身の危険をダイレクトに感じさせるアレとは違ってね!あ、あとこれも」
『……なんか、すごく。……囲まれてるっていうか』
「大丈夫、大丈夫。だって女性だし。……こんなもんかな?モモは、なにか欲しいものある?」
『ううん、だいじょう』
「すみません!おひとりなんですか?」
「この子、魔物ですよね?モンスター使いさんですか?こんなに強そうな魔物を従えるなんて、すごいです!」
「お菓子、ご自分で作られるんですか?器用で繊細なんですね、素敵です!」

 買い物の終わりを察した女性の一人がドーラちゃん(男装中)に話しかけたのを皮切りに、瞬時に包囲網が狭まって一斉に話しかけられました。

 巻き込まれたモモちゃんが、戸惑っています。

『え?え?……ドーラちゃん、これ』
「大丈夫、大丈夫。すみません、会計お願いします(ニッコリ)」
「は、はい!!(……ぽっ)」
「その服装、旅人さんですよね?良かったらこのあと私の家で、一緒に」
「それなら、私の家で」
「我が家なら、広いキッチンに最新の機器が揃ってますわよ!」
「な、なによー!広けりゃいいってもんじゃないでしょー!」
「そうよ、最新の機器なんて使えもしない癖に!」
「ほほほ、貧乏人がよく吠えること!大は小を兼ねますけれど、無いものは無いんですわ!」
「きー、なによー!!」
「なんですの、まだなにか」
『ドーラちゃん、なんだか大変なことに』

 取り巻く女性たちが一触即発の雰囲気になってモモちゃんがオロオロしだしたところで、店員のお姉さんにニコポで値切りつつサクッと会計を済ませていたドーラちゃんが、またニッコリと微笑みます。

「はう……(ぽっ)」

 効果は抜群です。
 ニコポ効果により、かしましいお嬢様方が一瞬にして静まり返りました。

 さらに笑顔の輝きを増しつつ、ドーラちゃんが畳み掛けます。

「ありがとうございます、皆さん。旅する私に気を使ってくださったのですね。大丈夫です、場所の当てはありますので」
「……そう……なんですね……(ぽっ)」
「ですから、私などのために争わないでください。美しい皆さんが争うのを見るのは……悲しい、です」

 ここでドーラちゃんが表情を曇らせ、見惚れていたお嬢様方がざわめきます。
 緩急が大切です。

「ごめんなさい!もう、しませんから!」
「そうですわ!ですからそんなに悲しいお顔をなさらないで!」
「……本当ですか?」
「はい!」
「勿論ですわ!」

 窺うようなドーラちゃんの問いかけに、お嬢様方が力強く答えます。

 ドーラちゃんの目がキラリと光り、また輝く笑顔を振り撒きます。

「はうう……っ!!(ぽぽっ)」
「良かった!美しい皆さんには、笑顔が一番似合いますからね!では、急ぎますので私はこれで。いずれまた、どこかでお会いしましょう。……モモ、行くよ」
『……はっ!う、うん!』

 呆気に取られていたモモちゃんにドーラちゃんが素早く耳打ちし、お嬢様方が我に返らないうちにさっさとお店を出ます。


『……ドーラちゃん。……さっきの』
「時間があれば、もう少し遊びたかったんだけどねー。今日は無いから、残念だけど仕方ないね」
『……ドーラちゃんって……』
「さ、また捕まらないうちに、戻るよー」



 ドーラちゃんのルーラで、ルラフェンに戻ります。



『ドーラちゃん、場所の当てって?どこで作るの?』
「先生のお宅か、宿で頼むか。どっちも無理なら外だけど、まあ大丈夫でしょ」
『そうだね!それじゃ、ベネットさんのところだね!』



