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ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~

作者:ULLR
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アイングラッド編
SAO編
  《圏内事件》1

 
前書き
《圏内事件》1と言ってますが、事件はまだ起きません(笑) 

 



その日は格別な天気だった。
それこそ、薄暗い迷宮区になんか潜りたくないぐらいに。

「よし、決めた。迷宮区に着くまでに何か面白いことが起こったら今日はサボってやる」

などと、某副団長殿が聞いたら目をつり上げてキレられそうなことを決心していると、

(……残念なことにもうすぐ雨、いや下手したら上層が落ちてきかねない)

なんと、その某副団長殿が木陰でぐっすりお昼寝中ではないか。
さらに、傍らには意外な人物がいた。
隣でぐっすり寝ているお姫様とことある事に対立し、しばしば攻略会議を剣呑な雰囲気に陥れる、全身黒ずくめのはぐれビーター。

「……そこでニヤニヤ見てないで助けてくれ、レイ」
「何を言うか。そんなことしたら、この面白い状況が終わってしまうじゃないか」
「俺は面白くねぇ!?」
「だろうな。まぁいいじゃないか……疲れてんだよ」
「ああ……」

俺は2人がいる木陰を作っている木に飛び乗り腰かけた。
先程の決心どおり、今日はサボることに決めたのだ。
助ける気ゼロの俺を忌まわしげに見上げるが、今だにニヤニヤ笑っている俺を見て諦めたように飲み物を出した。

「ま、軽めの昼飯ぐらいは持ってきてやるよ」
「はぁ……」

温かい日差しと涼しげな風。現実世界ではもう失われつつある、のどかな風景……。

(とても一度死んだら終わりな世界には見えないな……)

何時のことだったろうか……普段は厳しい祖父が一度だけ、どういう気紛れか俺達を旅行に連れて行ってくれたことがある。まだ小さかった俺は年長者に背負われ、他の子供達はその周りをはしゃぎまわり、厳格な祖父がそれに珍しく微笑んでいたのを憶えている。

俺の実家である水城家はとある偉人の末裔らしく、現代までそこそこ繁栄してきた。ただ、極めて近しい間で婚姻を重ねた結果、後継ぎを残すことが難しくなったらしい。そこで血族にこだわることを止め、7代前の当主が親を亡くした子供達を保護し始めてそこから後継ぎ、ないしはその伴侶を選ぶことにしたそうだ。

その風習を知ってかそれとも偶然か、俺の本当の親はご丁寧に水城本家の門扉のど真ん中に俺を捨てたのだ。

それを先代の当主が歌舞伎を見に行く時に見つけて家で育てることにしたそうだ。
ちなみに、拾った直後にお腹を空かせて泣く俺に構わず、抱えたまま歌舞伎を見に行ったと聞いた時には思わず、位牌を蹴り跳ばしたものだ。

物心ついた頃には周りを見てそれとなく自分の立場を自覚し、それから様々なことを学んだ。
学問、社会常識、物事の考え方、そして、戦い方。

各種格闘術、剣術(剣道ではない)、槍術、弓術、火器や大型兵器の扱い。それらの対抗方法。
その頃は特に不思議に思わなかった。何故なら、周りも皆やっていたことだから。年上の人も自分と同じか、それより下の子も。

だが、それを異常なことだと認識してからも抵抗はなかった。
選ばれた人間だという驕りもなかった。
それは周りも同じ。俺達は成るべくして成った。

それがいつしか全員の共通の意識だった。

今思えば、その時既に感覚が麻痺していたのだろう。血と汗と鉄と火薬の匂いに酔っていた。

8歳にして人の命を奪った。それからこのゲームが始まるまでの約4年の内に直接間接問わず、奪った命は数知れない。ここでも既に2人の犯罪者(レッド)を葬った。

(……人を殺めることが恐くないのか?)

何度そうやって自問しただろうか。その答えはいつも、

(判らない)

祖父に、年長者に、時には同業者に訊いてみる。全員の答えは一様に判らないだった。
下で眠りこけているお姫様と、それを見て呆れている黒ずくめの剣士を見下ろす。唐突にデスゲームに囚われた犠牲者達。

「……お前達は、判るか?」
「ん?何か言ったか?」
「……いや、何でもない。……飯買ってこようか?」
「頼んだ。俺サンドイッチ」
「りょーかい」

まあいい。今はこの瞬間を生きていれば。














夕方になり、辺りは金色の夕日に染め上げられた。

こんな時間になるまでキリトがここにいるのは放置しとくとハラスメントやPKの対象となるのを防ぐためというのもあるが、アスナが目覚めた瞬間にどんな顏をするかということも楽しみにしているようだ。

「……性格悪いなお前」
「お前に言われたらおしまいだ」

そんなことを言っている内にそよ風が彼女の鼻をくすぐり、くしゃみをした。

「……うにゅ……」

……おい。なんだ?今の声……こいつが出したのか?レアすぎるだろ。俺的にはこの時点で爆笑ものだ。
アスナは数回まばたきし、左右を見て、今はキリトを見て百面相をしている。

「おはよう。よく眠れた?」

こいつ完全に楽しんでやがる。
アスナの右手がわずかに動く。が、歯をくいしばって得物を抜くのを抑えたようだ。

「……ゴハン、何でも幾らでも1回おごる。それでチャラ。どう」

「よかったな、キリト」
「……っ!?」

音も無く彼女の背後に降り立った俺を見て目が驚きで見開かれる。別に気配を消していたわけではないが、気づいていなかったようだ。

「じゃあな、キリト。お前も何か1回俺にご馳走すること」

何でだよ⁉︎という顔をするキリトだが、俺は今日の昼飯を奢るとは言っていない。

「……待ってください」
「何かな?」

俺はもう満足な時間を過ごしたのでとっととこの場を去りたいのだが。

「あなたも来てください」
「は?」

何だ?今日は何が起こるんだ?何故俺も誘うのか。……まさか、俺も一緒にガードしていたと思っているのか?

「いや……俺は別に礼をされることは何もしてないが?」
「例えそうだとしても、来て欲しい理由があります」
「……何でしょうか?」

俺が他人に敬語を使うことはほとんどない。それだけ気が動転していた。

「あの人と2人きりだと変な噂がたってお互いに迷惑です」
「……そうか」

後ろでキリトが若干残念そうにしているが、俺が目で問い掛けると、頷いた。

「じゃあ……ご馳走になろうかな」













キリトの推薦でやって来たのは57層マーテンにあるNPCレストランだった。

途中、メインストリートを歩く2人を(俺は少し離れていた)ぎょっとした目で見ていたプレイヤーが何人かいたが、後ろを歩く俺を見て無関係ではない括りと理解すると、目を離した。

店に入る瞬間、何らかの緊張を感じた。

「……っ!!」

殺気ではない、何だかもっと曖昧な感じだった。

「ど、どうしたの?」
「おっと…」

反射的に2人を背に庇って太刀に手をかけていた。
それを見たキリトの目の色が変化する。索敵スキルを使って辺りを見回したようだ。

「……何もいないぞ?」
「……悪いな。気のせいだ」
「ならいいんだが……」

2人に続いて店に入る前、もう一度辺りを見回してみる。さっき感じた何かはもうどこにもなかった。








 
 

 
後書き
シリカとリズをサクっと省略。ファンの人ごめんなさい。

番外編でやります。多分。

圏内事件を入れた理由はおそらく次回あたりに明かされます。
完全に個人的な趣味が入ってますが……。 
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