「先生!お邪魔致します!」
「おお、我が助手……か……?」

 男装のドーラちゃんを見て、ベネットじいさんは驚き戸惑っています。

「こんにちは、先生!突然ですが、台所をお借りできないでしょうか!」
「……間違い無く我が助手じゃの。好きに使うが良いが、その格好はなんじゃ」
「ありがとうございます!一種の処世術です!では、お借りしますね!」
「……うむ」


 今ひとつ納得し切れない様子のベネットじいさんを置いて、台所に入ります。


『ドーラちゃん、なに作るの?』
「ブラウニーにしようかなって。簡単で美味しいし、失敗しにくいし。食べやすいし、みんなに配るのにいいかなって」
『……みんなに?……配る?』
「モモの分も作るからね!」

 猫にチョコレートを与えてはいけませんが、モモちゃんは猫ではなくて魔物なので問題ありません。

『ほんと!?たのしみー、ってそうじゃなくて!そうじゃないでしょ、ドーラちゃん!』
「え?なにが?」

 また、モモちゃんが憤慨し始めました。

『だから!!そんなあからさまな義理扱いじゃ、なんにもならないでしょ!!ヘンリーさんが期待してるのは、そういうのじゃないと思うの!!』
「いや、だって義理だし。期待とか、ヘンリーは別にそんな」
『義理でも!!例え義理でも、少しくらい特別感を出してあげてもバチは当たらないと思うの!!義理って、いつもお世話になっててありがとうっていう、そういう感謝の気持ちでしょ!?明らかにドーラちゃんのことが好きなヘンリーさんに対して、みんなと全く同じもので感謝の気持ちって、それは無いと思うの!!伝わらないと思うの!!ヘンリーさん頑張ってるし、義理でも少しくらい特別にしてあげてもいいと思うの!!例え、義理でも!!』
「今、すごい回数義理って言ったね……。うん、でも一理あるね。感謝の気持ちか。そうだね、そういうことならヘンリーのはちょっと別にしようかな」
『わかってくれた!?よかった!』


 そんなわけで、その他大勢向けのブラウニーと、ヘンリーくん用にガトーショコラを作り始めるドーラちゃん。
 モモちゃんは手は出せませんが、焼き上がりを見張ってお手伝いします。


「絶対、ヘンリーのほうが上手なんだけどなー。こういうの」
『いいの、こういうのは!気持ちが大切なんだから!……あ、そろそろいいみたい!』
「どれどれ。あ、ほんとだ。一回出してみよっか。……うん、いいね。あとは、冷ましてから切り分けてラッピングだけど。モモ、焼きたてちょっと食べてみる?」
『いいの!?』
「ちょっとだけね。あんまり熱いと、ヤケドしちゃうよね。……ふー、ふー……これくらいかな?はい、モモ」
『わーい、いただきまーす!……うん、おいしい!これすっごくおいしいよ、ドーラちゃん!』
「そっか、良かった」


 きちんとお片付けをして、ラッピングも済ませて、台所を出ます。


「む、我が助手よ。終わったのかの?」
「はい。ありがとうございました。それで、先生……これ」

 上目遣いで、そっと可愛らしい包みを差し出すドーラちゃん(男装中)。

「な!?なんじゃ!?」
「先生には、いつもお世話になってますから。私の、気持ちです」

 上目遣いからまっすぐで真摯な視線に変わり、静かにベネットじいさんに歩み寄るドーラちゃん(男装中)。

「な、なんじゃ!?わしは、わしにはそのような趣味は!!いや、中身は美しく愛らしい我が助手じゃと、わかってはおるが!!その格好が似合いすぎておるがゆえになんとも倒錯的で、……や、やめんか!何やら、目覚めてしまいそうじゃ!!」
「先生?……受け取って、頂けないんですか……?」
「や、やめんか!!その悲しげな顔は、本格的に何かが目覚め、いやいや受け取る!!受け取るゆえ、もう行くが良い!!」
「本当ですか!?良かった!」

 悲しげな顔から瞬時に輝く笑顔になり、そっとベネットじいさんの手を取って包みを押し付けるドーラちゃん(男装中)。

「……!!」
「お口に合うといいんですけど。それじゃ、今日はこれで。また明日、よろしくお願いしますね!」

 真っ赤なベネットじいさんに、最後に至近距離でニッコリと微笑みかけて去っていくドーラちゃん(男装中)。

 魂が抜けたようにヘナヘナとしゃがみこむベネットじいさんを、モモちゃんが気の毒そうにみやります。

「……わしは…………わしは…………」
『……大丈夫、ベネットさん。こんなにキレイな男の人も、こんなことするキレイで可愛い女の子も、他にいないから。ドーラちゃんが特殊なだけだから、絶対に大丈夫だから……って言っても、わかんないよね……』
「モモー?行くよー?」
『あ、うん。今いくー』

 モモちゃんの言葉が伝わればベネットじいさんが悶々とする時間も少しは短縮されたと思われますが、残念ながらこのまま放置です。


 ベネットじいさんを放置して、宿屋に戻ります。


 早速みんなの元に向かおうとするドーラちゃんを、モモちゃんが引き留めます。

『待って、ドーラちゃん!』
「なに、モモ」
『着替えてから行こう!』
「え?このままでも」
『ダメ!!男装のままヘンリーさんにそれを渡すなんて、絶対にダメ!!ベネットさんみたいには間違ってもならないけど、台無しじゃない!!』
「台無しって何が」
『感謝の気持ちを示すんだから!!ヘンリーさんが、ちゃんと喜んでくれるようにしないと!!だから、着替えて!!』
「……そっか。ヘンリー、私の男装イヤみたいだもんね。じゃあ、そうしよっかな」
『ちゃんと、可愛くしてね!』
「わかった」


 ドーラちゃんとモモちゃんの二人部屋に戻って、ドーラちゃんの服を選びます。


「どれにしようかな……どれでもいっか」
『またそんな適当な!勝負なんだから、ちゃんとそういうの選ばないと!』
「……勝負?」
『あ、これなんかいいんじゃない?可愛いし、ちょっとセクシーだし!ハートのモチーフとか、バレンタインにぴったり!』
「……可愛いけど。ちょっと、露出多すぎない?これで一人で出歩いたら、逆に怒られそう」
『……そうかも。あたしが一緒だし、隣の部屋までだけど。こんなに可愛くてセクシーなドーラちゃんが、一人で歩いてたら危ないよね……』
「隣なんだからそれは大丈夫だと思うけど、それじゃやっぱり別の」
『あ、そうだ!あたしが、ヘンリーさんを呼んでくるから!他のみんなにはあたしから配っとくから、ドーラちゃんはこの部屋で、ヘンリーさんに渡してあげて!』
「……それでもいいけど。でも別に、他の」
『うん、決まり!さ、早く着替えて!あ、下着も可愛いのにしてね!こういうのは、気分が大事なんだから!』
「…………まあいっか。それでも」



 踊り子さん進呈の可愛くてちょっとセクシーな下着と、可愛くてセクシーな服に着替えたドーラちゃんを部屋に残し、ブラウニーの包みが入ったバスケットをくわえたモモちゃんが、部屋を出ます。

『それじゃ、ヘンリーさん呼んでくるから!待っててね、ドーラちゃん!』
「うん。みんなのほう、よろしくね」
『うん!ちゃんと配ってくるから!あたしはしばらくあっちにいるから、ゆっくりしてね!』
「え?ゆっくりって」
『じゃあ、行ってきます!』

 疑問符を浮かべるドーラちゃんを残し、モモちゃんが隣の部屋に旅立ちます。


 程なく、部屋の扉が叩かれます。

「ドーラ、俺だ」
「ヘンリー。今、開ける」

 モモちゃんに呼ばれてやってきたヘンリーくんを、扉を開けて迎え入れます。

「ごめんね、ヘンリー。わざわざ呼び出すほどのことじゃないんだけど」
「いや、いい、って。……その格好」
「あ、変?」
「いや、可愛いよ。可愛いってか、色……いや、ただ。それで、外を歩くのは……」
「うん、だから。ヘンリーに、来てもらったの」
「……用って、何だ?」
「あ、そうそう。はい、これ」

 可愛らしくラッピングした箱を差し出すドーラちゃん(エロ可愛い)。

「……これ」
「バレンタインだから。こっちではそういう習慣無いみたいだけど、私たちは知ってるし。ヘンリーにはいつもお世話になってるし、そういう感謝の気持ちっていうか」
「……わざわざ、作ってくれたのか?」
「そんなに、手の込んだものじゃないけどね?ヘンリーのほうがそういうの上手だし、別に嬉しくないかもしれないけど」
「いや、嬉しいよ。ありがとう、ドーラ」
「う、うん」

 本当に嬉しそうに微笑むヘンリーくん(イケメン)。
 まっすぐに見詰め返されて、赤くなるドーラちゃん(エロ可愛い)。

 宿の部屋に、二人きり。
 ドーラちゃんの背後には、ダブルベッド。

 ヘンリーくんが、受け取った箱を横に置きます。

 今さら何かを察したらしいドーラちゃんが、冷や汗を流しつつ上目遣いでヘンリーくんを見上げます。

「……え、えーと……ヘンリー……?」
「食べても、いいか?」
「……えーと……一応聞くけど、食べるって何を……」
「……聞きたいか?」
「待った!ちょっと待った!義理だから!それは、義理チョコだからね!?」
「そうだろうな」
「だから!」
「口説くくらい、いいだろ?」
「口説くにしてはちょっと話が飛びすぎてるっていうか、あっ、やっ、ちょっと!!」



 ドーラちゃんとヘンリーくんがある意味での勝負に突入したその頃、隣の部屋では。



『あー、おいしー。ドーラちゃんのブラウニーも、ヘンリーさんが淹れていってくれたお茶も!どっちも、すっごくおいしいね!』
「だなー!やっぱドーラちゃん、料理うまいよな!ヘンリーは気が利くヤツだよなー、おいら全然気が付かなかったよ」
『あたしもー。ヘンリーさんがしてくれてなかったら、ピエールさんに淹れてもらうしかなくなっちゃうところだったよねー』
「なー」
「ピキー」

 平和なお茶会が催されていました。

「……モモ殿。やはり一度、ドーラ様のご様子を」
『もー、ピエールさん!人の恋路を邪魔したら、パトリシアに蹴られちゃうんだから!』
「いやしかし、ドーラ様のご意思が」
『大丈夫!ドーラちゃんだって強いんだから、本当に嫌なら抵抗できるんだから!隣の部屋なんだから、大声出したらすぐ聞こえるし!ヘンリーさん頑張ってるし、たまにはゆっくり口説ける機会があってもいいと思うの!』
「……しかし」
「まー、ヘンリーのことだし。ドーラちゃんが本気で嫌がることして嫌われるとか、そんなん無理だろーし。そこまで心配しなくても、大丈夫じゃね?」
「ピキー」
「……ふむ。一理ありますな」
『そうそう!さ、ピエールさんも食べて!あとでドーラちゃんに、お礼と感想言ってね!』
「左様にござりますな。有り難く、味わって食さねば」



 その後。
 あっさり返り討ちに遭ったヘンリーくんがさっさと戻ってきて仲間たちに慰められたか、結局戻ってこなくてモモちゃんは四人部屋にお泊まりすることになったか、はたまた普通に攻略を進めて程々のところで戻ってきたか。

 その辺はご想像にお任せするということで(投げっぱなしとも言う)。 
 

 
後書き
 これは番外編につき、何があったとしても本編には特に関係ありません。
 結末はご希望に応じて選択してください。 
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